「ふぁ……ねみぃ……」 いつもと変わらない学校、いつもと変わらない教室、そして、いつもと変わらない授業風景、そんな日々流れ続ける日常を少々の退屈と感じつつも、まぁそれもいいかと思い過ごす日々。 そんなモラトリアムな生活を楽しんでいる俺に、唐突に襲いかかるのはやはりというか、いつもどおりというか…… 「ていっ!」 「……なんのつもりだ、ハルヒ」 やはり、一人の圧倒的な存在によって、かき消された。 その圧倒的な存在、涼宮ハルヒは何を思ったのか、俺が襲い来る睡魔と闘っているときに、あろう事か、丸めた教科書で頭を叩いてきた。 ……今度はいったい何を思いついての行動なんだ? 「なによ、眠そうにしてるから起こしてあげたんじゃない?」 「……それに関して、感謝の言葉でも欲しいのか?」 だとしたら、大層迷惑で自分勝手な理屈だな、おい。 大体、俺が余っている授業中の余暇をどう好きに使おうが俺の自由であり、そこにハルヒがわざわざ介入してくるような理由もないと思うんだが? 「団員には、団長の退屈を解消するっていう重大な使命があるのよ!」 どうやら、こいつはこいつで退屈を潰す暇を考えていたが、それも思いつかず、俺に白羽の矢が立った。 「……そうかい、で、俺に何をして欲しいんだ?」 「それを考えるのは団員の仕事でしょ?」 とどのつまり、要する必要もないくらいだが、暇だから何か相手をしろということだ。 ……まぁ、暇つぶしに閉鎖空間なり、神人なりを作り出されるよりはマシか。 それだけ、こいつも退屈な日常生活というものに耐性ができてきたんだとプラス思考に考えるとしますかね…… 「そうだな……」 結局、俺はこいつの退屈をしのぐ方法を考えてしまっているんだから、大層ハルヒに甘いような気もするが…… だが、下手なことをして世界の危機が俺の双肩にのしかかってくるなんて事態は謹んで辞退したい。 さて、とりあえず後の授業というか、学校でこなさなければならないものはSHRを残すのみというわけなのだが。 まぁ、これくらいなにかしたところで別にそこまで大きく文句も言われることはないか。 「よし、ハルヒ、行くぞ」 「え、ちょ、ちょっと、キョン!」 ある程度の荷物をまとめ、有無を言わさずにハルヒの手を取り立ち上がる。 あぁ、そうだ、これをやるならある程度の根回しくらいはしておいて損はないか。 「国木田、俺とハルヒ、SHR抜けるからなんかあったら携帯に頼む」 「いいけど、キョンはいいの?内申に少なからず悪影響出るかもしれないよ?」 そこら辺は、まぁ古泉に言って『機関』あたりの協力を取れるようにしておけば多少の内申なら揉み消しそうだ…… だが、それに頼らなくても、1度や2度くらいならなんとかなるだろうさ。 ハルヒは……まぁ成績がいいから問題ないだろう。 「まぁ、そこらへんはなんとかなる。それじゃ、頼むぞ」 出際に谷口が何かを叫んでいたように感じたが、俺は意識の隅に強制的に放棄した。 いや、だってなぁ? どうせまたくだらないことを喚きたてているんだろうさ。 「ねぇ、ちょっとキョン!」 俺はハルヒの手を取って結局から学校から出た。 現在はとりあえず強制ハイキングコースを下っている途中だ。 今になって思う、なんでこんなことしちまったのかなぁと。 だがまぁ、こいつが暇にあかして閉鎖空間なんて生み出すよりはいいだろうなぁ。 そんなこといって、自分を誤魔化してないか、俺? 「聞きな、さい!」 「うぉ!?」 唐突に歩いていた方向とは逆のベクトルに身体を引っ張られた。 何事かと振り向いてみれば、なぜか顔を赤くしたハルヒがそこにいた。 ……風邪か? 「どうしたハルヒ、顔が赤いが……風邪か?」 「……バカ、現状見なさいよ……」 俯いて、そう言われた。 ふむ、現状ねぇ……通学路で、学校をサボって…… そういえば、ハルヒの手を掴んだままだな。 って、手ぇ!? 「っ!スマン!?」 慌てて手を離そうとしたが、それも適わなかった。 離そうとした手を、ハルヒが掴んで離さなかったからだ。 「……ハルヒ?」 「……誘ったのはあんたなんだから、しっかりエスコートしなさい!」 顔を真っ赤にしてそっぽを向いていたが、口を開いたかと思えばそれか。 確かに誘ったのは俺だが…… エスコートと言われても、特にどこ行くなんて考えてたわけでもないんだが…… ……やれやれ。 せいぜい団長様に満足いただけるように、団員として頑張ってやるとしますかね。 「それでは、エスコートさせていただこう、レディ?」 解けかけた手をまたしっかり繋いで、俺の目の高さまで持っていき軽くウィンクした。 それを見たハルヒの顔がさらに赤くなって俯いてしまった。 「――――っ!?」 ……やってから後悔した、明らかに俺にはこんなキザっぽい行動や台詞は似合ってない。 やはりこういう台詞は古泉あたりにでも言わせるのが得策だろう。 今後一切、俺は言わないと誰にも無く誓った。 「……スマン、似合わんことした、忘れてくれ」 「……別に似合ってないこともなかったわよ」 「ん……何か言ったか?」 何か、ハルヒが呟いたような気がしたが、下を向いて俯いたままで、さらに小声だったために何を言ったかまでは聞き取れなかった。 珍しいな、こいつがこんな大人しくしているなんて。 「で、どこ連れて行ってくれるのかしら?」 少しの間無言で歩いていたが、気を取り直したのかハルヒがそう言って来た。 あぁ、しまった、どこに行くのかはまだ考えてなかったな。 妥当なところで考えると……カラオケがゲーセンか…… そこまで金持ってたかな? 「まぁ、妥当なところでカラオケかゲーセンなんだが、どっちがいい?」 「ん〜……じゃ、カラオケに行きましょ!キョンの歌にも興味あるし」 悪いが、俺の歌はそこまで誇れるほど上手い、なんてそんな空想夢想、妄想な話は無いぞ? 所詮俺の歌なんて人並みがせいぜいだろうさ。 そんな俺に歌を期待するなんて酷な話もそう無いだろう? 「わかった、わかったから引っ張るなっ!」 「今から入ればまだ昼料金だから安いでしょ!ほら、急ぐわよ!」 ……やれやれ。 エスコートしろって言ったのはどこの誰だったかね? 「キョンも悪くないわね」 「そらどーも」 ……結論から言っておこう。 俺が2割、ハルヒが8割を歌っていたと。 まぁ、こいつは歌が上手いからな、聞くだけでも十分とは思ったわけだが。 「……なぁ、ハルヒ」 「ん、なによ?」 「これは、一体、どういうわけだ?」 俺の右腕は今ハルヒによって拘束を受けている。 いわば、その、なんだ、恋人がやるような腕組みをしているわけなんだが…… カラオケでの会計を済ませ、外に出た俺たちだが、なぜかその時、ハルヒがさも当然と言わんばかりに俺の腕に絡み付いてきた。 ……なぜだ? 「どういうわけって、腕組んでるんだけど?」 はい、さも当然なように言われました。 って、まてまて、そういう簡単な問題じゃないだろう!? 「俺が聞きたいのは、何故、俺とお前が、腕を組んで歩いているかということだ」 「……これ、いや?」 ……その反応は、反則じゃぁないのか? 普段なら、『なによ、悪い!?』とか、『あんたがそうしたそうにしてたからよ!』とかあるもんだと思っていたんだが…… その涙目で斜め下から覗き込むように上目遣いをするのは止めなさい。 なかなかどうして、朝比奈さんとは違う感じがまたたまらん。 って、何を考えているんだ、俺。 「……いやじゃぁない」 「ホント!」 あぁこら、さらに強く抱きつくな! 意識してるのか無意識なのか知らないが、当たってるんだよ! そんな俺の葛藤も知るはずがないハルヒは、一気に笑顔全開といった感じでまたしても俺の腕を引っ張って歩き始めた。 「さ、キョン、次はどこ行く!?」 ……まぁ、これもまたいいか。 そんなことを考えてしまうあたり、俺も谷口の言う涼宮ハルヒに毒されたってことなのかね? 心なしか普段より嬉しそうに俺を引っ張るハルヒを見て、そう考えていた。 「そうだな……腹減ったから、なんか食うか」 「じゃぁ、喫茶店でも行きましょ」 「まぁ、それが妥当かね」 今はまだ、俺はハルヒに対して特別な感情を抱いているのかと問われると、わからないとしか答えられない。 ハルヒはハルヒであり、クラスメートで、SOS団の団長で、奇行にばかり目が行きそうになるが、それ以外のところでは実は優しいところもあったり、俺たちSOS団の団員のことを考えたりする心配りなんかもあって…… 「今日はなに頼もうかしら、ねぇキョン?」 「……腹に貯まるもんなら何でもいい」 それでいて、実はなんというか、こう笑うと可愛いとか、ポニーテールが反則的なまでに似合うとか。 それでいて、実はこう腕から伝わる感覚で、スタイルが悪くなかったり…… って、まて俺、今の考えにそれは関係ない。 「どうしたのよ、さっきから変な顔してバカみたいよ?」 「バカは余計です」 結局のところ、俺はハルヒをどう考えている……? 今、この現状で俺は腕を組むということをなぜか自然な動作で行ってはいるが、不快感なんてそんなものは微塵も存在していないし、逆にこれがなぜか心地いいというような感覚まである。 「…………」 「ん、なに?」 これが朝比奈さんや長門だったらどうだろう? いや、それはそれで違う意味で心地いい感覚が味わえそうだが、主に朝比奈さんから。 だが、きっとその時に感じる心地よさと、今感じている心地よさは別物であると直感に近い感覚が告げている。 この感覚はなんだ……? 「ハルヒ……」 「だから、なによ?」 「今のこの現状を、お前はどう感じている?」 とりあえず、わからないなら聞いてみるのが効率的だろう。 そう思ってハルヒに何気なく問いかけてみたつもりだったんだが、予想を斜め上にドリルで突き破るかのような反応が返ってきた。 「……嬉しいわよ、少なくともあたしは」 「――――っ!?」 顔に急激に体中の血液が集まってくるような錯覚。 なんだ、今のハルヒはなんと言った? 嬉しい……だって? ハルヒはこの現状が嬉しいと言った。 どういうことだ…… 思考が、無限のループに落ちていく。 「あー、もう!」 そんな俺を見かねてか、はたまた、何か決断でもしたのか、ハルヒが大きな声を上げて、組んでいた腕を離し俺の前に出るようにしてきた。 「本来なら、こういうのは男から言ってきて欲しかったんだけどねっ!」 本来……男から……って、それはまさか!? コレは予想ではなく、確信であり事実になった。 俺の前に立っていたハルヒは人通りのある道にも関わらず、飛びついてきた。 慌てて抱きとめたが、その時、俺の唇にかすかに触れるものがあった。 「――――な、ハルヒっ!」 「ふふ、好きよ……キョン」 見たことのない、妖艶と言ってもいいような顔をしたハルヒがそこにいた。 今、俺は……ハルヒにキスされた。 だが、それのおかげなのかは知らないが、俺の頭の中でループしていたことが解けるような感覚があった。 あぁ、なるほど…… 「ね、答え、欲しいんだけど?」 俺に抱きついたままにっこりと笑う、さっきとは妖艶な雰囲気とは違ったハルヒの顔。 だけど、その瞳の奥には隠しきれていない不安があって。 しかしなんだ、結局のところ、俺がこんなことで悩むだけ無駄であり、答えなんて随分前から出ていたんだな…… 「言わなくてもわかってるって顔、してるがな?」 素直に言うのはまだ恥ずかしかったため、あえて遠回りに答えてみた。 すると、ハルヒの瞳に隠れていた不安が消え、その顔は本当に喜びのみになった。 あぁ、この顔は、いつだかの閉鎖空間で神人を見たハルヒみたいだ…… 「でも、言葉にして欲しいってこと、あるもんよ?」 「……そうかい、そりゃ、仕方ないな」 ハルヒの期待に満ちた顔に押されたということにしておこう。 そして、俺は抱きついていたハルヒを改めて抱きしめなおし、唇に触れるだけのキスをした。 ……やれやれ、こんな事を俺が言うはめになるとはね。 「――――好きだぞ」 「とーっぜんよね!」 後書き バカップル再来パートスリー。 なんでだろう、付き合う前の話ばっかり大量に書いてるような気がしないでもない時雨です。 やっぱり途中からキャラは走り出しました。 今回の暴走はハルヒ! なんだ、このデレ発動してるような状態は……? いや、っていうかこれはデレか? まぁいいや、わかんないし(無責任 それでわ、また、次回作にて。 From 時雨 2007/04/03 |