さて、俺はいったいどうしてこんなことをしているんだろうか? 「一応、上出来ではあるんだが……」 俺の目の前には、どういうわけか、ふとした衝動に駆られ、悪戦苦闘の末に完成した……いや、してしまったモノが鎮座している。 そのお菓子の名前は、プロフィットロール。 「……なんで作ったんだろうな?」 材料さえあれば誰でもできるような簡単な、ぷちシューというシュークリームの小さいのと生クリームでタワーのように積み上げてチョコシロップ等でデコレーションしたお菓子である。 さらに付け加えるとしたら、作った場所も謎だ。 なんで俺はわざわざ材料を買いにハイキングコースを往復して、誰も来ていないSOS団のアジトでコレを完成させているんだ……? 思わず、ため息と共に頭を抱えてしまった。 処理するにも、こんな甘ったるいもの、一人で食うなんてできるわけないだろう…… 「放置して……は、マズいか。一応生ものみたいなもんだし」 これがシュークリームやチョコシロップだけなら、大して暑くもないこの部室に放置しても問題は無かったかもしれないが、さすがに生クリームを長時間常温で放置するのは危ないような気がする。 長門でもくれば、黙々と食べきりそうなんだが…… 「っというか、何故この時間でハルヒを筆頭にした奴らがいないんだ……?」 考えてみるとこれはおかしい、普段なら最低でも長門は部室で本を読みふけっているものだと思っていた。 その長門が今ここにはいない。 考えられる可能性としては……ハルヒに連れてかれたか、何か問題が起こったか、か…… 「だけど、今日のハルヒはそんなに不機嫌には見えなかったよな?」 逆に、機嫌がいいといっても差し支えなかった風にも見える。 長くも無い付き合いではあるが、気づけば俺はある程度ハルヒの機嫌の良し悪しを見てわかる様になってしまったらしい、迷惑なことだ。 「ってことは、ハルヒがまとめてどっかに引き連れていったということか……」 まぁ、仮に閉鎖空間が発生していたとして、それが世界規模までの危機に繋がるようなものだったら、確実と言っていいくらい古泉が俺に何か言いにきているだろう。 それがないということは、まぁそんなにたいした事でもないと見ていいか。 「とりあえず……どうするかなぁ、これ」 思考の海を渡り歩いたとしても、結局のところ目の前に鎮座しているこの物体が消費されるはずもなく、現実逃避はこの程度にして、なにか対策を考えるべきなんだろうなぁ…… 「もー、信じられない、なによ、売り切れって!」 「残念でしたねぇ……やっぱり有名になったからでしょうか……」 「……残念」 「まぁまぁ、涼宮さん、朝比奈さん、長門さん、次の機会がありますよ」 丁度いいというか、タイミングでも狙っていたのか、お前ら? そう感じるくらいのタイミングでSOS団のメンバーが勢ぞろいした。 「なんだ、どっか行ってたのか?」 「あら、キョンいたの?」 いたの?ってなんだおい、まるで俺はいないほうがいいみたいな台詞だな。 散々人を巻き込んだ末にその発言は少なからず傷つくと言うものだぞ? 「僕たちは、涼宮さんのお誘いで、つい最近出来た甘味処に行ってたんです」 解説ご苦労、古泉。 そうか、全員いなかったのはそういう理由だったのか。 「それで、みんなで行ったんですけど、もう売り切れちゃってたんです」 「せっかくあたしが行ったのに、残しときなさいよね、気が利かない店だわ」 ハルヒよ、確かに世界はお前を中心に回りつつあるのかもしれないが、そんな一箇所の、局地限定なわがままを言うのは止めなさい。 そもそも、その甘味処で売り切れていたモノってなんなんだよ。 「……プロフィットロール」 「……マジか、長門」 わずかに、首を縦に振るというなんとも長門らしい回答が帰って来た。 しかし、これは、なんの偶然だ……? いや、そもそもこれは偶然なのか? 普段ならまずすることの無い調理といった行動を俺が取ったことといい、その結果できあがったのがプロフィットロールであることといい、できすぎている。 「で、キョン、あんたここで何してたのよ?」 それは、俺も聞きたいところだ。 いや、もしかするとこれはお前のせいなのか、ハルヒ? 「とりあえず、あくまで偶然だと言うことは先に主張させてもらう。それを頭に置いた上でコレを見てみろ」 そう言って俺は机の上に乗せていた皿をみんなに見えるように持ってみた。 「あ、それって!」 「ひえぇ……キョン君が作ったんですか?」 「おや……珍しいですね?」 「…………」 それを見た瞬間、ハルヒは驚き半分、喜び半分。 朝比奈さんは純粋に驚き、古泉は言葉こそ驚きのようだが、目が何かを確信した雰囲気だな。 長門は……スマン、わからん。 「どういうわけか、作ってしまったというわけだが、その甘味処のモノには遠く及ばないかもしれないが、食うか?」 もちろん、女性陣の反応はイエスだったのは言うまでも無いだろう。 「わぁ、おいしいです」 「そうですか?」 「えぇ、十分おいしいですよ、キョン君」 朝比奈さん、貴女のその笑顔だけで十分に幸せになれます。 「…………」 「そんなに慌てて食わなくてもいいだろう?」 相変わらず黙々と、しかしなかなかのハイペースでフォークが動いている長門。 「ムムム……」 「……何故唸る、ハルヒ」 唸られる理由がわからないぞ…… 市販の材料で作ったさして面白味も無いデザートだろう? 「すいません、少々よろしいですか?」 「そんなに顔が近づけなくても聞こえている、そもそも何の用だ?」 「少々ここでは……こちらへ……」 幸い、女性陣はデザートの攻略に夢中なようで、俺たちの会話は耳に入っていないらしい。 丁度いいか、俺のこの突発的な行動についても説明してくれるだろうしな。 「結論から言いましょう、涼宮さんの能力が発動したものと思われます」 移動しての第一声は、ある意味とんでも発言だった。 「……ハルヒの?」 「よっぽどあのデザートを食べたかったんでしょうね?」 ニセスマイル全開で古泉が言ってきた。 さすがにそれは冗談だろう? いくらなんでも理由にするには不確かすぎるし、何よりその顔が嘘だと照明している。 「バレましたか、最近貴方は奇妙なところで勘が鋭い」 「冗談はいらん、簡潔に結論を話せ」 お前の言い方は最初に理由を話すことがないというのを最近覚えたからな。 それに、真面目に説明する気なら表情もそれなりになるのに、ニセスマイルで言われたとしても信用できるわけが無い。 「なぁに、簡単なことですよ」 古泉が言うには、ハルヒはまずSOS団のメンバーで出来た甘味処に行きたいと考えた、そして全員を収集しようとしたが、なぜか俺が捕まらなかった。 だが、誘った手前、唐突に無しにするのも他のメンバーに悪いと考え、結局その甘味処に行った。 そこでハルヒは願った、俺がいないとつまらないとかいうそんな理由らしいが、今回は中止になってまたの機会にでも回せないかと。 「結局、他の誰でもない、涼宮さんは貴方と一緒にあのデザートを食べたかったんでしょう」 いいですね、仲がよろしくて……なんて言われたが、俺としてはいまいちどう反応していいかわからなかった。 考えても見て欲しい、それだとどこか矛盾が発生しているように感じないか? まぁ、俺と一緒にという点は良いとしておこう、だが、俺が唐突に作りたくなったのは話から察するとハルヒが収集をかけ始める少し前ということになる。 そうすると、一緒に、というところで矛盾が生まれている。 「そこはどう説明する気だ?」 一緒にということにこだわるなら、俺は逆に部室で無駄に待機している方が説明が付くだろう? 「そうですね、これは推測になりますがよろしいですか?」 「あぁ、かまわない」 「これもまた涼宮さんの望みの結果だと思います、ただし、意識的なものではなく、無意識的な望みになりますが」 ……俺があれを作ったのもハルヒの望みということか。 それにしても、無意識とはどういうことだ? 「きっと、何でもいいですから貴方の作った物を食べてみたかったんでしょう。可愛らしい願望じゃないですか」 肩をすくめたいつものポーズでそう言われてしまった。 そういうことか……結局俺はいつもどおり巻き込まれたというわけか。 「極端に言ってしまえばそういうわけです」 「……はぁ」 やれやれ、いつから俺はこんな苦労を背負うようになっちまったんだか。 いや、それはもうずっと前からか……朝比奈さん(大)が言うところの予定調和とかそんなところで。 「さて、そろそろ戻りましょうか。もしかすると無くなってしまっているかも知れませんし」 「俺は別に食いたいとは思ってないんだがな」 「言ったでしょう?『貴方』と『一緒』に、が重要なんですよ、涼宮さんは」 古泉の言葉を肯定するかのように、部室に戻った俺たちが見たのは、最初の勢いが嘘のように、手をつけた途中の状態で置かれているデザートと、談笑しているハルヒ達がいた。 「あ、どこに行ってたのよ二人とも、無くなっちゃうわよ?」 不満そうな顔をしてはいるが、不機嫌ではないらしい。 その表情に苦笑しながら、俺と古泉は普段の自分の席に戻った。 「すいません、少々彼にお話がありまして」 「別に、食い尽くしても良かったんだぞ?」 「何言ってるのよ、作った本人にも分けて上げないと悪いじゃない、これも団長の勤めよ」 ハルヒが過去に見せた何かを教えるポーズで言っているが、朝比奈さんや長門の方へ視線を向けると朝比奈さんは苦笑を、長門はまるでおあずけを食らった犬のような雰囲気をかもし出していた。 「……長門、食いたかったら食っていいぞ」 「そう」 言うが早いか、長門はすぐにデザート攻略に戻った。 やっぱりハルヒに止められていたのか。 「ちょっと、キョン!聞いてるの?」 「聞いてるよ、俺らを待っててくれたんだろ、サンキューな」 気づけば、ついついハルヒの頭に手が伸びてしまった。 自分でもよくわからないが、なんとなくこうしたかったんだろうな。 俺は、ハルヒの頭を撫でていた。 「わ、わかればいいのよ」 赤くなったハルヒの顔は、あえて触れないでおこう。 下手に藪をつついて蛇を出す必要もない。 「さて、せっかく団長様が待っててくれたんだ、俺たちも食うとしますか」 そして、だいぶ量の減ったデザートをみんなでつつく。 市販の、変哲も無い物の組み合わせのはずなのに、ほんの少しだけ美味しく感じた。 「……確かに、みんなで食うと美味いな」 「でしょ?やっぱり今度はみんなで甘味処に行きましょう!」 「楽しみですね」 意気揚々と話す女性陣を尻目に、どうせまた罰金とか言って俺が払うことになるんだろうなぁと考えつつ、今は、自分が作ったデザートをのんびり食べることに集中することにした。 あぁ、どうせなら、ハルヒをからかってやるのも一興かもしれない。 「ハルヒ」 「何よ?」 「今度、食いに行くか」 たまには、こんな事をしたって罰は当たらないだろう。 普段いろいろ無理難題を言われるんだ、これくらいの役得がなくちゃな。 「だから、今度行きましょうって言ってるじゃない?」 「二人で」 「そうそう、二人で……って、え!?」 完璧に真っ赤になったハルヒの顔を見れただけで、言った甲斐はありそうだ。 もちろん、その後ニセスマイルや時をかける少女にからかわれたのは言うまでも無い。 「や、約束だからね?」 ……やっぱ言わなきゃよかったか? 後書き コンビニで売ってるプチシューと生クリームとチョコシロップがあれば簡単に作れます。 そんなプロフィットロールは甘党の人向け、俺はプチシュー2-3個で胸焼け発生します。 結局、なんとなく書き上げました。 ハルヒの無意識下の願望に沿って忠実に動いてしまうキョンでした。 簡単なデザートなら部室でも作れるかなーってことで選択されたのがプロ(以下略)なのです。 キョンって家事能力どんだけあるんだろう……? まぁいいか、そんな感じで、最後にやっぱりハルヒはデレました(ぁ それでわ、また、次回作にて。 From 時雨 2007/04/08 |