いつもどおり、事の始まりなんてものは唐突で、それがどういう経緯を経てどうしてこんな結果が導かれるのか。


「SOS団は、本日合宿を行います!」


騒ぎの元凶は、いつもどおりでっかい目をきらきらとさせて、やっぱりどこかぶっ飛んだ発言を高らかに宣言した。


「場所は有希の家、時間は19時集合よ!」


結局、こいつは唐突に物事を強引に、俺の意見などまったく聞かずに進行させるんだよな……
俺、何かこいつに呪われるようなことでもしたか?

















もう実際どうにでもしてくれな雰囲気が捨てきれないが、これもまた定例行事と言うことで、説明しよう。
事の発端は言ったとおり唐突に、かつムチャクチャなタイミングで起こったわけだが、なんでも通りすがりに聞いた陸上部の強化合宿の話を聞いて思いついたらしい。
……陸上部め、余計なことをこいつに聞かせてくれたもんだ。


「長門、なにやらお前の家が舞台にされかけているが、お前はいいのか?」
「かまわない」


ノーウェイト、呆れるくらいの即答だった。
このハルヒを止めれるような存在はこの世にいるのか?


「おそらく、貴方くらいかと思いますが?」


黙れ古泉、俺にそんなことができるわけないだろう。
俺はごく普通の一般人だぞ?


「……やはり鈍いのは変わりませんか、少しは鋭くなられたかと思ったのですが。あぁ、だから涼宮さんはコレを計画したのですね」


古泉は何か思い当たる節があるのか、あごに手を当ててしきりに頷いていた。


「……何一人で勝手に自己完結に至っている、わかるなら説明しろ」
「こればかりは遠慮させていただきます、貴方が自身で気づかなければ意味がありませんから」


ニセスマイルで結局最後まで何がわかったのかは教えてくれなかった。
……なんなんだ?


















「遅い!みんなもう待ってるのよ!」


集合予定時刻に大体差し掛かろうかという時間で、長門の住んでいるマンションに到着したのだが、インターホンを押して出てきた第一声がこれだった。


「……大体時間通りだろう」
「やっぱり団員としての自覚が足りないわね、今日の合宿でしっかり叩き込むわよ」
「……どうでもいいが、早く入れてくれ、いつまでここに立っていればいい」


長門のマンションは、オートロック故に住居者がロックを解除しない限り自動ドアは硬く閉ざされたままなのだが、ハルヒはどうやら説教モードに入っているらしく、俺の声はすでに耳に届いていないらしい。
さて、どうしたもんかね。


「まったく、だからキョンはダメなのよ……」


いまだインターホンから聞こえてくる声を右から左に聞き流しつつ、どうするか思案していると、程なくして自動ドアが開いた。


「入って」
「長門か、スマンな」


どうやら、ハルヒがインターホンに向かって何かを言い続けているのに気づいた長門が自動ドアのロックを解除してくれたらしい。
とりあえず、部屋に着いたらハルヒの小言の続きがありそうだ……


「お邪魔するぞ」
「あ、キョン君いらっしゃい〜」
「やぁ、お待ちしてました」


勝手知ったる長門の家か、鍵はすでに開いていたらしく、ドアノブに手を伸ばすと抵抗無く開いた。
その奥に待っているのはマイエンジェル、朝比奈さんとニセスマイルの古泉だった。
……ハルヒはどこいった?


「涼宮さんでしたら、現在長門さんと一緒に台所のほうですよ」
「キョン君が来るのを待ってみんなでご飯食べましょうって張り切ってたんですよ」
「なるほど……だから第一声が『遅い』からだったのか」
「それだけじゃないと思いますが」
「ですよね?」


朝比奈さんと古泉が苦笑して、なにやら呟いたように聞こえたが気のせいだと思っておこう。
どうやら、飯を食わないで来て正解だったらしい、最悪コンビニで何か買いに行けば良いだろうと考えていたからな。


「まったく、キョンのせいでお腹ぺこぺこよ」
「それは悪かったな、で、いったい何作ったんだ?」
「カレー」


ハルヒと長門が台所からカレーが入っているだろう鍋と炊飯ジャーをそのまま持ってきた。
机の上で各自盛り付けるのか。


「みくるちゃん、お皿運ぶの手伝って」
「はぁぃ、わかりました」


俺と古泉も手伝いに動こうかと思ったが、男は図体がでかいから邪魔だと言われて大人しく座っているように言われた。
珍しいな、俺が何もしないで座っているなんて。


「全員、しっかり自分の分盛ったわね?それじゃ、いただきます」


ハルヒの号令の元、全員で『いただきます』を言うことになった。
同時にこんな事を言うなんて何年ぶりだ……?
小学校くらいからもうやらなくなってたよなぁ。


「美味いな、コレ」
「まぁ、あたしと有希とみくるちゃんの手にかかればこれくらいは当然よね」


おぉ、3人の合作なのか、それは珍しいものを食べてるんだな。
結局、味のよさも相まって2杯3杯と食ってしまった。
……微妙に腹がキツいな。


「それじゃ、お腹も膨れたし、これでもやりましょ」


ハルヒが喜色満面で取り出したのは、多人数でやって貧富の差が出たり、最終的に開拓地送りになったりするボードゲームだった。
っていうか、それ、今どこから出したんだ?


「ただやるだけじゃつまらないから、1位になったら好きなことを命令できることにするわよ」
「……また恒例の罰ゲーム付きか」
「そうよ、その方が燃えるでしょ?」


せいぜい俺に飛び火しないことを祈るとしますかね。
多分無理だろうけどな……

















「まぁ、予想通りの結果だよなぁ……」


結果は、ハルヒが1位で長門が接戦の末2位、俺が3位の朝比奈さんが4位、どうやればそこまで弱くなれるのか、古泉がビリだった。


「それじゃぁ、あたしが1位だから、命令権ゲットよね」
「そういうルールを確か自分で言ってたな」


まぁ、おそらく罰ゲームを受けるのはビリの古泉であって3位の俺には特に何もないだろう。
そんな考えが浮かんでいたが、それが甘い考えと言うことはすぐに理解させられた。


「じゃ、今日はみんなで雑魚寝するわよ」
「……は!?」
「コレが命令、拒否権はありません!」


いま、なんて言った?
全員で雑魚寝……?


「っ!ちょっと待てハルヒ!それ本気か!?」
「本気も本気、別に問題ないでしょ?」
「いや、大有りだろ!?普通この年の男女は部屋を分けて寝てしかるべきだろう!?」


そりゃまぁ、俺も世間で言うお年頃というやつで、別に間違いを進んで起こすなんて事、そんな自分の身を滅ぼすようなことはやらないと言えるが、なにかの弾みで間違いが発生したら、倫理やら法律やら不順異性交遊がどうのこうのというものに引っかかるわけで。
それをこいつも理解しているはずなのだが、その上で今の発言をしているのか?


「別に問題ないわよ、間違いなんて起こる前にあんた程度あたしが叩き伏せるわ」
「そういう問題じゃなくてだなぁ!?」


なんだ、俺がおかしいのか!?
朝比奈さん、長門、古泉、なんで否定しない!?
普通一般的常識で考えたとしてもこんな結果認められるわけないだろう!


「……わかった」
「そ、なら決まりね」


ハルヒがこれで決まったな、という顔をしているが、さすがにこれだけは譲れない。
間違いがどうのこうのって話じゃない、確かに、ハルヒたちと一緒に雑魚寝ってのは魅力的な提案ではある、だけど、それで俺は自分の将来に禍根を残すようなことはしたくない。
だからこそ、どんな罰ゲームが待ってようが、俺はこうする。


「長門、隣の部屋、空いてるな?」
「空いている」
「じゃぁ、俺はそこで寝る」
「な、ちょっと、キョン!」


ハルヒの言葉を最後まで聞く事無く、俺は隣の部屋へ移動し、ふすまを閉めた。
……正直言うと、かなりもったいない。
だが、そんな一時の欲望に負けてたら、いろいろと終わりそうだ。


「……で、いつお前はここに入った」
「いやぁ、貴方が別で寝るのに、僕だけあちらに混ざるなんてできるわけないでしょう?」


確かに、古泉のことは忘れていたが、いつのまにかしっかりとここに移動していたらしい。
いったいどうやったんだ……?


「まぁ、一応僕はもう一室あるようなのでそちらの方で寝るつもりです。女性陣のみなさんはどうやら居間で雑魚寝なさるみたいですし」
「……何も、言わないのか?」


普段なら、俺がハルヒの機嫌を損ねる可能性のあるようなことをいうと、それとなく注意してくるというのに、今回は何も言わないのか。


「そうですね……世界の崩壊を防ぐ『機関』の一員としては、文句のひとつも言ったほうがいいのかもしれませんが、それ以前に僕は古泉一樹個人、SOS団の団員として、そして貴方の友人であるつもりです。さすがに、こんなことを友人に強制なんてできませんよ」


最初こそいつものニセスマイルだったが、途中から真面目な顔になっていた。
……まったく、俺はいつの間にかいい友人を持ってたらしいな。


「スマンな、今度コーヒーでも奢ってやる」
「それは光栄ですね」
「だけど、ひとつだけ訂正しとくか」


何か訂正することはあったか、と、まるでわからないかのような顔をしていた。


「確かに友人ではあるが、俺にとってはお前はもう親友でもある。それもついでに覚えとけ」


一瞬、惚けた顔を見せたが、すぐに普段見せているニセスマイルではなくて、本当の笑顔だと思える表情になった。


「それは、失礼しました。本当に光栄ですよ、貴方に会えて」


そう言って古泉はもうひとつの部屋の方に消えた。
ったく……変なこと言わせるなよな。


「さて、とりあえずもう寝るか」


いまさら、あっちの部屋に顔を出すなんて事、できそうもないしな。
さっさと寝て、いざとなったらみんなが起きる前に帰ろう。
多分、それがいいんだろうさ。



















「……ん?」


夜中……暗いからなんとも言えないが、およそ夜中だと思う静まった時間。
とりあえず俺は勝手ながら押入れから布団を取り出し、無事に就寝したわけだが、ふと、近くに人がいるような感覚があったために目が覚めた。


「……手に、なにか触れているのか?」


暗さにまだ完璧に目が慣れていないせいか、はたまた俺の目がまだ完全に覚めていないのか。
視界はまだ利かないが、どうにも、右腕……というか右手に何か触れている感覚がある。
少しずつ暗闇に目が慣れてきて、右手にあるものがわかってきた。


「……手?――――っ!?」


そう、手だ。
その手を辿ってみれば、そこには俺にとってかなり馴染みの在る存在がいた。


「……ハル……ヒ?」


隣の居間で朝比奈さんや長門と寝ているはずのハルヒがなぜかそこにいた。


「……なんでだよ」


問いかけても、寝ているハルヒが答えるはずはないが、それでも自然と口から疑問がこぼれるのを止められなかった。


「……クシュッ!」


さすがに床で寝るのは寒いのか、ハルヒがくしゃみをしたおかげで、思考の海に入りかけたが寸前で止まることが出来た。
……しかたねぇな、風邪ひかれても目覚めが悪いし。


「よっと」


しっかりと握ってきている右手をゆっくりと剥がし、起こさないように細心の注意を払いながら背中と膝裏に手を回して少しだけ持ち上げる。
……こいつ、軽いな。


「……ん……キョン……」
「寝言か?」


布団に寝かせた後、名前を呼ばれたのでもしかしたら起こしたかと思ったが、大丈夫だったらしい。
また規則正しい寝息がハルヒから聞こえてきた。


「……はぁ、俺もつくづく甘いな」


結局、ハルヒに布団を譲って、俺はその横で寝ることにした。
新しく布団を取り出せばいいんだろうが、布団を出している間にこいつが起きるかもしれないからな……
まぁ、持ち上げて起きないくらいだから、その程度の行動で起きるかどうかはわからないがな。
……やれやれ、そう思って仕方なく俺はハルヒから少し距離を取って床の上に寝転がった。


「んぅ……」


横になったとき、ハルヒの手が何かを探すように動いていたことに気づいた。
さっきまで手を繋いでいたからか?


「……もしかして、俺の手、探してんのか?」


手を掴んでやると、ハルヒの顔が安心したような小さな笑顔を浮かべた。
……やれやれ、まったく、俺は本当に甘いな。
しっかりと、手を握ってやって俺もまた夢の世界に旅立つことにした。

















「……おやすみ」
















この暖かい手から、いい夢が、見れるかもしれないな。


















 後書き

キョンをデレさせてみました。
恐らく、俺が書くデレキョンの最高レベルまで書いてる気がします。

いやまぁ、やりすぎた気がしないでもないんですが、まぁオッケー☆
とりあえず、手を繋いで寝る二人を書きたかったんですが……
さらに言うなら全員で雑魚寝さして、さらに二人が手を繋ぎーってハズが、気づけばこうなってます。
相変わらず途中で暴走するね、不思議不思議。

それでわ、また、次回作にて。

            From 時雨  2007/04/08