「さぁ、みくるちゃん。撮影会の時間よー」 「ふぇぇ……きょ、今日もやるんですかぁ」 ハルヒが迫り、朝比奈さんがおびえ、逃げ腰になるいつもと変わらない日常。 「今日は制服のままの撮影をしましょうか、ほら、ポーズ取って!」 「ふえぇ……」 「……程ほどにしてやれよ、ハルヒ」 はてさて、今日も今日とてSOS団のアジト、文芸部部室にて勢力をまったく緩めない直下型台風娘、涼宮ハルヒは元気だった。
獄月様による挿絵ですよ。 「なによ、キョンだってみくるちゃんの悩殺写真集みたいんでしょ」 ……確かに、それはみたいかもしれない。 だが、それ以上に良心の呵責に押し負けることが想像できるので、遠慮しておこう。 ……それに、ハルヒがパソコンにデータを移したらすぐわかるからな、隠してあるみくるフォルダにそれはもう丁寧に保存させていただこう。 「とりあえず、無理やりは止めとけ、朝比奈さんがまた涙目になっているだろ?」 「……わかったわよ!」 全開不機嫌ですというハルヒのアヒル口を目の前にして、俺はため息しか出すことができなかった。 「……はぁ」 どうも、ここ数日普段より調子が思わしくない。 通常の学校生活を演じる分には問題ないのだが、どうもSOS団というカテゴリーに属する人たちの前で普段と同じということができないほど、現在の俺は弱ってきているらしい。 ……風邪か?まさかな。 「なによ、キョン。これ見よがしにため息なんかついたりして」 「いや、気にするな。なんでもない」 風邪を引いたなんてこの団長さんに知られたら何を言われるかわかったもんじゃない。 古泉が言うには、俺の言動は逐一この団長に影響を与えるらしいからな。 下手なことを言ってハルヒが爆発するような事態は避けたいというもんだ。 「それにしても、今日は本当に調子が悪そうですね?」 「黙れ古泉、人がせっかく黙っていることを何故わざわざ言うんだ」 人の努力を数秒で破壊するんじゃない。 目の前で俺と共に将棋に興じていた古泉に視線だけで抗議しておく。 「え、キョン君具合が悪いんですか?大丈夫ですか?」 「いや、平気ですよ朝比奈さん、ただ朝から調子が出ないだけで」 「辛かったら言ってくださいね、保健室、すぐ行きましょう?」 あぁ、やはりこの人は天使か何かではないだろうか……? ありがとうございます、朝比奈さん。 その一言だけで気分が洗われていくようです。 「…………」 あぁ、団長席を見たくない。 さっきからものすごい殺意と言うか、鋭い絶対零度に近い視線が俺に送られているような感覚があるのは間違いないだろう。 そう考えているあたり、俺にもまだ余裕があるんだろうか。 「……本当に重症のようですね、王手です」 「なに!」 慌てて手元の盤を覗き込むと、確かに俺の王将が追い込まれていた。 ……気づかなかったな。 「珍しく、俺に黒星がついたな」 「貴方の体調が万全であるならば、きっと僕に黒星がついていたんでしょうね」 そこまではわからないが、俺はまだまだお前に負けてやる気はない。 ……はぁ、予想より集中できていないのか。 気づけば、俺の隣には長門が立っていた。 「どうした、長門?」 「…………」 「――――っ!?」 唐突に長門が俺の額に手を当ててきて驚いた。 そういうことは一言言ってからやってもらいたいものだ。 それにしても、長門の手、冷たいな。 「……通常時に感じられる平均体温よりも若干高い」 「……マジか、熱が出ている感じはなかったんだが?」 「貴方の体温が他者より高いのは事実」 「えぇ、キョン君!保健室、行きましょう!!」 長門が言うってことは、ホントに熱があるってことか…… とりあえず、嘘でもいいから否定していてもらえると、個人的にも助かったんだがな。 「これ……まず……さん、僕が……室へ……びます!」 風邪と言うのは厄介で、自覚が無いときはある程度動けるものだが、自覚する、もしくはさせられるとどんどんと症状が悪化していくような感覚があるということで。 少しずつブラックアウトしていく意識の中で、そういうことを考えていた。 「ちょ……ねぇ……キョ………ョン!?」 あぁ、スマン、ハルヒ。 今は答えてやれそうにない。 「……ん、ここは?」 次に目が覚めたときに目に入ったものは、白い天井だった。 確か、部室で意識がブラックアウトして……ってことは保健室か病院ってことか。 「……あ、目覚めた?」 「……ハルヒ?」 敷居代わりのカーテンの奥から現れたのはハルヒだった。 「ここはどこだ?」 「保健室、あんた部室で倒れて古泉君が運んでくれたのよ、あとでお礼言いなさいよね」 古泉にそんな力があったとは驚きだ……じゃなくて、それは悪いことをしたな。 今度コーヒーを奢ってやろう。 「他の連中は?」 「一応今日はもう解散ってことにしたわ、多分みんな帰ったと思うわよ」 「お前は帰らなかったのか?」 解散というからには、もう結構遅い時間になっているんだろう。 保健室の窓から差し込むオレンジ色の光のおかげで今が夕方くらいだろうという予測ができた。 「……べ、別にあんたが心配だったからとかじゃないわよ!ただあたしは団長として団員がしっかり学校から出るまでは管理する義務があるのよ!」 ……ハルヒよ、そこは顔を赤くしていうべきじゃないと思うぞ。 どこか、風邪を引いた幼馴染に接するような反応だ、それは。 それにしても、俺が目を覚ますまでずっといたのか。 悪いことしちまったな。 「……ハルヒ」 「な、なによ」 「すまん、ありがとうな」 上体を起こして、しっかりとハルヒの目を見てお礼を言うことにした。 わざわざ付き合わせちまったんだ、礼くらい言わないな。 「べ、別にお礼言われるようなことじゃないわ」 プイッとそっぽを向かれてしまった。 だが、俺はしっかり見てわかっていた、ハルヒの顔が赤くなりそれを隠すためだということも。 「さて、もう部活が解散してるなら、帰るか」 立ち上がって、自分の調子を再確認してみる。 立つ分には問題なさそうだな。 ところが、一歩踏み出したところで不覚にもよろけてしまった。 「くっ……」 ……歩いていくには、ハイキングコースが最初にして最大の難関ってことか。 「ちょっと!大丈夫!?」 慌てて、ハルヒが駆け寄ってくる。 随分今日は優しいんだな、普段もそのくらいなら俺の気も楽になるだろうに。 「大丈夫、少し寝すぎてよろけただけだ」 無理やり笑顔を作っておく。 ここで笑顔のひとつでも見せておかないと、こいつのことだ何を言い出すかわかったもんじゃない。 「あ、もうちょい寝てなさい、どうせ起き上がれないんでしょ?」 上体を起こそうとしたが、ハルヒに止められた。 確かに、起き上がるには少しまだ辛いか…… 「恥ずかしながら、そうみたいだな……」 「でしょ?まだ時間あるからもう少し寝てなさい」 俺の額にハルヒの手が触れた。 ……冷たい、気持ちいいな。 「それじゃぁ……すまんが……もう少し、寝るわ……」 「そうしなさい、あとで、起こしてあげるから」 そしてまた、俺はまたゆっくりと目を瞑った。 「バカ、心配させるんじゃないわよ……」 その、ハルヒの声を耳にして。 なぜか、目が覚めたとき、なぜかSOS団員が勢ぞろいしていた。 ハルヒ、何故顔が赤い。朝比奈さんと古泉、その微笑ましいものを見た的な顔はなんだ……? ……長門、説明してくれると助かるんだが? 「……禁則事項」 「……そうかい」 結局、誰も教えてくれなかった。 誰か教えてくれ、いったい何があったんだ? 後書き 書いてる本人が風邪引いてます、こんにちわ、時雨です。 いやはや、風邪引くと執筆できなくなって困り者、まぁブログにも書きましたけどね? でもめげません、風邪なんて気の持ちようで吹き飛ばしてみせます。 とりあえず、保存してあった1作で繋ぎとさせてもらいます。 いやぁ、治ればまた来週の土日あたりには普通な更新できると思いますのでー(汗 完治まで、少々お待ちください。 それでわ、また、次回作にて。 From 時雨 2007/05/06 追記です。 獄月様から挿絵をいただきました。 文章の最中には組み込めかったので、ここで置かせていただきます。 素敵イラストありがとうございました。 そのイラストは、コチラ |