さて、長かったかもしれない冬が終わったある日のこと。
いつも通りの倦怠的な毎日をのんびりと過ごしているわけなんだが、どうしてこう、俺の平穏っていうのは、後ろ足で俺に砂をかけるような行動をしてくれるんだかなぁ?


「で、今回はどうしてこういうことになったんだ?」


SOS団のアジト、元文芸部室には、今不可思議という台詞が良く似合いすぎて、笑って現実逃避したくなるような光景が広がっていた。


「さぁ、僕にもさっぱりです」
「……つまり、お前が来たときから、ということか」


なんで、全員浴衣を着ているんだ?
















「時期は春よ!春といったら桜、桜といったらお花見、お花見と言えばお祭りでしょ!!」
「間違ってないと言えば間違っていないが、間違ってるように聞こえるのは何でだ……」


確かに、雪が積もっている時期では、一部北東地方で行われる祭りなんかでは冬もお祭りなんてことがあるにはあるらしいが。


「で、なんでわざわざここで浴衣姿なんだよ?」
「あら、この麗しい浴衣姿を前にして、第一声がそれ?」


いつものような腰に手を当てた格好ではなく、少しシナを作ったかのようなポーズをしたハルヒ、迂闊ながらも、その姿に少しだけ心臓の鼓動が早くなったような感覚を覚えた。
……落ち着こう、そんなことを考えるなんて、きっと宇宙的、未来的、超能力的な力が働いたりしたに決まっている、もちろん、そうに決まっている!


「あぁ……うん、似合ってるぞ」
「あ、うん、あ、ありがと」


……今、俺は何を言った。
ハルヒ、顔を赤くするな、朝比奈さんも顔が赤いし、長門もさりげなく反応するな。


「いやぁ、素直になられたようで、何よりです」
「古泉、お前は黙ってろ」


ハルヒたちが着ている浴衣について、ここで説明させていただこう。
朝比奈さんはあまり派手じゃないピンク色の生地に、俺はわからないが花が描かれたもので、長門は藍色の生地に、花火模様が描かれているもの。
そして、ハルヒが着ているのは薄紫色の生地に、百合が目立たない程度に描かれているものだった。


「照れなくてもよろしいんですが」
「黙ってろ」


ええい、なんてことだ、俺の意思とは反して台詞が口から流れ出てしまった。
くそ、また何かの陰謀か!?


「そ、それにしても、なんでわざわざ学校でなんだ?」


大抵高校っていうのは、制服が指定されているわけで、制服以外で活動できるのなんて、体操着を着る運動部や、劇中で使う衣装を着る演劇部以外は校則がどうのこうのだー!みたいな感じで禁止されると思うんだが。


「別にコレといって意味なんてないわ、ただみくるちゃんや有希が着てるところを見てみたくなっただけよ」
「まぁ、大変目の保養になるのでその点は大いに賛同するところではあるんだが」


3人とも、系列は違うとは言え、美少女ぞろいであることには変わりないからな。
特に朝比奈さんの一際目立つ部分は、なんとも目に毒……いやいや、目の保養となる事間違いなしだな。
と、それはいいとして。


「また、なんかろくでもないことを企画したのか……?」
「ろくでもないって何よ、近所でお祭りがあるから行こうってだけじゃない」


……そんなものあったか?


「確かにありますね、近所といっても駅1つ分ありますが、そこで少々早い春祭りというものがやってます」
「ほぉ……そいつは知らなかったな」


あぁ、だから今日は谷口や他の連中が教室で妙に張り切っていたのか。
この年になるまでそんなものがあるなんて知らなかったな、そういうイベントが好きそうな妹のやつも特に騒がなかったし。


「で、浴衣って事は、これから行くのか?」
「もちろんよ!あ、そうそう、古泉君とキョンはコレを着なさい」


思い出したかのように、ハルヒが紙袋を俺たちに放ってきた。
……なんとなく予想は付くんだが。


「やっぱりコレか……」


中に入っていたのは男物の浴衣と甚平だった。
これは、どっちかを選べということか……


「貴方はどちらになさいますか?」
「わざわざ顔を近づけるな、そんなに近づけなくても聞こえている」


とりあえず……甚平だと短パンみたいだからな……ここは浴衣を選んでおくのが無難か。
さて、着るのはいいんだが。


「ハルヒ」
「何よ」
「せめて部屋から出てろ、朝比奈さんと長門も出てください」


そういうと、何故かしぶしぶという雰囲気で出て行った。
何でそこでそんな雰囲気で活動してくれますか?
……で、ハルヒ、なんでお前は出て行かない?


「別に減るもんじゃないでしょ?」
「……そうかそうか、見たいのか、いい度胸だ」


お前ら女と違って、ある程度男は見られても平気と言うことが頭から抜け落ちてるな?
さすがに全裸まで行くと気が引けるが、覚悟がある状態で見られるのならそこまで恥ずかしいとは思わないぞ。


「俺は悪くないからな?……よっと」


一気にシャツを脱いで、上半身裸になる。
ハルヒより古泉の視線の方が恐怖に感じたが、それはあえて黙殺しておく。
そのハルヒはというと、顔を赤くしたまま、ボーっとした定まらない視線で、俺の方に顔を向けたまま硬直していた。


「……ハルヒ?」
「…………」
「……おーぃ、ハルヒー?」


なぜか固まったまま動かなくなってしまった。
……なんなんだ、いったい?
まぁ、今のうちに着替えてしまうか。


「――――はっ!?」


丁度俺も古泉も着替え終わったときに、ハルヒが無事……といっていいのかわからんが、再起動を果たした。
ちなみに改めて言っておく、俺は浴衣で、古泉は甚平だ。


「よぅ、目が覚めたか?」
「涼宮さん、そろそろ向かいましょうか」
「え、あ、うん。い、行きましょう?」


ものすごくギクシャクして頷いてから動き出した。


「……顔が赤いぞ」
「うるさいっ!」


ちょっとからかってやろうとしたら、顔面に強烈な一撃を頂いてしまった。
くそ、鼻血出てないだろうな?

















「ほぉ……たいしたもんだ」
「ふわぁ……本当にすごいですねぇ……」
「そうでしょ!こっちでは結構有名なお祭りなのよ?」


実際感嘆の声が漏れるのも仕方が無いと思う、人もすごいが、それ以上に活気がある。
昔懐かしい感じがする出店の数々が、駅を降りて少し歩いただけで空気が変わったように感じられるんだから、祭りって物はすごいと思う。


「……1つ」
「ヘイ毎度!嬢ちゃん可愛いからサービスしとくぜ!」
「長門……さっそくか」


気づいたら近くにいた長門が、たこ焼きの出店の前で注文していた。
……動いた気配がぜんぜん分からなかったな。


「どうぞ、朝比奈さん」
「あ、ありがとうございます、古泉君」


ってぇ、こっちでも気づいたら古泉がいつの間にか朝比奈さんに綿飴を買ってるし!


「ほら、キョン、行くわよ!」
「うぉ、引っ張るな!浴衣が崩れる!」


結局、ハルヒに引っ張られてあっちへこっちへとで店を回ることになった。
その途中で気づいてしまったんだが……


「……ハルヒ、いつの間にみんなに情報を回した?」
「……っ!?」


いくら俺が周りに鈍いだのなんだの言われているが、この違和感くらいにはさすがに気づくぞ?
普段ならみんなと行動するはずのこいつが迷わず俺の手を取ったこと。
長門はまぁ……おいといて、朝比奈さんと古泉が二人で自然と行動を始めたこと。
何より朝比奈さんがハルヒの指示を待たなかったのが怪しいだろう?


「まぁ……いいか」
「……へ?」


普段なら、問い詰めるなりなんなりしているんだろうが、なぜかそんな気にはなれなかった。
なんだろうなぁ……この雰囲気のせいか、それとも、隣にいるハルヒの雰囲気が普段とは違うせいか……まぁ、そんな無粋なことを言うような気分じゃない。
今、この時が楽しく感じられるんだから、いいんじゃないかと思う。


「……いいの?」
「……この雰囲気に何か言うほど無粋じゃないつもりだぞ?」


祭りとは本来楽しむものだろう?
なら、ギャアギャアいがみ合うより、思う存分楽しんだ方が得だろう?


「ほら、行くんだろ?」
「あ……うん!」


その後、射的で店を泣かせたり、金魚すくいで無駄に奮闘したり。
店で売っていたどでかい焼き鳥串を食べたりと、そんなことを俺とハルヒにしては珍しく楽しんだと思う。


「なかなか楽しめるなぁ」
「そうね、お祭りに来たのなんて久々だわ。こんな場所に不思議なんてなさそうだもの」
「……お前らしい理由だよなぁ」


そんな風に雑談している今ですら楽しいと思う。
こんな雰囲気に当てられたのか、多分、その時の俺はどこか意識が緩んでいたんだと思う。
だからだろう、ついついこんな言葉が浮かんできてしまったのは。


「……その浴衣、本当に似合ってるぞ?」


最初は何を言ってるのか理解できていなかったんだろう。
呆けたような顔をしていたが、すぐに少しだけ赤くなると、いつも以上の満開の花が咲いたような笑顔を俺に向けて、腕に抱きついてきた。











「もっちろんでしょ!」














……まぁ、こんな時もあっていいんだろうさ。

















そうだろう?


















 後書き

完全回復してません、時雨です。
頭回らないで書くと自殺するようなもんですね、ぜんぜん進みませんw

それでも書き上げてみたんですが、まぁ温かい目で許してくださいw
頑張ったんですよ!これでも!!
やっぱり早く風邪治さないとあかんですなぁ……
ということで、もうしばしお待ちを。

それでわ、また、次回作にて。
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            From 時雨  2007/05/07