最近、みくるちゃんや有希、古泉君に言われることがある。 「そろそろ少しくらい態度を軟化してあげたらどうでしょう?」 「あのぉ……キョン君にもう少し優しくしてあげてくれませんか?」 「……彼への態度の改善を求める」 全てが全て、簡潔に言うのならキョンに対して『優しく』してあげてほしいということだった。 ……そんなに、あたしのキョンへの態度はきついんだろうか? 普段なら特に何も言わない3人から言われると、どうしても考えなきゃならなくなるわね。 少しくらい……優しくしてやっても、いいかしら……? 「と、言うことで、みくるちゃん、有希、これ着てね」 「え……わぁ、浴衣ですかぁー」 「…………?」 部室に入ってのあたしの第一声はそれだった。 そして、今あたしが持っている2つある紙袋の片方の中には3人分の浴衣が入っている。 中身を取り出して、みくるちゃんと有希に似合うだろう色を選んで手に入れておいたものを渡す。 「ほらほら、古泉君やキョンが来る前に着ちゃいましょ?あと、お願いがあるんだけど……」 忘れないうちに、今日のあたしの目的をみくるちゃんと有希に伝えておくことにする。 恥ずかしかったけど、2人とも理由を聞いたら快く承諾してくれたわ。 「わかりました、自然と行動すればいいんですね?」 「……わかった」 「うん、ごめんね、ありがと」 ちなみに、もう1つの袋に入っているのは男物の浴衣と甚平が入っていたりする。 これは後でキョン達に渡すものだ。 ……キョンの浴衣姿、似合いそうね。 「で、今回はどうしてこういうことになったんだ?」 あたし達が着替え終わって少ししてから、古泉君が来て、そのさらに少し後にキョンが来た。 そして、来て早々の一言目がこれだった。 何よ、こんな綺麗な3人がいるっていうのに褒め言葉の一つもないのかしら…… 「さぁ、僕にもさっぱりです」 「……つまり、お前が来たときから、ということか」 そのキョンと言えば、あたし達の方を少し横目に見る状態にして、古泉君に耳打ちしていた。 なによ、そんなこと言ってる暇があるなら少しくらい褒めてくれてもいいのに。 文句のひとつも言いたいところだけど、ここで怒ったらいつも通りになっちゃうわね、今日はちょっとくらい優しく答えなきゃ。 「時期は春よ!春といったら桜、桜といったらお花見、お花見と言えばお祭りでしょ!!」 「間違ってないと言えば間違っていないが、間違ってるように聞こえるのは何でだ……」 別に間違ってないわよね? 「で、なんでわざわざここで浴衣姿なんだよ?」 「あら、この麗しい浴衣姿を前にして、第一声がそれ?」 とりあえず、ここだけは譲って上げれないわね。 せっかく着たんだもの、一言くらい褒め言葉を貰おうとしたってバチはあたらないわよね? 「あぁ……うん、似合ってるぞ」 「あ、うん、あ、ありがと」 そう思ったところに不意打ちだったわ。 まさかキョンが素直に言ってくれるなんて思ってなかったもの。 どうせまた「何を言ってるんだ」とか、「朝比奈さんや長門はともかく」とか言ってあたしのことはスルーするんじゃないかって思ってたのに。 顔に熱が集まっていくのが嫌でもわかってしまった。 あぁ、もう直球で来ないでよ! 「そ、それにしても、なんでわざわざ学校でなんだ?」 古泉君と再度何かを話していたキョンが、唐突に焦ったかのように話題を変えてきたわね。 「別にコレといって意味なんてないわ、ただみくるちゃんや有希が着てるところを見てみたくなっただけよ」 「まぁ、大変目の保養になるのでその点は大いに賛同するところではあるんだが」 言った理由は半分ホントで、半分嘘。 みくるちゃんは大抵なんでも似合いそうだし、有希は細いけど、美人だから、普通に何を着たって似合うわよね。 「また、なんかろくでもないことを企画したのか……?」 ことごとく失礼ね。 まるであたしが何かしたら被害をこうむるのは全て自分だー、みたいな顔して。 そんなことないわよね? 「ろくでもないって何よ、近所でお祭りがあるから行こうってだけじゃない」 そういうと、また古泉君の方に視線を向けて、あたしの一言の真意を測ろうとしているように見えた。 「確かにありますね、近所といっても駅1つ分ありますが、そこで少々早い春祭りというものがやってます」 「ほぉ……そいつは知らなかったな」 ……何よ、随分古泉君を頼りにしているみたいね。 「で、浴衣って事は、これから行くのか?」 とりあえず納得したのか、話がまたこっちに戻ってきた。 まったく、このあたしと話しているんだからこっちに集中しなさいよね。 それに、浴衣を着てるのにお祭りに行かないなんてバカな事、あたしが許すわけないでしょ? 「もちろんよ!あ、そうそう、古泉君とキョンはコレを着なさい」 そう言って用意してあったもう1つの紙袋をキョンに向けて放り投げた。 キョンの顔は見物だったわ、明らかに中身が予想できてますっていう雰囲気で、ものすごい顔をしたもの。 「やっぱりコレか……」 ここで、あたしは1つだけズルをしてある。 キョンがどっちを着るか、実を言うとあたしにはもう予想が付いていたりするのよね。 「貴方はどちらになさいますか?」 「わざわざ顔を近づけるな、そんなに近づけなくても聞こえている」 何故なら、確かに選択肢を2つあげたように見えるかもしれないけど、甚平の方は普通に売られているものより、下の丈が短いのを探しておいたのよ。 これはほとんど短パンって言ってもいいくらいだったの。 短パンをはきたいとは言わないだろうし、多分、キョンは甚平は選ばないわ。 「ハルヒ」 「何よ」 いけないいけない、考え事してたらキョンのことを忘れてたわ。 「せめて部屋から出てろ、朝比奈さんと長門も出てください」 そう言われた途端、みくるちゃんは顔を真っ赤にして慌てて、有希はいつも通りマイペースに部屋を出て行った。 でも、2人ともなんか残念そうにしてなかった? 動かないあたしを見て、キョンが早く出て行けと言いたそうにしていたけど、なんとなく意地悪したくなって、部屋から出て行かないでそのままでいた。 「別に減るもんじゃないでしょ?」 ふふん、これで着替えられないでしょ? 「……そうかそうか、見たいのか、いい度胸だ。俺は悪くないからな?……よっと」 ――――っ!? キョンが、唐突に上着を脱ぎだしたせいで、あたしの頭は完璧にフリーズしてしまった。 え、えぇ!? ちょっとなんでホントに脱ぐのよ!? 「ハルヒ?」 あ、キョンって細身かと思ったけど意外に筋肉付いてるんだ…… そういえば普段引き摺っている時とか、予想より重かったわね…… 「おーぃ、ハルヒー?」 えぇ!? そんなズボンまで!? 少しくらいは恥じらいを持ちなさいよね! レディの前で恥ずかしいって思わないの!? あぁ、着替え終わっちゃた…… って、なに考えてるのよ、私は!? 「――――はっ!?」 「よぅ、目が覚めたか?」 「涼宮さん、そろそろ向かいましょうか」 「え、あ、うん。い、行きましょう?」 わぁ、すごいもの見ちゃったわ…… 部室から出てきたとき、みくるちゃんと有希にちょっと白い目で見られちゃったわ。 ……これからは気をつけないと。 「……顔が赤いぞ」 「うるさいっ!」 歩き出したとき、突然言ってくるんだから、ついつい裏拳が出ちゃったわ。 せっかく今日は優しくしようと思ったのに。 「ほぉ……たいしたもんだ」 「ふわぁ……本当にすごいですねぇ……」 「そうでしょ!こっちでは結構有名なお祭りなのよ?」 昔は親父とか、母さんに良く連れてって貰っていたけど、最近はSOS団の活動の方で忙しかったから、ぜんぜん来てなかったんだけど、変わりなくやっていたらしい。 本当に昔と変わらないわね、なんか嬉しくなるわ。 笑っちゃうわね、変化が無いのなんてつまらないとしか思わなかったはずなのに、今はそれも納得できてる自分がいるんだから。 「……1つ」 「ヘイ毎度!嬢ちゃん可愛いからサービスしとくぜ!」 「あら……有希、いつの間に」 有希は予定通り、うまく行動に移ってくれたらしい。 ありがと、有希。 「どうぞ、朝比奈さん」 「あ、ありがとうございます、古泉君」 みくるちゃんは、どうやって古泉君を引き付けて行こうか悩んでいたみたいだけど、古泉君自身が行動を起こしてくれたおかげで、どうやらそのまま一緒に行動するみたいね。 ここは古泉君の行動に感謝かしら? 「ほら、キョン、行くわよ!」 「うぉ、引っ張るな!浴衣が崩れる!」 こうしてあたしは当初の予定通り、キョンと2人になることができたわ。 その足で、出店を見歩くことになったけど……案外、楽しいわね。 「……ハルヒ、いつの間にみんなに情報を回した?」 唐突に、本当にびっくりするくらいのタイミングでキョンがぼそりと呟いてきた。 「……っ!?」 いったい、いつバレたのかしら…… ちょっとマズいかしら……もしかして、みんなを探そうとか言い出すかしら……? 「まぁ……いいか」 「……へ?」 これもまた予想外だった。 キョンは鈍感で、あたしよりみくるちゃんとか有希を気にかけたりするし、なんだかんだで気遣いする人だから、みんなと一緒にいようとするかと思ったのに…… 「……いいの?」 ちょっと自分で自分にびっくりしちゃったわ。 まさか自分からこんな声が出るなんて思わなかったもの。 「……この雰囲気に何か言うほど無粋じゃないつもりだぞ?」 キョンが苦笑しながらも、優しい顔で手を出してきてくれた。 「ほら、行くんだろ?」 「あ……うん!」 なんでかわからないけど、嬉しくて、ついつい素直に手を取っちゃったわ。 「なかなか楽しめるなぁ」 その後、射的で店を泣かせたり、金魚すくいや亀すくいをやったり、出店のたこ焼きを値切ったりと、いろいろと普段とは違って楽しく遊ぶことができたと思う。 「そうね、お祭りに来たのなんて久々だわ。こんな場所に不思議なんてなさそうだもの」 「……お前らしい理由だよなぁ」 そういって苦笑されたけど、お祭りに来てなかったのは別に理由があるのよね。 今は、1人でこんなとこ来るよりは、SOS団のみんなと遊んでいる方が楽しいと思ってる。 信じられないわよね、本当。 普段だと喧嘩みたいに会話してるけど、今日は本当に穏やかに会話できてた。 ……これからも、もう少し優しくしてあげようかしら。 「……その浴衣、本当に似合ってるぞ?」 ――――っ!? 一瞬、自分の耳を疑っちゃったわ。 キョンが、部室での言わせた一言とは違って、自分から言ってくれたのよ? この嬉しいって気持ちは、理由なんてないし、いらないわよね。 ただ素直に、自分でも最高級だと思える笑顔で、この台詞を言うことが出来たと思う。 「もっちろんでしょ!」 キョンは恥ずかしそうにしているけど、その顔はあたしが嫌いじゃない笑顔でこっちを見てくれていた。 ちょっと見られているのは恥ずかしかったけど、雰囲気のせいにして、あたしはキョンの腕へと抱きついた。 これは、雰囲気のせいなんだからね? ホントよ? 別にそれでいいでしょ? 後書き 依頼に答えてみようとする無謀な管理人、時雨です。 元からハルヒ視点を考えていなかったのでなかなか難しかったですね、面白かったけど。 途中でまぁ会話を付け加えようかと思ったんですが、とりあえず台詞は使いまわしました。 増えてないですよ、頑張った、俺! とりあえず、依頼していただいた拍手送ってくれた方、これでいかがでしょう!? こんなんでも気に入っていただけたりすれば幸いです。 あ、ちなみにハルヒがデレMAXですが、気にしないでください。 またまた言います! Web拍手、良ければ押してください、それがオイラの力になります! それでわ、また、次回作にて。 From 時雨 2007/05/12 |