さて、季節は春。 春と聞いて、俺が思いつく単語といえば、所詮凡人たる俺の連想能力や語彙では、ありきたりな言葉しか浮かばないところではあるんだが。 まぁ、一応上げてみようか。 世の中で春といえば、春一番であり、桜であり、梅雨もある。 ……長くなったが、俺が何を言いたいのかと言えば、要するに。 俺に季節の変わり目なんて情緒ある物は蹂躙され、結果的に俺に残るのは万年お天気娘のハルヒによる、恒例の騒動だけしか残らないのだ。 ……やれやれ。 「……で、今日はどういうわけで、何をする気だ?」 「ん?別になにもないわよ?」 俺のベッドの上に遠慮無しに転がって、どこから取り出したのかわからない小説を読んでくつろいでいるハルヒ。 さて、何故こうなっているのか、それを説明するところから始めなくてはならないのだろうか。 「……何しに来たんだよ」 事の発端は、恐らくはハルヒの気まぐれから始まっているんだろう。 今までも散々言ってはいるが、恒例となった休日の不思議探索、それがどういうわけか休みとなった特例の日。 そんな貴重な休日を、素晴らしく謳歌できるかと思い、惰眠と呼ばれてもかまわないくらいの睡眠を享受しようとしたところ、その騒動はやってきた。 そう、今目の前にいる涼宮ハルヒ、そいつが襲撃してきたのだ。 「別に、たまには団員の家の状況でも確認しなきゃならないかな?って思っただけよ」 「そうか、ならもうわかっただろう、他の奴の家に行け」 残念なことに、ハルヒの襲撃時、俺は夢の世界の住人であり、まさかハルヒが俺の家に来るなんてミジンコほどにも考えていなかった。 その為に、妹がハルヒを家に招きいれ、さらに俺の部屋に案内してくるとは…… これを予想できる奴がいるのなら、その予想能力を分けてくれ、是非とも。 「せっかく来たのにお茶の1つも出さないの?団員としての心構えがなってないわね」 「招かれざる訪問者に出すようなお茶はない。と、いうか、人のベッドに寝転がるな……とは言わないが、せめてスカートの裾に気を使え」 こいつは……過去に若干の芽生えが見えた羞恥心は、結局花咲くことはなく枯れてしまったらしい。 いつも通りのミニスカート姿で、なんでベッドにうつ伏せでいられるんだ…… 俺だって健全な一男子であるし、そういうことに興味が無いかと聞かれれば問答無用であると答えよう。 「別に、見られたって減るものじゃないでしょ?」 「俺の精神力が磨耗される、だからせめて起き上がれ」 そういうと、ようやくではあるが、本当にしぶしぶと言った雰囲気で起き上がった。 本当にこいつは何しに来たんだ……? 状況確認しに来たとか言っていたが、部屋を漁るわけでもなく、ただベッドの上で小説を読んでいるだけ。 「で、キョン」 「なんだ」 起き上がって早々、ハルヒはこっちを向いて何かを要求するような目をしていた。 まぁ……残念なことに短いながらもなかなか濃い関わりを持ってしまった俺は、ハルヒがどういう意味を視線に込めているのかを理解できてしまったわけで。 「喉かわいたわ」 「そうかい、飲み物でも買って帰れ」 だからといって、俺が優しく返してやるような義理も温情も持ち合わせていない。 さらに言うのなら、俺としては早々にハルヒが帰宅し、再度平和な休日というものを味わいたいんだ。 「喉かわいたー、のーどーかわいたー!」 「どこのだだっこだ!」 っていうか、性格変わっていないか、お前!? 普段のお前はこう、なんだ、天上天下唯我独尊、我が道に敵なし、みたいな感じで、俺に対しては特に強引に物事を進めるような性格だっただろう!? 「なによ、いちいち注文が多いわね」 「注文が多いのはお前だ……はぁ、しかたねぇ。麦茶でいいな?」 こう押し問答を繰り返していても恐らく埒が明かないだろう。 それなら、いっそのこと、毒を食らわば皿まで、さっさとハルヒを満足させてご退場願うのが最良だろうさ。 「キーンとするくらい冷たいのねっ!」 「そこまで面倒見切れるかっ!」 待っていました!と言わんばかりにハルヒが目を輝かせて言ってきた。 しまった……これが狙いだったのか…… そう考えても後の祭り、結局俺はハルヒが要求した飲み物を用意するしかなかった。 ……忌々しい。 今に降りた俺は、違和感を感じていた。 普段ならいるはずの妹も、親も、いないのだ。 その代わりにテーブルに置いてあるお茶菓子と、手紙が一枚。
「…………」 俺の母親って……こんな性格だったか? そもそもなんだ、間違いって。 俺とハルヒがそんな風になるわけないだろうに…… まぁ、確かに美人ではあるんだが、礼儀正しい……? 猫でも被っていたのか? 「まぁ……ある意味根掘り葉掘りあることないこと聞かれるよりはマシか」 とりあえず、さっさとお茶とこのお茶菓子を持って戻るとしますか…… あんまりのんびりしてると、また文句の1つでも言われそうだ。 「遅い!」 ……ここまで予想通りだと、驚きや怒りを通り越して呆れが来るもんなんだな。 自分でもこの発見はびっくりだ。 だからと言って、自分のためになるかと聞かれると、まったく持って意味がないんだが。 「わざわざ持って来たやったのに、最初の一言がそれか」 「どうせ作ってある麦茶を出してきただけでしょ、なんで時間がかかるのよ?」 まったく、人の家に来てなんていう態度だ。 ここはハルヒのために、心を鬼にして行動に出ることにしよう。 「ほほぉ、せっかく俺の親が気を聞かせて用意してくれたお茶菓子も持ってきたんだが、どうやらお前はいらないらしいな?」 「え?」 驚いた顔をしているが、まだ許してやらん。 「いやぁ、残念だ、なら俺が1人でありがたく食うことにしよう。あ、ほれ、お前の麦茶だ」 そういって麦茶だけを渡してやる。 ちなみに、今日のお茶菓子は羊羹だ。 どうせなら麦茶より緑茶あたりでも入れてくるべきだったか? 「うむ、これは美味い」 「あ、う〜……」 横で恨めしそうに唸っているが、全て黙殺。 せいぜい自分の言ったことに後悔し、心から反省するがいい。 「ねぇキョン、ちょっと頂戴よ」 「礼儀知らずに分けてやる茶菓子はないな」 おぉ、しっかりと小豆が生きている。 これはなかなか掘り出し物を見つけてきたなぁ、ウチの親。 「そっちがそのつもりなら、こっちにも考えがあるわよ?」 脅しのつもりかなんなのか、さっきまで唸っていたハルヒが唐突に言ってきた。 だが所詮、たいしたことができるとも思えん、俺は放置することにした。 何が問題だったかと言われると、俺のこの判断が問題だったというしかないんだろうなぁ…… 「何をするつもりかしらんが、勝手にすればいい」 「そ、言ったわね?」 とりあえず麦茶を飲み干したハルヒが、羊羹を味わっている俺へ近寄ってきた。 ……いったい、何をするつもりだ? 「なんだ、何か用か……ぐっ!」 「あむ」 また1つ、羊羹をくわえたところで、ハルヒが俺の頭を抑え、強制的に上へ向かされた。 文句の1つでも言ってやろうかと思ったところ、俺の視界に広がったのは、ハルヒの顔のアップだった。 そして、それと同時に唇に小さく感じる何かやわらかい感触…… 「ん……あら、これ結構おいしいわね」 「なっ……!?」 「こんな美味しいものを独り占めだなんて、他の誰が許してもあたしが許さないわよ?」 察しのいい人なら、どういう状態だったかなんてもの、すぐに想像できてしまうのだろう。 そう、ハルヒはどういうわけか、まだ皿に残っている羊羹には目もくれず、俺の食べていた羊羹を無理やりに奪っていったのだ。 しかも、手を使わずにわざわざ口で! 「な、何を考えているんだ、お前は!」 「分けてくれないキョンが悪いんじゃない!」 このとき、すでに俺には正常な思考回路は全て機能停止してしまっていたんだろうなぁ。 「しまいには逆ギレか!いったい何がしたいんだ、お前は!?」 「別になんだっていいでしょ!」 「いい訳あるか!そのために俺の休日が棒に降られるんだぞ!」 売り言葉に買い言葉、と言ってもいい。 そうでなければ、まさかこんな、普段なら絶対言わないと誓ってもいい台詞が出てこないだろう。 「何よ、せっかく来てあげたのにもう少しかまってくれてもいいじゃない!」 「何だそれは!かまって欲しいなら最初から言えば良かっただろう!?」 ……!? 俺は、一体何を口走った!? 「ぇ……?」 赤くなったハルヒの顔を見て、自分が今日最大の失言をしたことを、嫌でも実感させられてしまった。 だが、過ぎ去った時はすでに戻らない。 「あー……その、なんだ」 「……じゃぁ、かまって?」 「――――っ!?」 ……反則だ、その表情や仕草は。 結局、俺はハルヒに抗うことができなくなり、のんびりとした休日に別れを告げて、ハルヒの相手をすることになってしまった。 ……忌々しい。 だが、一瞬だが、ハルヒがとても可愛いと思えてしまった俺は、一体なんなのだろうか。 ……とりあえず、忘れよう。 「とりあえず、テレビでも見に行きましょ」 「……はいはい」 季節は春。 一体、俺の今の季節は、なんなんだろうな? ……やれやれ。 後書き 最後だけやりたくて途中がぐだぐだな雰囲気です。 とりあえず、二人とも逆切れに逆切れを重ねて、キョンが地雷を踏むのをやりたかったんですよ。 でも、なんでかわからないけどやっぱりハルヒがデレました。 あれぇ……おかしいなぁ……? まぁいいや、そんな感じで行くのも面白いか。 それでわ、また、次回作にて。 From 時雨 2007/05/19 |