なんで、なんでなのよ!


「どうぞ」
「いやぁ、ありがとうございます、朝比奈さん」


むかつく、むかつく、むかつく!


「長門、その本は面白いか?」
「結構」
「そりゃ珍しい、どんな内容だ?」


どうして、あたしはこいつが気になるのかしら……
あたしのやることに文句言うし、ただでさえみくるちゃんや有希にデレデレしてるようなこんな奴を……





















「ん、どうした。俺の顔に何かついているか?」
「なんでもないわよ!」


もう、ほんとにわけわかんない。
キョンはただの雑用で、それ以上でもそれ以下でもないはずなのに。


「まったく、デレデレしてないで、さっさと不思議を探してきなさい!!」
「不思議を探して来いって……学校でか?」
「そうよ、もしかしたらまた何か新しい不思議が学校に現れてるかもしれないでしょ」
「はいはい、わかったよ」


そういって、キョンはぶつぶつと言いながら部室から出て行った。
ふん、だ。デレデレしてるからそんな目にあうのよ。


「……照れ隠し?」
「そのようで」
「あ、やっぱりそうなんですかぁ?」
「そ、そんなわけないでしょ!」


キョンを追い出してすぐのあたしの耳に、我が愛すべき団員達の聞き捨てならない台詞が届いた。
あたしの行動がキョンへの照れ隠し?
そんなことあるはずないじゃない!


「おや、誰も涼宮さんのことを言ったわけではないのですが」
「うぐっ……」
「……素直じゃない」
「涼宮さん、可愛らしいです」


な、何よ、みんなして人をそんな微笑ましいものを見るような目で見て。
大体、あたしがキョンのことを、どうこう思ってるわけないでしょ、あいつなんてあたしの温情で団に残れてるような存在なのよ。
そう、だから、あたしがあいつに対して照れてるなんて、そんなことはあり得ないのよ。


「もう、何よみんなして!」


これじゃほんとにみんなが言うようにあたしがキョンをどうこう思ってるみたいじゃない。
あの夢だって、きっとキョンがそうありたいと願ったから、とても優しいあたしが夢の中だけならっていうことで叶えてあげたんだから。
そこに決して他の意識なんて、ましてやあたしがそんな気持ち、持ってるわけないのよ。


「……はぁ、考えてみたらわかるよな、こんな時間に教師以外で残ってるようなのがいるわけないんだよ」
「あ、キョン君、おかえりなさい」
「ご苦労様です」


恋なんて精神病よ、気の迷いの一種なんだから。
そんな甘い青春に憧れて、目の前の謎を潰すようなことなんてないのよ。


「……こいつ、どうしたんだ?」
「……思考が脳の大半を使用しており、外部が見えていない」
「要するに、考えに没頭しているということです」
「いや、悪いがそれくらいはわかる」


そうよ、きっとこれも優しすぎるあたしの過剰サービス的なそんなものなのよ。
なんだ、こんな簡単な事だったんじゃない。


「……とりあえず、ハルヒ、そろそろ帰って来い」
「何よ、やっと考えがまとまったんだからあんたも喜びなさいよね……ってキョン!?」
「ようやく気づいたのか?」


な、いつの間に帰ってきたのよ。
入ってくるなら入ってくるで、ちゃんとノックするなり、一言断ってから入ってきなさいよね、あんたは団員だけど、一番下っ端なんだから!


「お前の表情から考えが読めるのが、俺としては納得いかないところではあるんだが、ノックもしたし、お前に対してもちゃんと一声かけたぞ?」
「うぅ……う、うるさい!」
「ぐぁっ!」


ついつい、キョンの身体を思いっきり押しちゃったわ。
これはキョンが余計なこと言ったから悪いのよ、団長に逆らった制裁よ制裁!


「ったく、一体何がしたいんだが……」
「貴方達も飽きませんね」
「黙れ古泉」


会話はこれでおしまい!
キョンなんかに貴重な時間を消費している暇なんてないの!
こんなことしてる暇があるなら、インターネットの中の不思議を探さないとね!


「お暇になったのでしたら、どうです、一勝負?」
「……また、チェスか」
「これでなら、今日は勝ち星をいただけるような気がするのですよ」
「ほぉ、ならやってやるよ」


不思議サイトがないか巡回しているときに、ふと、キョンの横顔がディスプレイの隣に見えた。
……なによ、そんな真面目な顔も出来るんじゃない。
普段、あたしに向けるのは大抵呆れた顔か、文句のありそうな顔、たまにしか見せてくれない苦笑混じりの笑顔くらいの癖に……


「第一戦目、チェックメイトだ」
「……負けてしまいましたか」


どうやら、キョンの勝ちで勝敗が決まったらしい。
でも、古泉君には悪いけど、古泉君が勝ってるのを見たことがないわね……
もしかして、本当に弱いのかしら……?


「時々思うが、お前は手抜いてるんじゃないだろうな?」
「そう、見えますか?」
「それがわからんから聞いている」


キョンが強いのか、古泉君が弱いのかは置いておいて、少しだけ、あたしの中に好奇心が生まれるのを自覚した。
もし、あたしとキョンがやったら、どっちが強いのかしら?


「キョン、あたしとやってみない?」
「……お前とか?」


なによ、その嫌そうな顔。
別に勝負しましょうって以外、何も言ってないじゃない。
でも、もちろん敗者にはペナルティよ?
負けたほうは、勝った方の言うことを1つだけ聞く、OK?


「まぁいいか……それならやってみるか?」
「では、どうぞ涼宮さん」
「ありがと、古泉君」


あたしと古泉君が入れ替わると、それと同時にみくるちゃんが気を利かせてくれて、あたし達に新しいお茶を淹れてくれた。
……ほんとにコレ、おいしいわね。


「それじゃぁ、はじめるか……お前から先行でいいぞ」
「そう、じゃぁ行くわよ!」





















「な、何で勝てないのよ!!」
「どうやら、古泉とやってるうちに俺の底力も上がったらしいな」


結構接戦に持ち込めたと思ったのに、結果的にはあたしのキングがキョンのクイーンとルークに追い詰められて負けちゃったわ。
おかしいわね、キョンくらいなら勝てるんじゃないかって思ってたのに。


「なんか不正でもしたんじゃないでしょうね?」
「そんなことしたら、お前が気づかないわけがないだろうが」


それは、そうかもしれないけど、もしかしたらあたしが気づかないような事やってるかもしれないじゃない!
なんならみんなにでも聞いてみましょか。


「……不正はない」
「私もキョン君がイカサマしてるようには見えませんでした」
「隣で見ていましたが、不正はなかったかと」
「……だとよ」


むー……納得いかないけど、納得するしかないのかしら。
それにしても、悔しいわね。


「キョン!もう一勝負よ!!」
「……お前、自分が勝つまでやるとか言わないだろうな?」


そこまでバカじゃないわよ。
でも、今回はまぐれでキョンが勝ってるかもしれないじゃない。
最低でも3回勝負くらいはしてみなきゃわかんないわよね!


「……しかたねぇなぁ、やるか」
「そうこなくっちゃ!!」


結局、キョンが言ったとおり、古泉君とあらゆるボードゲームをやっていたキョンは、底力が上がっていたらしく、あたしは1勝するのがやっとだった。
それも、その1勝もなんかキョンが手加減したように感じたのは気のせいかしら?


「あー、もう!悔しいわね」
「……まぁ、そんなこともあるんじゃねぇのか?」


慰めなんていらないわ!
逆にむなしくなるじゃない。
このままで済むとは思わないことね、あたしが本気出せば、キョンなんてけちょんけちょんにしてやるんだから。


「そうかい」
「――――っ!?」


ちょ、ちょっと何よその表情!
キョンは机に肘をつけて、顔の前辺りで組んだ手のうえに、あごを乗せるようなポーズを取って、普段見せてもらったことのない笑顔をあたしに向けていた。
ま、まずいわ、不意打ちよコレ。


「ん、どうした、心なしか顔が赤いような……?」
「な、なんでもないわよ!……今日はもう解散!!」


このまま、キョンの顔を直視し続けてたら、きっとあたしの顔はもっと赤くなっちゃうような気がした。
そんな顔をみんなに見られるわけにはいかないわ。
団長としての尊厳の問題もそうだし、なにより……恥ずかしいじゃない?


「古泉、どうしたんだ、あいつ」
「貴方は本当に……貴方こそわざとではないかと思ってしまいそうですね」


それは同感よね……
あり得ないけど、わざとじゃないかって思うことあるもの。


「……なんのことだ?」


でも、キョンに限って、そんなことができるような器用さを持ってるわけわないわね。
まったく、こんな状態になるなんて、ほんとに予想外だわ。


「あぁ、ちょっと待て、ハルヒ」
「……なによ?」
「自分で言ったことだ、忘れてないだろうな?」
「う……」


なによ、しっかり覚えてたの。
……仕方ないわね、言い出したのはあたしだし。
ほら、言って見なさいよ。


「それじゃぁ、帰るか」
「へ……?」


今、なんて言ったのかしら……?
あたしの聞き間違い?


「なんだ、言うこと聞くんだろ?ほらほら、さっさと準備して、行くぞ」
「え、あ、うん」
「それじゃ、また明日な」


結局、あれよあれよとあたしの荷物までまとめて、キョンに手を引かれる形で部室を後にした。
え、っていうか、なんでキョンから!?


「……まぁ、たまにはこんな日もいいんじゃないかってな」
「し、仕方ないわね、あたしは勝負に負けたから、仕方なく従ってあげるわ」
「はいはい、ありがとよ」


今も、昔も、恋愛が精神病や気の迷いだっていうのを否定する気はないわ。
でも、そんな精神病があっても、いいんじゃないかって思うようになってきている。


「なんだ、ニヤニヤして」
「してないわよ」


だって、仕方がないじゃない。
キョンが隣にいるだけで嬉しいし、つまらなかった不思議探索だって、面白いって感じるようになってるんだもの。
認めたくないけど、あたしはこのキョンに惹かれてるみたいね。


「……変な奴」
「うっさい」


あたしも、大概単純なのかしら……?
ただのこのつまらない帰宅路も、普段とは違う気持ちで歩いてるような気がする。


「ほら、さっさと帰るわよ!!」


でも、悔しいから、自分からは言わないし、そんな素振りもキョンには教えてあげない。
だって、不公平じゃない、これじゃ、あたしだけがキョンを気になってるみたいだもの。
どうせなら公平に、フェアにいかなきゃあたしが納得しない。
だから……


「キョン」
「ん?」
「早く、気づきなさいよね」


まだ、秘密。















あたしがこの気持ちを認めるのは、キョンが気づいて言って来てくれた後。















それまでは、この関係で。















これからを。


















 後書き

ツンデレってどう書くのかいまいちわからんのですな。
キョンが気になるって言って、一生懸命否定するハルヒが書きたかっただけです。

終わり方はわざと濁してあります。
そっから先はお好きなように妄想想像してください。
ここのサイトのキョンがいつ気づくのか、それは俺次第。
他のでは気づいてますけどね?案外もう気づいているのかも。

それでわ、また、次回作にて。

            From 時雨  2007/05/30