皆さんは、覚えているだろうか?
いつだったか、占いというものが流行り、とてもじゃないが数えるのが億劫になるくらいの種類が生み出されたことを。
そして、その中に、相性占いというものがあったことを。


「今日は、みんなでコレをやるわよっ!」


今日も無駄に元気なハルヒは、部室のドアをいつか壊れるんじゃないかというような勢いで開け放って、第一声を発した。
どこから取り出してきたのか、その手の中には一冊の本が握られていた。
……そう、相性占いの本だ。



















「さて、いろいろとまた聞きたいことはあるんだが……」


一体どこから見つけて来たんだとか、何故唐突にそれなんだとか、今朝から機嫌がいいのはその為か、とかな。
それはともかく、今回はどういう思いつきでお前はそれに至ったんだ。


「たまたま、古本屋を覗いてみたら、これが目に付いたのよ」
「わぁ、相性占い、懐かしいです」
「あら、みくるちゃんも知ってるの?」
「はい、昔、流行った奴ですよね」


朝比奈さんの時代でもいまだ残っているのか、今回は未来に関してポロっとこぼすこともなかったようだ。
あれでいて、迂闊なところが多いお方だ、油断していたら、また何かあっさりと言ってしまうかもしれないな。


「と、言うことで今回我がSOS団では、この相性占いを使ってみようと思います!」


……はぁ、余計なことが起こらなければいいんだけどな。
嫌な予感がするのは、おそらく、俺の気のせいってわけじゃないだろう。
一嵐、来るんだろうな。


「最初は、古泉君とみくるちゃんを調べるわよー」
「僕ですか、緊張しますね」
「ふぇ、私ですかぁ!?」


朝比奈さんと古泉の2人か……
不服だが、この2人の相性はそこまで悪いと思えないな、しかし、だからと言って高い数値が出て欲しくないともいうのも確かだ。


「ふむふむ、結果は100点満点の84点だって」
「ほぉ、どれどれ?」


『友人としてはとても素晴らしい成績です、ですが、恋人や夫婦となるには今一歩何かが足りないようです、何か、壁があるのかもしれません』だとさ。
壁っていうと……朝比奈さんのことか……
いつか、元の時代に帰らなきゃいけないんだろうな……


「もう、返しなさいよキョン。じゃぁ、次は有希と古泉君ね!」
「……そう」
「おや、また僕ですか」
「古泉君のデータはあるし、有希だけ調べればすぐできるもの」


確かに、ハルヒにしては効率的な意見だ。
だが、長門は本当にどうでもいいのか、ぜんぜん反応してないな。


「えーっと、有希と古泉君は……あら、50点だって」


『あなた方は両名ともクセ者タイプ。だからこそ、会話が通じることはあっても、それから発展する可能性は薄いでしょう、あなた方次第では変わるかもしれません』……ね。
そもそもこの2人がそういう関係になること自体あまり想像がつかないね。
特に長門は、そういうことにはまだ興味が出ることはなさそうだ。


「よーっし、次はあたしと古泉君ね」


ハルヒと古泉、ね……
少しばかり、このとき嫌な事を思い出してしまった。
北高にハルヒと古泉がいなくなって、長門が普通の女の子になって、朝比奈さんが未来人ではなく普通の可愛らしい先輩になっていた、あの偽りの3日間。
あんなことは……もう起こって欲しくないね、今度こそ発狂しそうだ。


「あたしと古泉君の相性は……わ、すごい90点だって」


……なになに?
『あなた達は近いようで遠いタイプ。片や自由奔放、もう片方は長いものにまかれるタイプ。このままでは発展は難しいかもしれません、ですがこれからの双方の理解次第です』……ね。
自由奔放ってのはハルヒで、長いものにはって方が古泉か。
確かに、納得できるか、だがなんだ……この俺の中の言葉にしづらい感覚は。


「じゃ、次に行きましょう。まずは、キョンとみくるちゃんね」
「ふぇ、今度はキョン君とですか?」


どうやら、自分と古泉の相性についての興味が薄いのか、さっさと切り上げて次に行き始めた。
なにやら微妙な違和感を感じ、古泉の方へ軽く視線を向けると、古泉はいつも通りのニセスマイルの仮面をつけ、両手を小さく広げ、肩をすくめて見せた。
なんだ、そのリアクションは……?


「相性は、70点。古泉君とより低いのね?」


『あなた達は両名とも気を使うタイプ。だからこそ、お互いに対する心遣いばかりが先に出て、もう一歩進むのに時間がかかるかもしれません』と、いうことは、俺と朝比奈さんが恋人だとか、そんなような状態になるのは時間がかかるということか?
まぁ、そんな恐れ多いこと、考えるだけに留めておこう。


「はい、次、有希とね」


少しばかりボーっとしていたら、なぜか不機嫌になっているハルヒが話を進めてきた。
なんだ、なぜ不機嫌になってるんだ?


「うっさい、有希とは……74点ね」


なになに、『悪くはないですが、良いとも言えないタイプです。片方は恋愛感情としての意識は皆無に等しく、変わりに強い友情を持った友人としての付き合いを好みますが、もう片方はどうでしょうか』ね。
確かに、長門にはいろいろと世話になってるからな。
そういった感情が先に出るより、感謝の念の方が強い、か。


「よし、最後はあたしとキョンね……」


なんでそんなに力を込めて言うんだ?
さっきまで結構軽い調子でぽんぽん進めていたように見えたんだけどな?
調子だけ見ていると、結果によっては閉鎖空間の1つでも作り出しそうな雰囲気だな、おい。


「よし、出たわ……って、何よこれ!?」
「ん、どういう結果だ?」
「ダメよっ!!」


……なんだ?
結果を見たハルヒが叫んで固まったかと思えば、横から覗こうとすると、バっと、身体ごと逃げられた。


「涼宮さん、横から失礼します……おや、これは……」
「あ、ちょっと古泉君!」
「わぁ」
「…………評価不可能と、書いてある」


評価不可能だって?
そんなことあるのか?


「僭越ながら、僕が読ませていただきます」
「読んで見ろ」
「あなた方はとても特殊な珍しいタイプです。お互いがお互いを気にし、時には仲良く、時にはいがみ合い、そして最終的にはいつでも隣にいる、そんな関係になる場合が多いでしょう。そんなあなた方は、相性などでは判断できないものをすでにお持ちなのではないでしょうか?……と、書いてあります」


……つまり、どういうことだ?
頼むから俺にもわかりやすい言葉で説明して欲しいところなんだが?


「つまるところ、涼宮さんとあなたの相性は、満点ですら超え、点数にするのすら愚行だと書いてあるんですよ」
「……なんだそりゃ」
「とても素敵な結果だと思いますよ、キョン君」


そうですか?
いまいち実感も何も感じられない所なんですが……


「……その本で、その結果が導き出される確立は729兆分の1」
「数字で言われてもわからんが、とてつもない数字ってことか」
「……そう」


はぁ、それはすごいと思い、喜ぶべきか、なんでまたそんな結果が出ちまったんだと嘆くべきか。
まぁ……しかし、あれだ。
こいつや、SOS団のメンバーと付き合って短いとは言えない奴らと、相性がいいと言われるのは、悪くないもんだな。


「とりあえず、これで満足したか?」
「ま、まぁね、とりあえず今日の活動はこれでおしまい、キョンはちょっと残りなさい」


少々強引な終わらせ方だが、それぞれ納得する面があったのか、文句1つ言う事無く帰る支度を終えて帰っていった。
っていうか、なんで俺だけ残らなきゃいけないんだ?


「どう思った!?」
「……せめて主語をつけて話してくれ」
「コレよコレ、あんたはどう思った!?」


そう言って、自分が持ってきた本をバシバシと叩いた。
どうでもいいが、本が傷むぞ?


「そうだなぁ……悪い気はしなかったな。そこそこ付き合いが長い連中でもあることだし」
「そんなことが聞きたいんじゃないわよ!そ、その……あたしとキョンの相性のことよ!」


あぁ……それのことか。
そうだなぁ……
そうして考えると、ふと、俺の中の悪戯心が刺激されたのか、ついついハルヒの言葉に対して意地悪な反応を取ってみたくなった。


「いやぁ、あれは残念な結果だったな。お前との相性が数字として判断できないとは、これじゃぁこれからどういった態度を取ればいいのか、まったく想像がつかん」


聞きようによっては、いろいろに取れるんじゃないかという言い方をしたつもりだ。
普段のハルヒならば、こんな事を言ったとしても、一枚上手に返ってくるんだろうが、今のこいつはどうかな?
なによそれ!とか言い出して怒り出すか、はたまた、アヒル口で何も言わないまま帰るか、はたまた、別の何かか。
さぁ、どうでる?


「……そう」


俺の台詞を聞いている途中から、ハルヒは俯き、表情自体は見えなくなった。
だが、その表情とは反して、ハルヒの感情は今の所、手に取るように分かった。
……まったく、複雑なようでまったく、単純なんだよな、こいつは。


「って、言ったらどうする?」
「――――っ!?」


目に分かるくらうに、驚きといったハルヒの表情が目の前に現れた。
それと同時に、ハルヒの手が、遠慮なく俺のネクタイへと伸びた。
あぁ、これは地雷を踏んだか?


「なに、からかったの……?」
「……さぁて、どうだろうな?」


視線が怖いとは言わない。
っていうか、ハルヒ、なかなか手に力が篭もっているな。
ものすごい苦しくなってきているんだが。


「どうなの、答えなさい」


とりあえず、答えが欲しいなら手を離せ。
そろそろ、マジで意識が刈り取られそうだ。
俺の意識が通じたのか、ハルヒは俺のネクタイを拘束する力をなくし、変わりに俺の目をじっと見つめてきた。


「そうだな、お前の反応が見てみたくなっただけだ」
「そう、からかってたのね……いい度胸だわ……」


そういったハルヒの目に、俺にとってよろしくない光が宿ったのを、残念なことに現状に慣れてしまっている俺の目が見逃さなかった。


「そんな団長を尊敬しない団員には、罰を与えるべきよね」


尊敬ってなんだ、そんなことをされるようなことをしてきてないだろうが、お前は。
そもそも、罰といいながら毎回毎回俺に対して無理難題を押し付けてるのは誰だ。


「次の日曜日、あたしの買い物に付き合いなさい」
「……俺に、それ全部払わせるつもりか?」
「さすがにそんなことはしないわよ、荷物もちとして来てもらうだけ」


金の心配はないとして、俺の体力が持つかね。
まぁ、せいぜい、俺の体の負担が少ない買い物になると助かるよ。


「ま、それは後日ね。さ、帰るわよ」
「はいはい」


後日、俺が後悔することになるなんて、今このときに想像がつくはずもなかった。
だってそうだろう?
俺は宇宙人でも、未来人でも、超能力者的なものでもない、ただの一般学生だったんだから。


















 後書き

こんな調子で続けちゃいます。
べ、別に長編見たいって意見を尊重しようとしたわけじゃないんだからねっ!
……うん、俺がやるとアホの子っぽぃ。

とりあえず、こんな調子ですが、短編連作ってことで1話完結式で続けていきます。
完全な長編よりは書きやすいかな?
とりあえず時空系列的には続くお話にはする予定です。
他のは時空系列をガンシカトして書いてたからねっ!!
と、いうわけで、これからキョンの受難は続きます。

それでわ、また、次回作にて。

            From 時雨  2007/06/03