さて、先日のハルヒの死刑宣告とも取れる荷物もち発言後の土曜日。 言うまでもなく、この日も不思議探索は変わる事無く行われるわけで。 俺がいくら努力して足掻こうが、結局のところ最後に到着するという結末も避けられるわけがなく。 結局のところ、俺の財布が軽くなっていくのは止められないんだよな。 「遅い!もうみんな来てるわよ!!」 「……お前ら、一体何時からここにいるんだ?」 そう問いかけても、ハルヒを除く面々は、各々曖昧な態度なりなんなりで答えてくれる様子ではない。 ……俺、もしかしてカモられてるのか? 「と、いうわけで今日もキョンのおごりで喫茶店に来たわけなんだけど」 「そもそも、俺にばかり奢らせるこの状況に異議有りと申告する」 「そんなもの却下に決まってるでしょ」 やはり、俺には発言権というものは一切認められていないらしい。 ……やれやれ。 「さて、キョンは放っておいて、今日も不思議探索、するわよー!」 「班分けは、いつも通りですか?」 「そうよ、このつまようじ引いてね」 とりあえず、慣れたこの身が恨めしいが、それはそれといわんばかりに俺達は、ハルヒが言うがままにそれぞれつまようじを引いていった。 その結果、班としては、俺と長門、ハルヒと朝比奈さん、そして古泉という状態に分けられた。 これはまた、例のアヒル口が炸裂するかと思い、ハルヒの方を盗み見るとそこには予想外に上機嫌のハルヒがいた。 「じゃ、班も決まったことだし、そろそろ活動始めるわよ!」 ……なんなんだ、この上機嫌さは一体? 今までの経験からすると、ハルヒは何が不満なのか、俺が朝比奈さんや長門と同じ班になると、大抵アヒル口で再三に渡り『遊びじゃない』だの『しっかり不思議を発見するのよ』だの言って来たんだが…… 「……考えても、仕方がない……か」 ハルヒの機嫌がいいこと自体は、俺の心情的にも、世界の平和的にも都合が良いので、深くは考えないでおこう。 そうだな、一応原因究明ということで、あとで長門にでも聞いておけば問題ないだろう。 幸い、俺と長門は同じ班で、しばらくは行動を共にするんだからな。 「じゃ、お昼頃に、またここに集合ね」 「それでは、また後でお会いしましょう」 「気をつけてくださいね、キョン君、長門さん」 店を出てからも、ハルヒの機嫌は反転する事無く、終始上機嫌と言った雰囲気だった。 なんだ、これはこれで微妙に不気味というか、嵐の前の静けさという言葉を、如実に表しているような気がするのは、俺の気のせいなのか? 「とりあえず、長門。また図書館にでも行くか?」 「…………」 長門は、辛うじて分かるくらいに首を縦に動かし、図書館の方へと足を進め始めた。 その姿が心なしか嬉しそうに見えるのは、やはり宇宙人に作られたヒューマノイドインターフェイスとは言え、感情があるっていうことなんだろうな。 「そうだ、長門。聞きたいことがあるんだが」 「……?」 「ハルヒの奴、今日はやたらと機嫌が良いんだが、なんでかわかるか?」 そう問いかけると、長門は数瞬考えるかのように止まったが、すぐにまた図書館の方へと向かって歩き出した。 って、俺の質問はスルーかよ!? 「現在の涼宮ハルヒの状態は、貴方が別段気に病む必要性はない。むしろ、情報統合思念体や朝比奈みくる、古泉一樹の組織に対しても、今回の状態はむしろ好ましいものといえる」 「……どういうことだ?」 まったく分からん。 できることなら俺にわかりやすい手段を使って教えていただきたいものだ。 「直接的原因は貴方」 「……はぁ?」 「現在の涼宮ハルヒの思考は貴方との活動についてで大半の領域が使用されている。だから瑣末な事に気が回ってはいない」 俺との活動……? といっても、今現状で、俺とハルヒは一緒に行動なんてしてないよな。 それなのに、なにか俺との活動とやらを考えているからこの班分けも気にならないと、そういうことか。 「そう」 分かったような、分からないような…… そもそもなんだ、俺とハルヒの活動っつーのは。 「現在の時間的観念から言えば明日のこと」 明日……? 明日なんかあったか……って、もしかして!? 「そう、明日の貴方と涼宮ハルヒの活動」 ……やっぱりそれか。 しかし、なんでそれがハルヒの機嫌に繋がるんだ? 俺はあくまで罰則の1つとして付き合うことになるだけなんだが。 「…………」 「な、なんだ?」 ほとんど表情を読み取ることが出来ずらい瞳で、ただ俺のことを見つめていた。 だが、俺の気のせいか、その視線には、本当にそう思っているのか?と問いかけるような意味が含まれているように感じた。 それ以上の会話は続かず、結局俺と長門はいつも通りの単発的な会話を繰り返し、図書館で時間を潰すことになった。 「ん、おっと……そろそろ集合の時間か……長門?」 少しばかり気疲れを感じ、ちょうどいい椅子で軽く仮眠を取っていたが、携帯にセットしていたアラームが無常にも俺に時間を告げた。 まだ頭の隅に残る眠気を、軽く振ることで無理やりに払い、隣を見て驚いた。 「……それ、全部読んだのか?」 「そう」 椅子の前にある机には、ざっと見て10冊ほどの本が積み上げられていた。 そのどれもがそこそこの厚さを誇り、そんな短時間で読み終えられるようなものには見えなかった。 「……それ、片付けて、戻るか」 「わかった」 ひとまず、読み終えたらしい本を全て片付け、読んでいる途中だった本をカウンターで借り、俺達は喫茶店に戻ることにした。 しかし……量子力学なんて面白いのか……? 「……ユニーク」 「……そうか」 「さて、時間もまだ早いけど、悪いけど今日の不思議探索はここまでにするわ」 みんなと分かれた喫茶店に戻り、軽く昼食を取り、少しだけくつろいでいた時、唐突にハルヒがそう言い出した。 ……なんだ、こいつがこんなことを言い出すなんて、明日は雨でも降るのか? 「なによ、あたし、変なこと言った?」 本気で言っているのか? ……見てみろ、普段はお前が何を言おうが大抵『はい』と答える古泉ですら、驚きの表情で固まっているじゃないか。 「別に、ただ今日はちょっと疲れたからよ、とにかく、今日は各自もう解散!あんた達もゆっくり休みなさい」 団員の健康管理も団長の仕事だからね、なんて言い残して、ハルヒは鼻歌でも歌いだすんじゃないかというような雰囲気で、颯爽と店を出て、帰路についてしまったようだ。 残された俺達は、とりあえず唖然としてしばらくの間、物言わぬ彫像の如くその場で座りこけていた。 「……さすがに、これは予想外でした」 「……だろうな、俺もだ」 「涼宮さん、疲れたって言ってましたけど、大丈夫でしょうか」 恐らく、疲れたというのは建前だと思いますよ、朝比奈さん。 午前中の図書館へ向かうまでの会話を思い出しつつ、俺は頭の中でそんなことを考えていた。 俺の予想が正しいのなら、この早期解散も明日への布石と言った感じなのだろう。 そう考えて、長門の方へ視線を向ければ、2皿目のスパゲティーを平らげた上で、俺の方へと視線を送り、1ミリほど首を縦に動かした。 肯定、ってことか。 「……どうやら、一番疲れるのは、俺になりそうだな」 「あぁ、明日のことですか?」 ……ちょっと待て、なぜお前が知っている、古泉。 俺は誰にも言った記憶なんてのはない、だからといって、長門がそういう情報をリークするとは考えにくい。 「お忘れですか?僕達『機関』について」 「……あぁ、そういえばそんな半ストーカーみたいな組織があったな」 そう皮肉を込めて言ってやると、古泉は大して気に止めた風でもなく、飄々とニセスマイルを崩さずに切り返してきた。 「いえいえ、世界平和を守る慈善団体みたいなものですよ」 「慈善団体、ね」 そんな胡散臭い慈善団体があること自体どうかと思うがね。 まぁ、幸いにも今日は終りってことになったんだ、明日に備えて俺も帰らせてもらうとするか。 「そうですか、明日はなかなか大変なことになるかと思われますので、しっかり身体を休めるのがよろしいかと」 「頑張ってくださいね、キョン君」 そうだな、せいぜい、あいつに振り回されるとするさ。 願えるのなら、俺の負担が少ないことを祈っておこう。 そう考えて、俺は3人に一言かけてから、帰路に着いた。 後書き そしてメインに続きます(ぁ いやぁ、この頃若干不調で文章がうまく浮かびませんね。 普段ならポポーンと書けるんですが、どうにも上手くいきません。 も、もしかして、コレが噂に聞くスランプ!? でもまぁ、なんだかんだで書いていけるっぽぃですね。 うん、なんとか頑張ってみましょう。 あと、祭りの方の作品、管理人として1作は作ってみないとだめですよね。 うし、それも頑張ろう! それでわ、また、次回作にて。 From 時雨 2007/06/07 |