さて、始まりとはかくも唐突に起こるわけで。 思えば、こいつらSOS団との集まりも唐突といってしまえばその一言で片付くくらいにせわしなく動いていたわけだが。 「よう」 人間の適応力って言うのはまったく、恐れ入るほどに発揮されるわけで。 俺も、なんだかんだでSOS団という珍妙奇天烈、そんな言葉が良く似合う連中にすっかり馴染んじまったってわけだ。 「今日もお元気そうで、どうです、来て早々ですが一勝負」 だけど、このときは、こんなことをしなきゃいけないなんて、俺は想像してもいなかった。 だが、これもまた、予定調和だったのか、認めたくないんだがな。 The melancholy of Haruhi Suzumiya
青年は、憤る
Second Story from Sigure Minaduki 「悪いな古泉、今日はパスだ」 「おや、珍しいですね?」 本来なら、のんびりとそういった勝負もいいんじゃないかとも思うところなんだがな。 残念ながら、俺にはもう、お前らとのんびり遊んでいる時間すら残されていないんだ。 「全員、いるな?」 そう広くはない部室を見回すと、いつも通りに給仕に勤しむ朝比奈さん、固定位置で本を機械的に読み続ける長門、ニセスマイルの中にどこか疑念を込めた古泉、そして、ネットサーフィンをしているフリをして、こっちを伺っている……ハルヒ。 「詳しくは言えない、だが、はっきりと言っておく」 「……なによ、聞くだけなら聞いて上げるわよ?」 残念だが、今回ばかりはお前でもどうにもできないさ。 相手が生徒会長あたりなら、すでに古泉が情報収集なんて終えてるだろう。 だけど、本当に今回は相手が悪い。 「……俺は、今日を持ってSOS団を、抜ける」 恐ろしいくらいの静寂が、部室の中を満たした。 ……予想していた反応とは言え、これは、辛いものがあるな。 ハルヒは、一瞬目を見開いたかと思うと、すぐに下を向いた。 「……もういっぺん言ってみなさい」 まるで、地を這うかのような声で、ハルヒが俺のほうを睨みつけて言ってきた。 その目は、全て吐かないと本気で殺す、とでも訴えてきそうな勢いがあった。 だが、俺はその目に怯むことすらなく、飄々としたように答えてやった。 「飽きたんだ、限界なんだよ。もう、お前の世話をするのはごめんだ」 ズキっと、心臓の辺りを氷か何かで刺されたみたいな痛みと、苦しみが走った。 ……耐えろ、ここで、俺が折れたら、この決意を無駄にすることになる。 「……そう、なら好きにしなさい、そもそもあんたなんて別にいてもいなくても同じだもの」 「そうかい、そりゃなおさら好都合だ、じゃぁな。せいぜい元気でやれよ」 他のメンバーの反応を見る事無く、俺は部室を出て、後ろ手で扉を閉めた。 あぁ、そういえばカバンを教室に置きっぱなしにしていたな…… そう思い出して、教室へと戻った俺は、カバンを取るよりも、まず壁に倒れるようにもたれかかった。 「……くそっ!こんなこと言わせやがって……」 俺が、宣言したときに見せた、ハルヒの顔を思い出しただけで、自分自身を殺したくなってくる。 あんな、驚いたような……まるで捨てられる犬みたいな雰囲気を一瞬でも見せたハルヒを、俺は願えるのなら一生見たくなかった。 「……くそったれっ!」 ガツン!と、手が痛くなることすら構わない勢いで、背後の壁をそのまま殴りつけた。 手加減無しの一撃だったからか、はたまた当たり所が悪かったのか。 普段ではあり得ないような痛みが俺の手を襲うが、そんなものが気になるほど、俺の精神には余裕がなかった。 「あの野郎、俺が……このまま引き下がると思うな」 痛みのおかげか、多少冷えた頭で、とりあえず下校時間が押してきていることに気づいた俺は、一旦、帰路についた。 俺だって、好き好んでSOS団を抜けるなんて言ったわけじゃない。 最初の方にも言ったが、俺はSOS団という珍妙な連中の集まりを、割と気に入っている。 だが、ハルヒがやってきた行動は曲がり間違っても正当性のあるものばかりじゃなかった。 そして、あいつは、奇抜な行動ばかりが目に付いているが、大人しくしているなら雑誌にも負けないくらいの美人だ。 そこに、目をつけてちょっかいをかけて来ようとした奴がいた。 「あぁ、君、ちょっといいかな?」 「……ん、俺?」 「そう、君だ」 そいつは、何食わぬ顔をして、最初は声をかけてきた。 俺みたいな平凡な学生に声をかけるような奇特な奴が居たのか、なんて最初はそんな軽い調子で考えていたが、考えてみればおかしい話だよな。 相手は、確実に俺を知っているという口調で話しかけてきたんだから。 「なあに、怪しいモノじゃない。そうだな、君には『機関』と言えば通じるのかな?」 「……古泉のか」 「そう、簡単に言えば、私は彼の上司にあたる者だ」 『機関』は、今まで何があろうと古泉を使って俺に話を通してきていた。 それなのに、今になって何故、こんなお偉いさんが出てきたのだろうか? なんて余計なことを考えていると、いつの間にか、俺はそいつの口車に乗せられて、近くの喫茶店に連れられていた。 「さて、まず挨拶もしていなかったね。私の名前は皇、回りくどい話は苦手でね、単刀直入に行かせて貰おう」 頭の中で、警報がなっていた。 だけど、その警報に俺は気づくことが出来なかった……いや、気づいてはいたんだろう、でも自覚することがなかった。 「君には、一度涼宮ハルヒから手を引いてもらおう」 「……なん、だと?」 「おや、聞こえなかったのかね?涼宮ハルヒから、手を引けと言っているんだよ」 一体こいつは何を言っている……? ハルヒから手を引け? なぜ、俺に言う必要があるんだ? 「ふむ、何を言っているのか理解したくないという表情だね」 「……何が、目的だ?」 「なに、そんな大それたことじゃない、『機関』が彼女を神としてみていることは、部下から聞いているだろう」 生憎なことに、まだ記憶に残っているな。 確か……3年前、ハルヒによって世界は誕生した、だったか? 「さて、そこで私は考えるわけだ。その神の力を使えないかと」 「使う……?」 「幸い、その力を持つ神は年端も行かない少女なわけだ、扱いようによってはどうにでもなる」 ハルヒが、あんたの思うようになるとは思えないが…… そもそも、そんなこと……させてたまるか。 「そんなこと……」 「できないとは言わせないよ。あぁ、そうだ、私が君に対してこういうことを言った理由をついでに教えて上げよう」 やけに自信たっぷりといった雰囲気を変える事無く、そいつは言ってのけた。 「神の戯れの集団、その中での唯一のネックは君だったのだよ、あの集団の中、唯一の一般人……君があの中でキーパーソンなのは間違いないと私は見ている」 「…………」 「君が居なくなれば、おそらく、集団の絆は大半が崩れるだろう」 ……俺は確かに一般人だ、それに、世界中探しても、あの集団の中で全ての事実を知っている一般人は俺だけだ。 絆がどうのこうのと言っていたが、どうなるかなんていうのは、俺にはわからない。 だが、そんな目的を聞いた以上、俺が大人しく引き下がると思うのか? 「君が素直に私に従うなんて甘いことは考えていない、そこで、私は外道な手段を講じようと思う」 「外道な……手段だと?」 「そうだ、君には確か妹さんがいたね?彼女の生死と、あの集団、どちらが君にとっては重い天秤かな?」 人間の欲望に濁ったような目が、俺に向けられた。 こいつは、恐らく本気だ…… ここで、俺がSOS団を取れば、迷わずこいつは妹を拉致するだろう。 なんだかんだで手回しできるような得体の知れない『機関』だ、ただでさえ幹部のような物言いをするこいつの言動が、それを事実だと言い表しているように見えた。 「もちろん、他の子に公言するようなことをしても、私は無情に、確実に、行動を取るだろうね」 「……わかった、SOS団を、抜ければ誰にも危害は加えないんだな」 「それはもう、彼女とは違う神がいるのなら、それに誓ってもいい」 醜悪な、こいつの顔を見ているのはもう限界だった。 俺は、乱暴に席を立つと、そいつのにやけたツラを睨みつけて、喫茶店を出た。 もちろん、大急ぎで帰って、妹の無事の確認をしたのは、言うまでもないだろう。 SOS団との決別を示してからの翌日。 俺にとっては、予想外ということが起きている。 いや、正確には少し違う、【起きていない】のが、予想外だ。 「どういうことだ……?」 過去に、古泉は言った。 ハルヒの精神が不安定になることで、閉鎖空間が発生する、そして、ハルヒの苛立ちなどの心が、神人を生み出し、その世界で暴れさせると。 「古泉からの反応は、ないな……」 携帯を確認しても、何も連絡が来ていなかった。 あんな行動を取った後だ、ハルヒが苛立たないはずがない。 退屈だからといって、世界を創造し直そうとするような奴だからな。 「これは……一体どういうことだ?」 俺が、この現象を理解できたのは、全てが終わった後だったが。 このときはまだ、俺の周りで、世界がどう動いているのか。 それすらもわからない、ただ俺は、流れに流される存在。 それでも、世界は動き続け。 小さな川の流れが、大河の濁流になるまで、そう、時間は要さなかった。 まったく、巻き込まれる方の身にもなってくれと言いたい。 心から。 本格的に、長編やってみようかと思うので、のんびりペースで書き始め。 とりあえず、始まりはキョンがSOS団を抜けるところから始まってみましょう。 いろいろ不備が出るかも知れないけれど、突っ込みも程よく見守ってください。 悪役の名前にこだわりなんてありません、たまたまです。 全国の皇さん、いろんな意味でごめんなさい。 それでは、へたれの長編に興味がある方も、お付き合いくださる方も、どうぞよろしくお願いします。 と、いうわけで、次回につづく。 From 時雨 2007/06/23 |