まったく、バカキョンってば、あんな顔して……
何か隠してることがあるんだってバレバレじゃないの。
だけど、あたしには聞くことが出来なかった。
いえ、出来なかったんじゃないわね……あえて聞かなかったのよ。


「まったく、世話の焼ける団員その一なんだから……」


恐らく、キョンのことだからあたしが聞いたって素直に一から十まで答えるとは思えないし、なにより、あの顔はあたしには聞いて欲しくないって言っているように見えたわ。
ま、あんたがそのつもりなら、あたしはあたしで勝手に動かさせてもらうわよ。
だけど、覚悟しなさい。
あんたは、あたしのSOS団の、名誉ある団員その一なんだからね!!



















The melancholy of Haruhi Suzumiya

神に、迫る影

Second Story from Sigure Minaduki




























と、意気込んでみたのはいいんだけど、あたしに何ができるかしら……?
キョンに聞いてもいまさら何も答えないだろうし、古泉君や有希はあの日から忙しそうだし……
ま、いいわ。
とりあえず、あたしはあたしらしく、不思議なものを見つけて、キョンをあっと言わせてやるんだから。


「さて、手始めにはまずいつも通り駅前から行って見ましょうか」


事が起こった日の次の休日、あたしはとりあえず駅前に来ることにした。
いつも集合するような朝早めではなく、すこしゆっくりとした昼頃に。
いつもより遅い時間とはいえ、やっていることはいつもと同じハズ……
だけど、何かが決定的に足りないような気がするそんな空虚な感覚。


「……変ね、普段ならこの程度なんてことないのに……」


いつもと違うこと……
みくるちゃんがいなくて、有希がいなくて、古泉君がいない……
そして、キョンがいない……


「なんか変、本当に……変」


退屈退屈ツマラナイ、タイクツタイクツ一人ジャタノシクナイ……
楽しい……?
あたしは本当なら世の中の不思議な存在や事象に出会うためにこのパトロールを始めたはずなのに?
なんで、退屈や、つまらない、楽しくないなんて考えなきゃいけないのかしら。


「あー、もうわけわかんない!!」


考えもまとまらないし、結局この退屈な感覚は消えないし。
そのことに苛立ちが限界を迎えたあたしは、とりあえず近場の喫茶店に入ることにした。
そこそこ空いている席の内、窓側のボックス席を陣取る。
注文を取りに来たウェイトレスに適当な飲み物を注文すると、あたしは再び思考の海に潜り込むことにした。


(まず、最初から考えてみようかしら……)


キョンがおかしいことを言い出した理由から。
これは、単純に考えられる理由が二つ。
一つは、本当にキョンがあたし達SOS団の集まりに飽きた。


(これは、多分違うと考えてもいいはず、よね……)


キョンが本当に呆れたのなら、当の昔に呆れられている可能性があったわ。
一応反省くらいはしているけど、ちょっと酷いかなって時もあったし……
嫌そうな顔をしたときも本当に何回かあったのは知っている……


(でも、キョンは変わらず来てくれたし……)


思考がネガティブに入る前に、もう一つの可能性を考えてみる事にする。
それは、誰かに言わされたという可能性。


(くらいしか、考えられないわよね)


はっきり言って、あたしはこれが原因だという風に確信している。
そうじゃなかったら、キョンがあんな表情をするハズがないもの。
あいつの心情くらい表情から多少は読み取れるつもり……


(あんな表情……始めて見たわ……)


だからこそ、あいつがあんな表情をするって言うことは何か絶対的な、それこそあたし達SOS団じゃ相手にもならないような上位存在……例え易いところなら教職員ってとこかしら?
でも、学校関係者なのかしら……?
それなら、回りくどいことはせず、直接あたしに言ってきそうなもんだけど……


「失礼、お嬢さん、相席よろしいかな?」
「…………」
「もしもし、お嬢さん?」
「うっさいわねっ!って……?」


思考の海を漂っていると、いつの間にかあたしの席には飲み物が用意され、さらに通路には中年といった風貌の男がにこやかな笑顔を見せて立っていた。


「失礼ながら、相席よろしいかな、お嬢さん」
「他の席行きなさいよ、まだ空いてるんだから」


思考を邪魔されたことがちょっと癪に障ったし、何よりまだ席が空いている状態で相席を申し出る意味がわからない。
だからあたしは、他の席に行くように言ったのに、その男はその笑顔を崩す事無く、周りに聞こえない小さな声で私に話を振ってきた。


君が気になっている彼、なんと言ったかな……そう、キョン君について関係する者だよ。……それで、相席してもよろしいかな?」
「……座りなさい」


あたしの直感が告げていた。
この男は危険だと。
だけど、この男が今回のキョンのことについて介入しているということは、自身の口から出た以上確実のはず。
ならば、多少の危険は承知の上で、その賭けに乗ってみるのも一つのだと思った。


「始めまして、お嬢さん。私は皇と言うものだ、改めてお見知りおきを」
「あんたの名前なんて聞いてないわ、あたしはキョンについて聞きたいからこそ相席を許しただけよ」
「ははは、手厳しい、だがそれでこそ、私が気に入っただけのことはある」
「あんたに気にいられても、気持ち悪いだけだわ」


敵意丸出しという目線を向けても、その男はびくともしたような雰囲気はなく、逆に生理的に受け付けることの出来ない、とても嫌な感じのする視線を向けられた。
その瞬間、あたしの全身が逃げろという命令を下した。
この場にいちゃいけない、この男は、何かが壊れている。
まるで、あたしのことを見てはいない、あたしの中の、違う何かだけを見ている。


「……ははは、そこまで警戒する必要はない、今回はただ単に顔見せと言ったところか」
「…………」
「これから君には、私のものになってもらおう、その為の準備は今滞りなく進んでいる所だ。そして君に言い渡そう、一週間後、君は私のモノになる」


冗談じゃない。
そう言いたかった……言い叫んでそいつをぶん殴ってやりたかった。
だけど、出来なかった。
本当に狂った……自分の欲望に狂い果てた人間の目。
それが、とてつもなく怖かったから。
ただ、ただ、一刻も早く、ここから逃げ出したかった。


「あぁ、そうそうこの事を誰かに相談しようとは思わないことだ。そんなことをしてしまえば、さらに彼や君の団体に迷惑が掛かるようなことが降りかかるかもしれないよ?」
「……本当にっ、さいっあくっ!」
「褒め言葉として受け取っておこう、それではこれで私は失礼するよ」


そういって、男はお金を適当において、席を立った。
あの男が触れたものに触りたくもなくて、あたしはそのままウェイトレスを呼んでおつりはいらないと言って、店を出て、すぐさま走りだした。
ただ、一刻も早く、安全な場所に行きたかったから。


ピンポンピンポーン!!


がむしゃらに、走って辿りついたのは……有希の家だった。
なんで自宅に行かなかったのかもわからない。
あたしがここで有希に頼ったら、有希に迷惑がかかるかもしれない。
だけど、あたしはここに来て、インターホンを押していた。


ブツッ


「…………」
「有希……ごめんね、開けて……欲しい……」


出た相手は無言だったけど、それが有希らしくてあたしの心を少しだけ安心させてくれた。
そして、無言のまま、扉のロックは外され自動ドアはその口を開いた。
あたしは、すぐに開いたドアに駆け込むと、有希の部屋を目指して、一目散に走り出した。


ガチャッ!!


まさか、有希が部屋に鍵をかけてないとは思わなかった。
だけど、今のあたしにはそれがとても助かった。
何度か訪れた部屋だから、迷う事無く一直線に居間を目指し、そして、そこにはいつもと変わらない表情でお茶を淹れてくれていた、有希がいた。


「う……うぇ……ゆきーっ!!」


その姿を見て、緊張しきっていたあたしの心は限界を迎えた。
情けないことに、あたしは有希に抱きついて、大きな声で泣いてしまった。


「…………」


そんなあたしを、有希は黙ったまま、優しく頭を撫でてくれた。
何だろう……すごい、落ち着いていくような気持ち……


「……連……空間を……」


意識が、ゆっくりと落ちる直前、あたしは有希が何かを喋ったように聞こえた。
だけど、それを理解する事無く、夢の世界へと、旅立った。





















目が覚めると、すっかりと暗くなっていて、あたしは帰らなきゃと思ったんだけど……
そう思った瞬間浮かび上がったのはあの男の気持ち悪い笑い顔が浮かんできて、また震えが止まらなくなってきてしまった。


「…………」


また、恐怖で泣き出しそうになっていると有希が後ろからあたしの服の裾をつまんでいた。


「……ゆ、き?」
「……外泊を提案する」


唐突な申し出だった。
でも、今のあたしにとってはこれ以上ないくらいの提案で。


「……いいの?」
「かまわない」
「ごめんね、有希……泊めさせて」
「いい」


結局あたしは、有希の言葉に甘えて、家に連絡をいれて、友達の家に泊まるということを伝えた。
寝る前に、居間の机を端に寄せて、そこに二組の布団を敷いて、あたしと有希は隣同士で眠ることになった。
これは有希が自分からやってくれて、あたしはそのことがとても嬉しく感じた。


「有希、今日は本当に、ごめんね……」
「……構わない」


そして、眠りに付こうとすると、有希が手を伸ばして、あたしの手を握ってきてくれた。


「有希?」
「……この状態の方が望ましいと判断した」
「……ありがと」


深い眠りに落ちるまで、しっかりと握ってくれている有希の手の感触のおかげで。
あたしはゆっくりと安心した眠りにつくことができた。
だからこそ、あたしは有希が漏らした一言に気づかなかった。
















「……パーソナルネーム『皇』を最大敵性と判断、最大能力行使の使用許可を求める」



















どうやろうかと考えつつ、こういう感じではじめて見ました。
いやぁ、きっといろいろ言われるんだろうなぁとか思いつつも、それも覚悟の上です。
とりあえず貪欲な人間の目ほど怖いものはありませんよ、それに狂気が混ざると最悪です。
まぁ、ハルヒのピンチを自覚させたとして、こっからどうやって進めるかなぁと。

一応SOS団は全員出たということで、後は名誉顧問などなどの方々どうしようかな……
混ぜるのが難しいような気がするんで、せいぜい参加するとしても名誉顧問様くらいでしょうか?
さぁて、こっから徐々にメンバーの行動が、絡み動いていきますよー
張り切って、いっきましょい。

と、いうわけで、次回につづきます。

            From 時雨  2007/09/19