落ち着け。 思考を止めるな。 無い頭でも構わない、動いてないギアを全てまわせ。 考えることをやめれば、そこで俺はもうゲームオーバーだ。 The melancholy of Haruhi Suzumiya
青年への、助力
Second Story from Sigure Minaduki 「だが、今の俺に何ができる?」 ここは俺の部屋。 悔しさを押し殺し、帰宅した俺は着替えるよりも、用意されていた晩飯を食べるよりも、なによりも先に、何が出来るかの思索にふけっていた。 下手に、声を出して考える事もままならないような気がしていた。 古泉の言う機関というものが、どの程度の規模であるのか、俺は知らない。 「…………」 もしかしたら、すでにこの部屋にも盗聴器の類が仕掛けられているかもしれない。 夢物語を混ぜてしまえば、遠くから監視され、口の動きだけで何を言っていたか判別されてもおかしくない。 「敵は未知、四面楚歌と考える……べきか」 あの皇と名乗った男が、どの程度の地位にいるのか、そんなことはどうでもいい。 俺がやらなければならないことは、非常に単純であり、非情に困難だ。 あの男の手からハルヒを守り、俺は俺の生活を取り戻す。 最初は、長門や古泉、力になってはくれるだろうが、おろおろしそうな朝比奈さんに助力を求めることを考えた。 だが、あの男は言った、「妹が大切か」と。 「……どこで見てるか、わかったもんじゃないな」 つまりは、いつでも行動に移せる程度の地盤は整えた上で、俺に接触してきたんだろう。 その程度はやりそうだと、俺の直感が言っている。 だからこそ、俺は俺自身の動きで、あの男の計画を潰さなければならない。 「……長門なら、宇宙的なにかで感じ取ってくれてる、なんて考えるのは甘いか」 いくら長門でも、ハルヒに直接的被害がない今、俺のために動いてくれるなんて甘い考えは捨てた方がいい。 古泉に関しては、あいつも一応機関の人間だ。 疑いたくはないが、どうしても警戒してしまう。 どこで話が漏れるか、わからないからな…… 「さて……とりあえずは、なにをするにも、妹が無事に帰ってきたからだな……」 今はまだ妹は友達と遊んでいるのか帰宅してきてはいない。 もしかしたらすでに攫われているのでは、という考えが浮かんだが、さすがにそれはないだろう。 相手は用意周到だと思っていいはず、それならば下手に妹攫って俺が自棄的に行動するなんてことは避けるはずだ。 「ただいまぁー」 「っ!」 どうやら、俺の予想は外れてなかったらしい。 妹の声が聞こえて、すぐに玄関の方に走る。 そこには、いつも通り妹がランドセルを背負って帰ってきた。 もちろんのこと、外傷なんかもなく、とりあえず現状で安全は確認されたっていうことか。 「あれ、キョン君どうしたの?」 「いや、なんでもない……おかえり」 「うん、ただいま」 さて、妹の無事は確認できた。 と、いうことは最低でも家に襲撃をかけられない限り、これで妹の無事は確保できたと考えよう。 「しっかり手を洗ってうがいするんだぞ?」 「はーい」 なんにしても、今日はとりあえず様子を見よう。 何も考えがまとまっていない以上、この後ヘタに動いてあの野郎に動かれると、俺が身動きできなくなる。 そう考えて、俺は居間に用意されている晩飯を食べることにした。 食わなきゃ、頭だって回らないしな。 「……学校か……」 本音なところ、学校に行くのが非常に気が重い。 理由は、簡単に察してもらえるだろう。 先日、ハルヒたちSOS団と決別を宣言してきたばかりなのに、どうもこうもクラスが同じということは最低でもハルヒとはイヤでも顔をあわせることになってしまう。 あいつがどういう態度に出るのかはいまいちわからんが、下手したらまたアヒル口で、無言のまま俺を睨んでくるなんていう予想は、簡単に出来てしまう。 「はぁ、悩んでも仕方がないか」 一日しか経っていないからなんともいえないが、恐らくあの野郎は俺がハルヒたちと積極的に関わらない限り、俺や妹といった家族に手を出してくることはなさそうだ。 妹に変なことがなかったかと聞いたところ、特にそんな話もなかったからな。 「さて、行くか」 若干の諦め混じりで、玄関の扉を開けると、そこには予想外の人物がいた。 「おはようございます、今日もいい天気になりそうですね」 「……古泉」 そこにいたのは、昨日の時点で白か黒かわからないと判断した存在。 機関に所属する古泉がそこにいた。 「……なんのようだ?」 「いえいえ、学校に行く前に多少お話したいなと思いまして」 そういった古泉の後ろには、いつの日か乗った見覚えのあるタクシーが止まっていた。 だが、さすがに俺はそれに素直に乗るという選択ができない。 これが何かの罠で、乗った瞬間何か悪いことが起こるのではないかと、疑心暗鬼になってしまったからだ。 「このタクシーは大丈夫です、信じられないかもしれませんが、今は機関に所属する僕ではなく、貴方の友人としてありたい僕を信じていただけると、助かります」 古泉の表情は、いつになく真面目に見えた。 少なくとも、このまま俺を罠にはめようなんていう気は見えない。 「……乗ろう」 「ありがとうございます」 俺が、一言だけそういうと、古泉はいつもの仮面のような笑顔ではない、笑顔を見せた。 「……あれ、新川さん?」 「お久しぶりでございます、いつぞやの島以来ですな」 タクシーに乗ってまず驚いたのは、運転手が過去にSOS団で行った島、そこで行われた仕組まれた事件の役者の一人である新川さんだった。 あぁ、そういえば新川さんも一応機関に所属する人だったか。 「さて、それでは学校に着くまでの間、本題に入りましょうか」 「……この車での発言がお前の機関に漏れる可能性は?」 「まず100%有り得ません、これは新川さん個人の車を改造したもので、機関からは一切手が出されてないものです」 ならば、大丈夫と、信じてもよさそうだ。 久々の開放感に俺は座っている椅子に深く腰掛けて、体の力を抜いた。 「現状の確認からさせて頂きます、今、僕の方でも探ってみてはいますが、どうにも隠蔽されているのか答えが見つからない」 「……お前の機関に皇ってやつがいるか?」 「……皇……いますね、機関の中でも涼宮さんを神として信奉……いや、あれは狂信ですね」 人間、抑圧されすぎると何かをきっかけに暴走するというが、今の俺はまさにそれだったんだろう。 詳細に、あったことを全て古泉達に話していた。 「……なる、ほど。そういうことですか……」 全てを聞き終えた古泉は、考えるような動作をすると、新川さんにどこかへ向かうように言った。 少し聞こえた限り、それは学校へと向かう道ではなかったように思える。 「まず、先に結論から言いましょう、この件は極めて慎重にことを運ばなければまずいと思います」 「それは、俺も感じている」 ヘタに藪をつつけば蛇どころか、もっと凶悪なものが出てきそうだ。 「学校からは、少し離れた場所に車を止めます、申し訳ありませんがそこからは別行動していただかなければなりません」 「大丈夫だ、それも納得できる」 あの野郎は、誰にも関わるなと言っていた。 今この状態を見られたら、何が起こるかわからないしな。 「僕は僕の方で、何とかしてみようと思います。心苦しいかもしれませんが、貴方には現状を維持していただきたいと思います」 「あぁ、情けないが、俺には今何ができるっていうわけでもないからな……」 「そう、気落ちしないでください、貴方には最後には貴方にしか出来ないことをしていただくつもりですから」 ―――――このまま、終わらせるつもりはないでしょう? そう古泉の目は言っていた。 もちろん、俺としてもこのまま引き下がるつもりは毛頭ない、最終的にはあの野郎を一発ぶん殴ってやらないと気がすまないくらいだ。 「彼は、重大な思い違いをしています……確かに僕達SOS団としての絆の根源にいるのは涼宮さんですが、それとは別に、貴方でもあるのです」 俺が、そんな重大なファクターにいるなんて思ったことはないんだけどな。 「ですが、SOS団がそれだけの集まりであるわけじゃありません。涼宮さんがいて、貴方がいて……そして僕達がいる、それがSOS団なんです」 「…………」 「僕や長門さん、朝比奈さんに繋がりがないなんてこと、あるわけないでしょう」 そう言い放った古泉は、いつになく好戦的な顔をしていた。 珍しいな、こいつがこんな顔をするなんて。 「貴方だけじゃないのですよ、今回に関してこんな事をしでかした人物に対する怒りを持っているのは」 「スマン、また、迷惑をかけることになりそうだな……お前達には」 「いえいえ、これも友人として当然のことですよ」 くそ、こんなことで涙腺が緩んできそうになるなんて、よっぽど俺は張り詰めていたのか…… こんな無様な姿を悟られないように、俺は窓の外に視線を外すのが精一杯だった。 「ここら辺ならば、いいでしょう」 「ありがとうございます、新川さん」 暫く走った頃、車が止まり、多少見覚えのある道に着いた。 ここから、俺は車を降りて学校に向かわなくちゃいけない。 俺がやるべきことは、現状を変わらずに、不自然なことがないように維持し続けること。 今までの不透明な道じゃない、しっかりとした道が見えた。 「それでは、また、いつか部室で会える日を楽しみにしてます」 「あぁ、それじゃぁ、またな」 俺は絶対に諦めない。 見てろよ、今に絶対、一泡吹かせてやる。 展開が速すぎる? そんなこた知りませんw ある程度ぽんぽん進めていかないと、どうにも手詰まりになりやすいのが俺なので。 適当にわーっと話が進んだりします。 できるだけ、違和感とかが減らせるようにはしていきたいんですが。 これから、どんどん視点が変わって変わる変わるで進行します。 時間軸なんてものは存在してませんので、それぞれのキャラで見ていっていただければ幸い。 よーし、頑張っていきまっしょい! と、いうわけで、次回につづきます。 From 時雨 2007/12/01 |