あたしが有希の家に転がり込んでから数日。
母さん達には、とりあえず合宿しているって伝えた。
家にいるときより明るいあたしの声を聞いて、母さんは二つ返事で了解してくれた。


「…………」


有希の家にいると、不思議な安心感がある。
護られているような、そんな雰囲気。
それでも、あたしは何か、足りないような気がしていた。


「あたしを放っておいて……キョンのバカ……」



















The melancholy of Haruhi Suzumiya

神、その心

Second Story from Sigure Minaduki




























学校までの道のり、学校から買い物をして帰るまでの道のり。
あの変な男に会ってから、あたしは極力誰かといるようにしていた。
そんなあたしの考えを知ってか知らずか、わからない。
けど、有希やみくるちゃん、鶴屋さんはよくあたしの近くにいてくれる。


「有希、今日は何食べたい?」
「……カレー」


中でも有希は、本当にあたしの傍にいてくれている。
怖いと言う思いも、有希たちといれば少しだけ和らぐ。
だからこそ、迷惑をかけている有希にはあたしが精一杯何かしてあげたいと思う。


「……物品購入の必要はない」
「そ、じゃぁ家にあるのだけで出来るのね」


今のあたしにとって怖いのは、通学路だ。
気のせいだと思いたい、だけど、いつでも誰かに見られているような感覚がある。
それも、あの変な男の視線に見られた時と同じような感覚。


「……早く、帰りましょ」


今日もまた、学校へ出た瞬間、同じような感覚を感じた。
……早く、早く、この視線から逃れたい。


「おやぁ、そこにいるのはハルにゃんじゃないかなッ!」
「……鶴屋さん?」
「おぉ、長門っちもいるんだね!おひさしっ!」


足早に動き出そうとした時、不意に声をかけられた。
声のした方を見てみると、鶴屋さんが敬礼のようなポーズで立っていた。


「見覚えのある後姿だと思ったらやっぱりだったさ!今帰りかぃ?そういえばハルにゃん達は徒歩だったよね、よければ一緒に帰るっさ!」


鶴屋さんは、いつも明るい。
その底なしの明るさが、今のあたしには、とてもまぶしく見えた。


「えぇ、一緒に行きましょ」


……果たして、あたしは今笑えているんだろうか?
キョンがSOS団からいなくなってから……いえ、違うわね。
あの変な男が現れてから、あたしの世界は色が失われたかのようだった。
何をやってもつまらない、退屈、興味がわかない。


「それじゃ、ちょろんと待ってて欲しいにょろ、今靴取ってくるから!」
「有希と一緒にここで待ってるわ」
「りょ〜かぃにょろ〜」


休日の不思議探索もする気が起きない。
今まで探していた、未来人も宇宙人も超能力者も、全てがどうでも良くなった。
今はただ、SOS団のみんなが揃わないのが……つまらない。


「ごめんね、有希。勝手に決めちゃって」
「構わない」


キョンが部室に来なくなってから、他のみんなも部室に顔を出すことが減った。
不思議よね、今まで放課後になったら自然と集まっていたのに、一人かけただけで集まらなくなるんだから……


「おっまたせー!」
「……貴方も来る?」
「ん、どういうことっさ?」


あたしがそんな考えを巡らせていると、有希が鶴屋さんに何か言っていた。
何を言っているのかしら……?


「……今晩は、カレー」


どうやら、鶴屋さんを有希の家に招待していたらしい。
確かに今晩は有希の希望通りカレーにするつもりだったけど……


「って、ちょっと有希、作るのはあたしよ!?」
「……問題ない、食料は足りている」


そういう問題じゃないと思うのは、あたしの気のせいかしら?
確かに家主は有希で、あたしはお邪魔させてもらってるんだけど……作るのって、あたしよね?
カレーなら一人や二人増えたとしても別に問題ないのも事実だけど……


「おぉ、それは名案だね、長門っち!鶴にゃんもハルにゃんのカレーを食べてみたいにょろ〜」
「し、仕方ないわね、有希がそういうんだしあたしが特に何も言うことはないわ」
「やったね!それじゃ、お邪魔するにょろ」


あぁもう、ゆっくりとモノを考える時間もないわね。
でも、そのくらいの方が余計なことを考えなくていいかしら。


「じゃぁ、鶴にゃんがサイドメニューを作ってあげるっさ!」
「あら、何作ってくれるのかしら?」
「そうにょろね〜……ポテトサラダとかいいんじゃないかな?」


確かに、カレーだけってのも悪くないけど少し寂しいかもね。


「あ、でもそうなると材料足りるかしら?」
「……問題ない、材料は十二分に足りている」


……いつの間に買ったのかしら?
有希が買い物に行ってるのなんて、あんまり見たことがないんだけど……


「それじゃ、さくさくっと帰ってご飯の準備に入るにょろ〜」
「それもそうね、ここで立ち話してるのもあれだし」


話をしているうちに、最初の方に感じていた、嫌な視線がなくなっていることに気づいた。
……やっぱり、あたしの気のせいだったのかな?


「さぁて、腕によりをかけて作るにょろよ〜!」
「ふふん、鶴屋さんには負けられないわよね」
「おぉ、ハルにゃん勝負するつもりかい?いいねぇ、その勝負、乗るっさ!」


そうよね、きっと気のせいだったんだわ。
今はとりあえず、鶴屋さんとの勝負に勝たなきゃね。
負けるなんて、あたしの主義に反するわ。
勝つからには、常勝よっ!


























「いやぁ、参った参った、ハルにゃんには完敗にょろ」
「鶴屋さんも、すごい美味しいじゃない」
「……美味」


あの後、本当に腕によりをかけて、カレーを作ってやったわ。
久々に会心の出来だったと思うもの。
それと同じくらいに、鶴屋さんが作ったサイドメニューが美味しかった。
最終判定は有希がしたけど、本当に買ったのが不思議なくらいだもの。


「はぁ〜、満腹にょろ〜」


そう言って鶴屋さんは、ごろんと床に寝転がった。
……ここにはあたし達しかいないからいいけど、見えるわよ?


「……泊まって行くといい」
「お、長門っち、いいのかぃ?」
「構わない」


本当に唐突に、有希がそう鶴屋さんに切り出した。
今日の有希、随分積極的って言うか、自分から言い出すわね。


「それじゃ、お邪魔しちゃおうかなっ」


今も、あたしの傍には誰かがいてくれる。
一昔前なら、考えられなかったことよね。
ただの人には興味がありません……か。


「それじゃ、ちょっと家に連絡いれてくるっさ!」


そのあたしが、今は有希やみくるちゃん、鶴屋さんや古泉君たちと、一緒に行動している。
……どれもこれも、あたしにそのきっかけをくれたのは……それに、あのバカ。
あいつが言わなきゃ、SOS団が設立されることもなかったのかもね。
……そう、全部、あいつが発端。


「あーもう、思い出したらなんか腹立ってきたわ!!」


そう、いつだって何をするにもあいつがいたのに、なんでこういう重大な時にはいないのかしら!
確かに、いらないなんて言っちゃったけど、退部届けなんてまだ受け取ってないわ!
だから、あいつはまだあたしのSOS団の団員なのよ!
その団員が、団長であるあたしを放っておくなんて、許されていいのかしら。
いえ、許されるはずがないわ!


「何してるんだか知らないけど、この鬱憤は罰金だけじゃ済まさないんだから」


周りに有希や鶴屋さんがいるのにも関わらず、あたしはそうやって宣言していた。
そうよ、確かに怖かったけど、それに怯むのはあたしらしくないわ!
向かってくる敵がいたら容赦しない、それがあたしなのよ!!


「見てなさいよ!キョンだってあの変な男にだって負けないんだから!!」


あ、なんか元気が出てきたわ。
そうよね、弱気になるなんてどうかしてたわ。
確かに今、あいつはいないけど、だけどあたしには他にも友達がいるんだから!


「……大丈夫、すぐにまた会える」


そう言って、有希が静かにあたしの方に手を置いていた。
その顔は、いつもと同じ無表情にも見えるけど、どこか微笑んでくれているようにも見えた。


「……そうよ、ね。すぐにまた会えるのよね」


だから、あたしは大丈夫。
まだちょっと怖いとか思ったりもするけど、一人じゃないから。
きっと、ピンチになっても有希やみくるちゃん、鶴屋さんが駆けつけてくれるんだ。
根拠もなにもないけど、あたしは確かにそう思った。


「……だから、早くいつも通りに部室に来なさいよ……バカ(キョン)


そして、また呆れた顔でもいい……ちょっと引きつった苦笑でもいい。
……早く、あたしの前に立って、名前を呼んでよ。



















アップダウンの激しいハルヒでした(ぁ
悩める人の精神構造なんて理解できません。
まぁ、予測になりますが、一方的に落ちる人と、アップダウンしながら揺れる人がいるんじゃないかと。
ちなみに、キョンみたいにポジティブに進もうとする人がいてもおかしくないかな。
そんな感じで、ハルヒにはアップダウンな感じで進みました。

若干違和感を感じているので、いずれ修正するかもしれませんけどね。
どうだろう、とりあえず少し様子を見てからにはなりますが。
さてさて、どんどん物語を佳境へと進めていきましょうかね。

と、いうわけで、次回につづく。

            From 時雨  2007/12/26