観察対象『涼宮ハルヒ』が私の家に泊まってから数日。
家の周りに敵性個体『皇』の配下の有機生命体が増え始めた。


「……情報連結開始」


放置していても問題ない。
しかし、観察対象『涼宮ハルヒ』にとって悪影響があると判断。
敵性個体『皇』の配下に対する、家への干渉を妨害する。


「当該範囲内に侵入した際、精神的干渉を発生」


有機生命体で言うところの、悪い予感といった物を感じさせる。
これで、少なくとも私の家にいる間に、観察対象『涼宮ハルヒ』に近づける者は少ないだろう。



















The melancholy of Haruhi Suzumiya

宇宙人は、力を使う

Second Story from Sigure Minaduki




























しかし、この作業は根本的な解決にはなっていない。
根本的解決を望むのならば、『彼』が動き、敵性個体『皇』に対処する必要がある。
しかし、今だ『彼』からのコンタクトはなく、私たちは流動的な生活をしている。


「……情報連結開始」


現在の『彼』、及びSOS団という集まりに所属している者全ての活動内容をリストアップ。
検索対象に対するそれぞれの接触パターンの把握。


「……そう」


敵性個体『皇』に気づかれないように、水面下での活動を確認。
……『彼』とパーソナルネーム『古泉一樹』の接触を確認。
情報連結解除開始。
『彼』の周囲10メートルの空間を通常空間から隔絶。
隔絶対象、敵性個体『皇』の関係者。


「……誰にも、邪魔はさせない」


情報統合思念体の支持は、観察対象『涼宮ハルヒ』に対して直接的行動の制限。
それ以外に対しては特に制約が設けられていない。
……たとえ、制約が設けられていたとしても、私は私の意志でこの行動をするだろう。


「…………」


内部エラーが増大している。
私のこの内部エラーの事を、有機生命体では心と言うらしい。
そのような不確定なものが私に生まれるはずはない。
でも、それを不快とは感じていない自分がいる。


「……隔絶空間を解除、通常空間への移行」


『彼』とパーソナルネーム『古泉一樹』が別れた。
このまま『彼』は学校へ来るようだ。
引き続き、情報連結開始。
『彼』の机内部に物質生成。


「……作成物質、本及び栞。記述内容……19時、喫茶店」


恐らく、これで『彼』は解るだろう。
セキュリティを追求するのならば、私の家が好ましいが、現在観察対象『涼宮ハルヒ』も生活している以上、この二人を会わせるのは望ましくない。
ならば、多少セキュリティが甘いが、喫茶店で会うのなら問題ないだろう。


「……作業完了」


後は、時間まで平常時通りに生活し、『彼』の到着を待てばいい。


「……情報連結開始」


これは、私自身が感じた怒りという感情の一つ。
敵性個体『皇』及びその関係者にトラップを生成。
SOS団という集団の一定距離に近付いた場合、方向感覚を狂わせ、移動を困難にする。
……SOS団という集団に亀裂を生じさせた者に対する、私の嫌がらせ。























「…………」
「よう、久しぶりだな」


『彼』に送った時間より少し早く、喫茶店に現れた。
周囲の反応に過敏になっているように見える。


「……貴方がここに来たことで、特定範囲内における会話内容が自動変更される、安心して」


前もって来ていた私がやった事。
席に座った特定の者以外が、私たちの会話を聞いても雑談しているようにしか聞き取れない。
立ち上がっていたり、別の席に座った者には違う情報を脳内に送っている。


「……よくわからんが、普通に話していても問題ないということか?」
「そう」
「……なら、話は早いな。長門、力を貸してくれ」


『彼』にしては、早い判断だと思った。
誰かを巻き込んだりする事を好ましいと思わない『彼』が、今回は私たちに協力を要請している。
……それだけ、『彼』は憤りを感じているのだろう。


「問題ない」
「一応、俺も古泉と連携を取っているんだが、流石に後1手が足りない」
「状況は理解している、しかし、貴方が私に何を望むのかがわからない」


『彼』がパーソナルネーム『古泉一樹』と接触していること。
パーソナルネーム『古泉一樹』が他の有機生命体とコンタクトを取っていること。
それは情報統合思念体にアクセスしたときに理解している。
だが、『彼』が私に何を望もうとしているのかが、アクセスしても不明だった。


「……お前の力に頼るのもあれなんだが……妹や朝比奈さん、鶴屋さんを守っていて欲しい」


真剣な表情で、『彼』はそう言った。


「恐らく、俺が反撃に打って出れば、あの野郎はなりふり構わず動くと思う」
「…………」
「その時に、被害を受けそうな人たちを、お前の力で守ってやってくれ。……頼む」


座ったまま、『彼』は頭を下げた。
確かに『彼』の言っている事は理に適っている。
敵性個体『皇』がそういった行動に移るのは、容易く予想がつく。
現状ですら、すでに活動が活発化してきているくらいだ。


「わかった」


それを、『彼』は感覚で感じ取ったのだろう。
有機生命体は時に理解しがたい方法で、周りの状態を把握する。


「貴方が動くとき、朝比奈みくるたちには一切手を出させない」
「……スマン」
「問題ない、それ以上に危険なのは、貴方」


『彼』が攻勢に移ったとき、敵性個体『皇』はあらゆる手段を用いて、『彼』を潰そうとするだろう。
有機生命体の命は脆い。
自分達が造りだした火器で、容易く命を落す。


「これを、持っていて」


だからこそ、私はある方法を取ることにした。
情報統合思念体に許可を得ず、私という存在が望み、創りだした。


「……コレは?」
「有機生命体で言うところの、御守り」


形はなんの変哲もない御守り。
内部まで精密に酷似して生成してある。
有事の際に、『彼』の命を繋ぎとめる事ができるはず。


「そうか……サンキュ、長門。貰っておく」
「……そう」


暫く、どちらも言葉を発しないままの静かな時間が過ぎた。
文芸部室という空間で、普段感じていた懐かしくも暖かい感覚。
そんな不確定なモノを感じるとは、やはり私はどこがおかしくなっているのだろうか。
それとも、これは正しい反応なのだろうか。


「さて、とりあえず……俺は行くとするかな」


『彼』が立ち上がり、そう告げた。
『彼』が動く以上、私がこの場に留まる理由がない。
私も立ち上がり、『彼』に続いて喫茶店を出た。


「長門、今週末に動く。……その時は頼んだ」
「わかった」


今週末、行動を起こすつもりらしい。
それならば、その時までに私は可能な限り動いておこう。
『彼』が守りたい者、誰一人傷つく事がないように。
そして、『彼』自身を守るために。


「……情報連結開始」


『彼』と別れ、路地裏に進む。
私の後ろを一定距離を持って近付いてくる存在を確認してある。
敵性個体『皇』の関係者と断定。
自己判断により、対処する。


「路地裏に侵入次第、当該対象の周囲空間を固定及び視界誤認情報を流入」


追跡者が、路地裏に入った瞬間拘束し、周りからは見えないように違う情報を走らせる。
これで、追跡者の存在は周りからは認識できなくなる。


「……当該対象の記憶情報に干渉、私と『彼』が会った記憶を抹消」


念には念をという言葉が、有機生命体にはあるらしい。
ならば、私はそれに沿ってこの追跡者から情報を奪う。


「偽情報を差し替え、『私は何もせず、ただ街を歩いていた』」


私が喫茶店に現れた理由を、捏造する。
これで、この追跡者の認識は私の行動はただの散策ということになる。


「作業完了、20分後、全ての情報連結を解除」


20分後、誤った情報を持ったままこの追跡者は動き出す。
敵性個体『皇』への報告をする際、その情報を伝えるだろう。
こちらの準備は整った。
後は、彼が動き出すのを待つだけでいい。


「……情報連結開始」


でも、『彼』にこんな苦労をさせた存在に、嫌味の一つでもやっておこうと思った。
内部エラーが生み出した思考かもしれないが、この程度のことは許されるだろう。


「敵性個体『皇』の使用する機器全てにウイルスを生成、機器起動後発動」


これで十分な時間が、『彼』には手に入るだろう。
誰にも、私たちの行動は邪魔できない。
それを、しっかりと解らせておかなければいけない。


「作業完了」



















長門ムズかしいよ、ひゃっほう!
流石に、台詞を考えるのがキッツぃキッツぃ。
俺がキャラの本質を理解で来ていないせいなのだろうか……?
それだけじゃないような気もするけど、まぁおっけーかなぁ。

とりあえず、キョンが言った通り、今週末ということでもうそんなに長くは続きません。
……多分?
まぁ、俺のやることだからあまり当てにはならないわけですが(笑

と、いうわけで、次回につづく。

            From 時雨


初書き 2008/01/06
公開  2008/01/06