反撃の準備は整った。
……あとは、あの野郎の気に食わない横っ面を思いっきりぶん殴ってやるだけだ。


「……長門には頼ってばかりで悪いが、あいつならなんとかしてくれるだろう」


問題は、ハルヒをどうするか……
あいつのあの勝気な性格のことだ。
俺が単純に退部を取り消しても素直に納得するんだろうか……?


「……絶対納得しない気がする」


さて、そっちは流石に誰にも頼るわけにもいかないし、俺がどうにかしなきゃな。
……とりあえずは、あの野郎をどうにかする。
俺が考えなきゃならないのは、まずはそれだ。



















The melancholy of Haruhi Suzumiya

青年と、関わるモノ

Second Story from Sigure Minaduki




























長門に伝えた決行の日は今週の休み。
これは、タイミングが掛かってくる。
恐らく長門なら大丈夫だろうが、タイミングがずれたら妹や朝比奈さんに被害が出るかもしれない。
その可能性は、無くしておかないといけない。


「……後は、古泉のヤツに連絡を取りたいんだけどな」


いらない時には余計なくらい現れるくせに、こっちから連絡を取ろうとすると出てこない。
……常々思うが、あいつはタイミングを狙って現れているんじゃないだろうな?
仕方ない、方法はいずれ考えるとして、とりあえず帰るか。


「……何か、余計なことをしているらしいね?」


そう思い、足を家へと進めたとき、今ぶん殴ってやりたいナンバーワンの声が聞こえた。
聞き間違えるはずはない、こいつのせいで、今俺はとてつもない迷惑をこうむっているんだ。


「……なんのことだ?」


ゆっくりと、声の聞こえた方向に振り向く。
表面上は冷静に、心の中は衝動を抑えながら、わけがわからないといった雰囲気を作りながら。


「ふむ、白を切るとは君らしくないね」
「俺のことを知らないやつに、俺らしいなんて言葉使ってもらいたくないな」


薄ら寒い笑顔を見せて、俺に声をかけてくる男。
こいつが言いたいことなんて、とっくの昔に想像が付いてる。
だからこそ、挑発するような言い回しをしているんだ。


「それもそうだね。ではまたしても単刀直入に行こう……涼宮ハルヒから手を引けと言ったはずだが?」
「それこそ、なんのことだかわからないな」


ここ数日、俺はハルヒとは教室で会っても、話すらしていない。
この男が言うように、関わった記憶なんていうのは全然無い。


「ならばキーパーソンの君が離れたのに、なぜ閉鎖空間が発生しない?」


それを、俺に言ってどうするんだろうか、この男は。
あくまで閉鎖空間の発生の理由は、ハルヒのストレスや退屈感のせいだと古泉に聞いている。


「そんなこと、俺が知るはずないだろう」


だからこそ、俺がSOS団を抜けたのはストレスかもしれない。
だが、それは閉鎖空間が発生するほどじゃなかったって事だろう。


「それは異なことを言うね、君が抜ければ、確実に閉鎖空間が発生するはずだろう?」
「それで?」
「発生しないとするならば、君がまだ涼宮ハルヒに関わっているから、だろう?」


まるで、自分の考えは正しく、認めない俺が悪いと言わんばかりの言動。
面白いくらいの思い違いな答えを、堂々と言ってのけた。


「どうせ、あんたは俺を監視していたんだろ。なら俺がハルヒと接触してないのは知ってるはずだ」
「監視をしていたのは認めよう。だからこそ君達が同時の連絡手段を持っているんじゃないか」


まず、俺とハルヒはそんなものがあるような関係じゃない。
連絡だってSOS団の用事は常に部室で言ってくるようなあいつだ。
むしろ、それ以外の手段が俺たちにあるというのなら、それを教えて欲しいもんだ。


「ふぅ……ここまで言っても隠すつもりかい?」
「隠すも何も、存在しないものを隠しようがないだろう」
「やれやれ、ここまで私が優しく言ってあげているのに、理解してもらえないか」


ダメだ、こいつ。
まったく俺の話を聞いていない。
こんなヤツの言うとおり、俺はSOS団を抜けたのかと思うと、さらに殴りたい衝動が強くなった。


「まったく、君は一度痛い目を見ないとわからないようだね……」
「何……?」


結局、人の話を聞かない挙句、何か自己完結をしてこの男は携帯を取り出してきた。
……何を、する気だ?


「あまり気は進まないが、強情な君がいけない。妹さんとはもう会えないと思いたまえ」
「なんだと!?」
「私がこの携帯で連絡を入れるだけで、私の忠実な部下が動く……後は、言う必要はないね?」


まさか、本当に妹に手を出すつもりか。
くそ……これは想定外だ。
今はまだ、なんの対策もしていないぞ。


「最後のチャンスをあげよう。君と涼宮ハルヒの連絡手段を言いたまえ」
「……だから、無いってさっきから言っているだろう」


無いものはない。
部室での直接連絡以外には、携帯くらいしかないんだから。


「……残念だ」


俺の一言を聞いて、薄ら寒い作り笑顔が消えた。
ヤバイと、全身の感覚が告げていた。
こいつは、本当に妹を攫うくらいのことはやってのける。


「ま、待て!」


急いで、持っている携帯を奪い取ろうと向かったが、明らかに距離があり過ぎる。
用意周到だったこの男のことだ、この距離も計算のうちだったんだろう。
……くそ、間に合わないのか。


ポンッ


男が携帯の通話ボタンを押そうとしたその瞬間、携帯からコミカルな音が聞こえた。


「……あ?」
「な、なんだ!?」


あまりの唐突な出来事に、俺は駆け寄る足を止めて、呆然としてしまった。
それも仕方が無いことだろう。
何故なら、男の携帯が唐突に白い煙を上げて爆発したんだから。


「き、貴様……一体何をした!」
「いや……それは、思いっきり言いがかりだろ」


曲がり間違って、俺がもし何か細工をしたとしたのなら、焦って奪いに行くなんてするはずない。
と、なると……この男の携帯は自然と壊れたのか……?


「くっ……貴様はいつでも私の監視下だというのを忘れるないことです!」


俺が事態を把握しきる前に、男はまるで3流悪役のような台詞を残して去っていった。
車の音が聞こえた辺り、部下って言うのを近くに待たせていたんだろう。


「……しかし、なんで壊れたんだ?」


普通、携帯っていうのはあんな壊れ方はしない。
精々、ディスプレイが付かなくなるとか、ボタンが反応しなくなる程度のはずだ。


「……やれやれ、ようやく行きましたか」


俺なんかじゃ、わかるはずもないが原因を考えていると、聞き覚えのある声がまたかかった。
今度の声は、SOS団で強くも無いのにボードゲームを挑んでくる男の声で……


「古泉か?」


だが、周りを見ても、古泉らしき存在は見当たらなかった。
……どこだ?


「すいません、監視下に置かれているのが解っている以上、今は出られないんです」
「……と、なると声だけってことか」
「申し訳ありません、この後少し動く事がありまして」


姿が見えなくても、別に問題はない。
そもそも、見える範囲にいたらいたで、無駄に寄って来るこいつだ。
見えないくらいが丁度いいのかもしれない。


「丁度良い、お前を探していたんだ」
「僕を探していた……と、言うことは、動かれるということですか?」


相変わらず、無駄に察しが早いヤツだ。


「あぁ、今週の休み、あの野郎をぶん殴る」
「……了解しました。ではこちらもそれまでに全ての準備を終わらせておきましょう」
「……お前の方の準備?」


そういえば最近こいつの姿を見ていないが、一体何をしているんだ?
閉鎖空間は発生してないとさっきあの野郎の口から聞いたから、それ以外なんだろうが。


「えぇ、簡単に言ってしまえば、『機関』も一枚岩ではない、ということです」
「よくわからんが、無理はするなよ?」
「おや、心配していただけるんですか?」


予想外だ、と言わんばかりの声をあげる古泉。
たった今、その心配する気が失せたから安心してくれ。
とことん馬車馬のように動け。


「冗談ですよ」
「……とりあえず、姿が見えたらお前も一発殴っておくか」
「それは、ご勘弁いただきたいですね」


勘弁して欲しいのなら、それ相応の態度というものを取れ。
お前は毎回毎回、無駄に俺をからかって遊んでいないか?


「それでは、そろそろ僕は失礼しようと思います」


クスクスといった笑い声が少しの間聞こえていたが、次第に収まりそう言って来た。
こいつはこいつなりに、言ったとおりなにか水面下で動いているんだろう。


「あぁ……とりあえず古泉」


だからこそ、俺は一言だけ伝えておこうと思った。


「はい?」
「本当に、無理はするな」


あの野郎が原因で、俺が巻き込んだこの騒動だ。
そのせいで古泉や長門に迷惑をかけているのは自覚している。
だからこそ、俺が今こいつらにしてやれる事と言えば、こうして声をかけるくらいしかない。


「大丈夫です。僕も長門さんも、好きで動いているだけですから」
「……そうか」


まったく、嬉しいくらいにお節介なやつらだ。
さっきの携帯だって、あんな事ができるのは長門くらいだろう。
少し落ち着いて考えれば、この程度予想できることだった。


「長門さんと連携して、貴方の妹と朝比奈さん達は僕たちが守ります」
「……スマン、頼むぞ」
「ふふ、任せてください」


その声を最後に、古泉は移動したのか声が無くなった。
俺は意識をとりあえず切り替えると、一度家に帰る為に歩き出した。
……決戦は、今週末。


「……あいつらの分も、あの野郎をぶん殴ってやるか」



















さてさて、あとは終わりに向けて走りぬくだけですね。
とりあえず当初より敵さん余裕が無くなってます。

これは本編中に書き表すつもりもないので、ここで書いちゃいましょう。
敵さん、『機関』と長門から嫌がらせうけて最近上手く事が運んでません。
うわーぃ、ざまみろ(ぁ

さてさて、そんな感じで進行しつつ、次はハルヒかなぁ?
ハルヒの危機に颯爽と現れるキョン仮面!……とか?
や、そんなことにはなりませんけどねw

と、いうわけで、次回につづく。

            From 時雨


初書き 2008/01/12
公開  2008/01/--