キョンがSOS団の離脱表明をしてから、数日経った。 そして、それと同時にあたしの周りに現れ始めた変な人。 それに不覚にも怯えちゃったあたしが、有希に頼ることになってまた数日。 「……そろそろ、有希に迷惑になるわよね」 しばらく有希や古泉君がなにかをしているのはなんとなくわかっていた。 団員の自主性を尊重する団長としては、気にしないようにしておいた。 「よし、今日は学校が終わったらダッシュで帰りましょう」 そして、あたしは今日からまた自分の家に帰ることに決めた。 ……まだ、少しだけ怖いけどね。 The melancholy of Haruhi Suzumiya
神に、転機の光
Second Story from Sigure Minaduki 学校にいる時も、有希の家にいる時も、通学路を歩いている時も。 あたしが1人でいることはほとんどないといっていい状態にある。 「やーやー、ハルにゃん、これから帰りかぃ?」 毎日あたしと一緒に行動させるのは有希に悪いと思って、1人で帰ろうとしていた。 その時、あたしに声をかけてくる人がいた。 「あら、鶴屋さん」 我がSOS団の名誉部員である鶴屋さんだった。 「みくるちゃんは一緒じゃないの?」 「いやぁ、みくるは古泉君に用事があるらしくてね、鶴にゃんはふられちゃったのっさ」 みくるちゃんが古泉君に用事……? 珍しいこともあるわね? 「と、いうわけでハルにゃんを見つけたから一緒に帰ろうと思ったのさ!」 「まぁ、あたしも帰ろうとしてたし、丁度良いわね」 「そういうわけで、行くにょろ~」 あたしが合意した瞬間、ちょっとだけ強引に手を取って歩きだす鶴屋さん。 ちょ、ちょっと、まだあたし靴履き終わってないんだから! 「ま、待ってよ!」 「まぁまぁ、時は金なりってやつっさ!」 「それは、ここで使うべき言葉じゃないでしょ」 「気にしちゃだめにょろ~」 鶴屋さんは相変わらず底抜けに明るかった。 そのおかげで、あたしも久々に笑いながら帰宅できたと思う。 「ありがとう、鶴屋さん。ここまでついて来てくれて」 「問題なしっさ!それじゃ、またね!」 鶴屋さんは家の方向が違うにも関わらず、あたしを家の前まで送ってくれた。 何回もここでいいよって言ったのに、問題ないの一言でずるずるとここまで。 「ええ、また今度」 「んじゃ、ばいばーい!」 どこかの忍者の足音みたいな擬音をつけそうな勢いで、鶴屋さんは走っていった。 その後姿が見えなくなるまで、あたしは家の前で見送ることにした。 わざわざついてきてくれた鶴屋さんに対する、それがお礼になるんじゃないかと思ったから。 「……そういえば、自分の家も久々ね」 親父は会社が忙しいのか、あんまり帰ってこない。 母さんもそんな親父の世話とかで、あまり家にいない。 だからこそあたしにとってこの家はさびしい空間としか感じられない。 「……あら、手紙?」 そんな感覚を感じながらも、家の中に入ろうとしたあたしの目に、とどまるものがあった。 それは郵便ポストに入った1通の手紙だった。 涼宮ハルヒ様へ、と書かれたシンプルな手紙。 「……差出人は……無しね」 宛名があたしである以上、知り合いなのかと思った。 だけど、あんなことがあった以上、単純にそう考えることもできなかった。 「危険物は、入ってなさそうね」 手紙を適当な場所で折り曲げて見ても、カミソリとかそういうのは入ってないみたい。 まぁ、いまどきそんな時代がかった嫌がらせするような人なんていないわよね。 そもそも、そんな姑息な手段をするような人なんて興味ないもの。 「ま、開けてみて、変な内容だったら捨てれば良いわよね」 このごろダイレクトメールっていうのが多いらしいし、もしかしたらそういうのかもしれないわね。 だった見てもすぐに捨てればいいだけだし、問題ないでしょ。 「…………」 自分の部屋に戻って、手紙を開けてみて、あたしはあいた口が塞がらなくなった。 その手紙に書かれている文字は、あたしが良く知っている人の文字で。 文面は、シンプルの一言で済むような簡潔なものだった。 「……今度の休み、いつもの喫茶店……か」 最後に書かれている名前から、差出人はキョンだというのはわかった。 でも、これが本当にキョンの字かと聞かれると、自信は無かった。 だって、文字だって何回か見ただけだったから、しっかりと覚えているわけじゃないし…… 「これが、本人かどうかもわからないのよね……」 キョンによく似た字を書いているだけで、本当にキョンかはわからない。 でも……なんとなくだけど、あたしはこれがキョンがくれた手紙だと確信していた。 「ま、辞めたとはいえ、元団員なんだし……行って見てあげようじゃないの」 もし別人だったとしたら、こんな回りくどいことをした罰を受けてもらわなきゃいけないわ。 たとえ本人だったとしても、このあたしを呼び出すんだから、それ相応の対価はもらわなきゃね。 「よっし、そうと決まれば、その日までしっかり体調を整えておかないとね」 そして、あたしは自分でも驚くくらい落ち着いて、その日眠りについた。 あー、もう! キョンから手紙をもらってから、あたしは普通であって普通じゃなかった。 悔しいことに、ドキドキして普段どおりの行動ができなかった。 「ふんふんふ~ん♪」 はっ、またやっちゃった。 気がつけば上機嫌になって、鼻歌を歌っている。 これじゃ、あたしがキョンに会うのを楽しみにしてるみたいじゃない。 「スー……ハー……」 深呼吸をして、鼻歌を歌っていたことを誤魔化す。 よし、これで普段どおりのあたしに戻ったはずよね。 「……脈拍が正常ではない」 「なっ!」 戻ったはずなのに、有希に突っ込まれてしまった。 いけないいけない、この程度で表に出しちゃうなんてあたしらしくないわ。 「涼宮さん、何かいいことでもあったんですか?」 そんなことを考えていたのに、みくるちゃんに早速突っ込まれてしまった。 おかしいわね、そんなに表情に出していたかしら? 「別に何も無いわよ?」 とりあえず、しっかり対応はできたと思う。 ドモってもいないし、表情もいつもどおりだったと思う。 ……でも。 「……虚実は良くない」 ……有希、その一言は余計よ。 「有希の言うとおり、何でもないわけじゃないわ。でもこれは悪いことじゃないからいいのよ!」 「おや、みなさんどうしました?」 なぜか微笑ましそうな雰囲気を見せる有希やみくるちゃん。 それに、どういう報復をしてやろうかと考えていると、久々に古泉君が来た。 キョンがいなくなってからしばらくは顔を見せなかったのに、どうしたんだろう? 「久しぶりね、古泉君」 「はい、お久しぶりです、涼宮さん」 前より、少しだけやつれたように見えるのはあたしの気のせいかしら? 「最近ばたばたしてたようだけど、なにかあったの?」 「いえ、所用が少々立て込んでしまいまして……ですが、ようやく収拾の目処がついたんですよ」 古泉君曰く、アルバイトの方で問題が発生して、そのとばっちりが回ってきていたらしい。 ここしばらく古泉君がこのSOS団にこれなかったのはそれもあるらしいわ。 「えぇ、それで申し訳ないのですが、今週も不思議探索パトロールの方は欠席とさせていただきたいのですが」 古泉君が申し訳なさそうにそう言ってきた。 でも、あたしも今週はやることがあるから、パトロールはできないのよね。 「あ、それはいいわ。みんなにも今伝えておくけど、今週はパトロールはなしにしましょう」 あたしがそう伝えると、みんな不平不満を言うことなく、聞き入れてくれた。 これがキョンだったら、きっと何かしら言ってくるんでしょうけどね。 「それはそうと涼宮さん、随分とご機嫌がよろしいようですが?」 「ふふ、ちょっとね」 もう、いちいち隠すなんて事をやっていても有希やみくるちゃんにもバレている。 それなら、わざわざ隠すより、にごすだけで十分でしょ。 「そうですか、久々に上機嫌なようで何よりです」 茶化し半分で言われたその言葉も、今のあたしにはなんの抵抗も無く入り込んだ。 それだけ、あたしはキョンと会うことに期待してるってことなのかしら? いいえ、そんなわけ無いはずないわよね! 「それじゃ、今日の活動を始めましょう」 今日も教室でキョンには会っている。 あいつは変わらずあたしのことを避けているみたいにしていた。 でも、それもきっと今週で終わりになる。 「それじゃ、今日はみんなでボードゲームでもしましょうか」 だって、キョンが自分から手紙をあたしにくれたんだから。 きっと、もうすぐいつもどおりみんなが揃ったSOS団に戻れる。 そんな思いがあるだけで、あたしは元気になれるらしい。 「みくるちゃんはビリだったらまたコスプレしてもらうんだからね!」 「ふぇぇ……私だけですかぁ?」 もう、あたしはいつも通り。 だから……あんたも早く戻ってきなさいよね。 「そうね……たまには有希も着てみない?」 「……拒否する」 あんたは、あたしが作ったSOS団の名誉ある団員その1なんだから! さてさて、これで最終へのフラグのようなものを出してみました。 あと数話以内でこの物語は終局を向かえる予定です。 いやぁ、久々に難産でした。 自分でも思ったよりテストってものが頭に影響したみたいです。 でも、それももう終わったことですから! 後はキョン視点がメインで話を進めていくことになるかと思います。 あと、タイトル考えるのがしんどい。 元からタイトル考えたりするのが苦手だったりしますからw と、いうわけで、次回につづく。 From 時雨
初書き 2008/01/25
公開 2008/01/25 |