人は、死に瀕したとき走馬灯を見ると聞く。 今までの人生経験っていうのが、レコードのように再生されるらしい。 途中までは大して面白みのなかった人生だ。 再生されることなんてのは恐らく高校に入り、ハルヒと関わった時のことばっかりだろうよ。 「……ン……キョン!!」 だがしかし、どういうわけか。 走馬灯らしきものは再生されず。 ただ、守りたいと思った 「キョン、目を覚ましなさい!キョン!!」 ……俺を呼んでいるのは、ハルヒ……お前か? The melancholy of Haruhi Suzumiya
全ては、日常へ
Second Story from Sigure Minaduki 「キョン、起きろ!!」 「っつ!」 近くで叫んでいる声と、背中に感じる鈍い痛みでまどろんでいた意識が覚醒していく。 あぁ、そうだ。 俺はハルヒを庇ってあの男が撃った銃弾にやられたんだったか。 「……ハルヒ、無事か?」 「バカ!そんなことよりあんたは!?」 バカとはなんだ、俺だって必死に考えた末の行動だったんだが。 まだ多少痛む背中を無視して、立ち上がって身体の調子を見てみる。 「……あれ、俺撃たれたよな?」 気を失う直前感じた痛みの場所から、肺でも貫通しているんじゃないかと思っていた。 だが、俺の身体どころか、着ている服に破れた箇所も見当たらなかった。 「それはこっちが聞きたいわよ……あんたどういう構造してんの?」 涙でくしゃくしゃになった顔で、ハルヒが俺にそう言ってきた。 普通の学生の俺が、そんな特殊能力を持った記憶はないんだが。 「何故生きている!確かに俺は銃は貴様を捕らえたはずだ!!」 今は混乱しているからこそ、地が出ているんだろう。 凶弾を放った張本人は、怪我一つ無い俺を見て、さらに困惑しているようだ。 立ち上がり、身体についた土埃を払う。 腰の辺りの土埃を払っている時、何かがポケットから滑り落ちた。 「……これは」 それは長門がくれたお守りだった。 まるで、俺の変わりに銃を受けたかのように、中心に穴が開いている。 ……長門は、この事を見越して、これをくれたのか? 「く、ならば確実に死ぬまで撃つまでだ!!」 もはや、逆上して冷静な判断をする余裕がないんだろう。 男は再び拳銃を俺へと向けると、そのトリガーを引こうとした。 「そこまでです」 だが、その拳銃が再び凶弾を吐き出すことはなかった。 なぜなら、よく見慣れた青年が、男の手を抑えるように立っていたからだ。 「な、お前は!」 「……遅いぞ、古泉」 「申し訳ありません、確実な証拠が出来上がるまで、動けませんでした」 結果的には無傷だったからいい物の、下手をしたら本気で死んでいたわけなんだが。 なんとも言えない感情を乗せて、古泉を見てやると困ったような表情を見せた。 だが、そんな表情もすぐになりを潜め、真剣な表情に戻ると男に淡々と告げた。 「……皇さん、貴方の行動は全て神代さんに報告済みです。もう、貴方は終わりです」 「バカな!周りは全て部下で固めていたはず!なぜお前が入ってこれる!!」 結局、こっちの方が一枚も二枚も上手だったって事だ。 万全の準備をしてきたつもりが、結局はこっちの意図どおりに動いていただけの事。 「周りを囲んでいた方々には、すでにご退場頂きました。あとは、貴方だけです」 「……くっ、まだだ!」 諦めの悪い男が、古泉を振り払って俺にまた銃身を向けた。 「キョン!」 「なっ!」 そんな俺を庇うかのように、ハルヒが前に飛び出して来ていた。 「ぐぁっ!」 だが、まるで何かに弾かれたかのように、銃を落とす男。 そして、それから少しだけ遅れて、ターンという狙撃音のようなものが聞こえた。 「……ふぅ……すでに貴方は包囲されており、一挙手一投足全てがこちらの管理下にあることを忘れないでください」 古泉の台詞が最後になったのか、男は力を失ったかのようにその場に崩れ落ちた。 そして、公園の入り口から黒い服を着た数人の男が力を失った男を連れて、出て行った。 それを見守っていると、ゆっくりと古泉がこちらに歩いてきた。 「ご苦労様でした、これで全て決着がつきました」 「……本当に、苦労したよ」 「古泉君……あの人たちは?」 恐らく、後から来た黒服の人のことを言っているんだろう。 ハルヒは、事態についていけてないのか、呆然としながら聞いてきた。 「僕の知り合いの警察の関係者の方々です。先ほどの銃を弾いたのもそうですよ」 『機関』のことをハルヒに言えないからこそ、得意の話術で誤魔化す気なんだろう。 いつもの事ながら、こいつの人脈は、どこまで伸びているかわからない。 だからこそ今使える最良の手段って事か。 「彼が脅迫されている事を教えて貰った時、いざという事態の為に配備していただいたんです」 「そう……なんだ」 未だ状況が整理しきれていないからこそ、すんなりと納得してしまったんだろう。 ハルヒにしては珍しく、こういったことに深く食いつかないで終わった。 「ちなみに、涼宮さんと彼の熱烈なシーンもしっかりと保存してありますよ?」 「なっ!」 「え!?」 だが、あっさりとは聞き流せない事を、さらりとこの仮面スマイルの男は言ってのけた。 ……俺と、ハルヒの……熱烈な、シーン? ってぇ、まさか、アレか!? 「……古泉、そのテープは速攻処分しろ」 「これくらいはいいでしょう?こちらとしてもかなり無理を通したのですから」 俺の台詞もどこ吹く風、古泉は飄々とそんなことを言い放った。 だが、俺もそれで引くわけにはいかない。 あんなものが残ってるなんて知ってしまった以上、この先安眠なんかできそうにない。 「それは置いておきまして、涼宮さんと貴方に会いたいというお方がいらっしゃっています」 「……俺たちに?」 「えぇ、是非お会いしてください」 いったい、俺たちに会いたいという人とは誰だろうか? 「……古泉君、そのテープ」 「えぇ、後で高画質、高音質DVDに変換してお贈りしますよ」 「って、お前ら何をこそこそ言っている?」 来るのが誰かということを考えている俺の後ろ。 そこで、ハルヒと古泉がこそこそと何か聞き捨てならない事を言っているような気がした。 だが、2人は気にしないという一辺倒で、答える気がさらさらなさそうだ。 「おや、いらっしゃいましたよ」 「ん?」 古泉が向いた方向に視線を合わせてみると、そこにはスーツに身を包んだ妙齢の女性がいた。 しっかりとした足取りで、こちらに向けてゆっくりと歩いてくる。 「始めまして、私は神代と申します。この度は、私たちの身内の者が大変失礼を致しました」 そして、俺たちの前に立つと、そう言って頭を下げた。 まさか頭を下げられるとは思っていなかった俺たちは慌てて頭を上げてもらうように頼む。 「いや、原因は貴女じゃありませんから、頭を上げてください」 「そ、そうですよ」 「そうですか……優しいのですね、貴方達は」 頭を上げて、優しく微笑んだその姿に、俺たちは目を奪われた。 なんて言えばいいんだろうか、落ち着いた年上の魅力とでも言えばいいのか。 「あの者には相応の罰と、それに対する償いをしてもらいます。今後、あの者が貴方達の前に姿を現す事ないのをお約束しましょう」 「……そうですか」 この目の前の人物が、どの程度の権限があるのかはわからない。 だが、古泉の態度を見る限り、信頼を置くに値する人なんだろう。 「なら、もう俺から言う事は特にないです」 「そうですか……涼宮ハルヒさん……」 俺の言葉を受けて、その神代と名乗った女性はゆっくりとハルヒの方に向き直った。 「は、はい」 さすがにハルヒもその態度に圧倒されているんだろう。 普段では見られないような大人しいハルヒがそこにはいた。 「貴女には、とても辛い思いをさせてしまいましたね……」 そして、まるで子をあやす親のように、ハルヒを優しく抱きしめた。 きっとハルヒもいろいろ限界が近かったんだろう。 ハルヒは、顔を神代さんに押し付けたまま、微かに震えていた。 「古泉」 「えぇ、すいません、神代さん。僕達は少々席を外します」 普段はとても我の強いハルヒのことだ。 見知った俺たちが近くにいては、素直に感情を表すとは思えない。 だからこそ、俺たちはハルヒの事を任せて、離れた場所まで歩いていった。 「……苦労をかけたな」 少し歩いた所にある自動販売機で、適当にジュースを買って古泉に放ってやる。 それを受け取って、古泉はいつものようなスマイルを見せた。 「いただきます」 「これで……全て元通りになるよな?」 自分の分のジュースを買い、プルタブを開けゆっくりと呟くように言う。 「えぇ、いつもの通り、涼宮さん達と共に、SOS団でのんびりと過ごす日常に」 「……そうか……なら、いい」 缶を古泉の方に差し出すと、俺の意図を汲んでくれたのか軽くあわせる様に当てる。 「……本当に、疲れた」 缶ジュースを飲み干しながら、ゆっくりと零れた俺の言葉。 それは、晴れ渡る青空に染み入るようにして、ゆっくりと消えた。 こうして、俺たちSOS団を巻き込んだ、傍迷惑なドタバタ騒動は終局を迎えた。 「明日からは、また日常に戻る……か」 きっとまた、ハルヒが巻き起こすドタバタ劇に否応なしに巻き込まれていくんだろう。 だけど、それはそれで、きっと大切な日常になるんじゃないかと思う。 「それじゃ、そろそろハルヒ達の所に戻ってみるとしますか」 「えぇ、そうですね」 朝比奈さんがいて、長門がいて、古泉がいて…… そして、俺がいて……ハルヒがいる。 そんなSOS団という集まりが織り成す日常に。 「こらー、キョン!団長を放っておいてどこに行ってんのよ、あんたは!!」 それくらいが、どうやら俺には丁度いいらしい。 「あぁ、今行くって!」 ちょっとした裏話。 遠距離狙撃したのは森さんです、なんとなく。 いや、なんか多芸っていう認識が俺の頭の中にあるもんでw さて、これが最終話に見せかけて、実はもう1話予定してます。 だって、ほら、第何話ってなってるでしょ? はっはっは、些細なことですけど最終話はちゃんと『最終話』ってつけますよーw と、いうわけでそれなりに続いたこのお話。 次でファイナルエピソード!! From 時雨
初書き 2008/01/28
公開 2008/02/02 |