ふと、唐突ながらに思い出した。 そういえば、俺は自分から言い出したことをまだ約束として、果たしていないんだな。 普段の俺なら、きっとこんなことを思い出したとしても、鼻で笑って終わるんだろうが、どういうわけだろうか。 「まぁ……恐らくこれも一つの気まぐれという奴か」 俺は、とりあえず自動販売機で適当な缶コーヒーを二個買うと、SOS団へと足を運ぶことにした。 あぁ、本当に俺は気まぐれで動くときがあるらしい。 そんなことを考えて、自分で笑ってしまった。 「よう」 「あ、キョン君、おはようございます」 あぁ、朝比奈さん、今日も愛らしいお姿を拝見できて、心が洗われるような気持ちです。 そのお姿だけで、俺は今日という学業から受けた精神的苦労が癒されていくのを感じますよ。 「…………」 お前は、相変わらず部室の備品みたいになってるなぁ、長門よ。 せめて、人が来たときくらい、挨拶するくらいはした方がいいと思うぞ? 「……よう」 「お、おう」 だからって、人の心を読むかのようなタイミングでこっちを向くんじゃない。 「おや、貴方がこんな早くに来るとは珍しいですね?」 まぁ、ちょっとした思い付きがあってな、別に遅かれ早かれ、ここには足を運んでしまうんだがなぁ。 まぁ、それはそれとして。 ハルヒはどうした? 「涼宮さんは、えぇっと……確か用事があるとかで、どこかに出かけましたぁ」 「珍しいな、あいつが用事とはいえ、団員放っておいてどこかいくなんて」 ま、それはそれで好都合とでも考えますか。 ハルヒがいると、どうにも俺の行動を監視しているような雰囲気があってなぁ。 「監視ではないんですけど……まぁ、当事者からするとそうなんでしょうかぁ……」 「ん、何か言いましたか、朝比奈さん?」 「い、いえ、なんでもないですよ!」 なにか言ったように聞こえたんだけどな? まぁいいとするか。 「古泉、少しいいか?」 「ええ、構いませんよ」 「朝比奈さん、少し古泉と出掛けてきます、何かあったら携帯にかけてください」 「わかりましたぁ」 古泉と連れ立って、とりあえず過去に世界が変わりかけ、元に戻ったときに古泉と話をした通路からちょっと外れたところにある椅子に腰掛けた。 そこで、買っておいた缶コーヒーを取り出して、古泉に向けて放った。 「これは?」 「ま、見ての通り他愛もない普通の缶コーヒーだな」 「それはさすがにわかりますよ、ですが僕がこれを貰う理由は?」 記憶に思い当たるところがないのか、古泉は渡した缶コーヒーを手の中で転がしながら、俺に問いかけてきた。 そうだろうなぁ、俺もついさっき思い出さなきゃ忘れていたかもしれんのだから。 「いつだったか、俺が言っただろう。今度、コーヒーでも奢ってやるって」 そう言ってやると、思い当たるところがあったのか、古泉はいつもの仮面のような笑顔ではない、恐らく本当の笑顔を見せて、缶コーヒーを目の高さまで持ち上げた。 「そういうことでしたら、ありがたく頂こうと思います」 「あぁ、そうしてやってくれ」 二人で缶コーヒーを開け、なんとなく、缶同士を軽くぶつける。 まぁ、花がないとは思うが、こんなことがあってもたまにはいいだろうさ。 「ところで、古泉」 「なんでしょう?」 ちびちびと、缶コーヒーに口をつけていたとき、ふと気になったことを聞いてみることにした。 「最近は、アルバイトの方はどうなってるんだ?」 「……そうですね、最近はあまりアルバイトの方はやっていませんね」 「ほぉ……でも、相変わらずあいつは退屈だのなんだの叫んでるじゃないか」 ハルヒの退屈感やストレス、そういったものが原因となって現れるこの世界とは別のもう一つの世界。 今もハルヒは退屈だのなんだのと叫んでいるってことは、どこかでそれが発生していると考えても、不思議じゃないだろう。 「涼宮さんの表面だけを見ている人ならば、彼女が退屈そうにしているように見えるでしょう。ですが、貴方も含めて僕達SOS団というものに所属している者からすれば、彼女が本気で退屈がっているか、そうれはないか、わかるでしょう?」 「…………」 確かに、口で退屈といっているが、この頃のあいつは笑っていることの方が多いと思う。 その笑いが時々、朝比奈さんを困らせるものになるのはどうにも賛同しがたいところではあるんだが。 「つまりは、そういうことですよ」 「……どういうことだ」 「彼女は、今の時間というこの生活を気に入り始めている……いえ、違いますね。すでに気に入って、何物にも変えがたいと思っているかもしれません」 古泉は、どこかからかうような目を俺に向けてきた。 「果たして、彼女にそこまで思わせることができたのが、僕達SOS団という集まりなのか、はたまた、誰か個人がそう思わせたのか……興味はありませんか?」 とてつもないくらい、嫌な予感で背中から冷や汗が止まらなくなってきた。 なぜか、聞いたら俺は、俺として保っていられなくなりそうなくらいの恥辱を味あわされることになりそうだ。 「……あえて、聞かないでおく」 「おや、それは残念です」 どうみても、残念そうには見えないんだが…… くそ、忌々しい、こんな奴に缶コーヒーとはいえ、モノを奢るなんて事をやるんじゃなかった。 「ふふふ、この話はここら辺でやめておきましょうか」 「……なんで、コーヒーをおごってやった奴からこんな仕打ちを受けなきゃいけないんだ」 「まぁまぁ、そうおっしゃらずに。それに僕達男だけの時間も、そろそろ終わることになりそうですよ?」 「ん、どういうことだ?」 俺が問いかけると、古泉が俺に対して後ろを向いてみさせるような動作をした。 頭に疑問符をつけたまま、振り向いてみると、その視線の先に移ったものをみて、ついつい納得してしまった。 「あ、いたわ!まったく、団長に黙ってどこをほっつき歩いてるかと思えば!!」 「ごめんなさぁい、涼宮さんを止められませんでしたぁ……」 「……無理」 ハルヒの両腕にそれぞれしがみついて引き摺られている朝比奈さんと長門。 そして、捕まれているにも関わらず、強引に歩みを進めているハルヒが、そこにはいた。 「……まったく、たまには俺に対してのささやか休息をくれたっていいじゃねぇか、なぁ?」 「そうはおっしゃっても、表情はだいぶ緩んでますよ?」 「気のせいだ」 「そういうことにしておきましょうか」 まったく、ハルヒも、こいつも、どうしてこう人を巻き込むんだり、からかったりしてきやがるんだろうな。 まったくもって忌々しい。 だが、それに付き合ってやってる俺も、大概だがな。 「さて、休憩はこのくらいにして、我らが団長様を出迎えるとするか?」 「そうですね、行きましょうか」 一息で飲み干したコーヒーの缶を、ゴミ箱目掛けて高く放り投げる。 珍しく綺麗な放物線を描いたそれを、俺は最後まで確認する事無く、ハルヒ達へ向かって足を進めた。 「はてさて……今日はどんな騒動に巻き込まれるやら」 「またいずれ、今度は僕がコーヒーをご馳走しますよ」 「期待しないで待っててやるよ」 さてと、騒がしい日常に、戻るとするか。 後書き さて、すっかり住んでいる地域が寒くなってまいりました。 そんなわけで、思いついたのがこれだったりします。 暫く更新しないで書いたのがこれかよーとか言わないでくださいね。 さてさて、風邪引かないように気をつけて、次いってみよー! それでわ、また、次回作にて。 From 時雨 2007/10/27 |