さて、特に何か目立った行事があるわけでもなく…… いや、違うな。 いつもいつも、俺は巻き込まれ、目立った行事はなくとも、目立つ騒ぎに巻き込まれることが日常茶飯事として、不本意ながらも俺の脳内に記録されたある日。 世間では、夏が過ぎ、食欲や、読書、果ては睡眠欲などの様々なことを嗜む時期…… そう、季節は秋も中程の話である。 「最近さみーよなぁ、キョン」 「そうだなぁ……最近特に冷えてきてるな」 昨年は暖冬といわれ、比較的暖かいと感じられていたが、そのせいかなんなのか、最近は特に寒いという感覚を覚える機会が多い。 学校へ向かう途中のあの忌まわしきハイキングコース。 それをいつもながらにゆったりと登校していたとき、後ろから現れた谷口が放った第一声が、それだった。 「ただでさえ、長いこんな道のりを、寒さに耐えなきゃいけねぇなんて、やってらんねぇよなぁ」 谷口の服装はすでに冬に着ていてもおかしくはないくらいの重装備で、かく言う俺も、すでに少し集めのコートとマフラーをつけている状態である。 「まぁ、ぐだぐだ言った所で暖かくなるわけでもないんだ、さっさと学校に行く方が懸命だ」 「それもそうだな」 その後、取り留めのない無駄話をしつつ、ついでに無駄知識勝負なんていう、自分でもよく分けのわからないことをしたもんだといった思うような出来事を経て、なんとなしに学校の、自分の教室にたどり着いたわけなのだが…… 「うぃーっす」 「はー、寒かった……」 「キョン、ちょっと来なさい!!」 「おぁ!?」 暖かい空間に入れたのも束の間。 俺は寒い廊下へと無情な力によって引き戻されてしまった。 「……手短に聞こう、用件はなんだ」 若干、言い方がきつくなるのも仕方がないと思っていただきたい。 折角寒い外から、暖かいであろう教室にたどり着いたというのに、どういうわけで、俺はハルヒに連れられて肌寒い屋上前の階段の踊り場なんかに来なきゃいけないんだ……? 「えーっと、その……」 寒さに震えるのを必死に耐える俺。 その一方、連れてきた当の本人はというと、どういうわけか視線は泳ぎ回っているわ、さらには手が微妙に空中をさまよっていたり、さらには歯切れの悪いことを繰り返すだけで、一体何が言いたいのかさっぱりわからん。 「……ハルヒ?」 「だからー……あの、その……」 「…………?」 なおも歯切れの悪いハルヒが気になって、もしかして具合でも悪くなったのではと思い、顔を覗き込もうとした瞬間。 「あーもう!!」 「あ、ちょっと、おい!?」 唐突に大きな声を上げたハルヒが、とてもじゃないが階段を下りるスピードとは言えない速度で走り去ってしまった。 結局のところ、ハルヒが用件も告げずに走り去った後に残るのは、寒さに耐えて置いてけぼりを食らった俺だけというわけだ…… ……なんなんだ、一体? 「おー……寒かった……」 「お、キョン。どこ行ってたんだ?」 「さぁなぁ、俺が聞きたいよ」 あの後、少なからず呆然としてしまった俺が、屋上近くということで他の場所よりただでさえ寒かったにいたために、身体が冷えてしまうのも当然の成り行きというわけで。 おかげで、すっかり冷え切ってしまった。 「あー……教室は暖かいなぁ……」 寒いところから暖かいところに移動すると、なんていうかほっとしたような気持ちになり、その気持ちのまま、ゆっくりと机に突っ伏していると、眠気が襲ってくるのも仕方がないだろう。 とりあえず、俺を寒い場所に連れて行った原因のハルヒと言えば、いまだ教室に戻って来ていないらしい。 一体、どこをほっつき歩いているんだ? 「……まぁ、俺には関係ないか」 どうせ、授業が始まったら戻ってくるだろうさ。 その時に、何で俺のことを呼び出したのか聞けばいいだろうし、さらに言うならあいつの性格のことだ。 勝手にあっちから言ってくるって言う可能性もある。 なら、今の俺がすることって言ったら…… 「……睡眠は、人間の三大欲求の一つである」 と、言うわけだ、おやすみ。 「よーし、お前ら、席につけよー」 ……どうやら、睡眠に入ることはできないらしい。 まったく、どうしてこう世の中上手く思ったとおりに進まないのかねぇ。 あぁ……愚問だったな。 古泉の機関曰く世の中は全て神であるハルヒ次第だったな。 そりゃぁ俺の思うようになんて進むはずがないか。 「……そういえば、あいつ戻ってこないな?」 俺の後ろは教師が点呼を取っている間も、空席のままだった。 ……一体、あいつはどこに行ってるんだ? って、なんで俺はあいつの心配なんかしてるんだ…… これじゃぁまるで、俺があいつの保護者みたいじゃないか。 「馬鹿馬鹿しい、俺には関係ないじゃないか、なぁ?」 そんなことを考えている暇があるくらいなら、授業だ授業。 ……違うな、授業時間中に、寝るに限る。 「……なさい、キョ……おき……」 なんだ、誰かに揺すられているような感覚がある…… ……まさかな、寝ている俺を起こしてまで、呼ぼうとする酔狂な奴なんていないだろう。 「……おき……って……言っ……で……」 幻聴や幻覚にしては、随分とリアリティがあるような気がするが…… っていうか、さっきから妙に背中が痛いのはなんでだ……? 「…………って、言ってんでしょうが!!」 「うわぁっ!?」 唐突の浮遊感、そしてそのすぐに訪れた衝撃。 何事かと思い、身体を起こしてみれば、どうやら俺は、椅子から蹴落とされたらしい。 そして、こんな大それたことをする奴と言えば…… 「……なんのつもりだ、ハルヒ」 「それはこっちの台詞よ、団長様がこれだけ呼んでいるっていうのに、ぐーたら寝ているような団員には正当な罰よ」 ……まぁ、いい。 こいつのこういうことは今に始まったことじゃないからなぁ。 「で、なんの用だ?」 尻に付いたホコリを払って立ち上がると、すぐに手を捕まれて、いつぞやのように引っ張られた。 「ちょっと来なさい」 「……ちなみに、拒否権は?」 「ないわ」 ……さよで。 「……で、どうしてここなんだ?」 連れてこられたのは、毎度おなじみ、文芸部室。 珍しくも、文芸部室の生ける置物と化していた長門は、今はいないらしい。 だからだろうか、普段よりもこの部屋が若干寒く感じるのは。 「別に、今人がこないような場所って言ったらここぐらいしか思いつかなかっただけよ」 「……そうかぃ」 「で、その、ね……キョン」 「ん、どうした?」 いつも通りか、と思いきや。 ハルヒは朝の出来事を繰り返すかのように、顔を赤くして、何かを言いづらそうにしていた。 ……もしかして、俺は今度はここに放置されるんだろうか? 「ハルヒ、お前どうしたんだ、顔が赤いぞ、風邪か?」 「ち、違うわよ!!」 「……なら、いいが」 どうにも腑に落ちないところがあるが、考えたとしても俺に答えが出せるとは思えない。 ならば、どうするかと言われれば、情けないことにハルヒが何かを言うまで待つしかないんだよなぁ。 「あの、ね……さ、最近ほら、寒くなってきたじゃない?」 「そうだなぁ、秋も深まりやがて来る冬、ってところか」 「そ、それで……ちょっと聞きたいんだけど、あんたって手袋とか、持ってる?」 防寒装備か…… そういえば、コート以外をあまり使用した記憶がないなぁ…… 今度機会があれば買いにでも行くか。 「今は、持ってないな」 「ふ、ふーん」 「お前のおかげで、今度買う必要がある物が思いついた、ありがとな」 「へ?」 どうして、そこでお前が呆けた顔になるんだよ? そっちから振ってきた話題だろう? 「どうした、呆けて?」 「あ、いや、べ……別になんでもないわよ、バカキョン!!」 「あ、おい!?」 ……唐突に怒り出したかと思えば、ハルヒはまたもどこかに走り去ってしまった。 一体、何が言いたかったんだ、あいつは? 結局、あの後ハルヒは早退したらしい。 何が言いたかったのか聞こうと思ったんだが…… 「はぁ……」 聞けなかったことを知りたいと思う欲求と、全てを途中で止められたなんとも言い難い感覚に苛まれつつも、嫌味のように時間は過ぎていくわけで。 気づけばすでに授業も終り、用事のない生徒はあとは帰るだけという状態で。 恐らくハルヒが早退したために団の活動もないだろうとあたりをつけた俺は、ゆっくりと帰宅することに決めた。 「……ん?」 靴箱を開けて、そこにあるはずのないモノを見つけたとき、俺は少しの間、固まってしまった。 「……紙袋?」 重くはないが、なにかやわらかいものが入っているような感触のある紙袋が、強引な形で詰め込まれていた。 ……なんなんだこれは? 「……マフラー?」 パステルカラーっていうのか、淡いオレンジのような色で作られた、綺麗なマフラーがその紙袋の中には入っていた。 それと一緒に、書きなぐったような手紙が落ちてきた。 「……『バカキョン、風邪なんかひいたら死刑だからねっ』……か」 ……まったく、こういうことか。 朝からあいつが俺を呼んだり放置していったりしていた原因は。 「どうせなら、手渡ししてくれないもんかね……」 そう考えながらも、マフラーを首に巻き、俺はハルヒの家の方へと足を向けることにした。 恐らく、顔を赤くして何か言って来るだろうな、と考えると、不覚にも笑いがこぼれてしまった。 あぁ、まったくやっかいなヤツだ。 でも、それも悪くない。 「さて、それじゃぁ行きますか」 後書き さて、すっかり住んでいる地域が寒くなってまいりました。 そんなわけで、思いついたのがこれだったりします。 暫く更新しないで書いたのがこれかよーとか言わないでくださいね。 さてさて、風邪引かないように気をつけて、次いってみよー! それでわ、また、次回作にて。 From 時雨 2007/10/27 |