これは、俺の、ちょっとした思い出の話である。




















- 30万Hit記念SS -
My Little Anniversary


























SOS団という傍迷惑な集まりが作られ、様々な面倒で、命がけで、でも多少なりとも楽しめたイベントが盛り沢山だった一年が過ぎ、俺たちは無事に進級した。
唯一の上級生でもある朝比奈さんは、三年になり、少なからず受験というものをやることになるらしい。
なんでも、この時間軸で生活する以上、ある程度違和感のない程度に空間に順応していかないといけないそうだ。
俺にはよくわからない話だったが。


「初々しいのが沢山いるなぁ……」


俺たちが進級したということは、それはすなわち、新しい一年がこの、北高に入学してくるということだ。
新しい学び舎で心機一転、友達ができるかなどの不安を滲ませた俺より若い世代が、学校へ登校してくるのを見ていると、どこか俺が年を取ったということを実感させた。


「そういえば……この日だったか」


入学して、最初に配属されたクラスで行われた自己紹介。
その時に、俺の後ろにいた人物が、今の俺の大事な存在になるなんて、昔の俺にはちっとも予想できていなかったことだろうさ。
いや、予想できるはずもないか。


「ハルヒに声をかけたのは、まぁ、下心ありのたまたまだったってのもあるんだろうな」


きっとその日、俺が声をかけたりしなければ、もうちょっと平凡で、平穏な日々を過ごしていたことだろうさ。
その時は、俺のポジションには、別の誰かがいたってことか……


「…………」


自分で考えて、その考えに嘲笑しつつも、多少へこんだ。
だが、あくまで、俺があの時に声をかけたのは、ある種の気まぐれであり、まぁ先刻言ったとおり、下心もなかったとは言わない。
それがなければ、きっと俺はあいつのことをほとんど知ることもなく、終わっていたのかもしれない。


「……所詮は、If物語なんだけどな」


朝比奈さんに言わせるなら、それも一つの可能性とかおっしゃってくださるかもしれない。
……あまり、言って欲しくはないが。


「そうか……今日だもんな……」


そんな馬鹿なことを考えていたからだろうか。
俺が、こんな行動をとることになってしまったのは。























思い立った俺が、まず向かったのは、若干納得行かないものもあるのだが、古泉のところだった。
支離滅裂になりかけた説明でも、古泉はなんとか理解してくれたようで、少し思案した後、こう切り出した。


「僕もよろしいんですか?あ、いえ、企画自体はこちらとしても素晴らしいものだと思いますよ」
「参加するのは、別に構わないだろう?」


何を言っているんだ、といった雰囲気で問い返すと、古泉は困ったような笑顔を見せた。
なんだ、俺はなにか変なことを言ったんだろうか?


「そのような企画に、参加させていただくことは光栄なのですが……その、貴方のいう時期には、僕はまだSOS団としては所属していなかったかと思われるのですが」


あぁ、なるほど、そういうことか。
確かに、SOS団が結成されたのは、俺がハルヒと話すようになって、少し経ってからだったな。
だけどな、お前は重要なことを忘れているぞ?


「今のSOS団は、俺たち五人がいてこそ、だろ?」
「…………」


……言った後にまた後悔した。
なんだ今の俺の台詞は、こんな臭い台詞をいうような人間だったのか、俺は。


「そうですね、でしたらこちらの方で多少の準備はさせていただきましょう」
「あぁ、すまないが頼む。俺は朝比奈さんと長門にも声をかけてくる」
「はい、解りました。準備ができましたら携帯の方へ連絡を入れさせていただきますよ」


そうしてくれ。
さて、次はとりあえず……朝比奈さんだな。
受験シーズンに入る学年だからこそ、前もって聞くべきだったんだろうが……
どうにも唐突な思い付きだからな、無理強いしない程度に聞いてみよう。


「と、言うわけなんですが、どうですか?」
「私は大丈夫です、あ、あとキョン君……鶴屋さんも誘ってもいいですか?」


快諾していただけたが、朝比奈さんにしては珍しく、新しい提案が出てきた。


「あぁ、そうですね、鶴屋さんも名誉顧問ですから……一応予定が空いているか聞いてみましょうか」


とりあえず、誘う分には問題ないが、鶴屋さんの予定がどうなっているかが重要だ。
出れないと言われてしまえばそれまでだしな。


「あぁ、いたいた、鶴屋さん」
「おや、みくるとキョン君じゃないか、どうしたんだぃ、鶴にゃんになにか用かな?今なら大サービスで一つくらいならお願いを聞いちゃうかもしれないっさ!」
「鶴屋さん、あのですね……」


つたない説明の俺の代わりに、朝比奈さんが説明役を買って出てくれた。
おかげで、しっかりと要点を得た説明を俺自身が聞くことが出来た。
……それにしても、俺はこんな事を考えていたのか、古泉が考えるような顔をするのも無茶はないってことか。


「おっけーおっけー!是非とも参加させてもらうっさ!!放課後、部室の方に尋ねればいいのかなっ?」
「はい、とりあえずはそれで問題ないと思います」
「了解っさ!それじゃ、またあっとでねー」
「キョン君、また後で」


笑顔で送り出してくれる上級生コンビ。
あぁ、二人ともそこら辺にいる人よりよっぽどレベルが高いから、なんというかそんな人に見送られるのも、悪い気がしないなぁ……
と、そんなことを考えている間に、長門のところに行かなくちゃな。


「…………」


長門は、コクン、と微かに動いたか動かないか程度の動きで、首を縦に振った。
これで、ハルヒを除く全員に声をかけ終わったってことか。
古泉の方は、どうなっているかな……
携帯はっと……あった。


「あぁ、俺だけど、準備、どうなってる?」
『そこまで準備するようなこともありませんでしたので、ほとんど終わったといっていいでしょう。後は、放課後、貴方に涼宮さんを連れてきていただくだけです』
「あぁ、わかった。すまないな、手間をかけて」
『いえいえ、このくらい『機関』を利用するまでもありませんよ』
「それじゃぁ、また後で」
『はい、それでは』


さて、仕込みは上々、後は結果をご覧あれっと……
放課後に、ハルヒを誘うのか……
これが、一番骨が折れそうだな……























「さて、放課後になったわけだが、ハルヒ」
「なによ?」
「今日は、真っ直ぐ部室に行くのか?」


終業のチャイムが鳴ったと同時に席を立つハルヒを引きとめ、これからの予定を聞いてみた。
そのまま部室に行くならよし、行かないのなら、俺から行くように誘導しなきゃいけない。


「……そうね、とりあえず今日は校舎をグルっと見回ってから部室に行くかしら」
「……そうか」


……後から来るのならば、すでに行って準備しておくのも有りか。
それの方が、サプライズ性も高いか。


「それじゃぁ、俺は一足先に部室に行ってるとしますかね」
「それじゃ、また後で部室で会いましょ」
「あぁ、後でな」


颯爽、とそんな台詞が良く似合いそうな速度で、ハルヒは教室から出て行った。
相変わらずのんびりしていたら不思議が逃げるとでも思っているんだろうか……?
まぁ、今は考えても詮無いことか。
部室へ移動しよう。


「古泉、準備はどうなってる?」
「準備の方はすでに。おや、涼宮さんは?」
「あいつなら、校舎内で一人不思議探索パトロールしてるよ、後から来るって言ってた」


部屋を見回すと、朝比奈さんと鶴屋さんが部屋のディスプレイを担当し、長門がゆっくりながらも部室の掃除をやっていた。
なるほど、この人数でやれば準備も早いか。


「それじゃ、ハルヒが来るまでに終わらしてしまおう」
「そうですね」


大体のディスプレイが終わっていたので、引継ぎを俺と古泉で受け持ち、朝比奈さんたちには料理関係を机に並べてもらった。
それぞれの分担作業にしていたおかげか、準備は滞る事無く終了し、あとはハルヒを待ち受けるだけになったわけだが……


「長門、そのパーティー帽子はどこから出した……」
「……必要」
「……まぁいいか」


恐らく、古泉がシャレで用意したんだろう。
もしくは、長門が作ったか?
……どちらも有り得る。


「それでは、最初の出だしは、貴方にお願いしますよ」
「……俺が?」
「企画立案は貴方でしょう?」
「そりゃぁまぁ、そうだが……」


考えるだけ考えて、そのほかのことは一切考えていなかったから、結局俺は古泉たちが言うとおりハルヒが入ってきたら最初の一言目を言うハメになった。
……まぁ、いいだろう。
これくらいなら、やってやるさ。


「……三十秒後に、涼宮ハルヒが到着する」


相変わらず、能力をフル活用しているな、長門よ。
まぁ、おかげでタイミングは取りやすくて助かるんだが。


「おし、それじゃぁ、みんなクラッカーを持ってくれ」
「準備はいつでもオッケーっさ!」
「ど、どきどきしますね」
「こういうのも、楽しいものですね」


全員がクラッカーを手に持ち、入り口のドアの少し上に向けて待機した。
さぁ、ハルヒ、いつでも入って来い。


「あー、もう、やっぱり学校にはもう不思議な存在なんていないわね……」


文句を言いながら、ハルヒが部室の扉を開けた。
落胆していたのか、目を瞑っている。
チャンスは、今だ!!


「ちょっと早いが……結成一周年、おめでとう!!
『おめでとー!!!』


パンパンパーンッ!!


「……ぇ?」


俺の一言の後の、ハルヒの呆気とした顔が、少し見ものだと思ったのは、俺だけの内緒だ。
そして、パーティーが始まった。






















こんな一つのマイ・リトル・アニバーサリー


















 後書き

My Little Anniversary
「私の小さな記念日」とか、そういう意味らしいっす。
車でボーっとしているときにラジオから流れてきたこの一節がどうにも頭から離れなくて書きました。
記念日として丁度いいので、30万ヒットに使っちゃおうって感じですね。

さて、30万行きました、これからも頑張って、のんびりやっていきましょうっ!

それでわ、また、次回作にて。

            From 時雨  2007/10/30