「さてと、今日も行きますか」 季節は冬になり始めた頃。 ハルヒという歩く天災に付き合わなくてはならん俺は、体力を向上させようと考えた。 本来ならそんなめんどくさいことはごめんこうむりたい俺だが、そうも言ってられない。 だからこそ、今日も今日とて、俺はランニングをするのだった。 「はっはっはっ……」 そんなに速いペースで走るつもりは元からなく、持久力をつけるためということで、長距離をゆったりとしたペースで走る。 早すぎても遅すぎても意味がなく、さらに体を壊してしまっては元も子もない。 「はっはっはっ……」 「おぉ、兄ちゃん今日もか、精がるねぇ」 「あ、どうも」 平日は夕方に走るために、ほとんど人とすれ違うこともないが、休日の昼間あたりにランニングをしていると、他にも走っている人はいるもので、何日間か走っていると顔見知り程度の付き合いはできた。 今声をかけて来たおじさんも、休日によく会うことがある。 会釈するだけの縁だけどな。 「はっはっはっ……」 最初は、自分のペースが見つからず、早すぎて息切れを起こしたり、遅すぎて全然運動にならなかったりとあったが、今はなんとか自分の速さを見つけ、そのペースで走ることができている。 このままで済むなら、ただ俺が走っているというだけというつまらない話なんだが…… どういうわけか、俺がランニングを始めた数日後、見かけることがなさそうな連中が走っているのを見かけたことがある。 「おや、奇遇ですね」 「まるで待ち構えたかのように現れて奇遇というのか、お前は」 「いやいや、偶然ですよ?」 その一人目、いつも虚偽の笑顔を貼り付け、なぜかスポーツウェアを身に着けた古泉だ。 俺が走って数日目にひょっこり表れて、一定距離を一緒に走ることになっている。 不思議なことに、俺がちょっとずれた時間に出発しても、測ったかのように正確な時間で合流してくる。 そうなると、待ち構えているんじゃないかという風に考えるのも仕方がないだろう。 「どうですか、最近の調子は?」 「どうもこうも、見ての通りだ、特にかわらん」 「それは何より」 くだらない雑談をしつつ、それでもペースは変えない。 古泉はどういうわけか、俺のペースで走っているんだが、こいつは自分のペースで走らなくていいんだろうか? 「それでは、僕はこの辺で」 「あぁ」 少しばかり同じ道を走り、途中三叉路になっている道にぶつかると、そこでいつも古泉とは別れる。 そしてまた、俺は俺のペースで走り始めるわけなんだが…… 「……よう」 「…………」 どういうわけか、古泉と別れると次は長門が現れる。 しっかりと学校で着ているのとは違うジャージを着ている。 そして、特に何を言うでもなく、古泉の次は長門が俺のランニングのパートナーとなる。 「ハッハッハッ……」 「…………」 だがしかし、宇宙人が作ったというこの何とかインターフェイスの長門が、わざわざ走る必要があるのかははなはだ疑問だ。 こいつなら、どこからか得体の知れない情報を調べるだけで、世界新記録だって出せそうなもんだが。 「…………それじゃぁ」 「おう、またな」 何を言うわけでもなく、暫く追走した後、長門はまた違う道へとズレ、また俺一人走ることになる。 それから少しの間は一人で走り、周りの風景なんかを見ながら、普段の俺じゃ考えないような、景色の移り代わりというものを楽しんでいると、またしても、俺のランニングに新たなパートナーが現れる。 「あ、おはようございます、キョン君」 「朝比奈さん、おはようございます」 そう、SOS団の天使、朝比奈さんだ。 彼女もまた、学校のものとは違うジャージに身を包み、あまり慣れていない様子で俺のランニングについてくる。 さすがに、朝比奈さんを俺と同じペースで走らせるわけにはいかず、俺は朝比奈さんのペースと同じ競歩と同じようなペースで流すことにする。 「キョン君も、頑張ってますね」 「いやいや、朝比奈さんこそ、毎日精が出ますね」 「えぇ、こんなこと、こっちの時代じゃないとあまりしたことないですから」 どうやら、未来にはランニングという習慣はないのかもしれない。 だからこそ、朝比奈さんはこの新鮮な感覚を珍しいと思い、続けているのだろう。 まぁ、これは俺の勝手な想像でしかないんだけどな。 「ところで、今日もまた長門や古泉に会ったんですが、ここまでSOS団のやつらと会うと、なにやら作為的なモノを感じるんですが」 「え、えぇ!?そ、そんなことないですよ!きっと長門さんも古泉君も運動したいだけだと思います」 どうやら、朝比奈さんにカマをかけてみたのは正解だったようだ。 つくづく、この人も隠し事に向いてないんだと思う。 と、いうことは、ここ暫く……いや、俺がランニングを始めたあたりから、朝比奈さんや長門、古泉は自分から進んで俺に付き合っているということか…… なんというか、何がしたいのかまったくわからん! 「私も、ちょっと走るのが楽しいかなって思えるようになって来ましたし……」 最初は筋肉痛になっちゃって酷かったんですよ、とこっちまで笑顔になってしまうような綺麗な笑顔を見せてくれた。 あぁ、こんな笑顔が見れただけで、とりあえず作為的なものなどどうでもよくなってしまいそうだ。 「あ、私はこっちの道なので、それじゃぁキョン君、また学校で」 「はい、朝比奈さん、転ばないように気をつけてくださいね?」 「大丈夫ですよぉ」 途中でよろけたのは、この際見なかったことにしておこう。 相変わらず危なっかしい雰囲気をかもし出したまま、朝比奈さんは違うルートへと行き、三度、俺が一人で走る時間になった。 「……ハッハッ……さすがに、少し疲れてきたか……」 ずっと走り続けていたせいもあり、多少の疲労感を感じた俺は丁度良く差し掛かった公園に入り、少し体を休めることにした。 すぐには止まらず、少しずつ速度を落し、最終的には軽く歩いて体をゆっくりと落ち着かせる。 これをやらないと、人によっては捻挫などの原因になるらしい。 「ふぅ……」 十分体を落ち着けたところで、公園のベンチに腰かける。 あぁ、しまった……こんなことなら途中の自動販売機で飲み物でも買っておくんだったか…… 「やぁやぁ、そこにいるはキョン君じゃないかぃ?」 「……鶴屋……さん?」 「そうにょろ、鶴にゃんにょろよ~、キョン君はこーんなところでなにしてるんさ?」 「ランニングしていて、ちょっと休憩中ですよ」 「なるほどぉ!運動はいいことっさ!おっと、そうだ!!ちょろんと待ってておくれよ?」 何を思いついたのか、鶴屋さんは来た道を引き返し、どこかに走り去ってしまった。 うーん、待っていてくれと言われたからには、待つしかないんだろうなぁ? 「お待たせー!これを頑張っているキョン君にあげるっさぁ!!」 パタパタと、軽快な音を響かせ戻ってきた鶴屋さんが俺に差し出したものは、スポーツ飲料の缶ジュースだった。 どうやら、走り去った理由はこれを買いに行っていたらしい。 「あ、ありがとうございます……これのお金は……」 ポケットに確か少量の小銭が入っていたと思い出し、取り出そうとしたが、その手は鶴屋さんによって止められた。 「いらないさ、これは鶴にゃんがキョン君に買ってあげたんだからねっ!是非ともずずぃっと飲んでくれればそれで満足っさ!」 「……じゃぁお言葉に甘えて、頂きますね」 自動販売機の中で冷やされていたジュースは、とても冷たく感じて、ほてった体にはすーっと染み入ってきた。 あぁ、運動した後の飲み物はやっぱり美味いなぁ。 「それじゃ、鶴にゃんはこれで失礼するっさ!この後みくると買い物に行くんさ!」 「そうですか、是非楽しんで来てくださいね」 「もちろんっさ!それじゃ!」 にょろろーんと、言う擬音が聞こえたような気がするのは気のせいだと思っておこう。 鶴屋さんの姿が見えなくなってからも、暫く休憩していたが、そろそろ体も十分休まったので、再び走り出そうと缶ジュースの中身を一気に飲み干し、ゴミ箱に捨て、また俺は走り出した。 「……ハッハッ……」 さっきまでの道を往路だとするなら、これから走るコースは復路、ようするにマラソンで言う中間ラインを超えたところだ。 さすがに、これからは知り合いに会うことなんてないだろう、と思っていたが…… どうやら、俺はとことん、平穏という言葉に嫌われているらしい。 「…………」 目の前に、運動用のウィンドブレーカーを見につけた見慣れた存在がいた。 ……訂正しよう、いた、というか、いる。 ご丁寧にも、いつも通りの仁王立ちに、なにやらご立腹なのか、頬を膨らませた、我らがSOS団の団長殿、涼宮ハルヒがそこにいた。 「遅い!」 「……約束した覚えはないんだが?」 俺が走っているのは、あくまで自分のためであり、こいつと一緒に走ろうなんていうそんな約束は一切した覚えがない。 なのに何故こいつはこうもはっきりと遅いと言い切れるのだろうか? わかるやつがいたら教えてくれ、懇切丁寧に。 「なに言ってるのよ、いついかなるときも、団員は団長を待たしちゃいけないの!」 「あー、はいはい……で、なんでここにいるんだ、お前?」 「何よ、あたしが走っちゃおかしいって言うの?」 誰もそんなことは言っていない。 ただ、どうしてお前が俺を待っているのかということを聞いてるんだ。 「まったく、折角準備して待ってたのに、なんでこんなに遅く来るのよ……折角一緒に走ろうと思ったのに……」 「ん、何か言ったか?」 「別に!」 すまん、実は聞こえてる。 どうやらこいつは、俺と一緒に走るためにわざわざこんなところで待っていたらしい。 と、いうかここで「遅い」といわれた時点で気づきそうなもんだがな、俺も…… 「……まぁ、いいか、ほら、行くぞ」 「…………」 「なんだ、行かないのか?なら俺は行くぞ?」 「あ、ちょっと、待ちなさいよ!!」 とりあえずハルヒの横を通り抜け、少し遅めのペースで走りだすと、すぐにハルヒも付いてきた。 まったく、毎回こう素直なら、俺の苦労もほとんどと言っていいくらいなくなるだろうに。 「……ねぇ」 暫く無言で走っていると、ハルヒが唐突に質問を投げかけてきた。 「なんだ?」 「いつから走り始めてるの?」 「つい最近から、だな」 「……そう」 何が聞きたかったんだ? とりあえず、ペースをハルヒにあわせたまま、また無言で走る。 ハルヒはハルヒで、何を考えているのか、前を見ながらも目が真剣そのものだった。 「ねぇ、キョン」 「……ハッハッ……なんだ?」 「もし、もしよ?あたしがまた一緒に、走りたいって言ったら?」 これはまた、珍しいこともあるもんだ。 こいつがこんなことを言い出すなんて、予想外もいいところだ。 「……別に、俺に拒否する理由は、ないな」 「ほんと!?」 「あぁ、別に構わない、ただ毎回ってわけには行かないと思うぞ?」 「それはまぁ、優しい団長のあたしは容認してあげるわ、ただし、走る時は絶対あたしにメールしなさい!いいわね!!」 器用にも、走ったまま俺に指を突きつけるという動作をやってのけ、そう言い放った後、ハルヒは一気に速度を上げて、すぐに遠くまで行ってしまった。 「それ―――じゃ――、キ――ョン、また-――――明日!!」 その途中で、振り向いて、何かを言っているようだが、結局何を言ったのかはわからなかった。 ただ一つ言えるのは、俺のこの日課に、ハルヒと一緒に走るということが組み込まれた、ということだろう。 やれやれ、お手柔らかに願いたいものだ。 「ま、それも悪くない、だろう」 後書き なんだこの消化不良の一品は…… おかしいな、こんな消化不良になる予定はなかったんだけど……? ん、まぁとりあえず納得が行かなかったのでもう1本何か書き始めてみよう。 やれるときにやってみるのが時雨流! ってことで、次の作品こそハルヒをデレにっ! それでわ、また、次回作にて。 From 時雨 2007/11/30 |