最近になって、考えている事が一つだけある。
何故そういう考えに至ったのかという疑問を叩き付けられそうな所ではあるが。


「……あの土日のおごり地獄から開放されるかもしれんからなぁ」


土日の探索で当然と言わんばかりに俺は遅刻扱いされ、毎度毎度SOS団全員におごるという悲惨な目に合わされている。
これを打開するために俺がなけなしの知力を総動員して考え付いたのが……


「やはり取ってみるか、免許」


そういうことである。
ま、もう一つ考えてることもあるんだけどな。

























「まず、当面の問題としては、俺が免許を取ることに、親が許可を出すかと思っていたんだが……」


どういうわけか、我が愛すべき母親は、二つ返事で了承の意を示してくださった。
スクーターとは言え、世の中の二輪での事故はそれはもう悲惨なものばかりと言っても言い過ぎではなく、その事件をテレビなどで見て知っていたからこそ、俺には許可が降りた事が腑に落ちなかった。
だが、そんな俺の危惧も、母親曰く。


「別に乗る距離もたかが知れてるし構わないわよ、でも受験料とかは自分で出しなさい」


と、いうことである。
つまり、免許を取るのも、スクーターを買うのも自分のお金でやるなら好きにしろと言うことらしい。
大した放任主義だと思ったのは、秘密にしておこう。
下手に母親にへそを曲げられると俺の晩飯がなくなる可能性がある。


「わかった、それじゃぁ、今度の休みに行って来る」


前もって金額を調べておいたところ、免許を取るの自体は一万ちょっとあればいいらしい。
試験事態も一日で終わるという簡単……なのかは疑問だが、非常に便利だと思った。


「あら、でも確か休みってやってないはずよ?」
「……え?」
「確か、スクーターの免許は決められた曜日でしか受付してなかったはずだもの」
「……マジか」


思いがけない問題が発生したものだ。
その決められた曜日が平日であるのなら、俺は学校を休むこととなり、そのことがハルヒに漏れたとしたら、俺の命運はその時点で尽きるかもしれない。


「……もし、俺が学校休んで免許取りに行くと言ったら?」
「しっかり卒業すれば別に何も言わないわよ、でも学校によってはそういうの見張ってて、停学とかされるって聞いたけどね」
「……もう少し、考えることにするよ」


さすがに、停学の危険をはらんでまで欲しいというわけでもなく、ただ便利かなという気持ちがあったからというのが動機な俺としては、学業と免許、比べるまでもない。
それに、スクーターを買うとしても、すぐにそんな数十万を用意できるわけでもないからな。


「そうしなさい、どうせあんたはまだ学生なんだから」


重々自覚しております。
……はぁ、暫くはおごり地獄から抜けられそうにないな。
















「……と、言うわけなんだがどう思う?」


昼休み、貴重な時間を費やしてまで、甚だ不本意ながら古泉を呼び出し、中庭の人が余りこない場所で事の顛末を伝えると、古泉は少し考えるような仕草をした後、奇想天外な事を口走った。


「それは、要するにバイクの免許を取って、涼宮さんとどこかに行きたいということですか?」
「……古泉、悪いことは言わない……耳鼻科なり脳神経外科なりいって来い」


俺がいつそんなことを言った。


「おや、違いましたか……てっきりそうおっしゃりたいのだと思いましたが」
「だから……誰がそんなことをいつ言った」


ニコニコと、楽しんでいますと言った雰囲気を振りまく局地限定超能力者。
その顔が普段の偽物のような感じとは違い、本気で面白がっているように見えるのは俺の気のせいだと言うことにしておいてやろう。


「……で、俺にそんな振りをしたってことは、何を次は企んでいる」
「とんでもない、今回ばかりは僕たちは何もしていませんよ?」
「そう言って、前に連れて行った田丸さんの所では一芝居演じてくれたな?」


あの時は本気で疲れた。
ハルヒの行動力もそうだが、それに至るまでの出来事が多すぎて、気苦労が耐えなかったんだからな。


「そこを言われると、返す言葉がありませんね。では、二つほど」
「……あんまりいい予感はしないが、言ってみろ」


こいつがこういう回りくどい言い方をする場合、俺にとってはあまりよろしくないというか……
詰まる所、大抵ハルヒが関係することであり、他言できないケースにこの遠回りな言い方が使われるというのに最近気づいた。


「恐らくですが、すでに話は漏れてると思いますよ?」
「なに!?」
「貴方のご学友の……谷口さんでしたか?彼がどこからともなく貴方が免許を取ろうとしているという情報を手に入れ、もう一人の国木田さんでしたか、にお話していたのを聞かれたようです」


谷口……お前はどこから聞きつけてきたんだ……
とりあえず、この恨み、後ほど晴らさせてもらうぞ。
そして古泉、お前もだ。
どこからそんな情報を聞きつけてきているんだ。


「そしてもう一つ……僕としては、もう少し免許の方は待っていただいて、俗に言われる原付ではなく、普通自動二輪をとって頂いた方がいいかと」
「……訳は?」
「説明差し上げてもよろしいのですが、どうせなら彼女の口から聞いていただいた方が簡潔で手っ取り早いのではないでしょうか?」


彼女?
……なんだ、ものすごく嫌な予感が膨らんできたというか、閉鎖空間が形を持って接近しているかのようなそんな気になるのは。


「きょーんー……」
「うぉ!?」
「それでは、僕はこの辺で失礼します、また後でお会いしましょう」


そそくさと退場を決め込む超能力者。
こら、俺に不安の種を振りまくだけ振りまいて逃げるんじゃない!!


「な、ちょっと待て、古泉!!」
「待ちなさい!まだあたしの話が済んでないわよ!!」


逃げる古泉を捕獲しようと席を立った瞬間、俺はハルヒによっていつもの如く首根っこをつかまれて、椅子に逆戻りさせられていた。


「な、おいハルヒ、なんか機嫌悪くないか!?」
「うっさい、黙って座る!!」


鬼も裸足で逃げ出す剣幕とは、こういうことを言うんだろう。
ハルヒは、先ほどまで古泉が座っていた席に座ると、いつの間に用意したのか缶ジュースを飲んで俺を睨みつけた。


「で、あんたなんで唐突にバイクの免許なんて取ろうとしてるのよ」


……俺は何かを取るのにいちいちお前の許可を仰がねばならんのか。
いつからお前は俺の保護者になった。


「バイクと言っても、スクーターとかの免許なら別に構わないだろう……」
「免許事態は好きにすればいいわ、でも問題なのは、なんでスクーターなのよ!」
「なんでと、言われてもな……」


まだ十八になってない俺が取れるものと言ったら、それしかないだろう?
それ以外に何か問題があったか?


「スクーターってあれ一人乗りよね?」
「あぁ、免許取ったとしても、あれは一人乗りしか認められてないな」
「……それじゃ、あたしが乗れないじゃない」


不満全開のアヒル口で、ハルヒは何かをボソりと呟いた。
残念ながら、小さすぎて俺には聞こえなかったんだが……


「……?すまん、もう一度言ってくれ」
「〜〜〜っ!」


問い返すと、なぜかハルヒは顔を目一杯赤くした。
……何を言ったんだ、こいつは。


「いい!?免許取るならどうせなら二人乗りできるのが取れるまで待ちなさい!団長命令!!」
「だから、理由を言え、理由を」
「いいの!あんたはわかったって言えばいいの!!」


どこの癇癪を起こした子供だ、お前は。
どこか拗ねた雰囲気を出し始めたハルヒを前に、俺は何を言ったらいいものかと疑問に考え込んでしまった。


「それに、理由っていうならあんたもよ!」
「は?」
「突然そんなもの取ろうとした理由を行って見なさいよ、そしたら認めてあげるのもやぶさかじゃないわ」


理由……ねぇ。
だがしかし、俺が理由の片方を言った所で、こいつが納得するとは到底思えないんだが……
どうせ『私たちよりもっと早く来ればいいでしょ』とか『甘ったれたこと言ってるんじゃないわよ』とか言うに決まっている。


「くだらない理由だったら、この場であんたをぶん殴るわ」


……お前のさじ加減一つで殴られるのは心底遠慮したい。
どこにそんな力があるのかわからんが、こいつの力は信じられない時があるからな。


「……そうだな」


ふと、俺の中で一つ思いついたことが出来上がった。
それを実行に移したとして、後でどんな報復が待っているかわからない以上、恐ろしいものがあるが……
普段いろいろ無茶を聞いたりしている身だ、この程度ならば許されるんじゃないだろうか?


「ハルヒ、ちょっと来いよ」
「何よ」
「いいから、ほら」


普段とはまるで逆に、ハルヒの手を引っ張って、俺の方に引き寄せる。
そして、抱きしめるつもりだったのかと言われてもおかしくないくらいまで引き寄せると、ハルヒの耳元に唇を寄せて、たった一言だけ、囁いた。


「        」
「なっ!!」
「ま、そういうこった、とりあえず高校出るまでは免許は諦めるとするさ」


一気に真っ赤になったハルヒを置いて、俺は一足先に教室に戻るために席を立った。
そうしないと、俺自身も赤くなった顔を見られる危険性があったからだ。


「〜〜〜っ!や、約束だからね!!」


後ろで、ハルヒが大きな声を上げてそう言った。
こらこら、周りに人がいることを忘れているだろう、お前。
周りの日とは、何事かと俺たちを見てきたが、今はあえてその人たちのことは考えないようにしておく。
そして俺は、ハルヒに手を上げてそれに答えて、ひとまず顔を冷やしてこようと足を速めた。


「……古泉の予想が実は当たっていたっていうのが、忌々しいんだがな」


俺は普段からそんなことを考えて生活しているように見られていたのだろうか?
もしそうならば、俺はとても恥ずかしいことをずっと見られ続けていたと言うことになる。
あぁ、忌々しい。
だけど、いずれ俺が取ると決めた二輪の免許。
それを取った後のことを考えると、少しだけ顔がにやけるような気持ちになった。


「さて、本格的に金を貯めないとな」


将来がどうなるかなんてわからないが、こっちにはあのハルヒが付いているんだ。
俺が考えていることが実現可能かどうかなんて、決まっている。

















俺がハルヒに言った事。
それはなんてことはないただ一つの約束。























――――――二人乗りできるようになったら、海でも見に行こうか。


















 後書き

ハルヒ主導でも問題ないんですが、やっぱりキョンにも頑張ってもらいたいですよね。
まぁ、ぶっちゃけキョンってバイクより車運転してる方が似合いそうですが(ぁ
いいんですよ、バイクに乗せたいのは俺の趣味ですから。
バイクいいよね、バイク。

さてさて、今回はこれまで、また、次回作にてお付き合いください。
でわでわ。

            From 時雨  2007/12/22