季節外れ、という言葉をご存知だろうか?
読んで字の如く、その時期には相応しくない行動したりすることである。


「……クリスマスだと言うのに、こんな事を考えるとは」


俺も相当涼宮ハルヒという存在に影響されてきているらしい。
朱に交われば赤くなるという。
なら、俺という色は、ハルヒという存在で、塗り替えられている真っ最中なのだろう。


「……ま、それも一興として、今回は認めてやるさ」


























The melancholy of Haruhi Suzumiya

H appy M erry C hristmas

Second Story from Sigure Minaduki




























さて、煩わしい学業からも一時的に解放され、平穏な一時を得る期間。
学生という存在に、ほぼ等しく与えられるその時期。
今回は、その期間の一つ、冬休みの話をしようと思う。


「さて、ここにいる全員に聞くが、クリスマスの日、何か予定はあるか?」


クリスマスも迫り、街がにぎわいだした今日この頃。
いつものように市内不思議探索ツアーは行われ、俺たちは休憩のために喫茶店に入っていた。


「なによ、キョンがそんなことを聞くなんて珍しいわね?」


そこで、俺は唐突にみんなを見回した後切り出した訳なのだが。
当然の如く、それにハルヒが食いついてきた。


「いやなに、特に何があるわけじゃあないがな」
「……怪しいわね……いや、むしろうそ臭いわ」


実際、俺の言っていることは確かに嘘だ。
しかしまぁ、変なところで、大した直感力である。


「まぁ、それは別にどうでもいいだろう。で、どうなんだ?」
「……そうですね、申し訳ありませんがその日もバイトが入っていまして」


まずは古泉が、そう返してきた。
こいつが言うバイトと言うと、閉鎖空間のことになるんだが……
まさかまた出現しているのか?


「ふふ……」


ところが、古泉はうっすらと笑みを浮かべ、意味深に俺に向かってウィンクしてきた。
お前は俺の考えをお見通しとでも言いたいのか?
……どうでもいいが、気持ち悪いから金輪際やめてもらいたい。


「えっと……ごめんなさい、私も鶴屋さんにお呼ばれしてて、空いてないんです」
「そうですか、残念ですけどしょうがないですね」


オドオドと、朝比奈さんはそう言った。
朝比奈さんが来れないのは残念ではあるが、鶴屋さんとの友情を大事にしてもらいたいからな。
こればっかりは俺のわがままを通すわけにはいかないだろう。


「で、長門は?」
「……用事」
「お、珍しいな?」


相変わらず一言二言しか喋らないが、しっかりと用事があると長門は言った。
遠まわしな言い方をした所を見ると、情報なんとかってヤツが呼んだのか。
はたまた、長門のことだ、俺の計画なんてお見通しなのかもしれない。


「そうか、お前もか」


微かにだが、長門からは残念そうな雰囲気が漂っているように見えた。
ま、それは俺の気のせいかもしれないがな。


「で、後はお前だが、どうだ?」
「…………」


どうやら、今の所ハルヒを除いて全員が用事なりなんなり入っているらしい。
クリスマスの日に仕事や用事が入るとは、忙しいヤツらだ。
そして、最後に残ったハルヒはというと、微妙に何かを考えているようにも見える。
その反面、特に何も考えていないようにも見える。


「そうね……ちょっと待ちなさい」


どうやら、何かを考えてはいたらしい。
ハルヒは携帯を取り出すと、カレンダーでも確認しているのか、操作を始めた。
……いや、カレンダーを見てるというよりは、どこかにメールを打っているようにも見えるな。


「そうね……運良くその日は何も入ってないわ、だからあんたに付き合ってあげる」


何か予定が入っていたのをキャンセルしたのか……?
詳しくはわからないが、当初の計画通りとして、ハルヒは予定が何も入っていないようだ。
他の連中の一部は、俺の考えている事がわかっている節もあるが……
一応これで、第一段階はクリアと言った所か。


「でも、何をするのか知らないけど、つまらないことだったら承知しないわよ」


俺の考えを知ってか知らずか、釘を刺されてしまった。
だが、今回の俺は強気で行くぜ。


「そうかい、じゃぁ俺は頑張らなきゃならないな」


不敵に、普段見せることのないような強気の笑みを見せてやる。
するとハルヒは、どこかマヌケというか、呆けたような顔をした。
……しまった、やっぱり止めとけばよかったか。


「コホン……あんたがそんな挑戦的なんて珍しいじゃない?」
「まぁな、それじゃ後で内容をメールで連絡する。準備があるから、お先に」


とりあえず、すでに習慣化してしまったのが悔やまれるが。
伝票を持つと、俺は一番最初に席を立った。
計画の一つはクリアしたが、もう何個かやらなきゃならない事が残っているからな。


「そ、せいぜい期待しないで待っててあげるわ」


ふん、そうやって余裕を持ってられるのも今のうちだ。
せいぜい驚いてもらおうじゃないか。


























そして、クリスマス当日がやってきた。


「……さすがに今日は待たせるわけにはいかないな」


喫茶店から別れた俺は、予想以上に目的の物を手に入れるのに苦労した。
何せ時期が時期だ、置いている店なんてそうそう見つかるわけがないんだ。
最終的に、古泉に連絡を取って、『機関』とやらから流してもらったんだが。


「くそ、古泉め……やはりそうでしたか、なんて、お見通しだったってことか」


恐らくハルヒは気づいていないが、この分だと長門は確実に知っているだろう。
若干悔しい気がするが、今回はいいとしよう。
これは、ハルヒ以外の誰かがいたら少しだけ計画が変わったからな。


「ハルヒは……やっぱりもういるのか」


現在の時刻は6時半。
そして、俺がハルヒにメールで伝えた約束の時間は夕方の7時。
だというのに、ハルヒはすでにそこにいた。
いつだったか、雨降る日に着ていた白いダッフルコートを身につけて。


「遅いわね」
「……約束の時間の30分前なんだがな」
「誘った張本人は、他の人より早く来るべきよ、それが何時だとしてもね」


文句を言いつつも、身体が冷えているんだろう。
いつもより語気が弱い気がした。
……まったく、何時からいるんだろうな、こいつは。


「ほら、ハルヒ……これつけてろ」


そう言って、ハルヒが何かを言うよりも早く、俺が使っていたものをハルヒに巻きつける。


「わぷっ……なにこれ、マフラー?」
「あぁ、今さっきまで俺が使ってたので悪いが、それで少しでも寒さは凌げるだろ」
「し、仕方ないわね……そんなに言うならつけててあげるわ」


特に文句が出てこないところをみると、やっぱり寒かったんだろう。
まったく、素直に言えば俺が着いてそうそうに渡してやるのにな。


「で、どこ行く気?っていうか、そのカバンは何よ?」
「行き先も、カバンの中身もまだ秘密だ」


ハルヒが言った通り、俺の背中には、普段学校で使っているカバンよりも一回り大きいものがある。
これの中身は、不服にも古泉に頼んで手に入れた例の品物が入っている。


「今日は随分秘密主義じゃない?」
「サプライズっていうのはそういうもんだろ?」
「ま、いいわ。とりあえず今は不問にしてあげる」
「そうかい、そりゃあ助かる」


ハルヒの不満ながらも少しだけ期待している声を背に、俺は駅の改札で目的地への切符を二枚買った。
それをハルヒに渡す。 行き先を確認したハルヒは、顔を驚きに変えた。


「なによこれ、随分遠くの切符じゃない?」
「目的地がそこだからな、仕方がないだろ」
「……ますます何を企んでるのかわかんなくなってきたわ」


やはりハルヒでも、ここまで突飛した行動は思いつかなかったらしいな。
まぁ、そうでなくちゃ俺がここまで苦労した甲斐がないんだが。


「ほら、行こうぜ」


ハルヒを手招きして呼び寄せると、丁度よく来た電車に乗って、俺たちは目的地へと向かった。
俺の予定通り、日は落ち、世界は夜へと変化している。




























「ほら、ここが目的地だ」


あれから電車に揺られること1時間弱。
俺とハルヒの視界の前には、夜の世界に包まれた海が広がっていた。
さざ波の音が、静かに耳に入ってくる。


「なによここ、海じゃない」
「おう、海だな」
「……馬鹿にしてんの?」


まさか、俺は至って大真面目さ。


「さて、ハルヒ」
「なに?」
「すまないが、少しだけここで待っててくれ」


カバンから懐中電灯を取り出し、明りをつけてハルヒに預ける。


「待ってるって……あんたはどうすんのよ?」
「最後の仕上げがあってな」


俺の計画、そのために事前に仕掛けを施したかったが、さすがにそれは無理だった。
だからこそ、古泉を頼り、物を調達して貰ったわけなんだが。


「寒くないように、一応ホッカイロもある。だから、少し待っててくれ」
「……そんなに長い時間、待ってあげないわよ?」
「それで十分だ、それじゃ、ちょっと待っててくれ」


ハルヒがいる位置は、俺が渡した懐中電灯のおかげでわかる。
後、俺がやることは、背負っているコレを設置するだけだ。
すでに大まかに完成しているそれを、俺は暗闇の中、手探りで少しずつ設置していった。


「ふぅ……すまん、待たせた」
「いい加減、何をしたいのか教えてくれてもいいんじゃないの?」
「そうだな……それじゃ、始めるか」


暗闇の中、しっかり設置できたかどうかは自信はない。
だけど、ここまで来たんだ、やらなかったら今までの苦労が無駄になる。


「明りを消して、よーく向こう見てろよ」
「はぁ……今日のあんたは注文ばっかりね」


ため息混じりにそう言いながらも、ハルヒは俺の言うことを聞いてくれた。
どうやら、何をするつもりかわかるまでは、俺の言うとおりにしてくれるらしい。
ハルヒが懐中電灯を消すと、俺はポケットからマッチを取り出し、火をつけた。
そして、引っ張ってきた導火線に、そのマッチの火をつけた。


「成功してくれよ……」


火は、無事導火線に燃え移り、小さな火花を残しながら闇の中へと進んでいった。
そして、遠くから小さく何かに引火した音がすると、瞬く間に暗闇の世界に光が走った。


「……わぁ」


ハルヒが、それを見て感嘆とも取れる声を上げる。
そう、俺が用意したのは、簡単に言ってしまえば花火だ。
それも、手で持つタイプではなく、設置して文字を表現したりする方の。


「どうだ、真冬にこういうのもいいもんだろ?」


無事に成功したのを確認した俺は、呆然とそれを見続けるハルヒに顔を向けた。
すると、花火を見ていたはずのハルヒは、こっちに飛びつくように抱きついてきた。


「喜んで頂けたかな?団長殿」


それをしっかりと抱きとめながら、俺はそう問いかけた。


「今回だけは認めてあげるわ、最高よ!!」


そう言って、ハルヒは全開の笑顔を見せてくれた。
そして、暗い冬の海に微かに灯る光を背に、俺とハルヒの影はゆっくりと重なった。























暗闇の中浮かび上がる花火。
















そこに書かれているのは、たった一人へ贈る、俺からのメッセージ。
















― Merry Christmas Haruhi ―



















 後書き

さて、ここまでお付き合い頂き、ありがとうございます。
予定より、若干長くなっちゃいました。
まぁ、書きたいこと書ききったつもりなんでいいんですが。

最初の冒頭で、察しの言い方は気づいたかもしれませんね。
ですが、最後まで書き続けてみました。
随分前から、考えてたことなんですが、これって実際は実現難しいんですよねw
だからこそ、キョンには頑張ってもらいました。

長々書くのもあれなので、とりあえずこれにて。
それでは、よきクリスマスをお過ごしください。
でわでわ。

            From 時雨  2007/12/25