毎回毎回と言ってしまえばそれまでで。
何かと日常から行われるどたばた劇。
それへの突込みを鉄壁の精神で耐えてきた俺だが。


「……今回ばかりは、どういうわけだと突っ込ませてもらおう」


現在俺がいる場所をご説明しよう。
俺たちの年代ならば最低でも一度は足を運んだ事があるであろうアミューズメント施設。


「だって、一人でやっても難しいんだから仕方がないじゃない!」


簡単に言ってしまうと、ゲームセンターに、俺たちSOS団は集合していた。
ついでに言うと、制服ではなく、私服で。





























大抵どこの学校にも開校記念日というものが存在している。
平日であるにも関わらず、その時ばかりは生徒たちは授業という圧制から逃れ、自由を謳歌するわけなのだが。
我らがSOS団の団長は、その休みをタダの休みとして捕らえるのを良しとせず。
臨時の不思議探索ツアーが開催されることと相成ったわけである。


「……で、不思議探索をするんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったんだけど、つい最近やってみたこのゲームが難しいのよ」


――――このまま負けて終わるなんて、あたしのプライドに反するわ。
いつも通り、俺が最後に集合場所に到着した時。
ハルヒは、そう高らかに宣言した。
……どうやら、今日の予定はゲームセンターで潰れるようだ。


「……で、それがこれか?」
「そうよ、結構有名なクイズゲームらしいのよね」


目の前にある機体、斜めについたタッチパネル搭載の画面と、それと一体になるように机のようなスペースが配置されている。
画面と机の間には何かを差し込むようなスロットも見える。


「あぁ、涼宮さんが頑張っていらしたのは、これですか」


なんだ、古泉。
お前はコレを知っているのか?


「えぇ、少しばかりは」
「ちなみに、どういうゲームなんだ、コレ」


見る限り、一人しか遊べないように見える。
いや、クイズと言っていたから、みんなで答えるようなこともできるのか?


「簡単に申してしまえば、涼宮さんも仰っていた通りクイズゲームです」
「クイズゲームなのはいい、どういう風に俺たちは手伝えと言うんだ?」


古泉曰く、いくつかのジャンルに分けられた問題が、コンピュータによりランダムで選出され、それの正解をこれまたいくつかのコンピュータが指定した回答方法に順じて答え、上位を獲得していくゲームらしい。


「ジャンルは全部で6つ……ノンジャンル、アニメ・ゲーム、スポーツ、芸能、雑学、学問で分けられています」
「……ノンジャンルっていうのは?」
「他5つの問題から、ランダムで選出される形式ですね」


そんなに問題があるのか……
……ハルヒが負けるようなゲームに、俺が力になれるというのだろうか?


「えっと……私がお役に立てるんでしょうか……?」
「奇遇ですね、朝比奈さん。俺も今それを思ったところです」


可愛らしくも、オドオドとした雰囲気で疑問を投げかける朝比奈さん。
……いや、でも朝比奈さんなら学問あたりで力になれるんじゃないだろうか。


「あー、もうキョンはグダグダうっさい!やってみなきゃわからないでしょ!!」


途中までは古泉の説明を大人しく一緒に聞いていたハルヒだが、とうとう痺れを切らしたのかそう叫んだ。
……ゲームセンター内が騒がしいとは言え、こんなところで叫ぶのはいかがかと思うぞ?


「ほらほら、みんなあたしのやってる所を見てなさい!」


意気揚々と、ハルヒがそのクイズゲームの機体の前に座る。
そして、財布から赤いカードを取り出すと、画面下のスロットに差し込んだ。
手馴れた動作でゲームを進行していくハルヒを、後ろから見ながらついつい間抜けな声が出てしまった。


「……おぉ、最近のゲームは随分と進化してるんだな」
「あんた、一体いつの時代の人間よ?」


俺個人でゲームセンターに来る機会なんてないんだ、それぐらい仕方がないだろう。


「さ、始まるわよ」


ご丁寧にも、音声でシステムを簡単に説明してくれるらしい。
予選が3回戦……決勝が上位4名ね……


「……ハルヒ、右上の絵はなんの意味があるんだ?」
「ん、これ?」


右上に盾のエンブレムのようなのと鳥のようなのがくっ付いているものがあった。
その中には、数字が表示されている。


「これは予習の点数と、後ろのはあたしが今いる組を表示してくれてるの」


どうやら、一気に予選というものが始まるわけではなく、プレイヤーの任意の問題で予習ができるらしい。
それにしても……組ってなんだ?


「組とは、その人がどの程度問題をクリアできるかの目安の一種ですね」
「ほぉ……この鳥みたいなのはどの程度なんだ?」


負けず嫌いのハルヒの事だ、恐らく下の方の階級じゃあないことは間違いないだろうが。


「ふむ、これはフェニックスですね……と、いうことは涼宮さんの組は上から2番目ということになります」
「……それって、十分じゃないのか?」
「それで満足しないからこそ、涼宮さんでしょう?」


……ごもっとも。
そんな俺たちを置いて、ハルヒは着々と予習と言うのをこなしていたらしい。
どうやら、長門も朝比奈さんも興味があるようで、ハルヒの後ろにぴったりと張り付いて画面を見ている。


「……なぁ、ハルヒ」
「なによ」
「お前のキャラって、その左右のどっちだ?」


予習画面とやらに興味がわいた俺が覗きこんでみると、画面の両端でキャラクターが動いていた。
方や鳥のような、たくましい男のようなキャラクター。
もう片方は、赤い髪をした元気そうな女の子のキャラクター。


「あたしのはこの右の子よ」


……なんていうか、このキャラクター、朝比奈さんに負けず劣らずな部分を持っていらっしゃる。
ついつい視線が朝比奈さんのその部位に行きそうになるのを、意志の力で押さえつける。
こんな考えがハルヒにばれた日には、俺は生きて帰れないかもしれない。


「……なんかものすごくムカつくんだけど?」
「なんのことだ」


ハルヒのジト目を何とかスルーしていると、機械音が響いた。


「……ま、いいわ、それより予選が始まるわよ」


画面に目を移すと、どうやら予選とやらが始まるらしい。
画面には、その旨を伝える文章が表示されていた。


「さぁて、頼りにしてるわよ、みんな!」


……まぁ、興味もあることだし、協力してやっても良いだろう。
そんなことを考えた俺だが、現実はそれより過酷なものだと言うことに、後から気づいた。


























「くっそぉ、なんだこれ、こんな問題わかるわけないだろう!」
「だから一人じゃ無理って言ったのよ!」


予想以上に、出される問題は難しく、俺はほとんど役立っていないと言うのが現状だった。
こうなると、なんとしてもクリアしてやろうという思いが徐々に強くなり、気づけば俺も熱中していた。


「大体なんだ、こんな古文の一文から作者を導けるわけないだろう!」
「それでも、答えれる人がいるんだから、あたし達に出来ない道理はないわ!」


確かに、全問正解しているやつもいるにはいるが、ホントにこんなもん覚えているのか?
そこまで考えて、ふと一人の存在を思い出した。
今までほとんど喋ってなかったが、もしかすると……


「おい、長門」


間違いなくSOS団最強の、反則パワーの持ち主である長門が俺たちにはいるじゃないか。
こっそりと、ハルヒに聞こえない程度に長門に問いかける。


「……なに?」
「お前、今まで出てきた問題わかるか?」


そう問いかけると、本当にわずかだが、長門の首が縦に動いた。


「じゃぁ、なんで黙ってたんだ?」
「……私が答えることは可能、しかしそれは涼宮ハルヒが望んだ結果ではあり異なる結果を導き出す、だから私は黙っていた」
「……どういうわけだ?」


相変わらず、こいつの言うこともわからん。
ハルヒが望んでいたのは、勝ち上がることであって、その前提がどうだとしても問題ないんじゃないのか?


「涼宮ハルヒは、SOS団という集団の力で上位に上ることを望んでいる、私が答えた所で、それはSOS団としての成果に成り得ない」
「……つまり、ハルヒはSOS団全員で答えてかなきゃ納得しないってことか?」
「……そう」


……はぁ、ただの負けず嫌いなら、勝ち上がるだけでいいんじゃないかと思ったが。
どうやら、SOS団や、俺のない頭を絞りつくして、考えていかないといけないらしい。
まったく……仕方ないヤツだな。


「それじゃぁ、精々頑張って団長様の力になってみようじゃないか」
「きょーん!有希!よそ見してないで、あんたたちも考えなさい!!」
「あぁ、わかったからそう怒鳴るな」


ま、俺に答えられる問題なんてたかが知れてるんだけどな。


「あー、満足したわ」
「……そりゃな、連続で2位だの3位だの取ってれば満足するだろうさ」


結局、あの後少しずつだが長門も参戦し、最後にはSOS団の総力戦となった。
流石に、長門の宇宙的パワーはほとんど使ってないけどな。
その甲斐もあってか、なんとか終わる頃にはハルヒの組はドラゴンというのになり、階級というのも賢者とかいうものになっていた。


「でも、まだまだ上があるんだから、それを目指すわよ!」
「……まだ、やる気か?」


どうやら、ハルヒは今日は満足しただけで、あのゲーム自体に満足したわけではないらしい。
これは、下手したら暫くは不思議探索じゃなくてこのゲームセンターに入り浸ることになりそうだな。


「……ま、それもありか」


なんだかんだで楽しめたのは確かだ。
それに、普段のあの不思議探索に付き合わされることに比べたら、よっぽどこっちの方が気楽だしな。
せいぜい、団長様の機嫌を損ねないように、努力するとするさ。


「きょーん!なにしてんのよ、ほらさっさと行くわよ!!」


少し離れたところで、手を振って大声を上げるハルヒ。
その姿を見て、苦笑が零れるのも仕方がないだろう?
本当に、付き合っていて飽きないやつだよ、あいつは。


「わかったから、そう大声をあげるんじゃない!」


そして、俺は少し先に進んでいたみんなに追いつくように、駆け出した。
また、みんなで来ようという思いを胸に。


















 後書き

わかる人にはわかる、ゲームセンターのあのクイズゲームのお話でした。
いやまぁ、なんで書いたのかはいまいちわかりませんが、なんとなく?

名称をはっきりと書かないでどの程度いけるかの実験混じりでもありました。
でも、上手くいかなかったようなそんな気もしますが。
ま、いいか〜?

それでわ、また、次回作にて。

            From 時雨  2007/12/30