「………寒い」

俺が宿屋「永遠」を発ってから半日たった。
少し歩くペースをあげたのと、異形に会う回数がかなり少なかったために正午前には『スノウ・シティー』に着いた。

「………何で俺はここにいるんだ?」


















何故か今の俺は広場の中のベンチに座っいる。さらに雪にまみれだ。
……少し考えを整理してみよう……
確か俺は宿で秋子さんに向けて手紙を出したんだ。
んで、街に向けて歩いてるときに1匹の使い魔に会った。
そいつは何か普段出てくる奴とは波動……つまり『力の波動』が何か違う気がしたんだよな。
そしたらそいつが話しかけてきたんだ。





       〜回想〜

「お前が祐一か?」
「そうだ、お前は何者だ?」
「俺は水瀬様の使い魔だ。」
「水瀬様?秋子さんのことか?」
「そうだ。お前宛に手紙を預かっている。」
「どれだ?」
「これだ。だが、聞いていたのとは外見が違うな……」
「事情があるんだ、気にするな。」
「確かに渡したぞ」
「あぁ、ご苦労さん。」

−−−んで、受け取ったその手紙を読んだんだよな。

「こんにちわ、祐一さん。
あなたがいなくなってから7年が過ぎました。
帰ってくると聞いた時には驚きましたよ。
でも手紙を見た限りではお元気そうで何よりです。」

−−−相変わらず丁寧な言葉使いだった、まあこれもまだ普通だな。

「ここからが本題ですね。
まず街に着いたらまっすぐ広場に向かっていてください。
そこで待っていただければ名雪が迎えに行くと言っていましたので。
正午過ぎには向かうと思われます。
では、お会いできることを心待ちにしております。

                              水瀬秋子」

「名雪か……懐かしいな。さて、行くか!」



      〜回想終了〜





「………」

そうだ、問題はここだ。本来ならもう名雪が来ていても良いはずなんだ。
かれこれ俺はもう2時間近くも雪の降る街のベンチで座っている。
いい加減、尻も痛いし身体も冷えてきた。
このままだったら俺は次の日の号外に載るだろうな〜……


【『スノウ・シティー』のベンチで16〜7歳と思われる青年の凍死体を発見!!
  待ち人が来なかったのではないかと推測されている。】


「………なんてな、冗談じゃねぇ。」

このまま朽ち果てるなんてまっぴらゴメンだ。
さて、もう少し待って来ないようなら移動しよう………命は惜しい。


「ちょっと!離しなさいよ!」
「いいじゃねぇか、ちょっと付き合えよ。」
「そうそう、悪いようにはしないって。ククク……」


ん〜…なんだ?
見たところによると2人の男が誰かを口説いてるように見えるな。
ついでだから助けるか……体もある程度は暖められるだろうし……


「いやだって言ってるでしょ!いい加減にしないと殺すわよ!」


おいおい……随分とまぁ物騒な事言うね。
そんな事言っても信じるとは思えないけど。


「ひゅ〜、おっかないねぇ。」
「ホントホントどうやって殺すって〜?」
「警告はしたわよ……」


わかりやすい奴等……剣を差しているのは見えてないんだろうか……?
さて、見てるのもなんだし行くか。

「おい、そこらへんに……」


シュッ…ゴオッ!!
「「「………!?」」」


け…剣に火が……
あれってもしかして魔法剣か?
すげ〜初めて見た、祐ちゃん感動!
……って、んなバカなこと考えてる暇はないな。

「さて、死んでもらいましょうか……」
「ひ、ひぃぃ〜!!」
「た、助けてくれ〜〜!!」

ほんとわっかりやすい奴等。3流の役者かよ……
ある意味勲章もんだね。
とかなんとか考えてる前に止めないと。

「おい、そんぐらいにしといてやれよ。もう戦意喪失してるじゃねぇか。」
「………邪魔しないでよ。」
「まぁまぁ、こんな雑魚をわざわざ殺しても意味ないだろ?」
「……それもそうね。あんた達!」
「「は、はい!」」
「これに懲りたら二度とあたしの前に顔を出すんじゃないわよ。」
「「はい!!失礼しました!!」」

お〜お〜、逃げる逃げる。
これって蜘蛛の子を散らすっていうような状態だよな、2人しかいないけど……

「………」
「ん?俺の顔に何か付いてるか?」
「目が紅い……あなたは一体何者なの?」

ぐあ!いきなり痛いところを………
とりあえず話を逸らしていくか。

「あぁっと、自己紹介してなかったな。俺は相沢祐一だ。」
「あたしは美坂香里よ。香里で良いわ。」
「俺も祐一で良いぞ。」
「遠慮しとくわ、相沢君。」

むぅ、なかなかの強敵だ。
ほとんどの人はこれで良かったのに。

「それにしても珍しいわね。銀髪に紅眼なんて。」
「そうなんだよな〜………へ?銀髪?誰が?」
「相沢君が。」
「……マジか?」
「マジよ。」

マジなのか?確か俺は染めたはずだ。
それなら今の俺は茶髪のはず、銀髪のわけはない!

「見間違いじゃないのか?」
「言葉通りよ。」

意味が分かりませんが………?
言葉通りって??

「(………主よ)」
「(なんだ?)」
「(少々言いにくいのだがな、髪の塗装がとれているぞ……多分長い間雪が積もっていたせいであろう)」
「ぐあ!」
「どうしたの?」
「い、いや。なんでもない。え〜っと、そう!俺の髪と目は昔からそうなんだ。(嘘だけど…)」

自分でもかなり苦しい言い訳だと思うぞ。
でも俺が『紅眼の魔剣士』だと思われるのは非常にまずい。
いや、まずくはないがなんか嫌だ。人によっては何かと敬遠されるからなぁ。

「……そうなの。てっきり『紅眼の魔剣士』だと思ったのに……」

しっかり思われてたよ。
た、助かった……マジでビクビクしてしまった。
とりあえずは誤魔化せたのか?いまの内に話題転換だ!

「そ、そういえば。さっきのって魔法剣だよな?」
「えぇ。それがどうしたの?」

すごいな、俺と変わらないくらいなのに魔法剣が扱えるなんて…
魔力の調節が失敗すると剣が溶けたりするからな…
それにしても……香里って美人だな。
ダークブラウンのウェーブのかかった長い髪に容姿もかなりレベルが高い。
スタイルもなかなかと見える。」

「………あのね。」

ん?なんだ?
突然顔を赤くして俯いたぞ?
風邪か?んなわけはないか。さっきまで戦おうとしてたし。」

「………てたのよ。」
「え?」
「だから!口に出して喋っていたの!!」
「………マジか」
「(本当のことだ。主よ。)」

なんてことだ。この頃はなかったのにまた出てきたのか、この癖は……
昔っからなんだよな。考えてることを口に出して言うのって。

「ちなみにどこら辺から?」
「それにしてもってところからよ。」
「………(恥ずかしい場所全部じゃん。)」
「(聞いている我も恥ずかしかったぞ。)」
「(うっさい!空絶!!)」
「(む………)」

余計な事言うな……
改めて考えると俺も恥ずかしい事言ったと思ったんだから。

「それにしても随分大きい剣ね。しかも何でもう1本持っているの?まさか2刀流ってわけでもなさそうだし。」
「普段はこっちの刀、空絶しか使ってないぞ。デストロイは重たいから使うのがめんどくさいんだ。」
「ふ〜ん、ちょっと見せてもらっていいかしら?」
「いいぞ。」
「……見たところ…妖刀、かしら?」
「あ、よくわかったな。一応妖刀の類だ。まぁ、害はないんだけど代わりに喋るんだ。」
「(妖刀とは失礼な………あんな外道と一緒にするとは)」

嘘は言ってねぇぞ、意志がある時点ですでに妖刀だろう……声だって俺には聞こえてるし。
まぁ、声は実力があるなら聞けるとかなんとか空戒が言ってたな。
ほぃ、ととりあえず渡してみる。

「喋る?この刀が?」
「おう、聞こえるかはわかんないけどな。……空絶。」
「(なんだ?)」
「………なに?今の……声?」

おぉ、聞こえたのか。
結構な実力者じゃないとこいつの声は聞こえなんだよな。

「それが意志を持つ刀、空絶だ。」
「ホントに喋れるのね……そっちの大剣は?喋るの?」
「いや、喋れるのはそれだけだ。こっちのは破邪の効果があるだけだ。」
「それでも充分すごいと思うけど………」

そうなのか?よくわからん。最初から持ってた剣だし。
そもそも「破邪の効果」ってのも何なのかよく知らないわけだし。

「貸してくれない?」
「無理だ。」
「なんで?」

何でと言われても……
重いからって言っても信じないだろうしなぁ。何キロあるかは計ったこと無いけど……

「重いから。」
「平気よ。」
「………まあ、いいけど。無理すんなよ。ほれ。」
「ありが………!?」

やっぱり無理だったね。支えるだけで必死になってるよ。
だから無理だって言ったのに。

「な?無理だろ?」
「………な、何なのよこの剣の重さは!」
「なんでだろうな?俺もしらん。」
「相沢君はよっぽどの力持ちね……」

そうなるのか?
それだったら師匠も化け物だな。
俺とデストロイを同時に持ち上げるし……
ところで、なんか忘れている気がする………

「あ!俺待ち合わせの途中だったんだ!わりぃな、もう行かねぇと。」
「そう、しばらくは街にいるんでしょ?それだったらきっとまた……明日あたりに会うわよ。」
「どういうことだ?」
「言葉通りよ。」
「まぁ、いいか。またな、香里。」
「またね、相沢君。」

そう言って俺と香里は別れた。
やばい……なんだかんだいって話し込んでしまった。
名雪、来てるかな?それとももう帰ったか?
どっちにしろいそがねぇと。

「はぁはぁ……誰も、いないか?」
「……もしかして、祐一?」

突然俺の名前を呼ばれたからビックリして振り向いてみるとそこには……

「謎の青い物体Xがいた。」
「う〜ひどいよ〜」
「冗談だ。久しぶりだな。」

振り返ると名雪が立っていた。
もはや7年前の面影はないな…しっかり成長してやがる。

「それにしても遅いぞ……」
「え?いま何時?」
「大体3時だな。」
「わ、びっくり。」

全然驚いてすらいねぇんじゃねぇか?
……間違った、元からこんな性格だ………

「まだ2時くらいだと思ってたよ。」
「おい。」

それでも1時間は遅刻でないのかい、ナユキさん?
確信犯だな。俺的裁判で有罪確定。

「はい、これ。」
「なんだこれ?飲み物か?」

名雪が俺に渡したのは何故か冷めた飲み物だった。
新手の嫌がらせか?

「何のつもりだ?」
「え〜とね、遅刻のお詫び、あと再会のお祝いだよ。」
「ほう、お前は2つ合わせてこの冷めた飲み物で済まそうというのか。」
「えへへへ………」

笑い事ではない。
ただでさえ【寒い、旅で疲れた、眠い】の三拍子が揃っているのに………

「さっさと案内してくれ。このままだと凍死しそうだ。」
「うん。」

やっと暖かい場所に行ける。
そう思って歩き出したが、突然名雪が足を止めた。

「どうした?」
「ねぇ、私の名前覚えてる?」
「あぁ、花子だろ?」
「……違う」
「じゃあ、次郎」
「私、女の子。」

名雪はいまにも泣き出しそうな顔をしている。
やばいな、ちょっとからかいすぎたか………このまま怒り出して置いて行かれると困るな。
仕方ない………

「ほら、さっさと行くぞ、名雪。」
「あ………うん!」

こうして俺は昔住んでいた街に戻ってきた。
何となくこれからの生活に不安があるのは気のせいだろうか………
「(あながち間違ってはいないと思うぞ、主よ……)」







後書き


はい、KANONの第3弾です!
後書きがなかったからここで代返させてもらって、外伝が2弾という事です。
まぁ、とりあえず今回の登場人物は名雪と香里です。
帰郷した祐一には、しっかりと恒例の場面に出てもらいました。(笑)
まずは目立った戦闘もなくのんびり逝かせて(字違い)もらいました。
読んでくださった人、これからもご愛読いただける方。
こんな作品なのですがどうぞ応援よろしく。
ちなみに今回以降に登場して貰う予定のキャラ&家柄は後書きに詳細を似せますのであしからず………

2002,09,02に改訂しました。







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