「ほら、さっさと行くぞ、名雪。」
「あ………うん!」

こうして俺は昔住んでいた街に戻ってきた。
何となくこれからの生活に不安があるのは気のせいだろうか………
「(あながち間違ってはいないと思うぞ、主よ……)」


















「そうして俺は水瀬家に着いた。」
「誰に喋ってるの?祐一。」
「気にするな。作者の陰謀だ。」
(ほっとけ!)

ん?何か聞こえた気がしたけど……まぁ、いいか。
でもまぁ、相変わらず綺麗なままの家だな。新築とほとんど変わってないだろ……

「なあ、名雪。この家って築何年だ?」
「知らないよ〜。私が生まれてきたときにはもうあったらしいよ〜。」
「………そうか……」

気にしないでおこう、細かいことを気にしてると生死に関わる予感がする……
(賢明な判断です♪)
聞こえない!俺は何も聞いていない!!

「……さて、何で俺はここに連れてこられたんだ?まぁ、秋子さんに挨拶するつもりだったから良いけど……」

とりあえず秋子さんに挨拶しようと思って、家の中に入ろうとしたら名雪に引き留められた。

「あ、待って祐一。」
「なんだ?」
「祐一は今日からここに居候するんだよね?そしたら『ただいま』って言わなきゃダメだよ。」

あ〜…そう言えば住む所考えてなかったな……
相沢本家(注1)に帰るのはなんか嫌だし、宿に泊まるには金がかかるからなぁ……
ま、どうにかなるだろ。野宿だって出来るしな。

「いや、居候するかはわかんないぞ。」
「え〜!」
「了承♪」
「「………」」
「(にこにこ)」
「あ、秋子さん!?」
「お母さん!?いつの間に!?」

いきなり背後を取られた……やっぱりこの人は何者なんだろう……

「企業秘密です♪それと、祐一さんの『さて、何で俺は〜』ってところからいましたよ♪」

ほとんど聞かれてるんじゃないか。しかも全然気配感じなかったし……
俺だって気配を完全に消すことが出来ないのに……敵わないなぁ。

「お久しぶりです、秋子さん。ところで何が了承なんでしょう……?」

何となく予想は付いてるんだけど………

「祐一さんが家に居候することですよ。」
「ホント!お母さん!?」
「えぇ(にこにこ)」

ほらやっぱり……泣きたくなってきた。

「でも、ご迷惑になりますし……」
「大丈夫ですよ。私たち2人で住んでいて部屋も余ってますから。」
「でも、やっぱり……」
「いいですよね?」
「いや、だから俺は宿にでも……」
「いいですよね?」
「ご迷惑に「いいですよね?」…………はい、お世話になります………」

なんでだろう……この人には絶対勝てない気がしてきた……
結局押し切られたし……

「では、これからお世話になります。」
「違いますよ、祐一さん。」
「そうだよ〜、これからは『ただいま』なんだよ〜」

居候だからそうなるのか……
本家に帰る気はないから良いか。

「そうですね……ただいま、秋子さん、名雪。」
「「おかえり(なさい)祐一(さん)」」

なんかいいな、こういうのも。
いままで無かったしな……





−○−○−○−○−○−○−





「じゃあ、祐一さんは2階の一番奥の部屋を使ってくださいね。」
「何から何まですいません……」
「良いんですよ。これからは家族なんですから。」
「一番奥って言えば私の部屋の隣だよ。」
「そうなのか?じゃあ、お隣さんだな。」
「うん♪」

名雪がとても喜んでいるように見えるのは何でだろうか?
やっぱり2人だけってのは寂しかったんだな。

「ところで祐一さん。あなたの『ギルドレベル』(注2)はいくらなんですか?」
「は?ギルドレベル?何ですかそれ?」
「え〜!!祐一ギルドレベルを知らないの!?」

なんか名雪に言われるとバカにされたみたいでむかつくな……
(言い掛かりだよ〜、祐一極悪だよ〜)

「ギルドレベルって言うのは要するに自分の実力を示したモノです。」
「はぁ、ちなみに秋子さんと名雪は?」
「私はAランクでお母さんはM(マスター)ランクなんだよ〜」

マスターですか……秋子さんは強いんだな……納得だ。
ところで名雪がAランク?違うだろう。こんななゆなゆが……絶対サバ読んでるぞ……」

「祐一極悪だよ〜。私だって強いんだよ〜」
「何故心の中がわかった!?」
「「声に出て(ましたよ)たからだよ」」

俺の癖ってやっぱり治らないのかな………

「秋子さん、俺自分のレベルって知らないんですけど……」
『ギルド』(注3)に登録していないんですか?」
「そもそもギルド自体知りませんし……レベルがあることは一応知ってましたけど。」
「4年前に異形と戦える者は全員登録するようにと通達があったはず何ですけど……」

4年前……確かそん時は師匠の剣術の特訓で地獄を見てた気がする……

「その時俺は山籠もりしてましたからじゃないでしょうか?」
「そうかも知れませんね。明日学園で確認してもらいましょう。」
「ちなみに学園って?」
「学園は魔法の基礎を学んだり、実力者は自身の魔法のレベルをあげる特訓をするところです。」
「はぁ……」

俺必要ないかも……基礎なんて全部師匠に教わったし、合成魔法なんてモノも作ったくらいだからな。

「あんまり行きたくないんですけど……」
「不了承。(1秒)」
「だめだよ〜」

随分とまぁ、判断が速いですね(泣)

「ちなみに拒否権は?」
「「ありません♪(ないよ〜)」」
「………わかりました(泣)」

絶対一生かかっても会話で秋子さんには敵わないかもな…。これはもう断言だ。
ん?そう言えば……

「秋子さん、俺、目が紅いし髪が銀色になってるんですけど疑問には思わないんですか?」
「相沢家の風習を多少は知っていますから…確か「あ、それは言わないで貰えますか…?」……分かりました。」
「よく分からないけど大丈夫だよ〜、いまの祐一格好良いもん。」
「そんなアバウトで良いのかなぁ…?まぁ、何はともあれ秋子さん、無理言ってすみません…」
「いいえ、いいんですよ。少しはわかっているつもりですから…」

相沢家には外には出せない機密度の高い秘密がある。それは、異形との契約である。
世界は8つの属性で成り立っており、全てが公平なバランスを保っているのだ。
1つでも欠けると世界は崩壊してしまう。そのために相沢本家が闇属性の契約を引き受けたんだ。
俺もその家系の掟通り契約はしている。
でも、今はいろいろあって最上級レベルのと契約ちゃってるんだよなぁ……
まぁ、そこまではさすがの秋子さんも知らないだろうけど…いずれ言わないといけなくなるのかな……

「……んじゃあ、明日からその学園って所に行けば俺のレベルとかもわかるんですね。」
「はい、そうですよ。手配しておきますから。」

明日になれば大体のことがわかるかな……手配って何だろう……
今日はもうやることもないし、体暖めてから寝ようか……
銭湯でも行って来ようかな?

「あ、お風呂はもう沸いてますから。どうぞ。」

………いまのは声に出してないよな?
しかも行動読まれてる?

「わかりやすいんですよ、祐一さんは。」

もはや細かいことは疑問には思うまい……ここではこれが普通なのだ。きっとそうだ。間違いない!
…俺ってそんなにわかりやすいのか…はぁ、もういいや、さっさと入ってこよう……





−○−○−○−○−○−○−





風呂から上がって秋子さんの用意してくれていた部屋に入った途端俺は唖然とした。

「何か、もう1つの部屋として確立してる………しかも全部本家にあった俺の家具じゃん」

そう、なぜか俺がすでにこの水瀬家に来ることが決まっていたかのように部屋には俺の家具が用意してあった。
何でここにあるのかまた無性に聞きたくなってきたな……
(良い度胸ですね祐一さん♪)
やめとこう、いま本能がそう告げてきた……
(……チッ)
……俺は何も聞いてない………
俺はとりあえずデストロイと空絶を床に置いてベッドに腰掛けた。

「今日はもう疲れたな………もう寝よう。たまには目覚ましでも名雪に借りて使ってみるか。」

確かとなりの部屋だって言ってたよな?
そこにはプレートで【名雪の部屋♪】としっかり書かれていた。

「……まあ、このプレートのことは気にしないでおこう。…名雪、起きてるか?」
「うにゅ。」

うにゅ?何語だ?しかも起きてるのか?

「目覚まし時計を貸してくれないか?」
「うにゅ。ちょっと待つんだお〜……」

だお〜ってなんだ?新種の名雪語か?

「どれでも好きなの使うんだお〜」

名雪が持ってきたのは大小合わせて数えるのが嫌になるくらいの量の目覚ましだった。

「……どれでもいい、名雪が選んでくれ。」
「じゃあ、1番上の白いのを使うといいんだお〜」
「ん、わかった。ありがとうな。」
「じゃあ、祐一。おやすみだお〜」
「あぁ、おやすみ。」
「さて、眠るか………」

部屋に戻って布団の上に倒れた俺の意識は夢の中へとすぐに入っていった。
その時はまだ次の日が今日よりも心労が激しいことは、俺には知る由もなかった。










後書き


第3弾かな?今回登場してもらったのは秋子さん!最強のママさんです。
いっぺんに出すとあとが大変なんで少数少数で途中までは行きます。
次回、他キャラ初登場。オリジナルの相沢一族も出てくるかな?
では、今回出てきた用語の解説にて後書きは終了させていただきます。
読んでくださっている方はこれからもよろしゅう!!



2002,09,02に改訂しました。





   用語解説



1・相沢家
  [Key]国に代々続く家系。祐一の実家。
  世界のバランスを片寄らせないために闇属性の異形と契約をしている。
  世界のバランスが崩れていないのはこういう家系がいくつか存在しているからである。
  (久瀬家もその1つ)
  そのために裏の世界では闇の眷属として恐れられている。



2・ギルドレベル
  ギルドに登録されている人が持つ自分の力。
  登録されているといろいろな保証が受けれる場合がある。
  ランクはEランクからD、C、B、A、S、SS、Mランクまである。
  マスター(M)ランクに今のところ登録されているのは20名に満たない。
  祐一の実力は近日判明予定。



3・ギルド
  ギルドレベルを確認したり、異形討伐の命令を出す機関。
  世界中にネットワークが存在していると言われる。
  ある程度なら異形の出現場所を調べることも出来る。







={Return to KANON SS}=