名雪が持ってきたのは大小合わせて数えるのが嫌になるくらいの量の目覚ましだった。


「……どれでもいい、名雪が選んでくれ。」
「じゃあ、1番上の白いのを使うといいんだお〜」
「ん、わかった。ありがとうな。」
「じゃあ、祐一。おやすみだお〜」
「あぁ、おやすみ。」
「さて、眠るか………」


部屋に戻って布団の上に倒れた俺の意識は夢の中へとすぐに入っていった。 その時はまだ次の日が今日よりも心労が激しいことは、俺には知る由もなかった。


















“朝〜、朝だよ〜、朝ご飯食べて学園に行くよ〜。”

ガバっ!

「な、なんだ?今の声は??」

謎の気が抜ける声によって突然起こされた俺は瞬時空絶を構え、その声の正体を探した。

“朝〜、朝だよ〜、朝ご飯食べて学園に行くよ〜。”
“朝〜、朝だよ〜、朝ご飯食べて学園に行くよ〜。”

………もしかして犯人は名雪から借りたこの目覚ましか?
っていうかこれで本当に目覚ましとして機能しているのか?

「はぁ……気にしないでおこう………空絶。」
「(……何だ?)」
「鍛錬だ、久々にやってこようと思う。」
「(良い心構えだ)」
「……なぁ、デストロイも持っていかなきゃダメか?」
「(別に構わないだろう、今のところ強い異形の気配はないから)」
「うし、なら行くか。」

さっさと外に出ようと廊下に出た途端。

「……寒い。」

寒かった…
室内だってのに何でこんなに寒いんだよ!
普通家の中って暖かいもんだろ!!
鍛錬するのやめようかな……

「あら、祐一さん。お早いですね。」

階段の方から声がしたんで行ってみたら何故か秋子さんがすでに起きていた。

「秋子さんこそ早いですね、まだ6時前ですよ。」
「朝ご飯の支度をしなければいけませんから。」
「あ、ごくろうさまです。え〜っと、俺ちょっと鍛錬しに外行って来ます。」
「了承です。朝ご飯までには帰ってきてくださいね。」
「7時半頃戻ってきますよ。では、行って来ます。」
「行ってらっしゃい。」





−○−○−○−○−○−○−





……はぁ、暇だな……
鍛錬も1通り済まして水瀬家に戻った俺は与えられている部屋でくつろいでいた。
しばらくして……

バタンッ

遠くから勢い良くドアを閉めるような音が聞こえてきた。

ドタドタドタ……

直後、板張りの廊下を走るような足音が騒がしかった。

「なんだぁ?」
「(…名雪殿の気配がするな、なにやら慌てているようだが?)」
「そうか、サンキュ。」

『あっ、わたしまだパジャマだよ』

廊下から間延びした口調の声に祐一は前に崩れ落ちた。

『う〜っ、全然時間無いのに……』

切羽詰ってるような台詞の割には、あまり大変そうに聞こえないぞ……
そもそも焦っているのか?

バタンッ

そして、再び勢い良くドアが閉まる音が聞こえてきた。
疑問を解決しておこうと思って扉を開けるとそこには名雪が暴れていた。」

「う〜、私暴れてないもん。」

どうやらまた声に出ていたらしい。
いつものことか……

「で?なにやってんだ?」
「あ、そうだよ〜私の制服がないんだよ〜!」
「制服?昨日来てた変な服のことか?」
「変じゃないよ!」
「まあ、落ち着け。昨日の雪で濡れたからって秋子さんに預けたんじゃないのか?」
「わ、そうだったよ〜、行って来なきゃ!祐一も早く準備してね。」

確か昨日名雪がなんか言って秋子さんに渡しているのを見たような気がするし……
まぁ、渡してなくても秋子さんならどうにかするんだろうけど。

「……って言うか準備って何だ?」
「学園へ行く準備ですよ、祐一さん♪」
「………秋子さん、頼みますから気配消して背後に回らないでください。」
「あらあら♪」

絶対楽しんでるよな……
何でこんな簡単に背後を取られるんだろう…?常に周りには警戒しているのに…

「ところで名雪が秋子さんを探しに下に降りていきましたけど?」
「制服ならもう渡してありますから。」

いつの間に……

「準備って言われても、制服ってやつ俺持ってませんよ?」
「大丈夫ですよ、もう部屋にかけてありますから。」

俺はそう言われた瞬間に部屋に駆け込んだ、そこにはしっかりと壁に掛けられた、新品のブレザーがあった。
一体いつの間に部屋に掛けたんだろう…俺、ずっと部屋にいたのに…





−○−○−○−○−○−○−





「で!何で俺は走っているんだ〜!!」
「ふぁいと、だよ!祐一!」

そう、何故か俺は走っている。
学園には8時半には着かないといけないらしいんだが、今の時刻は8時25分。
その問題は名雪にあった。

「どこの世界にトースト一枚食うのに10分以上かける奴がいる!!」

ただでさえ重量のあるデストロイに加え、空絶を持って走るのははっきり言ってきつい。
あぁ、慣れていると言えばそれまでだが………

「だって、イチゴジャムなんだよ!」
「意味わからん……」

いつもか?いつもこうなのか!?
毎朝走らないといけないのか??

「名雪、あと何分だ?」
「えっと……100メートルを6秒で走れば着くよ。」

それは世界新を狙えるぞ……




そのあと必死で(俺はそこまででもなかったけど…)走ってどうにか予鈴前には着いたらしい。
俺達と同じような制服を着ている奴等を多く見かけたからだ。

「どうにか着いたみたいだな。」
「間に合ったよ〜」

名雪の息が切れていなかったことに少し感心してしまった。
さすが毎日走ってるだけのことあるな(嫌味)

「名雪!」
「あ、香里だ〜。おはよ〜」

突然声が掛かったにもかかわらず平然と答える名雪、もしかしてこいつに驚くという言葉はないのだろうか……

「おはよう。……あら?あなたは?」
「よう、ホントにまた会ったな。」
「ね、言ったとおりでしょう?」
「え?え?香里と祐一知り合いなの?」

名雪は混乱している。
まあ、そりゃそうだろうな。
始めて会う相手だと思っていたのに実はすでに会ってたんだからな。

「昨日名雪がまだ来ていないときに会ったんだ。」
「へ〜そうだったんだ。」
「のんびり立ち話も良いけどもう予鈴鳴るわよ。」
「わ、急がなきゃ〜。祐一はどうするの?」
「俺はとりあえず秋子さんに聞いた職員室って所に向かうつもりだ。」

っていうか行けって言われたし、そこしかまだ頼れなさそうだからな。
教員達の集まっている場所って言ってたからな……強い奴いるかな?

「そうなの。じゃあまたね、相沢君。」
「あとでね〜、ゆういち〜」

俺等はとりあえず玄関で別れた。






「……やっと着いた。」

玄関までは道案内もいたために簡単に着いたが、そこで別れるべきじゃなかった。
この学園は予想以上に広かった。しかも無意味に……
職員室を探すのにも苦労しているし、俺この学園でやっていけるのか?

「失礼します。転校してきた相沢と言いますが。」
「お〜、転校生。やっと来たな。俺がお前の担任の石橋だ、よろしくな。」
「よろしくお願いします。」

石橋か……たいした実力者じゃないな。
俺は石橋に連れられて、俺が入るクラスまで行った。

「お〜し、みんな!席に着け!転校生を紹介するぞ!!」
「「「「「おぉ〜〜〜〜!!!」」」」」

なんとまぁ、威勢の良さそうな連中がいること……

「ちなみに男だ。」
「「「「「…………」」」」」

悪かったな男でよ!
畜生、どうせ男の転校生は歓迎されないのさ……

「よ〜し、入ってこい。」
「……相沢祐一です。よろしく。」

シンプル イズ ア ベスト。
やっぱりあっさり挨拶すべっ……
教室の窓際に知っている顔を見つけて俺は瞬時に固まってしまった。
名雪が嬉しそうに、そして香里がからかい半分で俺に向かって手を振っていたからだ。
よくわからんが、男共の視線が突き刺さるように痛いんだが……なぜだ?

「あ〜、相沢の席は窓際の後ろから2番目、詳しいことは隣にでも聞け。以上、HRは終わりだ。ちなみに相沢の目と髪は学園で公認されているから気にするな。」

しっかり髪と目の手配もされていた……秋子さんって一体?
考えていても仕方無いので、しぶしぶその席に行くと名雪の満面の笑みで迎えられた。

「ゆういち、隣同士だね♪」
「同じクラスになるなんて思わなかったわ……」

香里の意見に同感だ。こんなただっ広い学園で同じクラスになるなんてかなり確率は低いぞ。

「なんだ?転校生は水瀬や美坂の知り合いか?」
「ん?知り合いといえば知り合いだが…」

後ろから声をかけられたからとりあえず振り向いてみた。
そこには金髪で髪の一部がはねているアンテナ男がいた。」

「随分と失礼な奴だな……」
「なに!何故心の中がわかった!?」
「「「声に出てた(んだよ、のよ、よ〜)」」」

またか………気にしないどこ。

「それで、お前はだれだ?」
「俺は北川潤、ランクはBだ。お前も転入早々可哀想だな……クラスの奴等を敵に回すなんて……」
「そのことなんだが何で男どもが俺を睨んできているんだ?」
「そりゃあクラスで1番人気の美坂と2番人気の水瀬がいきなり親しそうに話しかけてるんだからな。」

ランクはBか……結構高いな。
香里の件は偶然として、名雪の方は仕方がないだろ?だって従兄弟だし。
それにしては視線が痛いぞ?ちょっと睨み返してみようかな……

「睨み返すのはやめなさいね、相沢君。」
「ぐはっ、何でわかったんだ香里?……北川、ちなみに言っておくが俺は自分のランクは知らないぞ。」
「はぁ?なんでだ?」
「通知ってのが配られた時は山籠もりしてたから。だからギルドってやつの情報が入ってこなかったんだ。」
「じゃあ、そういう奴にはあれがあるんだな。」
「そうみたいね、あんまり相手がいないから私はつまらないんだけど……」
「香里、北川。あれって何だ?」
「それはね………ランク決定戦よ

………なんだそりゃ?
要するにランクを決めるために何かするのか?

「具体的には何をするんだ?」
「そうね、まずは戦ってみたい自分のランクを指定して、そのランクの代表と戦うの。それで勝てればそのランクは合格ってわけ。」
「ちなみにMランクでは川澄さんが相手になるんだってよ。」

川澄………?どっかで聞いたことがあるような………
川澄、カワスミ、かわすみ………!

「なぁ、もしかしてその川澄って奴、下の名前を『舞』って言わないか?」
「え?なんでお前が川澄さんの下の名前知ってんだ?」

やっぱりか、じゃあやっぱりあの舞なんだな。なんか久しぶりだなぁ……大体7年ぶりか、強くなってるかな?
戦ってみたいな…じゃあ、一気に決めるか。

「うし、決めた。俺Aランクから始めるわ。」
「「「………えぇぇ〜〜〜〜〜!!!!!」」」

むぅ……なんなんだよ………








後書き


第4弾なんだけど………書くことが特にないんです。
言うなれば眠たい。無性に眠いときってものがありますからねぇ……
特に書くこともないってことで今回はこれにて終了。
では次回。

2002,09,02に改訂しました。







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