祐一「なぁ?舞って異形の上級と戦った事ってあるのか?」
名雪「噂だったら1匹かろうじて倒したって話しなんだお〜」
北川「上級の異形って言ったら確かSランクが10人以上いてもギリギリなんだろ?」
祐一「……と、いうことは…俺の方が強いかもな。」
香里「どういうこと?」
祐一「だって俺もういままでに10匹以上倒して来てるし。」


一同「……………」

あ、また固まった。そう言えばここってまだ闘技場だっけ?
通りで何か大量の視線を感じると思ったら……
……なんかすっげー嫌な予感……耳ふさいどこ。

一同『えぇ〜〜〜〜〜!!!!!!』

ほらやっぱり…


















祐一「いったい何を叫んでるんだ?みんな?」
北川「これが叫ばずにいられるか!!」
石橋「はっ!気絶していた……わかった、とりあえず準備はしといてやる。まぁ全力で頑張ってくれ。」
祐一「どうも♪んじゃ、俺先に帰るな〜」

俺は逃げるように闘技場から出ていった。
少したったあと後ろから「なんなんだあいつは!?」とか「人間じゃねぇ!?」とか聞こえた気がするけど気にしないでおこう。
だってもうほとんど人間じゃないし。

祐一「………俺ってやっぱり方向音痴か?ここはどこだ?」

そう、俺はまたただっ広い校舎の中で迷った。
しかもここはなんだ?闘技場とは違うけどやっぱり広いぞ。

??「………あなたは誰?」
祐一「お?」
??「異形?」
祐一「その声は舞か?」
舞 「………だれ?異形に知り合いはいない。」

さっすがだな、俺の中に異形がいるって一発でわかるなんて。
確かに外見がかなり変わってるからわかんないのも無理ないのか。

祐一「久しぶりだな舞、俺は祐一だぞ。」
舞 「……祐一?違う、祐一は茶髪で黒目だった。」
祐一「事情があるんだ。気にするな。」

あ、その目はまだ疑っているな…昔みたいに軽口でもたたいてみるか?

祐一「うぅ、でも忘れるなんてひどいぞ。せっかくあんなに遊んだ仲だって言うのに。」
舞 「……やっぱり祐一だ。その言動が変わってない…」
祐一「お、わかってくれたか。んで、こんな広いところで何してたんだ?」
舞 「……佐祐理を待ってる。」
祐一「佐祐理?」

佐祐理……どっかで聞いたような?
どこだったかな?

??「舞〜〜、待たせてゴメンね〜。」
祐一「……?あの人が佐祐理さんか?」
舞 「………そう」

声の聞こえた方向を見てみると、甘栗色の長い髪を緑色のチェックのリボンでしばっている女の人がこっちに駈けてきていた。
なかなかかわいいな…

佐祐理「はぇ〜?舞、この人は?」
舞 「祐一。」
佐祐理「祐一さんって言うんですか。佐祐理は倉田佐祐理って言うんですよ〜」
祐一「よろしく、佐祐理さ……」

ん?ちょっとまて、いま「倉田」って言ったよな…確かこの国の国王も倉田って名前だったよな…

祐一「あの、つかぬ事お伺いしますが倉田って言うと国の王様の倉田様ですか?更に聞くとあなたはその方のご息女なんでしょうか?」

国王である倉田将和(注1)様の一族だったら俺の言葉遣いは一種の反乱行為………なのでは??

佐祐理「そうですよ〜、お父様は一応この国を治めてるみたいですねぇ〜」

マジですか………俺ってめちゃくちゃ失礼な言葉遣いだったよな…
はぁ、つくづく平穏とはほど遠いなぁ………

祐一「申し訳ございませんでした!出過ぎた言葉遣いをお許しください!」

とりあえず謝るべし!それでダメなら……どうしようか……?

佐祐理「気にしなくていいですよ〜いままで通りの言葉遣いでいてくれたほうが佐祐理は嬉しいです〜。」
舞 「佐祐理の言うとおり。気にしない。」
祐一「良かった……」

よかった…結構感じのいい人みたいだ。
…あ、そういえば。

祐一「舞、今度の試合よろしく頼むな?」
舞 「……試合?」
佐祐理「祐一さん、さっきSランクとして登録されたんですよ〜舞。」
祐一「んで、腕試しもかねて次はMランクに挑戦しようってわけだ。」
舞 「………手加減はしない。」
佐祐理「はぇ〜、そうなんですか〜。2人とも頑張ってくださいね。」
祐一「ところで佐祐理さんのランクは?」
佐祐理「佐祐理ですか?佐祐理はSランクですよ〜。」

Sランクって言えば香里と同じか……あれ?何で佐祐理さんじゃなくて香里が代表なんだ?」

舞 「佐祐理はこの国のお姫様だから必要以上は戦わせない。」
祐一「あ、なるほど。……ってなんでわかった?」
舞 「声にでてた」
佐祐理「声にでてましたよ〜」

これで何度目だ?目指せ3桁……目指してどうするんだろ。
いいや、気にしない気にしない。

祐一「とりあえず舞、玄関までの道を教えてくれ。そろそろ帰らないと。」
佐祐理「お帰りになるんですか?じゃあ、佐祐理達と一緒にいきましょう。」
舞 「はちみつくまさん」

………まだ使ってたんだな舞。
「はい」が「はちみつくまさん」で「いいえ」が「ぽんぽこたぬきさん」………
昔から無愛想だった舞に俺が教えた言葉だ。

祐一「そうしてもらえると助かります。」
佐祐理「じゃあ、行きましょう♪」

こうして俺は佐祐理さんと舞に連れられて無事に玄関にたどり着き、そこで別れ家路に着いた。
しかし家に着いた途端再び騒ぎの元がいるなんて思っても見なかった。





祐一「ただいま帰りました。」
秋子「お帰りなさい、祐一さん。どうでした?ランクの方は?」
祐一「ただいま、秋子さん。とりあえずはSランクです。後日Mランクの舞と戦うことになってます。」
秋子「あらあら、やっぱりSランクでも相手になりませんでしたか。」

やっぱりってなんですか!?
もはや秋子さんは何かに感ずいている?俺の中の異形のこととか………

秋子「祐一さん、契約した異形のこと、それと通り名のことをよかったら教えてくれませんか?」
そう言いつつも秋子さんが、どこからともなく取り出してきたモノはオレンジ色の『あれ』が入った瓶(注2)だった。

祐一「………すいません…いくら秋子さんのお願いでもこれは話したくありません…」

俺は半分怯えつつそう返答した。
そこでなにビビってんだ!とか思った奴!それは大きな間違いだ!秋子さんの持っているあれは人間の食い物じゃない!
あの謎邪夢(注2)は1瓶で国を手中に出来る威力があげふんげふん……
……とにかく逆らわないことだ!!
って、話がそれたな…とにかく、今は話したくない…
過去に俺が立ち寄った村に異形が攻めてきた。その時に異形の進行をくい止めるために仕方なく俺は戦った。
その時に紅眼の魔剣士だとバレた。それだけならよかったんだ…
でも、些細なことから俺が異形と契約していることがわかった。
その途端、村の人たちは手のひらを返したかのように俺への接し方が変わったんだ。
いままでは、村を救ってくれた恩人。バレたあとは化け物扱い…
それ以来俺は人に自分の正体を話すことはしていない。もう、あんな思いはしたくないからだ。

秋子「……そうですか…いずれ、いずれ話してくれませんか?」
祐一「……それは約束できません…俺、部屋にいますね…

秋子さんに聞かれたが、そう答えるのが精一杯だった…
人の汚いところを見過ぎた俺には自分の正体すら話すことに臆病になっている。
だから、いくら知り合いでも話す気にはなれないんだ…

秋子「そうですか…話してくれるのをまってますね。」
祐一「………」

答えることは出来なかった…
部屋に戻った俺はそのままベットに倒れ込んだ。

祐一「………いつまでも臆病ではいられないよな…」








 〜秋子視点〜



困りました…予想以上に祐一さんは辛い目にあったようです…
あそこまで辛そうな顔をされてしまうと深く聞くことが出来ないじゃないですか…

秋子「さて、どうしたものでしょう…?」
名雪「お母さん、祐一帰ってきたの?」
秋子「えぇ、今はお部屋にいるわ。」
名雪「じゃあ、遊びに行ってこようかな。」
秋子「……名雪、今はそっとしておいてあげて…なにか悩んでいるようだったから。」
名雪「う〜…それなら残念だけど諦めるよ…」

名雪には嘘をついてしまいました…
祐一さんを悩ませたのはこの私なのに…
でも、私たちを祐一さんに信じてもらいたいです…
たった一人で抱え込まず、みんなに話して欲しいんですよ…
きっとみんな受け入れてくれるはずですから…

名雪「お母さん、どうしたの?具合でも悪いの?」
秋子「なんでもないですよ、ちょっと考え事をしていただけですから。」
名雪「そうなんだ。あ、そうだ!今日は私も晩ご飯の準備を手伝うよ!」
秋子「そう、ならお願いしようかしら。」
名雪「うん、まかせて!」 

……話してくれますよね?祐一さん…








 〜祐一視点〜



祐一「空絶、俺はどうしたらいいと思う?」
空絶「(……我にはよくわからんが、ここの者達は信頼しても良いのではないか?)」
祐一「信頼できるのはわかっているつもりだよ、でも、やっぱり怖いんだ…恐れられるのが…避けられるのが…」

人は孤独を恐れる生き物だ。
それが普通の人とは違う業を背負ったものなら尚更に…

空絶「(………)」
祐一「赤の他人に敬遠されるのはまだ耐えて来れた、だけど…名雪や秋子さん…身内に避けられるようになったら俺は多分俺でいられなくなる…」

旅で正体がバレ、畏怖の眼差しを受けたことも多々ある。
しかし、その全ては一時的なものだった。だから耐えて来れたんだ。
だけど、名雪や秋子さん、自分により近しい者からのそんな視線に耐えきるほど俺は強くないんだ…

空絶「(……それが怖いということの内容か?)」
祐一「あぁ、そうだ。軽蔑するだろ?最上級の異形と契約したのがこんなガキなんだから…呆れるよな…」

自嘲気味に笑ってしまう…
これほどまでに自分が情けないと思ったことはないかも知れない…
強くなれたと思っていた…でも、結局は俺は弱い人間に変わらないんだ…

空絶「(…人には恐怖というものが一つや二つはあるものだ。それを乗り越えなくては先に進むことなどできん。今のお前が“あいつ”を倒す?はん、笑わせるわ。そんな弱い心では勝てる敵にも勝てんだろうな。)」
祐一「…………」
空絶「(我はこれでもここ数年、お前と共に旅をしてきた、それなりにお前のことをわかっているつもりだ…)」
祐一「何が言いたい?」
空絶「(もっと周りを信頼して見ろ、今のお前は決して一人ではないはずだ。この町には信頼を置ける者達もいる。そいつ等を信じてやることだ。)」
空絶「(そして、お前には我がいる、例えお前が敬遠されようとも、自我が崩壊しようとも、我は最後の時までお前と共にある…)」

それは空絶の心の底からの本心だとわかった…
そう、昔から空絶は俺を支えてきてくれていたんだ…初めて空絶と会ったときから、ずっと…

祐一「………悪いな…」

胸がいっぱいでそれだけしか言えなかった…
だけど、空絶にはちゃんと俺の気持ちが伝わったみたいだ…

空絶「(………ふん…世話の焼ける主だ……)」







後書き


改訂版の第6弾ですかね?結構改訂作業ってめんどくさいですね…
とりあえず……今回大量に登場キャラがでてません…改訂前は多数出てたのに…
6話からは話が更に変わっていくでしょうね。
どうか、気長に待っててくださいw

2002,09,03改訂






   用語解説


1・倉田将和
(くらたまさかず)
  [Key]国を治めている家系。佐祐理、一弥の実家。
  国が平和なのは秋子さんの陰の力とこの人の人柄が大きいだろう。
  い・ち・お・う王様だが、実際は女王の方が実権を握っている。
  女王の名は倉田香澄(くらたかすみ)。
  この一家は途方もないくらいの平和主義者でもある。



2・謎邪夢

  秋子さん印の決定版!
  これを食べるには少なくとも死を覚悟しておく必要がある。
  何故か秋子は平然と食してはいるが………(だてにMランクじゃない?)
  祐一は一度食して生死の境を彷徨った。







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