祐一「………ありがとうな…」

胸がいっぱいでそれだけしか言えなかった…
だけど、空絶にはちゃんと俺の気持ちが伝わったみたいだ…

空絶「(………ふん…世話の焼ける主だ……)」


















空絶「(…さて、これからのお前はどうするつもりだ?逃げ続けるか?皆にうち明けてみるか?)」
祐一「……あいつ等を信じて…言うだけ言ってみる…拒絶されたとしても…俺にはおまえがついてきてくれるからな。」
空絶「(……そうか。)」

そう、いつまでも逃げていられないんだ…
俺は決心して秋子さんのいるであろう居間に向かっていった。





祐一「……秋子さん…」
秋子「…祐一さん?どうしました?」

俺が部屋に行く前まで、とても暗い話をしていたのに、今はもう普段通りの接し方をしてくれている。
この人を…この人達を信じるって決めたんだ。

祐一「……全て…全てお話しします。俺が失踪していた7年間のこと、いま俺が契約している異形のことも…」
秋子「………いいのですか?私は、あの子達にも言わないで、祐一さんの悩みが落ち着くまで待ちますよ?」
祐一「大丈夫です、もう決心は固まっていますから…それに逃げていては何も始められませんから…」
秋子「そこまで言うのでしたらわかりました。…でも、辛かったら言ってくださいね。出来うる限り力になりますから。」

やっぱり、秋子さんは俺の心の内なんてお見通しみたいだ…だけど…なんか暖かい…
優しく包まれているような安心感があるんだよな…

祐一「…気を遣わせてしまいましたね…すいません…」
秋子「いいんですよ、一番辛いのは祐一さんなんですから…」

ほんとに参ったねこれは…完璧に読まれてるよ…

祐一「…面倒ついでにお願いがあります。過去に俺があるモノを預けている知り合いがいるんです。そいつも呼んでもらえますか?」
秋子「…わかりました、名前はなんと言うんですか?」
祐一「……天野美汐と沢渡真琴です。」
秋子「わかりました、呼んでおきますからそれまで部屋で休んでいてくださいね。」
祐一「……はい、わかりました。」

これでもう後戻りは出来ないな…
だめだな…この期に及んで話すことをまだビビってるよ…
……もう逃げないって決めたんだ。










コンコン

秋子「祐一さん。いまいいですか?」
祐一「はい、いいですよ。」
秋子「とりあえず、祐一さんと交友関係がある人達を数名居間に呼んでありますから。」
祐一「お手数おかけしました…」
秋子「気にしないでください。では、決心が固まったらでいいです、その時に降りてきてくださいね。」
祐一「……大丈夫です。じゃあ、行きましょう…」

そして、俺は秋子さんと一緒にみんながいるという居間に向かった。
これほどまでに一歩一歩進むのが辛いなんて初めて感じたよ…
それは逃げ出してしまいたくなるほどに…

香里「あら、相沢君。私たちに話があるって言っていたみたいだけど?」
北川「なんで俺まで呼ばれたんだ?」
祐一「悪いな、手間…取らせて。」
北川「気にすんな、俺とお前の仲だろうが。」
香里「北川君の言葉通りね。」

2人がもっとも言いそうな言葉がこう、いとも簡単に出てきたことに苦笑してしまった。
この2人はどこか、似ているような所があるんだよな…

真琴「あぅ〜!ゆういち〜!!」
美汐「お久しぶりです、相沢さん…」
祐一「…7年ぶりだな…天野、真琴…」

真琴が叫んで飛びついてきた、そのあとに続いてゆっくりと天野も近づいてきた。
秋子さんは頼んだとおり連れてきていてくれたんだな…
って、待てよ?秋子さんの知り合いではなかったはずなんだが…底が知れないぞ…

祐一「天野、ありがとうな。真琴を預かっていてくれて…」
真琴「あう?」
美汐「いえ、大したことではありません。」
祐一「そのおばさん臭い言い方も相変わらずだな。」
美汐「相沢さんこそ相変わらず失礼ですね。物腰が優雅で上品と言ってください。」

……なんか強化されてないか?言葉遣いが…

美汐「失礼なことを考えている最中に失礼しますが、真琴は相沢さんが引き取るのでしょうか…?」
祐一「声には出していないはずだが…?……まあいいや、天野と真琴がよければこれからも頼んでいいか?な、真琴、おまえはどうしたい?。」
真琴「あう?私は美汐といるの〜。」
祐一「だ、そうだ。いいか?」
美汐「えぇ、私も真琴といると楽しいですから。」
祐一「ありがとな…」

さて…そろそろ本題に入るか…。
舞達もいるしな…待たせると叩かれるかな?


ポカっ!


祐一「って、考えてる最中にこれかい!」
舞 「祐一、早く始める。」
佐祐理「はぇ〜、舞ったら祐一さんに構ってもらえなくて拗ねてますね〜」


ポカっ!


佐祐理「きゃあ♪」
舞 「そんなことない…」

そんなに頬を赤くして反論しても意味がないと思うが…

祐一「舞が拗ね始めたからな……そろそろ…本題に入ろうか…」

そういって普段のおふざけの顔から一気に真剣な顔になる。
すると、周りも雰囲気を察してくれたようだ、みんな真剣になってくれたようにみえる。
その証拠に顔がしっかりこっちに向いているからな。

祐一「これから…これから俺が話すことは全てが真実だ。でも、信じる、信じないはみんなに任せる。だけど…はっきり言って、俺はこのことを話すのが怖いよ…今まで隠してきた事だからな。これを聞いたあともいままで通りに接してくれとは言わない、それも任せる。」

みんながみんな、俺の言葉に訝しんでいるような顔になっている。
だけど、そんなことに構う気も暇もない、時間がたつほど決心が薄れそうだからだ。
そして俺は、昔のことを思いだし、語り始めた……

祐一「そう、始まりは6年前。あの時から始まったんだ………」




その時の俺はまだまだ弱かった。
相沢家、久瀬家には闇属性を得るために代々異形と契約してる。
俺も例外なく契約したよ、低級で扱いやすいだろうと俺の親が選んだ異形とな。
でも、俺にはそれが耐えられなかった、だから家を出たんだ。
そして、どこかにある森の中で身を隠そうとした、でも、出来なかった。
異形と契約したモノは限りなく魔に近い波動を出すんだ。
そのためにその波動にひかれて大量の異形が休む間もなく襲ってきてた。
そしてある日、その時は訪れた。
俺はかつて無いほどの大量の異形に囲まれたんだ。
低級に始まり中の上レベルの異形まで、それこど数えられないぐらいのな。
しかもそこは鬱蒼とした森の中、当然通りかかる奴もいない。
持っている武器は満足に振ることさえ出来ないデストロイだけ。
俺は必死に逃げた。でも所詮は身体能力の違いが物を言う。
俺はあっけなく捕まった。
そして異形達に嬲り殺され……いや、正確には殺そうとはしなかったんだ。
それこそ生き地獄だった…死ぬこともなく助かる見込みもない。
生きるのに必要最低限を残して臓器は体からえぐり出された。
血反吐が枯れるまで殴られ、蹴られ、身体中の肉はかみ切られ、引き裂かれた。
足の骨も粉々に砕かれていたから走って逃げるのも不可能だった……
異形達は俺の恐怖、絶望、苦痛を餌にしてたんだ。
つまりもとより逃がすつもりも殺すつもりもなかったって事だ。




祐一「…ここまでで聞きたいことはあるか?」
真琴「あぅ〜!」
名雪「だお〜!」
祐一「それが質問か?意味がわからないぞ。」
香里「それ…本当の話…?本当なら…普通は生きていられないじゃない…」

香里が顔を青くしながら聞いてきた。他の人の反応も叫ぶか顔が青ざめてる。そのどっちかだった。
ただ、珍しく秋子さんが驚いているような顔をしているけど……

北川「いまいち、信じられねぇな…」
香里「同感ね…」
祐一「…………」

まあな…こんな非現実的なことを信じろってのが無理があるのはわかってる…わかってるさ……

祐一「とりあえず…話、続けるぞ…」




その時の俺が死ななかったのは異形達が出来るだけ長く、俺を餌として使えるように俺に力を分けてたんだ。
もともと俺の家系は異形と契約して闇属性の力を手に入れることになっていた。
それが異形にとっても好都合だったってわけだ。
人がそれぞれ持つ自分の属性をかけてやると、少ないダメージですむか、体力や身体機能が回復するんだ。
俺は回復する方だった。死なない程度に闇属性のエネルギーを与えられてた。
簡単に言えばもはや生け贄だ。それが半年も続いたんだ。
あれほど死ねないことが辛いとは思わなかったよ。
そしてまた俺はいつものように異形達の餌の時間が近づいてきて、嬲られかけたんだ。
でも、その日は…あいつが……ルシファーが俺達の前に姿を現したんだ。
俺にとっては全ての異形がもはや俺を餌として扱うだろうと考えていたからな。
結局は苦痛と絶望しか感じてなかったよ。
でも…ルシファーは…ルシファーだけは、そこにいた他の異形とは違ったんだ。

「…貴様等、何をやっている。」
「うるさい!食事の邪魔をする気か!」
「食事?その少年の事か?」
「そうだ、こいつは闇の属性だ。俺達がちょっと力を分けるだけですぐに回復する便利な餌だ。」
「………そんなことを何年やっている………」
「なあに、まだ半年さ。まだまだこいつには俺達の餌として生きてもらうさ。がはははは」
「そうか……じゃあ……俺が貴様等を餌にしてくれる!!

そう言うとルシファーは一瞬で俺の周りにいた異形を殺したんだ。
いや、消し去ったって言った方が正しいな。本当に一瞬だった。
そして俺に近づいてきてこう言ったんだ。

「少年、我らの同属が済まないことをした……」
「…お前も……あいつ等の…仲間……なんだろ……俺を…どうする……つもりだ……」
「もし、お前にまだ生きたいという意志があるならば我と契約しろ、お前にはその見込みがありそうだ。だが、もはや生きていくのが嫌だというのならば、我がお前に永遠の安らぎを与えよう。」

俺の道はどっちにしろ2つしかなかったんだ。
このまま生き続けてもどうせ俺はまた異形に捕まって餌にされるだろう。
相沢家に戻れば話は別だけど、そんなつもりはサラサラなかったしな。
はっきり言ってそんなのはゴメンだった。
だからこう言ったんだ。

「……俺は……まだ…生きたい……いや、生き抜いてやる!俺と契約しろ!!」
「ふ、ふははは!!!我に向かって命令口調とはたいした少年だ。気に入った、いまより我はお前の力となる血の契約をしよう。」
「…血の……契約?」
「そうだ。我の血をお前にお前の血を我に飲ませるのだ。その後にお前はとてつもない苦痛を味わうだろう、しかしそれに耐え抜いた暁には完全に我の力は少年、お前の物となる」
「上等だ!この半年の間に味わった痛み、絶望に比べれば軽いもんだ。」

そして俺とルシファーは自分たちの血をそれぞれ相手に飲ませたんだ。




……いくら決心したっていっても…やっぱりキツイかな…今にも逃げ出してしまいたい…
…大丈夫、きっと大丈夫だ…みんななら…きっと。

祐一「ふぅ……とりあえず、休憩を取ろうか…?」
香里「……良いから続きを聞かせて。」
祐一「…あぁ…秋子さん。とりあえず気絶した奴の介抱をお願いします。」
秋子「了承です。」

そう言って秋子さんは隣の部屋にダウンした真琴、名雪を連れて行った。
そしてすぐに戻ってきた。あいつ等はどうしたんだろう………

祐一「美汐、顔色が悪いぞ?」
美汐「大丈夫です。それにあなたが真琴をおいて去って行ってから行方が掴めなくて、真琴が暴れいて大変でしたから………聞いておきたいです。」
祐一「そうか。佐祐理さん、舞。無理すんなよ。」
舞  「……大丈夫」
佐祐理「……佐祐理も平気です〜……」

とは言っても秋子さんもちょっと顔色が悪くなってる…
やっぱり聞いていて気持ちのいいものではないよな…

祐一「みんな、無理すんなよ…別に最後まで聞いていてくれなくてもいい。耐えきれないと思ったら部屋から出てくれ。」

これで最後かな…





ルシファーの言ったとおりかなり血のせいで苦しんだのは確かだ。
でも、異形達にやられたのに比べれば全然楽だったよ。
3日ぐらいかな?やっと体内に入ってきたルシファーの血と俺の血のバランスがとれたみたいだったんだ。
そうして耐え抜いた俺にこう言ってきた。

「ほう、耐え抜いたか。我の血を耐え抜く者などこの何千年といなかったが…おもしろい…。いいだろう、約束通り我の力をお前に貸し与えよう。」
「はぁ、はぁ……おい、お前の名前は何だ…?俺みたいのに…力を与えた…物珍しい異形として…覚えておいてやる…よ。」
「ははは、それは光栄だ。私の名は『ルシファー』。少年、お前の名も覚えておいてやろう。」
「俺は相沢祐一だ。しっかりその頭ん中叩きこんど…け……」

そこで俺は体力の限界がきてそのままとても深い眠りに落ちたんだ。
その間に何故か異形に襲われなかったのか不思議だったけど、目覚めたときにすぐわかったよ。
森のあらゆる場所の異形が死んでたんだ。
何か、すさまじい力によって引き裂かれたみたいな奴、身体の9割が消え失せて死んでいる奴がな。
そして、それから俺は森を出て、力を付けるために、ルシファーの力を操れるようになるために旅を始めた。






祐一「っとまぁこれが6年前から5年前までの出来事。その1年後くらいに師匠に出会った。師匠は一発で俺の中のルシファーを見抜いたんだ。それから俺と師匠の修行が始まった。それが4年前から2年前までの話だ。」
秋子「ちょっと良いですか?祐一さん。」
祐一「はい?」
秋子「あなたは『血の契約』と言いましたよね。全ての異形がそれを行うのですか?」
祐一「いえ、違います。この契約法を用いるのは上級レベルの異形のみです。さらに加えると異形の中では、より人型に近ければ近いほど実力が高いそうです。俺と契約したルシファーは煉獄でも5本の指に入ると言われているようです。」

北川と香里はいまいちまだ信じてはいないようだ
凄い思い悩んでいるような顔をしてる。

香里「もし…もし、それが本当だとしたら、そんな異形が何故力を貸してくれたのかしら……」
北川「俺はいまいち信じきれねぇけどな…」
祐一「……それは仕方ないさ。あまりに非現実的になっているだろうからな。」

それを語っている自分だってあまりに話が馬鹿げてると思ってるさ。
だけど、実際に体験してしまったからな…何とも言えないな…

祐一「あいつと同化したとき俺はあいつの知識や力、いろいろなモノがわかるようになった。その中にしっかりと理由もあったんだけど……すっごい単純なんだ……」
佐祐理「ところで、祐一さん。その理由とは何だったんですか?」
舞 「………(こくこく)」
祐一「それは……平和主義なんだそうです……人間と異形の共存を望んでいるとか…?」

あ、みんな埴輪になった……
そりゃそうだよなぁ……煉獄の中でも最強に近い異形の俺を助けた理由が人間との共存だなんて……そんなの考えつくわけない…

祐一「これが最後だ…いま、世界に知られている通り名「紅眼の魔剣士」って言うのがあるだろ?」
美汐「えぇ、ありますね。噂では大男だとか化け物のような噂が立っています。」
香里「でも、見た者はいないって噂よね。それがどうかした?」
祐一「それが……」

ここまで来て、続きを言うことに戸惑いを感じてしまった…やっぱりまだ怖いのかも知れないな…
横を見ると、秋子さんの方が辛そうな顔をしていた。聞くことにたいして何かを感じているのかも知れない…

秋子「祐一さん、無理しないでくださいね…」
祐一「…大丈夫です。……聞いてくれ、その「紅眼の魔剣士」は…俺…なんだ。」

そういって俺は立ち上がって少し広いところまで行くと、今まで抑えていた力を少しだけ解放して、銀色の翼を出した。

祐一「…この通り名についての由来を知っているよな?」
美汐「はい……確か【その者、一対の銀の翼をはやし瞳は紅く髪は銀色という。背には大剣と刀を背負い行く街の異形を殲滅せん】だと記憶しておりますが……」
祐一「…相変わらずおばさん臭い言い方だな、まぁ大体は正解だ。でも訂正個所が2つある。1つ目は、俺の翼は一対じゃなくて三対ある、今は一対しか出してないんだ。俺の感情が暴走したら多分全部出てくる。そして2つ目。俺は無差別に異形を倒しているわけじゃない。人間に害を与えるのだけを仕留めているんだ。そして人に害を与えている異形を束ねている者を俺が今追っている、それはルシファーとの契約の中に含まれていたことなんだ。」

北川の顔が驚愕と畏怖とが混じったような感じになっている。
気絶していない他の奴等もみんな似たような顔をしてる…
やっぱり……だめ…なのか?……そう、だよ…な…

一同「!?」

ダメだ…そう思った瞬間、俺の顔を見ていた北川達の表情に変化が表れた。

北川「…そうだよな…そうなんだよな!……く、はははは!?すこしでも迷った自分が馬鹿みてぇだ!」
香里「ふふふ、どうやら北川君も同じ事を考えたようね…」
北川「ん?なんだぁ?美坂もか!?」
美汐「きっと、今ここにいるみなさんの意見は一致しているでしょうね…」

みんな何かを勝手に納得しているように見える…
俺には皆目見当も付かないぞ…

祐一「…なぁ?どうしたんだ?」
北川「安心しろ、相沢。お前は俺のダチだ!親友だ!これまでも、これからもな!!」
香里「そういうことね。」
祐一「え…!?な…なんで?」

突然笑い出した理由も、この台詞の意味も全然わからなかった。

北川「……お前が本物の化け物なら、俺は他の…お前から離れた連中と同じ態度をとったかも知れない。だけどな、そんな表情ができるんなら大丈夫だって思えたんだよ。」
香里「根っからの化け物だったらね、うち明けているときやその後に、哀しそうな…何かに耐える子供のような顔はしないわ。」
美汐「…大丈夫ですよ、少なくとも、ここにいる私たちは相沢さんから離れませんから…」
舞 「…祐一は祐一。」
佐祐理「そうですよ〜、私たちはお友達なんですよ〜」
秋子「みなさんの言う通りですね。」
祐一「………」

ただ…ただ嬉しかった…
受け入れてくれた…こんな俺を…もはや半分は人間の宿敵、異形となっている俺を…
心の奥に、ぽっかり空いていた穴が埋められていくようなそんな感覚、だけどそれは決して不快ではなく心地よいモノだった…

秋子「よかったですね…祐一さん…」

みんなが微笑んでいる中、俺は秋子さんの優しい、慈愛に満ちた笑顔を見た。
その瞬間、俺の頬を熱い何かが通った。そして、自然と言葉が出た…

祐一「………ありがとう…」
秋子「いいんですよ…そうだ、みなさん。今日は夜ご飯を食べていってくださいね。腕によりをかけて作ってありますから♪」
北川「ホントですか!?いよっしゃー!!」

いつの間に準備していたんだろう…?俺が部屋にいたときか?
秋子さん…さりげなくこの話を引きずらないようにしてくれた…
迷惑を掛けてばっかりだな…






凄く穏やかな晩餐の中、秋子さんが俺に質問をしてきた。

秋子「祐一さん、1つ聞いてもよろしいですか?」
祐一「あ、はい!なんです?」
秋子「祐一さんの追っている異形の名前です…」

これだけは守らなくてはいけない…他のみんなを守るためにも…
……俺がルシファーと契約したときに交わされた条件の1つ。この手で“やつ”を追い詰め、倒す…
助けられたこの命を懸けて倒さないといけない異形…そいつの名は…

祐一「グランテューダ(注1)です……」
秋子「………異形の中でも1番気性の荒い奴ですね……」
祐一「そのくせ狡賢く逃げ足も早いんです。」
香里「じゃあ…相沢君がここにいるってことはそいつが近くにいるの!?」
北川「そうなのか?」
祐一「いや、それがわからないんだ…こっちの方に向かったはずなんだけど…」
美汐「じゃあ、用心には越したことがありませんね…」

さすがはみっしーだな。言い方がおばさん臭いけど……」

美汐「そんな酷なことはないでしょう。物腰が上品と言ってください。」

またやってしまったようだ……
ホントに3桁突破するかもな……

祐一「うむ、気にしないでおこう。」
香里「何を言っているのよ…あ、そうだ、相沢君。ちょっと聞いて良いかしら?」
祐一「ん?なんだ香里?」
香里「今日の戦いで使った魔法…あれはいったい何なの?あの詠唱も聞いたことがないわ。」
祐一「あぁ、あれは俺が独自で作ったオリジナルの合成魔法(注2)だけど?」
香里「何と何を合わせればあんな威力になるのよ!」
祐一「え〜っと、確かシャドウバーストにエクスプロージョンだったっけな?」

確か闇属性の最強系の魔法に炎属性の爆裂呪文だよな……?
単体じゃ使いづらいけど、魔力次第でねじ伏せるとか、どうにでもなるし……

香里「あきれた……どっちも最強に近い呪文じゃない……」
祐一「まぁ、慣れだ。あと、例によって俺にはあの契約があるからな…」
秋子「……祐一さん、きっとあなたはもうMランクで通じますね。……いえ、Mランクでも持てあますかもしれません。」
祐一「……そうなんですか?」

ルシファーの強さは多分Mランクが10人来ても勝てるだろうな…森の異形達を一掃するくらいだから…
でも、俺はまだ全てを使いこなしてるわけでもないんだよな…扱うのが難しくて…

秋子「えぇ、きっとランク決定戦を行う必要は無いでしょう。舞ちゃんもそれでいいかしら?」
舞 「はちみつくまさん。…今の祐一にはきっと勝てないから…」

舞がすごい早さで首を縦に振っている。あのままじゃ酔うぞ?

秋子「ギルドには私から言っておきますから、今日はもうゆっくりしていてください。」
祐一「はい。……あ、そうだ。秋子さん、今度でいいですから聖の精霊王に会わせてくれませんか?」
秋子「了承です♪」

よし、これでいいかな?後会ったことのない精霊王は聖の『クリア』(注3)だけだったし。

佐祐理「祐一さん、闇属性以外にはなんの属性を持っているんですか?」
祐一「聖以外全部ですよ。」
佐祐理「はぇ〜…すごいですねぇ…」
祐一「聖だけはどうしても相性が悪くて呼び出せなかったんですよ。」

聖の精霊にあっただけでなんか逃げられるしな…契約する暇なんてなかったよ…
そう言えば、美汐は地属性だったような…香里は多分炎属性だな…北川はなんだろう?」

美汐「私の基本属性を覚えていたんですか?相沢さん。」
香里「相沢君の予想通り私は炎属性よ。」
北川「俺は金だぞ。言ってなかったな。使用しているのは錬金術(注4)で創った銃ってやつだ。」

北川は金だったのか……髪の色が金髪だからか?まあ、冗談だけど。
錬金術?それに銃ってなんだ?今度戦いに引っ張っていってみるか……
……それより、もしかして…」

北川「しっかりと」
香里「声に」
美汐「でてましたよ」
祐一「ぐはっ!またなのか!?」

これもう放っておこう…とりあえずいまは、話題転換だ!

祐一「な、なぁ?秋子さんに頼んで、精霊王に会ってみたらどうだ?」
香里「…話題をそらしたわね…ま、いいわ。とりあえず今の私にはそこまで実力はないわよ。」
美汐「私も同じです。」
北川「俺はCランクの時に1回会ったけど力不足だった。」

なに!?北川はもう会ったことがあるのか!?これは以外だ……

祐一「多分もう大丈夫だと思うぞ。俺が保証してやるよ。それにもっと強くなりたいと思ってるんじゃないか?」
香里「思うわよ……妹を守るためにも…」

香里って妹がいたのか?
もしかして香里そっくりの性格をしているのか……?
ま、いいか。縁があれば会うだろうな。

祐一「とりあえず、香里の性格は『サラマンダー』(注5)に好かれるだろうし、美汐に関してはおおよそ知識の深さと落ち着きが『ノール』(注6)に認められる。北川は実力がわからんから何とも言えないけどBランクなら金の『トール』(注7)も認めてくれるんじゃないか?」
美汐「そうですね。1度試してみるのも良いかも知れませんね。」
北川「今度頼んでみるか……」
祐一「そうそう。んじゃ、今日は解散かな?」
秋子「みなさんのご両親にはもう連絡を取ってありますから、今日は泊まっていってくださいね。」
佐祐理「はぇ〜いつの間に連絡したんでしょう?」
舞 「……お泊まり、かなり嫌いじゃない。」

秋子さんの速攻&口撃。北川、香里、美汐撃沈。もはや絶句してるよ…
佐祐理、舞問題なくクリア。
気絶連中……まあいいか。
明日あたり真琴がなんか文句を言ってきそうだが……
こうして今日と言う辛くて慌ただしい日が終わった。







後書き


改訂第7弾♪今回は祐一の過去が明かされました!
祐一とルシファー、そして師匠との出会い。
そして祐一が追っている異形の正体。
改訂してみたら……なが!?長くなりすぎたかなぁ?
でも、この話はあんまり削除できる部分が無かったし…というかしたくなかった。ま、いいか。
とりあえず、今回は出てきた用語の解説が多いです。それを書いて後書きは終了させていただきます。
読んでくださっている方はこれからも期待はしないでよろしく!

2002,09,04改訂






用語解説


1・グランテューダ

  煉獄の中でも10位以内の実力を持つ異形。
  人型ではないが大鷲が変化したような形である。人語を理解し喋ることも出来る。
  人間界を征服しようと画策している異形のトップ。他の異形は煉獄だけで充分らしい。
  そういうわけもあり、人間との平和を望んでいるルシファーとは敵対している。
  何回か祐一と戦っている。(相打ちか祐一が優勢で終わっていた。)




2・合成魔法

  今回は祐一のオリジナル魔法で登場。
  Sランク近くの実力者ならば撃てないことはない。
  【例:水属性の氷の呪文と爆裂系の呪文を足して放つと周囲をつららで攻撃できる。】
  これからもいろいろと出てくる予定。(オリジナル魔法募集中。1人で考えるのは厳しい)




3・クリア

  『聖』属性の精霊王。光の精霊達を束ねている。
  闇属性とは仲が悪い。おっとりした平和主義。
  祐一が秋子に頼んだのは祐一の基本属性が闇なので、相性が悪いからである。
  ルシファーも平和主義なので仲良くできるかと思えばそうでもないらしい。




4・錬金術

  古の技法。特殊な知識と理解力が必要とされる技。
  何千年も前に封印されたと言われていたが、北川が発見、解読し自分の力とした。
  金属に手を当て、欲しい武器を想像、錬成を行うと創ることができる。
  古代の文献から北川は重火器の存在を知り、それを作り上げた。
  このような錬成が出来る限り、北川の実力はもっと上であることが予想される。




5・サラマンダー

  『炎』属性の精霊王。炎の精霊達を束ねている。
  水属性とはこれ異常ないほどに仲が悪い。
  好戦的だが戦闘狂ではない。
  人に使われるなら自分の好みの性格を持つ奴が良いと断言していたらしい。




6・ノール

  『地』属性の精霊王。地の精霊達を束ねている。
  風属性とは仲が悪い。
  旧日本風の家の縁側でお茶を飲んでいる姿が想像できるくらいおっとりしている。
  大地の力を操るので大体の異形を攻撃できる呪文が多い。




7・トール

  『金』属性の精霊王。金の精霊達を束ねている。
  木属性とは仲が悪い。
  木属性と金属性は特殊な人間がいる場合がある。
  北川のように古代の文明を理解する頭脳の持ち主などは大体が2つの内のどちらかである。







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