ほのぼのしてるだけかと思ったけど……マジかよ。
剣筋を完璧に真似している舞はともかく、俺が特に気になったのは一弥の方だ。
ほぼ完璧に俺の回避を真似している。
これはもしかすると…人間の中でも後天的に手に入る“あの能力”を、一弥はもっているかもしれない…
試す価値はある…
 
「一弥、ちょっといいか?」









































俺が呼ぶと、一弥はとてとてと俺の方に歩いてくる。
 
「なんですか、祐兄さん。」
 
俺の事を少なからず信用してくれているのだろう。歩いてくる一弥に気づかれないように空絶の柄に手をかけていつでも抜刀できるようにし、出来る限り自然体で立っている。
 
「……か…!」
 
俺の普段の姿勢の微妙な違いを感じ取った舞が一弥を止めようとしたが、一瞬、目で制止する。
舞の方も俺の考えが今だ読めないようだが、出かかった声をおし殺してくれた。
そうしている間にも俺と一弥の間合いは徐々に縮まっている。
 
「(……後、1歩)」
「どうしたんですか? 祐兄さん?」
「(……入った!)」
 
一弥が俺の間合いに入った瞬間、抑えていた気を一気に解放する。
並の人間になら確実に当たるスピード、それで空絶を引き抜き一弥の脇にめがけ、刀を返し峰で撃ち込む。
空絶の峰が一弥に当たる、が空絶は一弥に当たることはなかった。
 
「!?……うわっ!」
 
俺の放った一撃を一弥は見事にギリギリのところでかわした。
いや、周りから見ればギリギリで避けたように見えるが、本人からしてみればどうすれば当たらないかというのが“見えていた”はずだ。
 
「ハァハァ…な、なにするんですか!」
「ははっ、悪い悪い。だけどな、今面白いことがわかったぞ。」
「面白いこと…ですか?」
「あぁ、一弥。お前は『動殺眼(どうさつがん)』(注1)を持っているみたいだ。しかも、それを応用する力も知らず知らずで覚えてるらしいぞ。」
 
動殺眼、読んで字の如く、動きを殺したかのようにスローモーションで見ることのできる眼のことだ。
この能力は先天的には手に入らない。何らかの作用があって後天的に発生するらしいが、その原因は不明のままだ。
俺は、元よりの才能、隠れた能力が何かしら心因的なことにより発生するのだと思っている。
 
「動殺眼ですか…?」
「あぁ、1つ聞くけど。俺の奇襲、避けれると思ったか?」
「いいえ、絶対当たると思いました。でも、自分に刃が当たる…そう思った瞬間何かが見えたんです。」
「へぇ……その何かってのは?」
「えぇっと…白い筋のような…実際はそんなのは見えるはずがないのに、その白い筋が自分の身体を横切っているのがわかったんです。それで、危ないって思ってその白い筋から離れた瞬間に祐兄さんの斬撃がそこを斬ったんです。」
 
大したもんだよ、ホントに。知らず知らずでも動殺眼の力を使えているようだ。
これを自分の意志で使えるようになれば剣撃だけじゃなく魔物の行動でも応用できるはずだよな……
 
ズビシッ!
 
「………何をする、舞。」
 
俺がいろいろ考えていたら、何時の間にか後ろに回っていた舞に頭からチョップを喰らった。あまり手加減されていないのでなかなか痛い……
 
「…祐一が悪い。」
「な、何を言う!俺が何をしたんだ!」
「一弥が避けれたから良いものの、避けれなかったら怪我をすることになっていた。」
「……う、それは悪かったよ。」
「大丈夫ですよ、舞さん。祐兄さんも本気で僕に当てることはしないつもりだったみたいですから。」
 
おぉ、さすが一弥!俺の心理を良く読んでいる!
………と、まぁ戯れるのはこのくらいにしておいてっと。
そろそろ良いか…
 
「斉藤、舞。少しの間でいいから、佐祐理さんと一弥を守っててくれないか?」
「は…?それは別に構わないが、なにから守れっていうんだ?」
「!……油断した、囲まれてる。」
「そう言うことだ、舞にしては油断してたな。」
 
囲まれた、確かにそれは舞の言うとおりだが正確に言うと囲ませてやったんだ。
随分前から殺気を放つ男共の気配を感じていたが、それより一弥の動殺眼を確認することを優先した。
………だって、そっちの方が楽しいじゃん。
むっさい男相手するのと一弥の能力をしっかり自覚させるのだったらさ…
他の奴だって絶対一弥の方を取るって…なぁ?
 
「まぁ論より証拠、見てればわかるさ。ってことで、さっさと出てきて貰おうか!」
「っち、気づいてる奴がいやがったか。だが、もうおせぇぞ。」
 
俺がそう声を上げると、広場の周りに生えている林の裏からぞろぞろとまぁ、出てくるわ出てくるわ。
かるーく見積もって40人くらいか…
 
「まぁ、良く気づけたな、それについては褒めてやるよガキ…」
「はん、あんな殺気を振りまいておきながらよく言えたもんだな。」
「ククク、威勢のいいガキだ。だが、俺はてめぇにゃ用はねぇ。用があるのはてめぇの後ろにいる女達だよ。」
 
舞と佐祐理さんか…通り名持ちと領主の愛娘。
大体予想はつくな……
 
「まずはてめぇだ、川澄舞!お前を倒して俺等の名前を世界に広げてやる!」
「そして、倉田佐祐理!お前は俺等の大切な金ずるになってもらうぜ。」
「なぁ〜に、2人とも俺等がしっかり可愛がってやるよ、ぐへへへ。」
 
2人の身体をなめ回すように見つめて卑下した笑いを浮かべる男共…
見ていて胸くそ悪くなる…一弥と斉藤も同じ気持ちらしい。表情にはしっかりと怒りがうかんでいる。
 
「一弥、斉藤。ここは俺に任せてくれて良いぞ。」
「っは!ガキが大層な口叩いてんじゃねぇ!どうやっててめぇ1人で俺等40人を相手するってんだ!」
「相手の力量も量れないような雑魚共程度に俺がやれると思ってんのか?ご託は良いからかかってこいよ。」
「っな!上等だ!野郎共、このスカしたガキをやっちまえ!」
『おぉっ!』
 
奴等の頭であろう男から号令が出ると一斉に武器を取って俺に向かってくる。
だが、所詮は人間の放つ殺気。
俺が相手をしてきた異形共に比べるとスピード、パワー、殺気、その全てに置いて弱く感じる、だけど
─────喧嘩を売る相手を間違ったな…
 
「死ねやぁ!」
 
一斉に俺に向かってきた男達が俺に向かっておのおのの武器を振るう。
逃げ場のない武器の壁……他の連中が見たらそう見えるんだろうな。
だが、俺にとってはこんなもの攻撃の内には入らない。
 
ガキッ!
 
男達の放った攻撃は俺のいた場所に突き刺さっただけだった。
そこにはもう何もなく、ただの地面があるだけだ。
 
「なっ!どこ行きやがった!!」
「………おせぇよ。」
「!?」
 
ドス…
 
手刀を使い一瞬で7人を昏倒させる。
まだ、力を解放していないがこの程度の相手になら必要はないしな。
次の相手をしようかと周りを見渡す。
だが、周りの連中はあの一発だけで怖じ気づいたのか俺に向かってこようとするのをためらっているようだ。
 
「……ゲロよわ」
 
そう誰にも聞こえないくらいの声で呟いたつもりだったんだが、相手さんにはしっかり聞こえていたらしい。
顔を真っ赤にして怒っているようだ。
 
「絶対に奴を倒せ!倒した奴には褒美を出すぞ!金でも、女でもなんでもだ!」
『おおおぉぉぉぉ!!』
 
怒りに狂った大将が全員に褒賞効果で志気を高めた、実際ごろつきに志気があるかなんて不明だけどな。
それに、金も女も全部盗品や強奪、誘拐したのだろうが…
 
「アレも持ってこい!アレさえいれば人間にゃ敵うはずはねぇからな!」
「………(アレ?人間には敵わない…?なんのことだ…)」
 
気になる言葉を聞いたが、とりあえずはこの群がってくる雑魚の駆除に専念しよう。
大した手間じゃないんだけどな。
そう思いながらも次々と向かってくる敵を手刀や鳩尾に拳を叩き込んで倒していく。
ちらりと横目で舞達の方を見ると、
 
「……凄い。」
「あぁ、美坂を倒したから実力はあるとわかっていたが…予想以上だな。」
「はぇ〜、祐一さん格好いいですね〜」
「……祐一、手を抜いてる。」
 
一弥は惚けて、斉藤は少なからず動揺し、佐祐理さんは素直に感想を、舞は俺の今の手抜きが不満らしい。
でもなぁ…本気でやったらこいつらを行き残させる方が大変だし、こんな雑魚でも殺すのはまずいだろう…?
 
ドスッ!
 
「うっし、あと3人だな。」
 
そうこうやっている内にごろつきは後は大将だけと言う状態まで倒していたりする。
まぁ…雑魚との戦闘シーンなんて説明するだけでめんどくさい。
だってよ、全部手刀と拳打で倒しちゃってるし。
 
「さて、後お前だけだけど、まだやるか?」
「っく…化け物かてめぇは…だがな!俺達にはまだ切り札が残ってるんだぜ!」
 
ガオオォォォォッ!
 
『っ!?』
 
突如けたたましく響いた咆吼、その声のした方を向くと鎖に繋がれた獅子のような生き物がいた。
 
「これが俺等の切り札、キマイラだ!パワーとスピードは人間の5倍だぜ!」
「………」
「っへ、怯えて声も出ねぇか。行けキマイラ!男共を喰い殺してこい!!」
 
キマイラ…ね…確かにそこらの国の警備兵とかにはとてつもなーくキツイ相手だとは思うよ。
だけどなぁ、この国は異様に強い連中が揃ってるし…キマイラ程度なら一弥でも倒せるんじゃないか…?
………はぁ、かったるい。
…こんな奴を長々と相手してやる気はサラサラ無いし、さっさと片づけて帰ろうか。
 
「…空戒流剣術、『朧』」
「ガアアァァァ!!」
 
ザシュッ!
 
俺の身体にキマイラの牙が突き刺さった。
だが、貫かれたはずの俺の身体はそこにはなく、キマイラの横に俺はすでに回り込んでいた。
朧。それは高速で移動することによって出現する残像を利用した技だ。
残像に気を取られている内に背後に回り敵を斬る。
と、いうのが正規の使い方なんだけど。俺は背後まで回るのがめんどくさいので目くらまし程度にしか使わない。
 
「相手を間違ったな、人に使役されるとは悲しい宿命だ。せめて苦しまないように1撃で屠ってやるよ…」
「ガルルルゥゥゥゥ……」
「もうおやすみ…深淵なる闇の唄を奏でよう、苦しめるモノに安らぎを。『レクイエム』(注2)
「グルゥゥゥ……」
 
穏やかで優しく、だけどどこか儚く悲しい旋律がキマイラを包む。
旋律に包まれたキマイラは徐々に眠りに落ちるかのように地に伏し、そのまま砂のように崩れ、風に舞っていった。
 
「次に生まれてくるときは、平穏な人生を送ってくれ…」
 
風に舞う砂を数秒見つめた後、俺はキマイラを使役していたごろつきの大将を睨みつけた。
俺の放つ膨大な殺気に押されたのか、部下を踏み越えて逃げ出そうとしている。
ここで逃がしてやるほど、今の俺は優しくないぜ。
 
「逃がすか……我が力、ここに解き放つ。喰らえ!『ウインドブリット!!』
 
ドスッ!
 
圧縮された風の弾丸、それが的確にごろつきの身体にヒットした。
 
「ぐ……ぁ……」
「……ふん、俺の相手をするには時代を間違ったな。」
 
刺すような殺気と人の感情を感じさせない冷徹な眼差しで言い放つ。
するとごろつきの大将は口から泡を吹いて気絶した。
 
「うっし、コンプリート♪」
 
俺の周りには気絶したごろつきがゴロゴロと転がっていたりする。
力を解放する必要もなかったし。
 
「一弥!」
「は、はい!」
 
今まで暴れていた俺から突然名指しにされて一弥は驚いたようだ。
まぁ…あれだけの数を相手にするのはありえないしな…俺は慣れてるけど。
 
「大事な家族を守りたいのなら強くなれ!」
 
ビシッ っと無意味に格好をつけて一弥に言ってみる。
 
「あ……は、はいっ!」
 
うんうん、いい返事だ。
そう言えば…俺って何か用があって舞を探してたんじゃなかったっけ…?
えーっと…
 
「あ゛……思い出した。」
 
急いで選抜しないといけないんだった…
残り時間はあと4日…それまでに会えるとは限らないやつもいるしな…
早々に片づけて次に行きますか。
 
「舞ー、ちょっといいか〜?」
「……なに?」
「実はな、俺の親から依頼がギルドに来たんだけど……」
 
一応一通りの事を舞に伝えると少し考えるような仕草を見せた。
その姿がなかなか可愛いと思ったのは秘密だ。
 
「で、どうする?」
「……佐祐理達も連れていけるなら行く。」
 
そっか、舞は『宮廷騎士』だったか…王女の護衛から離れるわけにはいかないもんな。
でも、佐祐理さんも一緒にって…それこそまずいんじゃないか…?
外は異形やら盗賊やらがいるんだし、ただでさえ野宿とかするかもしれないんだから…
 
「それは、まずいだろう…?」
「ぽんぽこたぬきさん、佐祐理はそういう冒険が好き。」
「あはは〜、佐祐理はちょっとおてんばな女の子ですから〜♪」
 
佐祐理さんが横から突然現れた。
俺と舞が話しているのが気になって近寄ってきたらしい。
 
「ってことは2人の返事は…?」
「はちみつくまさん」
「えぇ、イエスですよ〜♪」
 
おし、これでとりあえず2名は確保っと。
一弥と斉藤はどうするのか、一応聞いてみるか。
 
「一弥、斉藤。さっきの話聞こえてたろ、お前等はどうする?」
「………僕は遠慮しておきます。もっと強くならないと」
「俺もパスだ、一弥にも勝てないのにそんなところに行ったって足手まといが精々だ。」
「そうか…鍛えるのなら丁度良いかと思ったんだけどな。」
 
たしかに鍛えるだけのつもりなら多少の無理はするかもしれないけど…
本人達の希望を優先しますか。
 
「じゃぁ、また今度違うときに特訓でもするか。」
「その時はお願いします。」
「次は当ててやるよ。」
「上等だ。」
 
さて、次は誰を捜そうか……


 

 


 
   用語解説
 
 
1・動殺眼(どうさつがん)
   この世の全ての動きを殺し、視る事が出来る眼のこと。
   先天的なモノでは無く後天的に何らかの要因があって発生するモノだと思われている。
   実は先天的な能力も関係しているのか…?
   委細詳細は不明。
 
 
4・レクイエム(鎮魂歌)
   『闇』属性の特殊な魔法である。
   発動は声による呪文と他の魔法とは相違ない。
   穏やかで優しく、どこか悲しく儚い旋律が奏でられたとき、その術者の意識に応じて2つの効果が出る
   1つは今回のように相手を砂のように屠る効果、もう一つは聖属性で言うヒールの効果がある。
   万能のように思われるが、聖属性のヒールより効果は断然に落ちる。
   しかし、闇属性の相手にのみヒールと同等の効果が発生する。




 
雑談会



  時雨  「うぐぅ…すんげぇ久々な気分だな。」

  あゆ  「お疲れさまでしたっ♪」

  時雨  「今回のゲストはタイヤキ泥棒常習犯こと、通称うぐぅ嬢にお越し頂きました〜。」

  あゆ  「うぐぅ!ボクはうぐぅじゃないよ!月宮あゆって名前があるもん!」

  時雨  「タイヤキ泥棒常習犯を否定しないあたり自覚有りの確信犯ですな。」

  あゆ  「うぐぅ、ちゃんと後でお金払ってるもん。それよりも時雨さん!」

  時雨  「はい、なんでしょ?」

  あゆ  「一体ボクの出番はいつになるんだよぅ!」

  時雨  「…………そろそろ出れるさ(何故か遠い眼)」

  あゆ  「何か嘘っぽいよ…」

  時雨  「大丈夫、大丈夫(多分ね)そろそろ全キャラが舞台に出るようにするから。」

  あゆ  「ホント!?」

  時雨  「うん、じゃないと話創れなくなるしな。結構使える能力を与えちゃったからね。」

  あゆ  「うわーい!やった〜♪ボクの出番期待してるからね。」

  時雨  「あぃさ、了解。しっかり出るようには話を進めましょう。」

  あゆ  「うん☆じゃぁ、そろそろお開きかな?」

  時雨  「そだね、長々使うのもなんだし。」

  あゆ  「うぐぅ、えっと…これからもどうぞよろしくお願いします(ペコリ) 」

  時雨  「ってなわけで、まったり更新の紅眼の魔剣士をどうかよろしく。 」

  時雨  「………そや」

  時雨  「前回予告していたタイトルと違うのはすみませんでした!以上!(逃走)」







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