「うっし!…とりあえず、オヤジ、あゆ行くぞっ!」
「久々に暴れてみるのもいいかもしれんな。」
「うぐぅ〜、アンデットは苦手だよ〜…」
 
……マジですか…
実質2対30…これがアンデット以外なら余裕なんだが…しぶといから多少は手こずるかもな…
──秋子さん、すいません。どうも夕食までには帰れそうにないです…
 
「さぁ…戦闘だっ!」









































「あゆ…マジでアンデットはダメなのか…?」
「………うん」
 
なんてこった…
そういえば、あゆは昔からビックリすることとかお化け話に弱かったっけ…
 
「つかぬ事聞くが…あゆ、お前の属性は…?」
「うぐぅ?ボクは『聖』だよ。」
 
オゥ、ジーザス──とは言っても神なんて信じてないが──ってか…
アンデットに効果大の『聖』属性を持っているあゆ、でもそのアンデットが大の苦手と…
洒落にしても笑えないな…俺は『闇』だから戦う相手としての相性は悪い…
力任せって手もあるけどある意味ジリ貧になりかねないし…
 
「オヤジ、すまん…多少負担かけることになりそうだ…」
「そのようだなぁ…まぁ、やれるだけやってやるがな。」
 
いまだ怯えているような感じのあゆを連れて行くのは不安ではあるが、置いていくのもそれまた不安が残る。
 
「(なんかずっとうぐぅうぐぅ鳴いてそうだしなぁ。)」
 
あゆはとりあえず連れて行ってその場に居合わせた人たちを護って貰うか…
『聖』属性ならある程度のアンデットなら近寄ってきても反作用でダメージを与えるかもしれないしな…
 
「とりあえず、ちょっとした防御壁くらいなら張れるだろ?」
「うん…それくらいなら出来るよ。」
「なら、それで近くにいる人を護りながら避難をさせてやってくれ。頼むぞ!」
「あ…うん、わかったよ!」
「話はまとまったみたいだが…気を引き締めろ、見えたぞ!」
 
数十メートル離れた先で人の悲鳴や怒号などが聞こえてきた。
オヤジの言ったとおりあそこが異形の出現場所らしい。
と、隣で併走していたはずのオヤジから感じていた魔力が一気に変質した。
いつもの温厚なオヤジの気配から俺にとってはある意味馴染みのある狩人と言う存在の気配に…
 
「一番槍は行かせて貰うぞ、祐一。」
 
フッ!
 
「……さすが…いくら現役から退いたっていっても早々実力は落ちないってワケか…」
「うぐぅ!タイヤキ屋のおじさんが消えちゃったよ!」
「消えたんじゃない、一気に加速していったから消えたように見えただけだ。」
「おおおおおっ…………でりゃあああぁぁぁぁ!!!
 
ズッ!……ズガァーーーン!!!
 
気合い一発。
単純に例えるとこんな感じだ。
もの凄い溜めとともに上腕の筋力を解放、それに加えて多分自分の属性の力で強化もしたんだと思う。
その一撃を受けた異形はその部分が吹き飛び、勢いが死ぬことのない拳が地面に突き刺さってはじけ飛んだ。
 
「うっわ…やること派手だなオヤジ…」
「すごい…地面が抉れてるよ…」
「俺も行く。あゆ、他の人たちは任せたっ!」
 
これ以上遅れていったらオヤジになにか文句を言われそうな気がしてならない…
さっさと行かねば…
ふぅ………っしゃ!行くぜぇ〜!!
 
っ!」
 
フォンッ!
 
一瞬で溜めた脚力とバネを一気に解放してトップスピードに乗る。
オヤジのとは違う加速法だけど、人によって好みは違うからこれは別に関係ないのだ。
速度はトップスピードのまま、オヤジの一撃で吹き飛んだ数体の異形の群の中に突っ込む。
それと同時に腰に付けてあった空絶を引き抜いて斬りつける。
居合いと「瞬絶斬」の応用の技って言ってもいいのかな?
やってることを平たくいうと高速で接近して滅多切りしてるだけ……
威力はあるけど格好はいまいちかなぁ…
 
「っと、斬れたのは……7体か…腕がにぶったかなぁ…」
 
とは言っても「斬った」というだけで「倒した」という訳じゃないんだよな…
これだからアンデットってのは嫌いなんだよっ!
 
「っは、俺が適当に吹き飛ばした奴等をそんだけ斬れりゃ十分だ。」
「それもそうかもな、オヤジが派手にやってくれたおかげで奴等の注意はこっちに向いてきたようだし。」
「どれもこれもタイヤキ屋のオヤジ様の感よっ!」
 
………嘘くさ…
うーん…オヤジってこんなキャラだったかなぁ…?
 
「オヤジって車とか運転したら性格が変わるタイプだろ…」
「あー、なんかしらねぇが過去に俺の運転する車に乗った奴はみんなもうのらねぇって豪語してたな。」
 
わかりやすいことで…
オヤジは戦闘と日常でそれぞれ性格が違う、二面性の持ち主ってことなんだな…
 
「余所見してるなっ!俺が全部もらっちまうぞっ!」
 
うわ、ちょっと考えてる間にオヤジ大暴走!?
また数体のアンデットを吹っ飛ばしてるし…ま、オヤジだけにまかせるのもなんだな…
 
「っと、俺の見せ場も残しといてくれよ………なっ!」
 
ざしゅっ!
 
「ああぁぁぁあぁ・・・・・」
「誰に召喚されたかは知らないが、俺がこの場来たことが運の尽きだ。」
 
召喚されたアンデットはただ、その場にいる全ての生を持つ者を攻撃対象とする。
世に未練を残した者達が生者を憎むことによってアンデット化するとまで言われている。
そして、普通に斬り倒すだけではいけない。
奴等の吐き出したモノやその体液が病気を発症させる原因にもなるからだ。
そうさせない為にも『聖』の光で浄化するか、『炎』によって完全に燃やさなければならない。
 
燃えさかる火龍の息吹、導くはその咆吼。その力強力にして抗わん者に炎の鉄槌をくださん!「フレイムドラグーン!!」(※1)
 
ゴアァァッ!
 
炎系の中級魔法、炎が龍の形になりまるで意志を持っているかのように敵に襲いかかる広範囲攻撃魔法だ。
その炎は、俺が最初に切り伏せた7体と、その周りにいた数体を巻き込んで塵も残さずに燃やし尽くした。
残ってるのは……あと18体!
 
「ほ〜、いい威力してるじゃねぇか!なら、俺も一発やったらぁっ!!」
 
オヤジは俺の魔法に謎の対抗心を燃やし始めた。
対抗心に繋がるような魔法じゃぁないはずなんだけどなぁ…?
まぁ…戦闘でスイッチが入ったってことにしておこ…考えると深みにはまりそうだし…
 
揺るがざる大地の怒り、猛る力。全てを飲み込み地へ沈めん!「グラン・バニッシュ!!」(※2)
 
ズズズッ!!
 
オヤジの魔法が発動すると同時にアスファルトに覆われているはずの大地が迫り上がった。
そして、その場にいた異形を飲み込んで何事もなかったかのように元のアスファルトに戻った。
これも『地』属性の中級魔法。大地の精霊に力を借りて敵を地中へと沈め圧殺する魔法だ。
 
「オヤジもやるなぁ…ってことで、残るは…」
「「10体」」
 
かけ声と同時にオヤジとは異形へと駆けだす。
即席のペアとは言え腐ってもハンターだ、周囲に対して臨機応変に対応できなければそいつは生き残ることは出来ない。
さて…ノルマとしてはあと5匹…こんなの物の数じゃないぜ!
 
 
─ 祐一サイド ─
 
 
「行くぞ!空絶!!」
「(あぁ、久々の戦闘だ!存分に我を振るえ!!)」
「へへっ、頼もしいじゃないか…行くぞ! 空戒流 旋突せんとつ!』(※3)
 
空絶を胸のあたりで水平に構え、持ち前の瞬発力で一気に突撃する技。
ただの突きと侮る事なかれ、ただ単に突撃する訳じゃなく、敵に当たる直前、空絶に回転を加え敵に接触した部分から抉るように突くのがこの「旋突」だ。
旋突は、俺の攻撃先にいた1体の異形の胸部を一撃で貫いた。
 
「ああぁぁぁああぁああぁ」
「これ以上の時間を無駄にくれてやるつもりはない! 炎の精霊達よ、我が声を聞き答えよ。我に抵抗せし者共を炎の檻に閉じこめろ!『フレイム・プリズン!』
 
ゴウッ!
 
前に学園の模擬戦で一度使った炎の檻、あれとは威力も範囲も段違いだ。
学園で本気だすわけにもいかないのは当たり前だからな。
 
集束し、はじけろ!!
 
イイィィン……ドンッ!!
 
爆砕、まさにこれが当てはめるとしたら一番の言葉だと思う。
フレイム・プリズンで閉じこめられたアンデットの異形達は一瞬で臨界点まで圧縮され、その反動ではじけ飛んだ。
 
「っしゃぁ!ノルマ達成!!」
 
っと、オヤジはいいとしてあゆはどうなってるかな…?
なんか、うぐぅって泣いてそうだな。
 
 
 
 
 
─ オヤジサイド ─
 
 
あー…祐一と突っ込んできたわけだが…運良く異形が分散したなぁ…
まぁ…気にしない、ばっちオーライってことにでもしとくか。
俺の獲物は5匹、あんなの準備運動になるかならないかだ。
いや、ならねぇな。
 
「俺の店の営業妨害しやがった罪は重いぞぉ!」
 
自慢じゃないが結構常連の多い隠れた名店として名が通ってるんだっ!
今、この時間にも俺のタイヤキを求めてくる客がいるかもしれないんだぁ!
 
猛り吠えろ、いま此処に勇猛果敢な大地の裁き、咎人を張り付けろ!「アースクロス!!」(※4)
 
『地』属性初級魔法、地面から迫り上がった十字架で敵を拘束する能力。
1対多に通じるから俺は結構好んで使ってる。
まぁ…強力な敵だとあっさりこの拘束から解かれるのが難点ってところだけどな。
でも、こいつらに対しては充分すぎるくらいだ。
 
「火はいまいち覚えてないんだがな… 燃えろ燃えろ浄化の炎、一陣の嵐となりて全てのモノを焼き払わん!「フレアストーム!!」(※5)
 
ゴオオォォォ!!
 
「っし、こっちもノルマ完了だ。」
 
俺の放った魔法は炎の嵐となって、しっかりとアンデット共を完全に塵にした。
これで感染とかの心配は無いだろう。
さて…祐一は放っておくとして…問題はあゆちゃんの方か。
 
 
 
 
 
─ あゆサイド ─
 
 
祐一君と親父さんの戦闘が始まると同時にボクは逃げ遅れた人たちの救出に向かったんだけど…
 
「うぐぅ…街の人みんな避難が早いよ…」
 
ボクが誘導して頑張ろうと思ってたのにすでに商店街の人たちはしっかり逃げてたりするんだよ…
でも、頼まれたからにはちゃんと最後まで責任取らないとね!
さ、逃げ遅れた人を捜すよ!!
 
 
 
 
んでもって、数分後。
 
 
 
 
「……結局誰もいなかったよ…」
 
ボクは途方に暮れてたりする…
うーん…こうなったら怖いけど祐一君達の援護に向かおうかな…
ボクの属性があればきっと戦闘もちょっとは楽になるはずだよね。
よし、そうと決まったら向かおうかな。
 
「っく、何なんだあいつ等は…こんな予定はなかったのに…」

「…うぐぅ?」
 
なんだろう…あっちの方から声が聞こえたけど…
声のする方に行ってみると目深にフードを被った魔術師系の男の人が路地裏の方へ向かうところだったんだ。
さっき何か呟いてたけど…もしかして今回の原因はあの人にあるのかな…?
だとしたら許せないよ!平和だった商店街を混乱に陥れるなんて!
 
「よし、頑張るぞ!」
 
とは言っても…うぐぅ。
やっぱり一人だと不安だよ〜!


 

 


 
   用語解説
 
 
1:フレイムドラグーン
   別名称「火龍の咆吼」とも言う。
   術者の魔法の絶対容量キャパシティーによって、出現する火龍の調整が出来る。
   今回の祐一は一頭のみしか出現させていない。最大で出せるのは、およそ七頭前後ではないかと思われる。
   しかし、一頭出現させるだけでもかなりの魔力を消費する以外に操るのが難しい魔法である。
 
 
2:グラン・バニッシュ
   『地』属性中級魔法。
   上記の通り、大地の精霊に力を借り、もしくは干渉して敵を地中に沈め圧殺する魔法である。
   大地を隆起させるが、発動後は元通りの状態に戻るので一時的なモノを考えなければ使い勝手はいい。
   商店街で使用したが、幸い大きな通りだったために目立った被害はないようである。
   やはりオヤジは戦闘時に性格が変わるらしい…周りの被害考えてなさそうだしね…
 
 
3:旋突(せんとつ)
   空戒流の技の一つ。剣で使用しているが、大抵は槍を使用する事の方が多い。
   武器を地面から水平になるように構え、持ち前の瞬発力で一気に突撃する、突進技。
   敵に当たる直前に武器に回転を加えてやり、接触部分を抉るように貫く。破壊力は通常の付きよりは高くなる。
   ただし、突進技であるために未熟な場合は攻撃終了後は多少の隙が生じる。
   祐一は人間という枠を越えた運動能力を持っているために、隙を発生させずに攻撃を繋げることが出来る。
 
 
4:アースクロス
   『地』属性の初級魔法。攻撃と言うよりは補助を目的とした魔法と言ってもいい。
   地中から任意の数、大きさの十字架を発生させ敵をその十字架に張り付ける拘束型の魔法。
   数や大きさは使い手の絶対容量キャパシティーで異なるが、軍団戦に対しては足止めくらいには使える。
   しかし、所詮は初級の魔法なので中級レベルの異形にはほとんど効果がないと言っていい。。
 
 
5:フレアストーム
   『炎』属性の初級魔法。なかなかと使い勝手の良い攻撃魔法である。
   フレイムドラグーンの弱体化版と言ってもさして問題はないかもしれない。
   違いとしては、使い手の意志によってその炎を操れるか否かによるくらいだろう。
   一般で使われる『炎』属性魔法でもっともポピュラーなものである。  


 

Not 後書き(ぇ?


次に続きます〜
後書きは次にってことで♪







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