さっき何か呟いてたけど…もしかして今回の原因はあの人にあるのかな…?
だとしたら許せないよ!平和だった商店街を混乱に陥れるなんて!
 
「よし、頑張るぞ!」
 
とは言っても…うぐぅ。
やっぱり一人だと不安だよ〜!









































─ あゆサイド ─
 
ボクは、魔術師っぽい服装をした人を追いかけて来たんだけど…
肝心な所で見失っちゃったよ…
 
「あれ…? こっちの方だったと思うんだけどなぁ…?」
 
うぐぅ…しかもボク道に迷った…?
こんな道…見覚えないよ…
 
「うぐぅ〜! ど、どうしよう!? 祐一君…おじさーん…」
 
ホントにどうしよう…
 
我、紡ぐ唄…深淵の前奏曲しんえんのプレリュード

「うぐぅ…?」
 
今、なにか聞こえた気がする…
こっちの方からだよね?
 
その唄を持って、煉獄への扉を開く鍵となる。
 
声が聞こえたと思った方に行ってみたら、さっきの怪しい魔術師風な人が地面に魔法陣を描いて何かを詠唱してた。
えっと…たしかあの魔法陣の構成と唄からすると…
 
「あれって…召喚魔法……だよね?」

されば我は求め訴えたらん、唄の導きにより、我と契約を結びたもう。
 
……何か凄く嫌な予感がするよ…
さっきからこのあたりの負の気配が強まってる気がするし…
 
この地、舞い降りて、共にもたらそう。
 
このままじゃマズい…そう思った。
でも、気持ちばかり先走ってて、身体の方が全然反応することができない…
 
さぁ、往こう。我が憎き世界に…破滅を…『召喚・ダークネス!!』(※1)

「…!?」
 
い、今、ダークネスって言ったの!?
外見が小学生だって祐一君にからかわれることがあるけど、
 一応同い年ってだけあってちゃんとした勉強だってしてあるんだよ。
……だから、気づいてしまったんだ…
あの男が呼び出した…
呼び出してしまった異形が、ボク達戦闘が得意じゃない人たちにどれだけ危険なのかってことが…
 
「ふ…ふはは!成功だ!これであの訳の分からない奴等も一緒に殺せる!この街を死という華で飾ってやる!」
 
あの人が召喚したのは…煉獄の暗殺者と呼ばれている異形なんだ…
気配も無く、音もたてず、ただ確実に命を刈り取るだけの存在…
その名前と、戦いから付いたのが「煉獄の暗殺者」
その姿を見た者は必ずと言っていいほど、先に待つのは…【死】だって聞いた…
 
「さぁ、召喚者サモナー(※2)たる俺の命は絶対服従だ。行け!行って皆殺しにしてしまえ!!ひゃははは!!」
「………ダ…マレ」
 
ザシュ…
 
「げふっ…な…!?」
 
一瞬だった。
そもそも…召喚者サモナーとその召喚された異形のレベルが違いすぎたんだよ…
制御出来ないモノを呼び出せばその報いは自分に還ってくる。
ダークネスの腕が男の胸を貫いていた…
いつ移動したとか、そんなものはボク程度の力量では全然見えなかった…
 
「自分の身の程もわきまえないクズが…貴様ごときが我を召喚できたことが奇蹟と知って消えろ。」
「……がはっ!」
「くだらんな……ん? もう1匹いるようだな…まぁいい…」
 
ゾクッ…
 
「……!?」
 
信じられない程冷たくて、とても静かで強大な殺気がボクに向かって放たれた。
その殺気に当てられて…ボクは身動き1つできない状態に陥っていた…
絶対絶命だよ…
 
「貴様もあのクズと同じように……」
 
さっきまで前方にいたはずのダークネスが、一瞬でボクの後ろに現れていた…
 
「(ボク、死ぬのかな。イヤだな…イヤだよ…助けて……)」
「消えろ…」
「嫌だよぉ!! 助けて! 祐一君!!
 
そして、ボクは目を硬く瞑った。迫り来る死を覚悟して…
 
キィン!
 
「……え?」
「チッ…」
 
あれ…ボク生きてる…?
あのタイミングじゃぁ助かるなんて思えなかったのに…
一体誰が…?
 
「……すまないな、どうやらご所望の王子様ではないようだ。」
「…うぐぅ?」
 
ボクが声のした方向に目を向けると、意外な人がいたんだよ…
そう、学園では最低の生徒会長って言われている人…
双剣を構え、ダークネスの攻撃を隻腕で抑えている久瀬君が…
 
 
 
─ 久瀬サイド ─
 
一体どういうことが起きた結果が、この現状を作り出しているのかが判断しかねる…
この街中としては明らかに強い負の気配を探りに来てみれば。
胸に大穴を空けて、もはや明らかに生きてはいないであろう魔術師風の男。
その男を殺したであろう、片腕を鮮血で染めた異形。
そして、その異形に今や命を奪われる寸前といった状態に陥っていた月宮君。
 
「チッ…貴様、何者だ。」
「……それはこちらの台詞ですよ…僕の友人の知り合いを手に掛けようとした異形殿…」
「…くはは、まぁ、気まぐれだ。名のるのもよかろう、我が名はダークネス。煉獄の暗殺者とよばれし者。」
「ほぉ、煉獄でも高名な暗殺者殿でしたか。………ならば…殺すことを躊躇する必要性はなさそうですね…」
「……殺す? 誰が誰をだ?」
 
弱者を見下して、嘲笑うかのような態度…
昔の僕と一瞬姿が重なって見えた…だが、今の僕は違う。
僕は彼と、祐一と会ってからすこしずつでも変われたんだ…
そして、これからも…僕は変わる。
 
「僕が…貴方をです。ダークネス。」
 
僕の全身の血が久方ぶりの戦いでたぎる一方、それに反して僕は徐々に冷静になっていっている。
自分でも、その冷たい殺気が全身を覆っているのがわかるくらいに…
 
「クク…脆弱な人間ごときが我と戦おうとでも言うのか?」
「そうですね、このまま放って置くわけにも行きませんし、なにより…」
 
護るは祐一の大切な存在の1つ。
彼の味わってきた苦痛をこれ以上増やす必要もない。その可能性があるならば、僕はその芽を摘み取ろう。
それが、僕を変えてくれた彼に対する出来うる限りの礼なのだから…
 
祐一の…いや、我が盟友ともの大切な者を傷つけようとした報い!受けて貰おう!!
「クハハハ!面白い!やってみよ、クズが!!」
「ふん…いつまでその減らず口が保ちますかね?」
「それはこちらの台詞だ。」
 
そう言った瞬間、ダークネスの姿がほんの一瞬揺らいだ。
Aランクぐらいの人間では気づきもしないわずかな揺らぎ…
だけど、祐一や僕からすればまだまだ甘いですよ…
気配を探るために目を閉じて精神を軽く集中させる。
すでに目の前のダークネスの姿は僕の攻撃対象外になっている。
目の前の残像ではなく…本物の気配は……後ろか。
 
「そこですね。」
「クッ…」
 
ダークネスの振るってきた凶刃は、僕の双剣、しかも片手にあえなく抑えられている。
きっとこの一撃で決まると思っていたのでしょう。
一瞬の隙が出来たのを見逃してやるほど、今の僕は優しくない。
がら空きの脇腹に踏み込んで、双剣の峰を思い切り叩き込む。
僕からの一撃を受け吹き飛んだダークネスの顔が悔しさ歪んでいた。
 
「まさか、大口を叩いておいてこの程度の実力なのですか?それなら…期待はずれも良いところですね…」
 
双剣を両手で遊びながらさも心外という風に装いながら言って見せた。
この手のプライドの高そうな相手は、こういう態度を見せられるのを心底嫌うはずだ。
僕も昔、自分より弱いと思っていた祐一にコテンパンにされたとき言われた台詞には腹が立ったものですから。
あの【ふーん…あんな大口叩いた割に大したこと無いな…時間の無駄だった…】って台詞はね…
結局その後、僕は滅茶苦茶にやられましたけどね。
 
「ッガアアァァ!貴様!コロス!!」
「……所詮3流は3流ですか…次に生まれいずる時は身の程をわきまえなさい。」
 
あの程度の挑発に乗る、周りが付けた2つ名のようなモノに自惚れたのでしょう。
逆上して向かってくる様は、もはや煉獄の暗殺者としての見る影もない…
ただ、四方に動き、ただ、ひたすらとその力を振るう。
しかし、その程度の攻撃は、僕には通用することはない。全てが僕は双剣の片割れによって防いでいる。
 
「ナゼダ!ナゼアタラン!!」
 
そう言って向かってくるダークネスの攻撃は、もはや児戯にも等しかった。
技も、魔法も、戦略も、罠も、なにもない。
もはや、目的に向かって走る闘牛と同じ…。
 
「貴方は僕には勝てません…」
「……グオオ!!!」
「散りなさい…」
 
ただ、雄叫びを上げ走り寄ってくる。これ以上は見るに耐えないですね…
相手の心を苦しめるだけ…ならば自己満足でもいい、楽にしてあげましょう。
 
左手に深きあお、右手に暗きあか、我が眼前にて混じりあいてこの手に集う…
 
左手に水の球体…左手に炎の球体を出現させ、同質量同士をぶつける。
それは白い光を生み出し、サッカーボール大の球体上になって僕の手の上に漂っている。
 
その力、全てを飲み込む暗黒くらやみになり、闇の力を生みださん…
 
詠唱を繋げるにつれて、光の球体の中心から引き込まれそうなくらい暗い闇色が現れ始める。
そしてその闇は、やがて球体全てを包み込み、先程とは反対の色の暗黒の球体になった。
 
さぁ、誘おういざなおう。闇は全てを飲み込み静寂しずかなる癒しを与える…さぁ、眠れ。全ての闇は暗闇にする。
 
サッカーボール大だった球体はいずれ圧縮されたかのように縮まり、最後はピンポン玉程度の大きさになった。
僕が詠唱を終え、魔法を放つ準備が整った時には、ダークネスが目の前に迫っていた。
 
「あ、久瀬君!危ない!!」
 
今まで、言葉を発することが出来なかった月宮君がとっさに叫んでいた。
だけど、僕は焦らない。いや、焦る必要もないですね…
 
「大丈夫ですよ、月宮君。」
 
僕は普段ではあまりすることのない、人を安心させるための笑顔を少しの間だけ浮かべた。
もう、僕が負けるのことはあり得ないから安心してくれという気持ちを乗せて。
そしてすぐに僕の前にいるダークネスに向けて鋭い視線を戻した。
 
「死ねええぇぇぇ!!!」
…奴の全てを喰らい尽くせ、『ブラック・ホール』(※3)
 
 
 
─ 祐一サイド ─
 
アンデットの異形の掃討を終えた俺とオヤジが合流したときは、あゆの姿が見えなかった。
商店街近辺の住民と一緒に避難したのならそれでいいんだけどな…
だけど、なにか嫌な予感がした。
オヤジもまた、俺と同じで何か予感めいたモノを感じているらしい。
 
「くそっ…なんなんだ、この苛立ちは…!」
「……わからないけど…オヤジ、さっきからこのあたりの負の気配が異様に強い気がしないか…?」
「………確かに、街中じゃあり得ないくらい禍々しい気配があるな…」
 
オヤジの言うとおりだ。なにか、さっきのアンデット達の召還後と通じるような気配…
だけど、その力は比べる必要のないくらい高位の異形の放つ殺気だった。
俺はすぐに周囲に意識を広げて、場所を探ろうとしたその時。
 
ヒュゴッ!!
 
何かから空気が抜けるような音がして、空に向かって一筋の黒い柱が上がった。
かと思うと、何事もなかったかのような静寂が還ってきた。
だけど、俺にはあの黒い柱には見覚えがあった。
 
「(今のは久瀬の!?)オヤジ、今の黒いのの発動した場所に急ぐぞ!」
「あぁ、わかった!!」
 
今のは…久瀬の『闇』属性上級魔法のブラック・ホール…
あいつがアレを使うってことは…何かを護るためか…あいつを怒らせたかの2つに1つ…
くそ…一体あそこでなにが在ったんだよ!!
 
 
 
俺とオヤジがその場所にたどり着いたときには、すでに戦いは終わっていた。
その場にいたのは。
いつもと変わらないように立っている久瀬、呆然とへたり込んでいるあゆ、そして物言わぬ屍…
 
「こりゃぁ、一体…どうなってやがるんだ…」
 
そして、道と壁の一部が不自然なくらいの切り口で切り取られていた。
だが、その切り取られたハズの破片はどこにも見当たらなかった。
 
「そこの兄ちゃんがこれをやったっていうのか…ユーイチ…」
 
そう思うのも仕方がないだろう…
一般世間の考えじゃ、この威力はどう足掻いたって究極魔法レベルじゃないと不可能だから…
でも、俺達『闇』属性と契約している人間には上級魔法程度のレベルでしかない。
その、上級魔法ブラック・ホール。その魔法は全てを飲み込み、その場には虚無と言う空間が残される。
そう、そこにあった物が何もかも消失する。禁断とも言える魔法だ。
 
「久瀬…」
「ん…あぁ、祐一ですか…」
「…なにがあったんだ?」
「貴方の大切な者の為に、敵を闇に還した。ただ、それだけですよ。」
「そうか…感謝する…」
 
感謝の言葉と共に、互いの拳を軽く握り、突き合わせる。
俺と久瀬には、それだけの言葉と行動で充分だった。


 

 


 
   用語解説
 
 
1・召喚魔法(しょうかんまほう)
   今回の異形召喚のみならず、全属性の精霊、もしくは精霊王などを召喚するときに使用される魔法。
   詠唱は人それぞれに異なり、さらに呼び出す対象にもよってさらに変化する。
   不変則的詠唱魔法である。
   短縮詠唱で精霊を呼び出すことも可能。
   ただし精霊王レベルになるとキチンとした手順を踏む必要がある。
   これから後、精霊王を呼び出すために使用される可能性は十二分にありえる魔法。
 
 
2:召喚者(サモナー:しょうかんしゃ)
   召喚した精霊や、異形を操る術者の事。
   自分の力量に合った召喚であれば、術者の命令を聞く。ただし、今回のような例も存在する。
   召喚をメインとした戦闘方法を使う人たちのことを一般的にこのように呼んでいる。
   ベストの召喚方式としては、自分の力量より1レベル低くしておくと制御しやすい。
 
 
3:ブラック・ホール
   『闇』属性の上級魔法。全てを消失させる威力を持つ。
   炎と水など、相反する属性をぶつけ合わせることにより生じる特殊な精製物を利用する魔法。
   今回の場合は水蒸気爆発を圧縮して利用したと考えて貰ってもいい。
   重力を一箇所に過剰に集中させることで発生するブラックホールとは微妙に違うと考えて貰いたい。
   


 

続き物の座談会♪



   時雨   「ってなわけで後書きをまとめてしまったKANON〜紅眼の魔剣士〜だったりします。」

   久瀬   「確かに、一応長編として書いていますが後書きが2つで1つというのは初めてですね。」

   時雨   「そだねぇ、自分でもびっくりしてるさ。ゲストの久瀬君。」

   久瀬   「紹介が遅いようですが、気のせいですかね?」

   時雨   「ま、細かいこと気にしてると座談会じゃ生き残れないよぉ♪」

   久瀬   「要するに細かいことを考えるなと言うことですか。」

   時雨   「そーいうこと。しっかし、久瀬っちやたらと強いねぇ…? 」

   久瀬   「まぁ、これでも一応『闇』属性と契約してきた一族の嫡子ですから。」

   時雨   「自己の鍛錬は欠かさないと?」

   久瀬   「それはもちろんです。他にも独学で魔法理論の研究なども携わってますよ。」

   時雨   「うっわ…また頭痛くなりそうな内容だこと…って、ところで久瀬君。」

   久瀬   「はい、なんですか?」

   時雨   「…嫌われ者?(笑」

   久瀬   「…否定はしませんよ…確かに学園ではいろいろと言われているようですが。」

   時雨   「まぁ…人の上に立つのに汚れないでやるのは無理だからねぇ。」

   久瀬   「僕は自分の護りたい人を護れればどんな汚名だろうと被りますよ…」

   時雨   「例えば佐祐理さんとかね〜♪」

   久瀬   「ぐっ…!な、何を言うんですか!!」

   時雨   「あはー、赤くなってら〜♪」

   久瀬   「っく、もう締めますよ!ほら、早く!!」

   時雨   「あはは、了解了解♪それでは、これからも時雨のSSをなにとぞよろしく!」

   久瀬   「愚かで、救いようもない愚者ですが、長い目で見守っていただけると幸いです。」

   時雨   「ところで、佐祐理さんとはどこまで行ってるのかね……(邪笑」

   久瀬   「か、関係ないでしょう!貴方には!!」

   時雨   「えー、いいじゃん。コソッと教えてよ、な?」

   久瀬   「………斬る。」

   時雨   「え、ちょと、タンマタンマ! ッギャーーーー!!!







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