「とりあえず、一旦そのまま堕ちろ。起きてくる頃にゃ体調も戻るだろ。」
「あぁ、そうさせて貰うわ…さすがに久々に解放しての戦闘は…堪えるわ…」
 
バタッ
 
倒れ込んだ北川をそのまま見届けた後、ある程度高ぶったままの状態で、扉に目を向けた。
そこにいたのは、相沢の殺害部隊と封印部隊だった。
 
「さて、そこにいる連中。一体なんの用だ?」









































まぁ、大抵ここに来た理由なんて1つか2つしかないんだろうけどな。
俺の抹消か、北川の抹消、もしくは封印って所だろ。
部隊のなかの隊長格のオッサンが前に出てきて、俺に対して偉そうに解説を始めた。
 
「貴様に用はない。用があるのはそこに倒れている人狼種だけだ。」
「コイツは見ての通り、今気絶中だ、用件なら俺が聞いて置いてやるよ。」
「気絶か、それは好都合だ。暴れるようなら消しても構わんと言われたが、封印だけでいいようだな。」
 
やはり、北川の封印か…
人狼はもはや絶滅されていると言われているが、一応異形の中に分類される。
それが自分たちの敷地内で現れたとなったら、大人しくしているわけはないか…
まぁ、それを理解しながら戦うために止めなかった俺も悪いのかね…
だが…、北川を封印ね…
 
「…そんなことが、できると、本気で、思っているのか?」
「……なんだと?」
 
じじぃ共め…人の言うことを聞かなかった報いはあとで受けて貰おう。
今は、この目の前にいる愚か者共に制裁を加えよう…
誰も、俺の仲間を傷つけようとすることは許さない…
 
「貴様等相沢の者が俺の知り合いに手を出そうなんて千年早い…身の程を知れ!下郎共!!」
 
ゴッ!
 
言い切ると同時に力を解放、翼を展開。
久々に翼を出した気がするな…力の解放手順…鈍ってはいないようで安心した。
……さて、さすがに殺すのは止めておこう。腐ってもこいつ等は一族の一員…
それに人を殺したという業を無意味に背負う必要はないだろう。
 
「っな…その…翼は…ま、まさか!? 先程連絡があった嫡男かっ!?」
「あー、気づくのおせぇなぁ…お前等、ウチの息子の顔くらい知っておけや。」
「…!? 首領!? な、なぜ貴方様がここにいながら人狼の侵入を許しているのですか!?」
「はぁ?何言ってんだよ、俺が人狼の1匹や2匹程度で手こずるとでも思ってんのか?」
 
それに暴れる前に寝てるだろう? なんてのたまいやがった。
……相変わらずふてぶてしいという言葉が皮を被ったようなオヤジだな。
まぁ、そんなことはどうでもいいか…とりあえず今の狙いは…隊長格のみ!
 
ヒュッ…ガキッ!
 
「こるぁ、くそ親父…なんで邪魔しやがる…」
「馬鹿言え、ダメ息子。その威力だったらコイツもう仕事復帰できねーじゃねぇか。」
「そんなこと知ったことか、俺の友達に危害を加えようとするヤツに容赦する気はないね。」
 
北川と戦ったときよりもけた外れのスピードで隊長格の後ろに回り、膝を破壊、首を打ち据えて気絶させようとしたが、いつの間にかついてきてた親父に邪魔された。
ちなみに、他の戦闘員らしき連中は俺等の速度についてこれてもいない。
ちっ…昔よりさらに質が落ちてるんじゃねぇかよ…
 
「まぁ、やらせてもいいが、そうなると今後の事後処理に困るんでな。八つ当たりはじじぃ共にでもしてこい。」
「……それが実父達に対する言葉なのかよ…」
「なぁに、しぶとく長生きしてんだ。そろそろ天寿に導かれても問題ねーだろ。」
 
そう言って豪快に笑い出した。
……なんか、やる気失せてきた…しかも、俺がやったら天寿じゃなくて人災だろ。
まぁ、こんな連中殺した所で本当に無駄ってとこか…
 
「あ〜…ならしかたねぇ…じじぃ共んとこ行ってくるか…」
 
ん…なんか忘れてる…?
あぁ、そうだそうだ。思い出した。街での防衛の件を聞かないと。
 
「そうだ、親父。聞きたいことがあるんだがいいか?」
「んー、まぁ多少の予想は付くが、なんだ?」
「街の防衛はどうなっている。人目に付かない程度に市民を守るのも俺達暗部の人間の仕事だろう?」
 
グールの大量発生とダークネスの召喚。
グールが大量発生した時点で、殲滅部隊が動き出していても良いはずだ。
なのに結局時間がどれだけ経っても何も来なかった。
念のため気配を広げたとき他の場所も視たが、部隊が動いている気配なんて無かった。
 
「…………なんだと…?」
「…親父も知らなかったのか…?」
 
俺の台詞を聞いた瞬間、親父の周りの気温が一気に低下したような錯覚を感じた。
く…さすがに首領はってるだけあるな…スゴイプレッシャーだ…
 
「殺害部部隊長、及び封印部部隊長…相沢家当主、相沢健二の名を持って命ずる、諜報部隊、殲滅部隊隊長及び隊員を全て連れてこい。5分以内だ…」
「ハッ!!了解しました!!!」
 
親父の言葉を聞いた瞬間、隊長格その他諸々が蜘蛛の子を散らすように動き出した。
ふぅん…さすがに人を使うのに慣れてるんだな。
 
「祐一、今の話は本当なんだな?」
「あぁ、間違いない。久瀬…いや、隆や街の人に聞けばすぐ分かる。」
「被害は…?」
「人的被害は特になし、怪我人は多少いるかも知れないが、重傷はないと見て良い。あとは建物に多少の損害程度だな。」
 
主に久瀬の魔法で。
 
「そうか…」
「有志と俺が近くにいて、なおかつ早期発見できて良かった。遅かったら商店街が死者の街だ。」
 
グールのその体液が血液に混ざると、その人も同じグールとなってしまうという効果がある。
だからグールの攻撃は極力喰らわないようにしなくてはいけない。
今回は本当にたまたま、俺とタイヤキ屋のオヤジがいたおかげで被害がでなかったんだ。
 
「首領!諜報部隊、殲滅部隊隊長及び全隊員集結完了しました!!」
「来たか…祐一、ここは俺に任せて、お前等はじじぃんとこ行け…この際だ、殺ってもかまわん…」
 
冷静な口調に聞こえるが…これは内心かなり切れてるな…
なんだかんだでウチの親父は街の人が好きだからなぁ…
それらが危険にあったってのにのうのうとしてたこいつ等が許せないって所か…
俺も許す気はないが…まぁ、仕方ない。
 
「……俺の手でケリをつけたかったが…わかった、じじぃの安全は保証しない。」
「あぁ…済まなかったな……人狼の少年、そろそろ動けるだろう。祐一に付いていくといい。」
「ありゃー、なんで起きたの気づかれたんだか…こっち全然みてなかったのに。」
 
そういうと北川がむくりと起きあがった。
本人は気づいてないつもりだろうが、気配察知が尋常じゃない俺と親父はすでに気づいてたりするんだが。
 
「うし、北川…これからちょっと行くところがあるからそのまま全解放状態でついてきな。」
「は…?良いけど…何処行くんだよ?」
「じじぃん所。そろそろ天寿を迎えさせてやろうじゃないか。」
 
すごい爽やかに言ってのけると、北川は唖然とした顔のまま固まってしまった。
はて…?なんか変なこと言ったか、俺?
まぁいいかー。
細かいことは気にしない気にしない。
 
「よし、行くぞ。着いて来れなかったらおいてくぞ。」
「って、待てよ!動き出すのはえーから!!」
 
そりゃそうだ、割と解放してるし。
この翼を使えば飛ぶことだってできなかないんだぞ、えっへん。
待ってろよ、くそじじぃ共、今、俺が天寿全うさせちゃるっ!
 
──────────────────────────
 
 
   interlude
 
 
 
さて…祐一達は行ったか…
ただでさえあいつに負担をかけてるというのに…また負担をかけてしまったか…
俺は自分が情けない、部下の管理すらまともにできてないらしい…
だが、まだ大丈夫だ。あいつのおかげで街に被害はない。
ならば、これから二度とないようにすればいいんだ。
時期は予定より早いが…隠れて錬っていたあの計画…実行に移すか…
 
「いるな?零(※1)。」
 
シュタ
 
「ハッ、この身いつでも貴方様のお側に。」
「アレを発動する、夏美と千尋、他、計画に携わったもの全員に伝えろ。」
「心得ました、では!」
 
シュン
 
今のは、俺のお抱えの護衛…まぁ、実際俺に護衛なんていらないんだが。
名前は零、なんでも主を失った忍者だったらしいんだが、面白そうだから俺が拾った。
それ以来、なにかとよく働いてくれている。
遁行する速度は下手したら祐一より早いかもしれないな。
 
「さて…諜報部隊隊長、殲滅部隊隊長、及び各隊員共何故呼ばれたか、想像は付いたか?」
 
そう言って周りを見渡すが…ドイツもコイツも分かってねぇな…
暫く異形の襲撃なんてなかったからって…たるみすぎだこいつ等…
その不抜けた覚悟、後になって後悔しやがれ!!
 
「巫山戯るのも大概にしておけ!!貴様等の職務怠慢のせいで市民が危機に陥ったというのにその不抜けた態度はなんだ!!!」
 
そういうと、普段は3割も出していない力の5割程度まで解放する。
圧倒的な力の奔流が渦を成し、闘技場の中で暴風の様に吹き荒れた。
中には、解放した瞬間に吹き飛ばされたヤツもいるようだが、そんなことはどうでもいい。
この程度で吹き飛ぶようなヤツはこれからの俺の一族にはいらん!!
 
この程度の力の解放にも耐えれないのか! ……今吹き飛んだ奴等は即刻相沢から出て行け…」
「な…!?首領!?」
「平和に染まりすぎて呆けたか…? 貴様等は、誇り高き相沢の名を汚しおって…」
 
何故言われたか理解していない…理解しようとしていないのか…
自分の地位のみ気にする愚者共の集まり、全くもって度し難い。
もはやこの身に迷いはない、我が最愛の息子、祐一の為に、そしてこの街に暮らす全ての者の為に。
今こそ俺が相沢を変える、俗に染まり保身に走るのみの古い世代などもはやいらん…
実父だ、親戚だと思って今まで耐えてきたが…潮時だろう。なにもかも、もう終わりにしよう…
これからの相沢をすべて変えてくれよう!
 
「今から猶予を24時間やろう、最初に吹き飛んだ者、俺が言っている事が理解できぬ者、全て荷物をまとめて、この街から出てゆけ。それを過ぎてもこの街に留まっていた者は敵対すると見て、俺直々の手で殺してやる。相沢を出たあと、悪事を働くようならばその時は命がないと思え。」
 
そういうと、俺は呆然としている連中を残して闘技場から出た。
さて、他は夏美と千尋、零に任せておけば良いだろう。
とりあえず、新たに人員を選抜しなくてはいけないな…
各名家にもリストアップを頼むとするか…とりあえずは…久瀬だな。
また、これから忙しくなるぞ…
俺はそうぼやきながら、地下封印庫に向かった。
 
 
 
interlude out
 
 
 
──────────────────────────
 
……背後から追従してくる気配が…北川の他に2つ…
一つは良く知る俺の妹の気配だが…もう一人は…誰だ?
 
スチャッ…シュ!
 
隠していた飛針を謎の気配に向かって投げる。
速度、精度問題なし。当たるか避けるかするだろう。
 
カキンッ!
 
唐突にモノを投げた俺に対して北川がびっくりしたような動作をしたが気にしない。
人狼の割に周囲への判断が鈍いような…?
まぁ、とりあえず気配の判明が先だ。
 
「……余り、攻撃的すぎるのも如何かと思われますよ、祐一様。」
「気配をしっかり表さず、着いてくる方が悪い。」
「それはまた…健二様と同じような理屈をお持ちで…」
 
ケラケラと笑う。
おぉ、なかなかの美人さんだ。
 
「ふむ…親父の知り合いか?」
「はい、申し遅れましたが私は零。健二様の護衛をさせて頂いている忍です。」
 
あぁ…昔聞いたことがあるな、面白そうなヤツが落ちているから拾ったって。
それがこの人なのか…
黒髪を後ろで邪魔にならない程度に纏めた、身長大体150pくらいの女の人だった。
表情でみるなら、舞に近いかも知れない。美人さんの素質ばっちりだ。」
 
「それはどうも、お褒めに頂いちゃいましたね。」
「……久々に出たなぁ…この癖…」
「でもまぁ、気持ちはわかるぞ、相沢。」
 
やはりこの男、俺の感じたこの気持ちが通じるか、やるな。
微妙にサムズアップしているのが見えたが気にしない事にする。
まぁ、とりあえず付いてきた理由を聞いておこう。
 
「で、零さんだっけ?用件は?」
「はい、用件は千尋様がいらしてからお話しいたします。暫しお待ちください。」
「ふむ…北川、予想よりお前はめんどくさいことに巻き込まれたかも知れないぞ?」
「は…?それって一体どういう意味だ…?」
 
まぁ、直接手出しすることはないかもしれないが…
もしかすると、もしかするかもしれないしなぁ…
 
「ごめーん、兄さんおまたせっ!」
「よぅ、千尋。しっかりトレーニングしてるか?」
「そりゃもう、父さんにビシバシしごかれてるわよ。筋肉付いちゃったらどうしてくれるのかしら。」
 
そうぼやいているが、ふむ…言うだけあってキチンと基礎を取り戻したらしいな…
動作のひとつひとつの隙がほとんどない。
 
「じゃぁ、零さん、説明頼めるか?」
「はい、分かりました。ではご説明いたします。」
 
そうして零さんが話してくれた事は、俺を驚愕させるには充分すぎた。
隣で聞いている北川なんか、開いた口が塞がらないって状態だ。
 
「相沢を変える……か…」
「はい、私が主より賜った命は、この計画を知る者達への通達です。」
 
なんだってまぁ、よくこんな計画を思いつくもんだ…
だが、この計画には大いに賛成だっ
 
実際、相沢、久瀬の他にも異形との契約が行われていないわけではない。
召喚した異形と契約を結ぶという人もいれば、北川の祖先のように恋し、結ばれるというのもありえるだろう。
そういった人たちは今の相沢じゃ存在を否定されることしかない。
だが、今親父がやろうとしていることは、その人達の存在を認め、加護が必要であればそれなりの対応をする、さらにその人が望むなら共に街の防衛に力を尽くすという体勢を作ることらしい。
 
「それで、千尋は知ってたんだな?」
「えぇ、それで、これから行う私の役目はある意味けじめ…みたいなモノかしら…」
「けじめ?」
 
何か千尋がやらなきゃいけないことなんてあったかな?
特に思いつかないが…
 
「その役目ってのはなんだ?」
「千尋ちゃんだっけ…?俺達で良ければ、手伝えることもあるかもしれないぞ?」
「それは………私が老院の者共を殺すの…」


 

 


 
   用語解説
 
 
1・零(ぜろ)
   祐一の父親、相沢健二に拾われた忍。
   過去に何かしらの事情があり、主を失い、大怪我をしていたところを何故か健二に発見され救われた。
   それ以来、健二を新たな主と定め、健二や、その身内のために働く。
   ちなみに、老院の爺様共のことが嫌いらしい。親祐一派。
   


 

座談会会場



   時雨   「2ヶ月開いちゃいました、まぁでもとりあえず紅眼の〜第20話をお送りしました。」

   真琴   「あぅー…」

   時雨   「ん? どうした、狐っ娘。」

   真琴   「狐だけど狐じゃなぃわよぅ!。」

   時雨   「……それ、矛盾してないか?」

   真琴   「う、うるさいわよぅ!そんなことより、作品停滞してたことをみんなに謝りなさいよ!」

   時雨   「おぉ…狐っ娘がまともなこと言ってる…(大方美汐の助言だろう)」

   時雨   「まぁ、それはともかく、更新が停滞してしまって申し訳ないです。なんか気が乗らなくて…」

   真琴   「なんでも、21話がちょっと暗すぎて改竄してたら更新忘れたらしいわよぅ?」

   時雨   「こらこら、そんな裏話を公開するんじゃない。」

   真琴   「いいじゃないのよぅ、出番がなくて暇なんだからっ!」

   時雨   「あー、それは申し訳ない、文才がないのかいまいち話が進めなくて(汗」

   真琴   「少しずつ書いていけばいいじゃなぃのよぅ。」

   時雨   「努力はしてるんだよー…(遠い目」

   真琴   「あはー、実になってないだけよねー」

   時雨   「ええぃ、うるさいやぃ!」

   真琴   「こんな作者だけど、見捨てないでやってほしいの。」

   時雨   「なんだろう…真琴に言われると切ない…とりあえず、これからもよろしくっ!」

   真琴   「できるだけ早く更新できるようにはさせるわよぅ。」



   時雨   「とりあえずなんか今回は平和に終わったなー…」

   真琴   「あ、そうそう、美汐に言われてたんだった。」

   時雨   「ん?」

   真琴   「とりあえず、時雨は燃やして置けばいいって。『業火、狐火!!』」

   時雨   「やっぱりそれなんかっ!! あぢゃー!!







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