何か千尋がやらなきゃいけないことなんてあったかな?
特に思いつかないが…
 
「その役目ってのはなんだ?」
「千尋ちゃんだっけ…?俺達で良ければ、手伝えることもあるかもしれないぞ?」
「それは………私が老院の者共を殺すの…」









































「なっ!?」
「……何故だ?」
「お、おい相沢!?なんでそんなに冷静でいられる!?」
 
北川はなにか焦っているようだが、この家ではこの程度の事で驚くようなヤワな神経じゃいられない。
なぜなら、俺も昔はこの家に命を狙われる立場だったからだ。
そして、今は狙う側でもある。
 
「兄さんが異端者として公表されたとき、私は何もできなかった…父さん達もその頃は老院ほど発言権はなかったから…」
 
確かに、俺がルシファーと契約した後、この家で親父達が頑張ってくれたのは知っている。
そのことには感謝しているが、それで迷惑をかけるくらいならと俺は自分から街を出た。
 
「その時私にできたことは、兄さんの知り合いを影ながら護ること…久瀬さんも手伝ってくれたおかげでみんなに被害が出ることはなかったけど…老院は兄さんの知り合いだからというくだらない理由であの人達を自分の好きなようにしようとしてたわ…」
「そんな…水瀬や…沢渡も対象だったってことか?」
「えぇ…」
 
く…くははは!
そうか…俺だけに飽きたらず、みんなに手を出そうとしていやがったのか!
その癖にのうのうと生きていやがるわけだ…
ははは、愉快だ、愉快すぎるほどに滑稽だ…
 
「全部撃退できたからいいものの、それでもそんなことをしようと仕向けた老院を私達は許せなかった…だから…影で父さんが練り上げてたこの計画に乗ったの。」
 
ポフッ…なでなで…
 
「んぅ……兄さん?」
「お前はやっぱり優しいな…俺なんかのタメにそこまで頑張ってくれてたなんてな…」
「相沢……」
「北川…これから俺に付いてくるってことは、世の中でもかなり見たくない映像を見ることになるぞ…それでも…来るか?」
「……はっ、馬鹿な事聞いてるんじゃねぇよ、心友!」
「……サンキュ」
 
やっぱコイツは最高だ。
義に篤く、自分の信念が今やしっかり確立してきている…
そして、何事も受け入れる事ができる大きな器をも持ってる…
久瀬といい、コイツといい…友達が、こんな奴等でよかったよ。
 
「千尋…相沢家嫡男、祐一の名において命ずる、老院は俺に任せろ。その変わり、自棄になる奴等から俺の友達を護ってくれ。手段は問わない。」
「……その命、確かに拝命承りました。」
「そして、零さん。仕える相手が違うかもしれないが、今回だけは俺の言うことを聞いてくれ…千尋を…大事な俺の妹を頼む。」
 
そう言って頭を下げる。
肩に手が置かれ、その方向を向くと、零さんが微笑んでいた。
 
「祐一様、頭を下げる必要はありません。健二様は私も娘の様なものだと言ってくださいました。ならば、千尋様は私の妹のような存在。姉が、妹を護るのにお願いされる必要がありましょうか?」
「……助かります。行くぞ…北川。」
「おぅ!待ちくたびれたぜっ!!」
 
さぁ、老院の腐れ爺共…
今日、この日から、明日を拝めると思うな…
再び、俺と北川は走り出した。
 
 
 
──────────────────────────────────
 
 
 
俺達は今、老院達がいる扉の前にいる。
かなり分厚く、材質はかなり硬いらしい。
しかし、今の俺等にはそんなこと関係は無いっ!
 
「行くぞ、北川」
「破壊して、OKだな?」
 
そうニヤリと不敵にこっちに向かって笑って見せた。
俺もニヤリとして返すと
 
「モチっ!おおおおおぉぉぉ!!」
「はあああああああぁぁぁぁぁ!!」
 
『だりゃあああ!!!』
 
2人して、勢いよく拳を振りかぶるっ
そして、そのまま思いっ切り力の限り叩き込んだっ!
 
ドゴッ!!!
 
確か、小さい頃、この扉はどんな衝撃でも壊れないとか言ってた気がするが。
冷静な怒りに包まれた、俺達の拳を受けきれるような防御力はなかったらしい。
拳2つ分の後をしっかりとつけたまま、部屋の奥へと吹き飛ばされていった。
そして、その部屋に悠々と入り、中にいる円卓の様な席に座った12人のじじぃ共を睨みつけた。
 
「さぁ、覚悟はいいか?じじぃ共」
「今回ばかりは、知らないじーさんが相手でも、俺も手加減してやらねぇぞ。」
 
仁王立ちする銀の髪の異端者、紅眼の魔剣士と金色の体毛に包まれた人狼。
その2人の殺気に晒されて、いくら老院といえども、冷静になりきるのは不可能だったらしい。
 
「な、何のようじゃ!異端者め!貴様がここに足を踏み入れる権利などなぃわっ!」
「そうじゃ!ここは神聖なる相沢の中枢!身の程をしれい!」
「そうじゃ、そのとおりじゃ!!」
「………すぅっ」
 
「……黙れっ!!」
 
ビリビリッ!!
 
空気ですら振動するような気合いと共に大声を発した。
その瞬間、老院共が息をのむのが良く分かった。
 
「どうせ、遅かれ早かれ、退き、死ぬ運命だ。今散らしても惜しくはあるまい?」
 
ヒュッ……ドッ!!
 
そう言った瞬間、一人の老院が崩れ落ちた。
 
空海流無手法初級技法魂狩りたまがり』(※1)」
「う……うぁぁぁああああ!!」
「や、やめろおおぉぉぉ!!!」
 
1人が倒れた事が引き金になって、老院共はパニックに陥ったようだ。
タダ無様に這い蹲りながら逃げようとする者、苦し紛れに攻撃を仕掛けようとする者、タダ命乞いをする者。
俺と北川は攻撃を仕向けようとしたヤツから順番に攻撃対象を絞る事にした。
一瞬のアイコンタクト、それだけで急造のチームの割には意志疎通がしっかりできた。
 
「相沢の友人に手を出そうとしたって事は…俺の友人に手を出そうとしたってことと同意…ならば、その罪万死に値する。」
「わ……我が力、ここに解き放つ。喰うがいい!『ダークブリ……』」
「ふん…相沢の魔術行使より断然遅いな…」
 
ドッ!
 
戦いは、最初から一方的な結末しか見えていなかった。
足掻こうが何をしようが特にこれと言った抵抗もできず、老院共は気絶していった。
元から、老院の権力を安泰とさせていたのは、その周りの護衛官共の数の多さだ。
どんなに強いヤツでも1対多には限界がある。
だが、今のこの場には老院しかいない。その周りの護衛共はみんな親父達が引き起こした騒動の方に回されているんだろう。
さすがに一族の首領が暴れているとなると、そのくらいの実力者を出さないとダメというわけだ。
おかげで俺等は何の苦もなく、この中枢で暴れる事ができたんだけどな。
 
 
「これで、終わりっと。」
 
ドスッ
 
それからは数分もしないであっけなく片づいた。
昔は強かったんだろうが、今では所詮老いぼれ。若い現役世代の俺達の相手にはならない。
俺はもちろんルシファーと契約している分他よりは強い。
その上、戦闘能力に秀でた種である人狼ハーフ(でいいんだろうか)の北川も付いてるとなると、単純な戦力で言うならちょっとした事じゃ負けることはほとんど無いだろう。
老人達がそこら中で気絶して転がっている中、、俺と北川は壁に2人で寄りかかっていた。
 
「……済まないな…お前の手まで借りちまった…」
「はは、気にするなよ、相沢。それにこのことは俺等混血の人間に取ってもメリットはある。」
「まぁな…多分これで人に対して無害な混血の人たちは多少生活しやすくなると思うが。」
「あぁ、それで充分ってくらいだな。家族が襲われる心配がぐっと減るわけだし。」
「……そうか…ま、これでミッションコンプリート、だ。」
「おうよ、急造にしては割といい感じだったじゃねぇか、俺等。」
 
軽く拳と拳をぶつけ合う。
そして、2人して笑いあいながら立ち上がり、この腐った中枢を後にした。
老人共はそう簡単には目覚めないくらいに強く気絶させた、後は、親父達の仕事だ。
俺と北川は、とりあえず相沢家から出て、水瀬家に帰る事にした。
 
 
 
──────────────────────────────────
 
 
 
兄さんと別れた私は、零さんと一緒にとりあえず久瀬家の嫡子と連絡を取ろうと行動を開始した。
 
「とはいえ…久瀬さん何処に行けば会えるんだろう…?」
「ふむ…久瀬家の嫡子…確か隆と言いましたか。」
「そうそう…って零さん面識ないの?」
「そうですねぇ…」
 
そういうと、零さんは指をアゴに当てて、可愛らしく首を傾げていた。
ちょっと…なんでウチの家系ってみんな綺麗だったり可愛かったりするんだろう…
 
「私は基本的に主様付きの忍ですからね、1度か2度、顔を合わせたという程度ですか。」
「そっかー…」
 
んー…そうなったらどうしたらいいんだろう…?
とりあえず相談してみようかな。
 
「ミリアム、出てきて。」
「……あのねぇ…私は体の良い相談役じゃないのよ?」
「まぁ、堅いっこと言いっこなし♪」
「はぁ…誰に似たのかしらこの性格…やっぱり健二かしら…?」
「千尋様は、お二方に似ていらっしゃるかとは思いますが…」
「あら、零じゃない、元気そうじゃない」
「はい、主様方には良くして頂いておりますので。」
 
確かにウチ一番のお気楽っていうのは父さんだけど、私が似てきてるって…そりゃぁないんじゃない?
これでも一応お母さん似だって思ってるのに…
私が思考に没頭している間に、ミリアムと零さんは和やかに談笑していた。
 
「んで、ミリアム。久瀬さんの居所分かりそう?」
「ふふ、そんなの簡単じゃない、ただちょっと私の気配を大きくすれば…」
 
そう言った瞬間ミリアムの気配というか、存在感が大幅に上がった。
ただし、害を加えようって気がないので一般の人には気づかないみたいだけどね。
 
「……何か、わざわざ僕が釣られたようなので不服ですね…」
「ほら、あっさり見つかったわ。」
「お久しぶりで御座います、久瀬殿。」
 
いつの間にか、久瀬さんが背後にいた…一体いつのまに?
あれ、零さん気づいてたのかな?
 
「やぁ、久しいね、零さん、ミリアム。そして、君も久々だね、千尋君。」
「あら、貴方も暫く見ない間にいい男になったわねぇ…」
「あ、うん、こんにちわ。久瀬さんもお元気そうで。」
 
あ、ミリアムの顔が同性の私から見ても妖艶って言葉が似合いそうな微笑みになってる。
なんか雰囲気もそれっぽぃし…
もしかして食指が動いた!?って、さらに魅了発動しようとしてる!?
 
「残念ながら、ミリアム。君の魅了は祐一と同じく僕には効かないよ。」
「残念…どうして祐一の回りの男ってこうも人の精神操作系をレジストするのかしら…」
「総じて主様達男性陣は鈍いようでいらっしゃるようで…」
 
それは割と同感かも…兄さんって結構好意に鈍感な面があるからねぇ…
ただの見た目だけでも好意なら一杯向けられてるのに気づいてなさそうだし…
 
「で、僕を呼んだって事は何かあるのかい?おおよその予想はついているがね。」
「あ、そうだった。久瀬さん、父さんから伝言です。[計画を実行に]だって。」
「……ふむ」
 
あ、久瀬さんの気配が変わった…?
 
「そうですか、こちらは了解しました。他には何かありますか?」
「あ、あとはどっちかというと私からのお願いで、兄さんの回りの人たちを毒牙から守ろうかと。」
「あぁ、それの事ならもう心配入りませんよ。」
「へ?」
 
あれー、でも今計画のことは教えたばっかりだよね…?
なのに心配いらない…?
えー、なんで?どうして?
 
「クスクス…千尋、貴女は得意じゃないかも知れないけれど、気配探査を軽く街にやってみなさいな。」
 
ミリアムがなんか全て分かってます見たいな感じで笑ってる…
私だけ分かってないみたいでなんか癪だなぁ…
とりあえず言われたとおり、気配探査…苦手なのよねぇ細かく察知するって…
 
「……………あ、これって…?」
「分かりましたか?一応僕直属…っていうのも何ですが、僕が選んだ反相沢旧家、老院とは隔絶した考えの持ち主達です。彼らに頼んで、常時護衛のような役割はやって貰ってますよ。」
「久瀬殿、不定な輩への条件は?」
 
零さんがそう聞くと、久瀬さんは珍しく不敵な、悪巧みしています見たいな顔をして言った。
 
「見敵必殺、祐一風に言えば、明日の朝日は拝めると思うな、といったところですかね。」
「あらあら、それはまた素敵な条件じゃない。面白そうね。」
「事後処理は私に言ってくだされば承りますが…?」
「あの程度の輩、こちらだけで充分ですよ。そもそも、僕たち久瀬一族の本領は隠匿にありますから。」
 
うーん、なんだか会話から置いて行かれた気分…
でも、私が入り込んでもいまいち良く分からない話題ばっかりだし…
 
「と、いうことなので千尋君。君には別口で動いて貰いたい事があります。」
「ふぇ?」
「祐一が確か異形山に行くためのメンバー集めをしていたハズですね。」
「あ、はい、確か私が父さんにしごかれてる間に探すみたいな事言ってましたけど…?」
「ふふ、それでは、こう言うのはどうでしょう?」
「あら…♪」
「それは、面白そうですね。」
 
それは、今日見た中で、一番悪巧みしてますって久瀬さんの顔だった。
ついでに、ミリアム達も…


 

 


 
   用語解説
 
 
1・魂狩り(たまがり)
   空海流の無手法初期のワザ、基本として習う最初の技。
   汎用性は高い技である、本来の威力であるなら相手を殺傷することすら可能。
   ただし、威力の加減によっては気絶させるだけということで使用できる。
   祐一は基本的に気絶させるだけの目的で使う。
   


 

座談会会場



   時雨   「一応そこそこ早めに更新してます。」

   舞    「…………」

   時雨   「とりあえず、無言ですけど今回は舞に登場してもらいました。」

   舞    「………はちみつくまさん」

   時雨   「いや、意味わからんゾ?」

   舞    「…………」

   無言でチョップ

   時雨   「いや、痛い痛い。何で叩く!」

   舞    「(頬を膨らましているらしい)」

   時雨   「何故拗ねている…(汗」

   舞    「…出番、少ない」

   時雨   「いや、まぁうん…ここの話が済めば次進めると思うんだけどね…(滝汗」

   舞    「まとめ方が悪い。」

   時雨   「口数少ないだけあって言うことが痛いね…」

   舞    「いいから続き書く。」

   時雨   「うぇーぃ、なんとかするわーぃ。」

   舞    「とりあえず、見捨てないであげて。」

   時雨   「これからも〜よろしく〜」

   舞    「ぽんぽこたぬきさん」

   時雨   「いや、否定すんなよ!」



   時雨   「……ここでこうしてまだ続いてるってことは…」

   舞    「佐祐理が言ってた、とりあえず斬っておくのがルールって。」

   時雨   「そんなルールないハズなんだけどなぁ…」

   舞    「…覚悟。『緋天連斬!!』」

   時雨   「やっぱりそれなんかっ!! いってぇー!!







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