「まぁ、とりあえず。当日まで、お前は修行続行な?」
「な!そんな〜…」
 
あぁもう!
早く当日にならないかなぁ…
父さんに引きずられながら、そう思う私でした。









































     ── 翌日 ──


チュンチュン……

「……んぁ?」

見覚えのある天井だなぁ……って、ここは家か。

「そういえば……昨日あのあと帰ってきて速効寝たんだっけ……?」
「ぐがー……すかー……」

……?
なんかいびきが聞こえたような……

「……なんでコイツもいるんだ……?」

床をみると、北川が大の字になって寝ていた。
さすがに寝ている時は気が抜けているのか、人間と人狼(ワーウルフ)状態の真ん中みたいになってる。
簡単に言うと毛深い人間みたいな感じか……

「あー……そういえば昨日帰ってきてから酒飲んだっけ……」

そう、相沢潰しの後、俺等はこっそりと酒を買い込んで部屋で小さな飲み会を開いた。
俺は、長年の問題だった本家の事が片づいた事で。
北川は、これからはハーフなどの理由で命を狙われていた闇の属性の隠れ契約者が安全になった事に。
理由の違いはあれど、両方とも気が楽になったというわけで、普通より酒が回るのが早かった。
途中で北川が眠ったのは覚えてるが……
俺も布団に入った記憶がないんだよなぁ……?

「秋子さん……だよな、多分」

部屋を一通り見回すと、入り口の所には2日酔いの薬とおにぎりが置いてあった。
こんな芸当ができるのは間違いなく、秋子さんだな。

「うーん……後でお礼を言っておかないとな」

お酒の事でちょっと注意受けるかもしれんがなぁ……
まぁ、理由が分かれば許してくれるだろう。

「さてと、馬鹿を起こすか……」

とりあえず、半分獣人化してるこの馬鹿を叩き起こそう。
今この場面を、人狼(ワーウルフ)の存在を知らない人が見たら驚くかもしれんしなぁ。

「おいこら、起きろ北川。起きろっつの」


ペシッペシッ


「……起きろやコラ」


ゲシッゲシッ


「……起きろっつってんだろーがボケっ!!」


ドゴッ!


「ってーだろうがっ!んなろー!!」
「お、やっと起きたか」
「てめぇ、やっと起きたかじゃねぇよ相沢!!人が気持ちよく寝てる時にボカスカ蹴り入れやがって!」

起こしてやったというに、なんという言い方じゃ。
失礼にも程があるだろう。

「てめぇ、起こしてやったのに失礼なとか考えてねーだろうな?」
「お、何故に分かったんだ。エスパー?」
「エスパーってなんだよ……とりあえず、起こした理由はなんだ」
「あぁ、忘れてた。北川、とりあえず人型に戻っとけよ、そのままじゃ下にも降りれないぞ?」

そう言った後、北川は自分の姿をぐるりと眺めてみた。

「あら、人狼化してる。昨日はちょっと飲み過ぎたからなぁ?」
「それは否定しないんだがなぁ、いろいろ開放されたわけだし」
「まぁ、とりあえず戻るわ、ちょっと待ってな」

そう言って北川がちょっと目を瞑った後、少しずつ人間状態に戻っていった。
案外見てると面白いなぁ?
今度のんびり見せてもらうか。

「言われてもみせんぞ?」
「む、また読まれたか……」
「んな物珍しそうな目で見てたら誰でもわかるわ……」

そうか……今後気を付けよう、ばれないように計画を練らねば。
む、そう考えてるウチに人型に完璧に復活したな。

「ようし、したら下に降りて秋子さんにお礼を言いに行くぞ」
「おぉ、こんな所におにぎりが、これは秋子さん謹製と見た」
「そう言いながら速効頬張ってんじゃねぇよ……」
「なんだよ……お前もそう言いながら食ってるじゃないか」

しょうがないだろう、美味いんだから……
あぁ、でもやっぱ美味いなぁ。

「さて、食うだけ食ったし行くとするか」
「おう」




─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─





ガチャ

「おはようございます、祐一さん、北川君」
『おはようございます、秋子さん』

いつも通りの笑顔で秋子さんは俺等を迎えてくれた。
でもなんで部屋に入るタイミングピッタリにこっちを振り向いてるんだろう……
まぁいいか……

「2人とも、お酒も限度が大事ですからね?飲み過ぎはいけませんよ?」
『はーい』

にっこりと秋子さんは微笑んで、この話は終わったらしい。
そして、その微笑みの方向性が一瞬で変わったような気がしたのは気のせいだろうか……?

「祐一さん、今日はまたちょっと、相沢家に行って欲しいんですけど、お時間はありますか?」
「え……?えぇ、まぁそんなに長い時間は無理ですけど顔を出すくらいなら……」

まだ出発の日まで日数はあるけど、こういう事で、早いのに悪いことはないしなぁ。
知り合いを一通り回らないと。

「多分、祐一さんの用事もひとまとめに終わりますよ」
「ほぇ?そうなんですか?」
「はい」

にっこり笑って言われたので、きっとそうなんだろう。
まぁ、行けばわかるかな……?

「あ、あと北川君も同じように向かってください」
「え、俺もすか?」
「えぇ、昨日零さんからそう連絡を受けましたので」
「あー、了解です。」

北川もか……っていうか零さんが連絡の大元……?
なんだろう……無性に嫌な予感というかそんなような予感がするなぁ。

「わかりました、じゃぁとりあえず向かってみます」
「はい、そうしてください」

んじゃぁ、早速向かうとしますかねー。

「行くぞー」
「おう」




─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─





「と、言うわけで、やってきました相沢本家」
「……誰に言ってるんだ、相沢」
「気にするな、社交辞令というヤツだ」

さて、来たのは良いが何があるやら?
……なんでか中からみんなの気配がするんだけどなんだろう……?
しかもアイツの気配もあるのはなんでだ……?

「あー……なんだ、北川」
「ん、どうした?」
「俺の用事が簡単に終わりそうなんだが、また軽く模擬戦みたいなのでもやるか?」
「おぉ、それはかなり嬉しいかもしれん」

ついでに、みんなにも正体を暴露してもいい頃合いじゃねぇかなぁと。
さすがにコレは本人に任せるんだけどな。
と、談笑してるウチに知ってる気配が後ろにいるなぁ……

「さて、さっさと行くか……道案内よろしく、零さん」
「はい、かしこまりました」
「うぉっ!零さん……いつの間に……?」

いつの間にっていうか今さっき?
人狼状態じゃないと気配察知が甘いんだなぁ、コイツ。
そんなんだと急な出来事に対処が遅れるぞ。

「皆様がお待ちです、参りましょう」
「あぃよ、行きますかね」
「……一体いつの間に……」

まだ言ってるよ、コイツ。




─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─





「失礼します、祐一様、北川様をお連れしました」
「おぅ、入んな」

「……この頃良く出るな、親父」
「そうか、普通だろう?」

絶対多いぞ……

「まぁ、これで役者は揃ったな」

そう言って周りを見渡して、唐突に親父は話を切りだした。

「今の強さに不満を持ってるヤツは手をあげろ」
「って、唐突で、その内容かぃっ!!」

ハッ……ついつい突っ込んでしまった。
いかんいかん、落ち着け落ち着け。
落ち着いて周りを見てみると、数人手をあげてる奴がいた。

「いやまぁ、俺は勿論手をあげるんだけどな?」
「まぁ、お前はそうだろうなぁ……あの状態を完璧にしないといけないだろうし」

北川は……まぁいいとして、当日までしごけばいいだけだし。

「お前等もか、香里、天野、真琴」
「何よ、悪い?」
「今の力ですと、少々問題も多いもので……」
「ゆーいちに負けてるのが癪なのよぅ!」

………真琴、俺に勝つのはかなり難しいと思うぞ……?
とりあえず煉獄最強目指すのに近いんだから……

「よしよし、素直な事はいいことだ。っていうわけで、お前等。祐一に同行しろ」
「親父……つくづく直球なんだな……」
「健二さん……僕がこの場にいる理由は、貴方が原因と考えて間違いないですね……?」
「あらま、やっぱりいたのか……久瀬」
「えぇ、見事に拉致られました」

拉致……ってことは、親父に捕まったってことか。
悪いが零さんの実力じゃ、久瀬は捕まえられないだろうし……

「で、お前も行くってことか……?」
「多分、半ば強制的に行くことになるでしょうねぇ……」
「まぁ、丁度良い機会だし、佐祐理さんにも良いところ見せたらどうだ?」
「……関係ないでしょう、それとこれは……」

ちょっと間があったぞ……
それもいいかも、みたいな事考えたな、コイツ。

「あの、申し訳ありませんが、仰ることの意味が理解しかねるのですが……」
「ん、あれ、俺言わなかったか?」

まぁ、確かになんも言ってないしなぁ……
すでに言ったことにしてんのか、あの頭は……

「えぇ、何も聞き及んでおりません」
「あぁ、悪かったな、嬢ちゃん」
「健二様、ここからは私が説明致します」
「ん、頼むぜ、零」

そう言って親父はその場にあぐらをかいて座った。
俺もそれに続いて座ると、みんなしてその場に座り込んだ。


「それでは、健二様に変わりまして私が説明させていただきます。

 先日、祐一様に健二様が学園を通して仕事を依頼しました。
 その内容は、異形山に赴き、薬草「ルナ・フォース」を取ってくること。
 出発は明後日、期限は3週間。
 採取する量に制限は無く、同行者の人数にも制限はありません。
 故に、祐一様はサバイバル知識を向上させる為に、その見込みのある人を選定しておられるのです。
 そして、祐一様に同行する資格が皆様にあるとの判断を受けたため、こうして集まっていただきました。
 
 行くも行かぬも皆様の判断次第ですが、これに同行することは悪い事ではないかと思われます。
 安全に関しましては、確実な保証はしかねます。
 ですが、祐一様や千尋様、久瀬様がいる以上、有意義になるでしょう。
 後は、皆様の判断にお任せ致します」


「と、言うワケだ、俺達と一緒に来る勇気はあるか?」
「一応俺は行くことが確定してるんだよな?」
「あぁ、北川は半強制な」

──あ、やっぱりね……
そう言って北川はあっさり引き下がった。
何を当たり前の事を言っているんだか……

「佐祐理と舞は、前に言った通りですよー」
「はちみつくまさん」
「あぁ、よろしくな」

佐祐理さんと舞は、前に聞いてあるから問題ないっと。
零さんの説明も終わり、俺の問いかけに周囲は考えるように顔を伏せていた。
数分経った頃だろうか、ぽつりと手を上げた人がいた。

「祐一もいくんでしょ……?なら真琴も行く」
「……本気か?ヘタしたら……死ぬぞ?」

脅しでも何でもない、ただ本当に起こるかもしれない事実。
いくら俺達がついていても、突発的な問題ってのは起こるもんだ。
その時に、本当にコイツらを守れるかと聞かれたら、結論としては「No」だ。

「大丈夫よぅ……足手まといかもしれないけど……頑張るから」
「……なら、俺は何も言わないよ、しっかり着いてこい」
「うんっ!」

決意は固いらしい。
それを認めて、微笑んでやると、少し惚けたかと思ったら笑顔になって元気良く頷いた。

「真琴が行くのでしたら、私も行かないわけにはいきませんね」

──なにせ、相沢さんから真琴を預かった身ですから。
そう言って天野は俺に笑いかけた。
流されているような口調だが、目はしっかりと強い意志を示していた。

「スキルアップの為なら……それも有りかしら?」
「……香里、さっきも言ったがヘタしたら……死ぬんだぞ?」
「あら、心外ね、私はまだまだ死ねないわよ?」

不敵な笑みを俺に向ける香里。

「私も、行きます!」
「大丈夫か、栞?」
「えぇ、祐一さんやお姉ちゃんがついてますから」

姉を本当に信頼してるんだな……

「うんと……ボクは止めておくよ……ボクは戦闘に向かないからね」
「そうか……わかった」

あゆは……確かに戦闘向きじゃないな……
戦闘に力を入れるより、支援のスキルを上げる方があゆのためになるだろう。

「……あれ……誰か足りなくないか?」
「あぁ……それなら名雪よ」
「おぉ、そういえば随分前から姿見てないな……」
「水瀬の事だから、きっとまだ寝てるんじゃないか?」

……十二分にあり得るなぁ……
まぁ、あいつは後からでも聞いておけるからいいか……

「よし、話はまとまったみたいだな。それなら明後日、朝10時にウチの正面に集合な」
「私もこれにて失礼させて頂きます」

シュンッ

そう言って親父はのそのそと部屋を出ていった。
とりあえず、俺等は残ったワケなんだが……

「さて、北川……とりあえずメンバーが決まったんだが……」
「……まぁ、相沢……お前の言いたい事は予想がつくんだが……」
「どうする?多分、異形山に入ったときにずっと隠し通せる保証はないぞ」
「そうだな……」 「ま、少なくとも俺はかわらねーから、安心してぶつかってこい」

トンッ

そう言って背中を押してやると、少し北川はよろけたが、すぐに立ち直って前をしっかり見た。
覚悟は決めたみたいだな……

「ここにいるみんなに話がある……聞いてくれるか?」

さて、どうなることやら……
   


 

後書き


今回は、後書き無しですよぅ。
次回にまとめて書いちゃいます。







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