俺と北川の間の空気が徐々に凍っていくような錯覚。
そして、その空気がひび割れたような音を皮切りに、俺と北川は同時に動き出した。


「ああああぁぁぁぁぁ!!!」
「いくぜ、しっかり耐えきろよ、北川あぁぁぁ!!!」









































初撃は単調に、まっすぐ行って、ぶん殴る!
これを食らうようなバカじゃないとは思うが、もし食らったのなら出発までの時間、ずっとしごき続けてやる!


「疾っ!」
「うらぁああ!」


4割開放状態じゃぁそんなに強力な攻撃ができないか?と聞かれれば、とりあえず答えはノーだ。
俺の一撃は、壁には穴を、地面には小さいクレーターを作るくらいの威力は出せる。
当たったら、いくらお前みたいな人狼種でも、ダメージはそこそこ通るぞ。
さぁ、どうでる、北川!


「正面から、ねじ伏せる!!」


おぉ、まさか正面から突っ込んでくるとはね!
北川は、腕を交差させた上に両手に展開しているソウルブレイカーを盾のように見える形状に変化させた。


ガガッ!


俺の打突は、その盾によってほとんど威力を殺されて、受け流された。
まさか北川が、こういう手段を使ってくるとは思わなかったぞ。
北川の追撃を予想して、俺は受け流される力に逆らわず、そのまま前方へと大きく飛び退いた。


「受け流しか……やるじゃねぇか」
「……ぶっつけ本番だったから、こっちとしては冷や汗だよ、バカ野郎」


ぶっつけ本番だとしても、実際にやるとなるとかなりの勇気が必要だからな、そうビビる必要はないぞ。


「おもしれーな、次は魔法、行くぜ!」
「げっ、何ぶっ放すつもりだ、お前っ!?」


北川が何か叫んでいるが、とりあえず今は無視しても問題ないだろう。
4割の力っていうが、この状態でも俺だったら近くを灰にするくらいの魔法を撃つことは可能だ。


「相沢、お前マジで撃つ気満々だろう!?」


何をいまさら、模擬戦……いや、この場合はケンカか?
まぁ、ケンカをしようって言ってきたのは北川だろう?
それなら、俺は遠慮なく、制限内で、暴れまわるだけだっ!


「もち。大丈夫大丈夫、たぶん手加減してやるからよー。暗き闇の終焉、その闇の力持ち貫くは非情の槍、穿て『ダークスピア・シュート』」


闇属性の槍……それも、ただの槍の形状じゃなく、簡単に言ってしまえばドリルのようなものだ。
それを10本出現させた俺は、遠慮なく、北川の急所に向かって放った。


「たぶんって言ったよなぁ!?……くっそ、変な魔法撃ってるんじゃねぇっての!我が篭手は双璧の鎧、その護りは強固にして貫くモノ無し、その力顕現せよ『デュアル・プロテクト』」


北川の詠唱が終わると同時に、篭手だった両腕の装備が、広がり、盾のような形状になった。
良く見ると、淡い燐光が、盾を包んでいるのも見える。
なるほど……強化型の防御魔法かなにかか。


「だが、甘いな……簡単な魔法で俺が終わらすわけないだろう?散って爆ぜろ『ブレイク』」
「げっ!?」


俺の魔法と、北川の防御魔法がぶつかり合い、少しの間は均衡していたが、俺の追加詠唱が完了すると、10本あった槍が、全て爆砕した。
爆煙で、北川の姿が全て見えなくなるが、まぁあいつの気配くらいならすぐわかるから問題ねぇだろう。


「ゲホッゲホッ!!相沢!てめぇこのやろー!!」
「おー、生きてる生きてる、怪我もしてねぇとは、頑丈だなぁ、お前」
「そりゃな、人狼の特徴の1つは絶対的なタフネスだ。あの程度の爆発なら擦り傷もつかねぇって」


そう言って、身体についたほこりを払っていたが、実際、怪我らしい怪我はしてないらしい。
おっかしいな、いくら制限つけてるとはいえ、そこら一体なら吹き飛ばすくらいの威力だったんだけどな。
なんでこいつ、ぴんぴんしてるんだ?


「なぁ、北川、なんでお前平気なんだよ?」
「あ?」
「結構威力はあったはずなんだが……」
「あぁ、それか……今の俺の属性は闇が強いけど、元は金だぜ、物質の強化はお手の物だ」


なるほど……篭手の材質の強化ってところか。
それにしても、それだけで良く防げたもんだ。
今度、やり方聞いておいてみるか。


「それより相沢……男なら、魔法よりもコッチだろ?」


北川は、そう言って自分の両手の拳を軽く打ち鳴らすと、格闘家のようなファイティングポーズを取った。
……おもしれぇ、その誘い、十二分に乗ってやるよ!


「後悔すんなよ?前に1回俺に負けてるんだぜ?」
「あんときと一緒にしてたら、お前の顔面が腫れるぜ?」
「くくっ……上、等、だ!!いっくぜぇ、おらぁ!!」
「次勝つのは俺だ、このやろう!!」


細かい小細工は一切なしの純粋な力と力の殴り合い。
やっぱ、下手に魔法使ってどうのこうのするより、よっぽどこっちの方がやりやすいよなっ!!
果たして一体何度打ち合ったのか。
最初から数える気もなかったんだが、次第に、北川の攻撃ペースが落ちてきていた。


「おらおら、どうした、ペースが落ちてきてんぞ!!」
「……くっ」


正直、回避なんてものはしてなかったから、俺も北川も酷い顔になっていると思う。
結構いい打撃食らっちまってるしな。


「負けて……たまるかっ!!」
「そうこなくちゃな……でも、残念だけど、終りだっ!!」


北川の渾身の力を振り絞った一撃。
それに合わせて、北川の顎めがけて、俺も拳を振りぬいた。


「ガッ……」
「……ま、敢闘賞って、所か」
「ち、くしょ……う……」


北川の一撃は俺に掠らせることはできず、狙い済ました俺の一撃が、北川の顎を綺麗に打ち抜いた。
顎からの振動で脳を揺さぶられた北川は、その場に崩れるように倒れ落ちた。
……やれやれ、手加減無しで殴りやがって、口の中切ったのか、結構痛いぞ。


「さて、これにて決着っと……」


とりあえず、北川の治療とか、頼まないとな。
あと、オマケに俺も回復してもらおうか、自分でもできなかないが、どうせならこのくらい、人に頼って甘えてみてもいいだろうさ。


「と、思っていたんだが、なんでみんなして固まってるんだ?」


とりあえず、回復魔法の使える名雪や栞に頼もうかと思ってみれば、なぜか当人達は綺麗に口を半開きにして固まっていた。
……どうでもいいが、少々女性としてはいかがなものかと思うぞ。


「ちょ、ちょっとどういうことよアレ!?」
「そのアレっていうのが一概にどれを示しているのかわからんのだが」
「どれもコレも、北川君ってあんなに強かったの!?」


あぁ、そういうことか……
普段は香里に余裕で吹っ飛ばされてる北川が、実は俺の4割程度の実力と勝負できるほどってのに驚いてるのか。


「まぁ、その説明をしてもいいんだが、とりあえず俺と北川に回復魔法を頼みたいんだが」


顔面は腫れてるわ、口の中は切って血が出てるわで、このまま説明しろなんていわれたら、それはなんて拷問だって突っ込むところだ。


「え、えぇ……それもそうね……ほら、栞、名雪!ボーっとしてないで!」
「あ、うん。そうだね」
「わ、わかりましたお姉ちゃん」


香里は、俺の言いたいことをすぐに理解してくれたらしく、回復魔法の使える二人をすぐに正気にさせると、俺と北川に回復魔法を使うように指示してくれた。
あー、やっぱり俺自身がやるより、効果でかいし楽だなー……


「ッ……いてて……」
「あ、まだ起きないでください、北川さん!」
「あ、悪い……サンキューな、栞ちゃん」
「いえいえ、このぐらいはお手の物ですよ」


どうやら、痛みで気絶状態から覚めたらしい。
栞に回復魔法を使ってもらいながら、北川はコッチに視線を向けてきた。
その視線に、意地の悪い笑顔を浮かべて、俺は一言声をかけることにした。


「俺の2勝、だな?」
「ちくしょー、素手ならいけると思ったんだがなぁ……」
「ほら、祐一も動かないで!」
「あぁ、悪いな、名雪」


程なくして、回復も終り、なぜか俺は素材物質で作ったホワイトボードの前に立っていた。
なんで、みんなして学園の教室みたいな作りを想像してるんだ……?


「で、相沢君、さっきの説明なんだけど……」
「あぁ、なんでへたれな北川がこんなに強かったか、だったな?」


説明って言われてもなぁ……そういうものだ、って言って納得しないだろうし……
どう説明したもんか……


「ちょっと待てこら、誰がヘタレだ!」
「話が進まないから北川君は黙ってて」
「……すいません」


俺の一言に異議アリ!と唱えようとした北川だったが、香里に一喝されて無様にも大人しくさせられていた。
耳と尻尾も、力なくたれているように見えるのはこの際気のせいということにしておこう。


「それに関しては、私が説明してあげましょうか?」
「……母さん、いつ来た?」


後ろを振り向くと、なぜかうちのマザーが頬に手を当てた、秋子さんのようなポーズを取って立っていた。


「あら、自宅に私がいるのは不自然かしら?」
「質問に、疑問で返すなよ……まぁいいや、頼めるのなら頼む」


実際、理由を説明と言われても、なんとなくでしかわかっていなかったから、説明は難しかった。
母さんが知っているというのなら、説明は任せても問題ないだろう。


「と、言うわけで、愚息の変わりに私が説明しちゃいます」
「……頼んだ」


それにしても、愚息はないだろう……
さすがに傷つくぞ……


「簡単に言っちゃえば、私たち『闇』属性と契約し、それを力にしている者は、その契約した異形の能力が出やすいの。祐一で例えるのは難しいけれど、そこのボクで例えるなら人狼としてのポテンシャルに影響されるの」


あー……なるほど……
やっぱり北川の耐久力はそれも一因しているのか……


「で、さらに言うと人狼ってものすごい耐久力と、俊敏性、攻撃力なんてものもあるから、案外強敵なのよねー。そしてなにより……」


唐突に真剣な顔をしたかと思えば、母さんの姿が揺らめいたように見えた。
……いや、それは正しくないか、正確には高速で動いたことによる残像が発生した。ってわけだ。
そして、その移動先は……


「この尻尾がチャーミングよねぇっ!!」
「うああぁぁぁぁ!?」


動きが見えていたし、さらに言うなら予想もしてたので大して俺は驚かなかったが、北川からみたら予想外だったらしく、思いっきり絶叫していた。
ついでに、耳や尻尾の毛も心なしか逆立っているように見える。


「……と、いうことらしいんだが、他にあるか、香里」
「……あ、えぇ、もうないわ」
「いいなー、夏美さん」
「あら、じゃぁ名雪ちゃんも触る?」
「か、勘弁してください!?」


……さて、北川いじりが始まったことだし、参加してない奴には今後の予定を伝えて、解散ということにでもしておきますかね。


「と、いうわけで、明後日また相沢本家前に集合って事で、よろしく」
「……祐一、あれは、ほっといていいの?」
「……真琴が止めれるなら止めてきてもいいが?」
「…………やめとく」


それが懸命だと、思うぞ?







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