「と、いうわけで、明後日また相沢本家前に集合って事で、よろしく」
「……祐一、あれは、ほっといていいの?」
「……真琴が止めれるなら止めてきてもいいが?」
「…………やめとく」


それが懸命だと、思うぞ?









































さて、なんだかんだで集合の日になったわけなんだが……
いつも通り、名雪を起こすことに孤軍奮闘し……あくまで「孤軍」だったが……その甲斐もあって、水瀬家から余裕を持って出た俺は、ゆったりとした気持ちで集合場所に着いたわけなんだが……


「お前ら、来るのが早すぎ」


なぜか、そこにはすでに全員集合といっても差し支えないくらいに揃っていた。
なんでこいつら、こんなにやる気に満ち満ちてるんだ?


「とは言っても、俺が来たときにはすでにいたんだぞ?」
「北川が最後の方だったのか?」
「あぁ、なんかもうみんないた」
「元気なこって……」


思い思いに雑談している連中を見据えて、とりあえず行動を開始しないことには何も始まらないと諦め交じりのため息が出た俺だが、どうにもこうにも……引率は俺、なんだよなぁ……
憂鬱だ。


「祐一、遅いですよ」
「あぁ、久瀬か……悪いな。さてと、みんなー!そろそろ行くぜぇ!!」
「ところで僕のことはいいんですか?結局前は健二さんがなし崩しで話を進めたから疑問に思う暇もなかったでしょうが、さすがに今、僕がこの場にいることに疑問を持ってる方もいるようですし」


そう言われてみんなの方に視線を向けてみると、確かに、香里や名雪、栞といった久瀬の本来の姿を知らないやつ等が疑念を込めた目でこっちを見ていた。
……はて、なぜ舞と佐祐理さんはなんともないんだ?


「あー、先に聞いておくが、お前らの久瀬に対する認識聞いていいか?」
「えーっと……」
「そうね……」


聞いてみると、名雪や香里が何かを言おうとしているが、久瀬が目の前にいる手前、はっきり言えないらしい。


「久瀬のことは気にしなくていいぞ、はっきり思ったことを言ってみろ」
「そうは言っても……」
「久瀬さんは、私達の学園じゃぁ最低の生徒会長って言われてるんだぉー」
「ちょ、ちょっと名雪!?」


いやー、この大胆な物言いはさすが名雪だよなぁ……
焦って止める香里なんて珍しいものが見れたし。


「いや、美坂さん、気にしなくていい、水瀬さんが言っているのは正しいんだから」
「…………」
「と、まぁそういう認識があることは周知の事実らしいからまぁ、それはそれでいいんだが」
「……いや、よくないだろう?」


うるさい、北川。


「とりあえず、だ。今回に限って、そのことを忘れてくれ」
「……祐一、言ってできることじゃないでしょう?」
「そうか?本質を見逃すと人間損をするんだぞ」
「……そういう問題でもないでしょう」


名雪はいいとして、香里はいまいち既成概念というものを捨てきれないらしい。
まぁ、それも仕方がないか、香里はなんかそういうことが上手く割り切ることができなさそうだしなぁ。


「ま、論より証拠は見て悟れってな。実際久瀬の知識は俺からしたらもう馴染みあることだけど、香里や名雪からしたらいい経験になると思うぜ?」
「……わかったわ、とりあえず確約は出来ないけど努力はしてみるわ」
「ん、そうしてくれ。で、これでいいか?」
「……まぁ、これ以上言っても祐一には無駄なんでしょう?」


さすがによくわかってるじゃねーか。
とりあえず香里や名雪の方はいいとして……


「佐祐理さん、舞」
「はぇ?なんですか、祐一さん?」
「…………?」
「いや、久瀬が同行することに関して佐祐理さんたちが全然驚いたような反応してなかったから気になってさ」
「あぁ、なるほど、そういうことですかー」


そういうと、佐祐理さんは笑顔のまま、さらりと言ってのけた。


「久瀬さんが優しいのなんて、すぐにわかりましたよー」
「はちみつくまさん」
「なっ!?」


おぉ……久瀬が驚いたような反応するなんて珍しい。
まぁ、見る人が見れば久瀬の本性なんてすぐわかるってことか……
タイヤキ屋のおっちゃんもすぐわかったみたいだしなぁ……


「久瀬さんが本当に佐祐理達、生徒のことを考えて構内の巡回をしていてくれたり」
「校舎裏で犬さんに餌をあげてた」
「あとは、出来のちょっと悪い生徒さんを助けるために教員の方に掛け合ったりしてることは佐祐理は知ってますよー」
「……何故、いつの間に……」


っていうか、お前相変わらずそんな裏でこそこそとやってたのか……?
堂々と表に出てやれば、最低の生徒会長なんて言われないだろうに。


「ただ、どうしても予算とかを厳しくやっちゃいますから、予算が少なかった部活からそういう風に言われちゃってるんですよねぇ……」
「はちみつくまさん」
「佐祐理達もどうにかしてあげたかったんですが、久瀬さんが否定しないのでどうにもできなかったんですよー」
「…………」


いやはや……ちょっと安心した、かな。
久瀬はそうやって自分の誇れるところを誇らないで、余計なところだけ黙って引き受けてくからなぁ……
これで、多少は報われるってもんだろう。
久瀬のやっていることをちゃんと理解してくれている人がいるのといないのじゃ、全然違うからな。


「そ、そうだったの……」
「知らなかったです……」


香里や天野たちは、どうやら見たまんまが真実だと思ってたらしい。
ほらみろ、ちゃんと真実を見ないと損をするって言ったろ?


「なるほど……まぁ、疑問も解けたところで……そろそろ出発するか」
「……水を差すようで申し訳ありません、祐一様」
「……あらま、零さん、どったの?」


いざ、出発と、動き始めたところで、零さんが俺の目の前に降り立った。
っていうか、零さんもどっから来るかわらかないんだよなぁ……
たまに気配が読めないというか、すごく薄いし……


「夏美様よりある物を預かってまいりましたので、それをお渡ししようかと思いまして」
「ある物?」
「はい、皆様に各一つずつということです」


……これは……なんだ?
さすがの俺もわからないんだが、どうみても、大福にしか見えないし……
しかも紅白。


「……ま、まさかこれは!?」


みんな普通の大福だろうと見ていたところ、天野が突然声を上げた。
普段大人しい天野からしては珍しく大声に近かったので、とりあえず聞いてみることにした。


「天野、これ何か知ってるのか?」
「え、えぇ……これは恐らく……」
「天福屋の大福……でしょうね」


天野の台詞に追従するように、久瀬が答えと思われることを言ってくれた。
っていうか、天福屋ってなんだ?


『えぇ!?』


天福屋という台詞を聞いた全員が、また天野のように大きな声を上げた。
ただ、俺と真琴、北川だけが今だわからないような顔をしている。


「なぁ、北川、天福屋ってなんだ?」
「……さぁ?」
「あぅ……真琴もわかんない」


なんとなくおいてかれたような感覚があって、同じくわかっていないだろう面子と話していることにしようとした。


「真琴ちゃん達知らないの!?」
「まぁ、知らないからこんな反応しかできないんだけどな……?」
「これって、一つ千円っていう普通じゃありえない金額が付いた幻の銘菓よ!?」


……この大福が?
そんな高いもの売って採算が取れるのか?


「この大福は、一日十個しか売らないということで、和菓子好きは喉から手が出るほど欲しい一品です……予約しても三年以上は待たないと手に入らないという噂でしたが……」
「さすがに天野、詳しいんだな……」
「僕も、数個しか食べたことがないが……これは素晴らしく美味しい一品だとはっきり言える」


へぇ……この大福がねぇ……


「夏美様より、皆様の鋭気の足しになればとのことです」
「ん、ありがとう。後で頂くよ」
「それでは、ご検討をお祈りしております」


シュンッ


用事が終わったから、恐らく親父の護衛の任に戻ったんだろう。
一瞬で零さんの姿は見えなくなった。


「さて……遅れたが……行くか」
「おう!」


そして俺たちはぞろぞろと歩き始めた。
やれやれ、一体何が待ち構えているのやら……
それなりに緩く終わると助かるんだが……
まぁ、無理だろうな。






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