「さて……遅れたが……行くか」
「おう!」


そして俺たちはぞろぞろと歩き始めた。
やれやれ、一体何が待ち構えているのやら……
それなりに緩く終わると助かるんだが……
まぁ、無理だろうな。









































さて、移動するのはいいんだが……


「実際、この人数を移動する手段をどうするか、まったく考えてなかったなぁ……」


人数にして……十人ちょい……
普通に歩いて行ったら、結構な時間かかるよなぁ……
うーん……どうしたもんか。


「北川、久瀬、なんかいい移動方法ないか?」
「俺に聞くなよ……俺一人なら、走ればすぐなんだけどな」
「僕も、残念ながら同様です、一人ならすぐですが、多人数転移可能な魔法はないですね」


そうだよなぁ……なんか手段ないかなぁ……


「えーっと、相沢君?なに悩んでるの?」
「あぁ……いやな、こっから目的地まで40キロくらいあるらしいんだけど、どうやって行ったもんかなぁってな」
「普通に歩いていけばいいんじゃないの?」


いやまぁ、そうなんだけど、どうせなら期限内をフルにサバイバルっぽく使いたいじゃないか。
さすがに移動手段が徒歩だと一日掛かりそうだし……


「仕方ない、あんまり呼びたくないんだけど、使うか」
「……げ、まさか兄さんアレ呼ぶ気?」
「俺も、あんまり呼びたくないけど、呼ばないと移動に時間が掛かりすぎる」


あいつ、気分屋だからなぁ……
移動速度だけで言うならすごい早くてラクなんだけど。


「……なんの話?」
「まぁ、すぐにわかるさ……とりあえず街の外に出よう、そうじゃないと迷惑になる」
「…………?」


みんな、なんのことかわからないって感じだなぁ……そりゃそうなんだけど。
まぁ、すぐにわかるさ、イヤでもね。


「で、街の外に出てきたわけだけど、相沢君は一体何をやってくれるのかしら?」
「祐一、それって私も知ってることかな?」
「あー……名雪は知らないと思う」


なんせ、俺が契約した後に手に入れたんだし。
さらに言うと、使った記憶なんて数回しかない。


「んじゃまぁ、離れててくれ、一応な。後、どんなことがあっても攻撃とか絶対するなよ?」
「よくわからないけど、わかったよ」
「っていうか、天野、多分真琴が一番攻撃しそうだからしっかり抑えておいてくれ」
「わかりました」
「真琴はそんなに好戦的じゃないわよぅ!!」


いや、でもお前も元妖狐だもんなぁ……?
あ、それを言うなら人狼の北川もやばいか?
……まぁ、北川ならいいや。


「すっげぇ失礼なこと考えてねーか?」
「気のせいだ、ほら、離れてろって」


みんな納得が行かないような顔をして離れていく。
いやまぁ、説明もなんもしてないから仕方がないよなぁ……
でも、あんまり近くにいると、吹っ飛ぶかもしれないし。


「さてと……」


十分な距離が離れたことを確認した俺は、力を徐々に解放していく。
一対の翼が現れ、俺の力が回りに暴風となって吹き荒れ始める。
さて、どんな対応をしてくることやら。
























―Kitagawa Side―


相沢に言われたとおり、俺たちは大体10メートル程度離れたところに立っていた。


「一体何するつもりなんだ、相沢は」
「さぁ、僕もわかりませんが……」


隣にいた久瀬から、予想外の回答が帰ってきた。
なんだ、案外知ってるんじゃないかと思ったんだが。


「あ、そういえば千尋ちゃんは知ってるようだったな?」
「えーっとまぁ、知っているというか、見たことがあるというか……」
「あら、それは興味あるわね」
「私も知りたいな、千尋ちゃん」


ものすごく言いづらそうというか、なんともいえない表情をしている千尋ちゃんに、次々とみんなが質問を浴びせていた。
とりあえず、アワアワと対応に慌てている千尋ちゃんが面白いと思ったのは俺の秘密だ。


「…………」
「……真琴?」
「……始まる」


少し後ろから聞こえた声に振り返ってみると、相沢の方を睨んでいる沢渡と、それを疑問に感じたんだろう、声をかけている天野さんがいた。
……なんだ、沢渡の気配が……戦闘の時に感じるソレになってる?
なんだ……相沢の魔力が上がっている……?
これは、やばいんじゃないか!?


「……っ!我が魔の力よ、顕現せよ!『ブラインドウォール!!』
「……風よ、守って『ウィンドベール』
「これはちょっと危険ですねぇ〜。風凱(ふうがい)の前には何者も通じること許さず『ウィンドウォール』


俺がやばいと思った瞬間には、すでに久瀬、川澄さん、倉田さんの三人が同時に防御魔法を展開していた。
展開されたと同時に、すさまじい衝撃音が防御魔法と相沢の間に響いた。


「……な、なに?」
「えぅ〜、びっくりしました……」
「びっくりだぉー」


美坂姉妹や水瀬はいまいち何が起こったのかわかってないらしい。
いやまぁ、俺もわかってないんだけどな?


「祐一も……こんなことになるなら一声かけておいて欲しいものですね……」
「祐一のこと……きっと忘れてる」
「あははー、きっとそんな感じなんでしょうねー」


防御魔法を張った三人は、余裕を持って防御魔法を維持しているようにみえるが、俺には気配でわかった。
今魔法の外で荒れ狂っている暴風は、気を抜いたらこんな防御魔法、一瞬で砕くだろう……


「それにしても……沢渡君、よくわかったね?」
「……なめないでよ、祐一の気配を真琴が読み違えるわけないわよ」
「それはそれは……」


そういえば、沢渡は元妖狐とか言っていたか……
気配察知は野生の必須だもんなぁ……それなら納得もできるか。


「さて、そろそろ治まりそうですね」
「……疲れた」
「舞、大丈夫?」
「……平気」


久瀬の言うとおり、暴風は治まってきているらしい。
どんどん祐一を中心として収束していた。
あぁ、そろそろ防御魔法を解除しても問題なさそうか?


「……っ!」
「……まだダメ!!」


恐らく、俺は相沢にとことんいじめ……じゃなかった鍛え上げられた気配察知の賜物か、そして沢渡は野生のなせる業か。
相沢の方へ収束していた暴風の中に、今まで存在しなかったはずの別の気配を感じた。
しかも……その気配から感じられるのは……殺気!?


「くっそ……広範囲防御魔法なんて俺は得意じゃねーんだぞっ!!我が篭手は双璧の鎧、その護りは強固にして貫くモノ無し、その力顕現せよ『デュアル・プロテクト』


普段は一人で使う防御魔法を、無理矢理練成して強引に広範囲にする。
くっそ、これで上手く防御できればいいが……
どうにかしろよ、相沢!
じゃねぇと、恨むぜ!!
























―Yuichi Side―


「……我が血の契約により、相沢祐一の名において命ずる……空を翔る王者、怒れる空の王よ、我が求めに応じ、破壊の翼を纏いし其の姿を此処に現せ『召喚・バハムート』


荒れ狂っていた暴風が、俺の上の方でどんどん形を作っていく。
……って、召喚は成功したっぽぃんだけど、なんでこうも殺気が周囲に漏れてますかね?


『……メガ・フレア
「ってうぉい!?マジでそんなモン使う気してんのか、このバカ鳥!!」


周囲を焼き尽くすまで消える事のない煉獄の業火、ソレを顕現させるバハムートの一撃必殺級の技じゃねーか!!
ふざけんな、そう遠くない周りにはみんながいるんだぞっ!!


「後で、絶対シバく!火は水に、水は地に、力は無に、全てを屠る永久の闇、全てを飲み込め!『ブラックホール・デバイス!!』


俺の放った魔法は、メガフレアを全て無に帰した。
あっぶねー……気づくの遅れてたら、さすがにみんながやばかった……
みんなの方を確認してみると、先日見た北川の防御魔法が展開されていた。
あぁ、佐祐理さんや舞、久瀬もなんとか魔法を使ってたか……


『……チッ、まだ生きてたのか、クソガキ』


この騒動の原因となったナマモノが、偉そうに俺の上から言って来た。
……っていうか、この際だ、クソガキ発言は目を瞑ってやる……
だが、みんなまで巻き込もうってその考えは、上等だ。
売られたケンカだ、出発前に買ってやる!!


「ざけんな、くそ鳥!!いっぺん、地面にメリ込んどけやっ!!!」


手加減無用で行くぜ……
無詠唱魔法発動、全てを潰す、雷神の槌(トール・ハンマー)!!』


『ガァァァァ!!!』
「ふぅ、余計な手間取らせんじゃねーよ……おーぃ、そろそろ魔法解除しても問題ねーぞ!!」


体長20メートルもあるであろうソレがめり込んでいるのは、とりあえず放置して、みんなの方に声をかける。
防御魔法が解除され、みんながぞろぞろとコッチの方に歩いてきた。
うん、怪我とかはしてないみたいだな。
あ、ちゃんとみんなとは逆方向の地面に沈めたから問題ないぞ?


「……な、なんなのよ、アレ」
「……なんだろうね?」
「……フッー!!」
「ま、真琴、落ち着いてください」
「おい、相沢、あんな暴風巻き起こるんなら、先に言え」


あぁ……そういえばそのことについてはすっかり忘れてた。
まぁ、お前らなら大丈夫かなーって思ってのことだぞ?」


「祐一、嘘はよくない」
「ですね」
「……疲れた」
「うっ……スマン、舞、佐祐理さん、久瀬、北川、ありがとな」


とりあえず、あのナマモノについて説明から始めるか……
でも、あれをどうやって説明したもんかなぁ……?
見たまんまの召喚したナマモノって言葉しか知らないんだが……


「まぁ、とりあえずどこまで説明できるかわからないけど、あれについて説明しとくと……そうだな、香里、天野。異形の生体について書かれてる本、あれにバハムートってあったのを知っているか?」
「……えぇ、まぁ一応は」
「私も触り程度でよろしいのでしたら」


うん、さすが秀才コンビ。
聞いて知ってるって答えられるってのはそれだけでも十分すごいぞ。


「確か、空を翔る異形……空中戦の王者よね?」
「大体20メートルの体長を持つ、巨大な竜と書いてあったかと思いますが……?」
「まぁ、その通りだな、それがあそこに埋まってるアレだ」


まぁ、どういうわけか普通の召喚とは違って、こっちに従順にならずあんな感じで毎回好戦的な態度ばっかとって来るんだけどなぁ。
おかげで召喚する場所を選ばないといけない。
それさえなければ移動とかすごいラクになるんだけど。


「アレって……バハムートも上位の異形じゃなかったの……?」
「最上位と契約してる俺にソレを言うのか?」
「……それもそうね」


なんだその、呆れたような目は。


『ぐ、ぐぅ……このクソガキ……手加減なくやりやがったな』
「ん、起きたか、バカ鳥」


ズズズ……と、埋まっていた体を起こし、その体躯をはっきりと俺たちに示すバハムート。
本に書いてある通り遜色なく、その姿はまさに見るものに竜を連想させるだろう。
だが、俺にとってはそんなこたどうでもいい、こいつは、鳥、それで十分だ。


『なんべんも言ってんだろうが!俺様は誇り高き竜だ!!そこらにいるアホな鳥と一緒にしてんじゃねぇ!!』
「何度言っても攻撃やめねーお前なんか鳥で十分だっつーの!!」
『てめぇはやっぱりコロス!』
「は、おもしれぇ。やれるもんならやってみろ。とりあえず、今回も俺の勝ちだ、言うこと聞けよ」
『くそ、面白くねぇがしかたねぇ……今日はなんだよ』


本当に面白くないといわんばかりの雰囲気はあるが、一応こいつは負けた以上余計なことは言わない。
とりあえず、余計な時間をくったから、さっさと行動するとしますか。


「俺たち全員を乗せて、こっから40キロ先にある山のふもとまで飛べ」
『……40キロなら歩けよ』
「人数が人数だけにめんどくさいんだよ」
『しかたねぇ……ほら、乗れ』


とりあえず、バハムートが背を向けて俺たちが乗れるような体勢をとってくれたので、俺から先に乗り込む。
真琴が最後の方まで警戒心バリバリだったが、とりあえず天野に宥められて乗せられた。
今は天野と舞の傍で大人しく座っている。


『しっかり捕まってねーと、落ちるぜ』
「落した瞬間、てめぇの翼切り取ってやる」
『おぉ、こわ……それじゃ、行くぜ』
「安全飛行でな」


はぁ……出発からこれなんて、本当に大丈夫か、3週間も。
俺の気分とは裏腹に、みんなは空の旅を楽しむ腹積もりらしい。
……たくましいこって。






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