お前の声が聞こえたから、俺は、誓いを思い出せた。
やっぱり、お前は俺が惚れた女だよ。
そして、俺は頼まれたことを実行するために、力を込めて空へ飛び上がった。


「……もう、これで君は大丈夫だ」


飛び上がる直前、久瀬のそんな呟きが聞こえたような気がした。
……感謝するぜ、お前にも相沢にも。
俺に、本当の力をくれたことを。









































―Side Ayu Tsukimiya―


祐一君たちが異形山に出かけてから2日程経った。
きっと、ついていった人たちは、見違えるほど強くなって帰ってくるんだと思う。


「……異形山って、実戦だもんね」


ボクは、アンデット……つまる所異形という存在が怖くて、ついていけなかった。
……このままじゃ、ボクはいざというとき、足を引っ張るだけの存在になっちゃうのかな。


「……なんとか、できないかな」


祐一君のことは好き、他のみんなのことも大好き。
みんな優しいから、ボクが戦えなくても誰も文句は言わない。
……ボクにできることって、なんだろう。


「秋子さん、相談があるんだ」


この2日間、考え続けていたこと。
ボクが、祐一君たちに何をしてあげられるか。


「あら、あゆちゃんどうしたの?」


ボクの頭じゃ、考えても良い案なんて浮かんでこなくて、困り果てた末に秋子さんに頼る事になった。
出来れば、誰にも迷惑をかけないで、自分だけで答えが出したかった。
でもそれじゃあ、きっとボクはどれだけ時間があっても意味がないだろう。


「……あのね」


だから、戦いも出来て、家のことだってできる秋子さんに頼った。
秋子さんだって忙しいはずなのに、ボクの言うことをしっかりと聞いて、受け止めてくれた。


「……方法は、なくわないわ」


そして、全てを告げた時、秋子さんはそう言った。
それは、ボクにってはすごく嬉しい事だった。


「あゆちゃんの得意な魔法って何だったかしら?」
「えっと、一応『聖』属性の攻撃魔法だよ?」


ボクは産まれ持っての『聖』属性だ。
理由はわからないけど、人間が産まれたときから『聖』属性を持っている事は少ないって前に教えてもらった。
それを秋子さんに伝えると、目線をボクに合わせてきた。


「本当に、何かできるかを望んでいるのならどんなことでも、できる?」


普段の温和な微笑みじゃない、真剣な顔をした秋子さんが、そう言った。
本当に望まなければ、秋子さんは何も教えてくれない。
……でも、ボクは祐一君たちに何かしてあげたかった。


「できるよ、ボク頑張る!」
「……そう。あゆちゃんがそう言うのなら、お手伝いしましょう」


ボクの意思を汲み取ってくれたのか、秋子さんは渋々といった感じで言ってくれた。
でも、一体ボクは何をすればいいんだろう?


「私の見立てから言ってしまうと、あゆちゃんは戦闘には向いてないの」


それは、自分でもよく理解している。
前にダークネスっていう異形を見たら怖くて、足が動かなくなった。
その時、本能的に自分は戦闘には向かないって言うことが解った。


「でも、あゆちゃんにはあゆちゃんしか持っていない特性があるの」
「ボクの、ボクだけの特性?」
「その1つは、『聖』属性を持っているっていう事」


1つ、と言ったからには、ボクには秋子さんの言う特性が何個かあるんだろうか?
自分で考えても、『聖』属性であること以外、いまいち浮かんでこなかった。


「もう1つは、あゆちゃんの心……みんなのために何かしたいっていう優しい想い」
「優しい……想い?」


えっと、そんな事いわれても、ボクにとっては普通のことだから、わからないよ。
それに、誰だって友達を助けたいと思うよね?


「ええ、あゆちゃんも知っていると思うけど、一応『闇』属性の人でも治癒魔法は使えるでしょ?」
「うん、栞ちゃんや名雪さんみたいに、それが得意な人だっているよね」


『闇』属性でも使えるのなら、祐一君もきっと使えるんだよね。
すごいなぁ、祐一君。


「あゆちゃんが出来ること……それは、回復魔法を極めていくこと」
「回復魔法を……極める?」


疲れを癒したり、傷を治したりだけじゃないってこと?
でも、それ以上の魔法なんて聞いた事ないんだけど……


「回復魔法の効力は、『聖』属性に適う人はいないのよ」
「え……名雪さん達以上ってことなの?」
「ええ、あゆちゃんがそれを専門にしたら、きっと私たちの誰よりもすごいのが使えるでしょうね」


名雪さんの魔法で、怪我をした人がすぐに元気になったのを見た事がある。
それ以上に使えるって言われても、想像できないよね。


「名雪たちの魔法で治るのは、簡単に言ってしまえば捻挫程度の怪我なのよ」


名雪さんの魔法が、捻挫を治すのが精一杯なの?
ボクよりずっとすごい魔法を使えたよね、名雪さんたち……


「じゃぁ、もし『聖』属性を持っている僕が同じ魔法を使えるようになったら……?」
「……無くなった体の一部すら、再生させられるでしょうね」
「ええ!?」


無くなった腕が再生って……!?
そんなに『聖』属性の回復魔法ってすごいの!?
それなら、前線に出れないボクでも役に立てるよね!


「でも、そう簡単にはいかないの」
「え……?」


ようやく見つかった一筋の光明。
それに喜んだのも束の間、秋子さんは言葉を続けた。


「もし回復魔法を極めるのなら……他の回復魔法以外は一切使えなくなるわ」
「それって、問題があるの?」


攻撃魔法は今だって全然使えてない。
それなら、回復魔法だけを覚えていれば問題ないって事だよね?


「もし、あゆちゃんが回復魔法だけを持って1人で戦いに行ったら、自分の身を守れる?」
「あ……」


つまり、回復だけを選ぶと、防御とかで使える補助魔法が一切使えなくなるということらしい。
いつ、敵の攻撃が来るかわからない以上、その欠点は致命的になる。
祐一君たちについて行ったら、ボクのために戦力を割く可能性が出てきちゃう。


「それでもあゆちゃんは、回復魔法を覚えたい?」


……結局、ボクにできる事はないんだろうか。
でも、できる事があるのなら、やってみたい。
やらなくて後悔するより、やって後悔した方がいい。


「……それでも、ボクは覚えたい。みんなのためにできることがしたい」


何を言われてもボクはこれを撤回したくない。
その意思を込めて、秋子さんの目をしっかりと見つめる。


「……そう」


すると秋子さんは、真剣な表情から一転して、いつもの優しい微笑みになった。
さらに、ボクの頭を優しく撫でてくれる。


「ふふ、合格よ、あゆちゃん」
「え?」


何を言われたのか、一瞬わからなかった。
……合格って、どういうこと?


「ごめんなさいね、あゆちゃん。少しだけ嘘を言ったわ」


秋子さん曰く、別に回復魔法を覚えても他の魔法が使えなくなることは無いらしい。
安易に魔法を覚えて、戦いにいっても、結局はなにも変わらない。
つまり秋子さんは、ボクの覚悟を試したっていうことらしい。


「ひ、酷いよぉ、秋子さん〜」
「ふふ、ごめんね」


本気で泣きそうになった。
本当に魔法が使えなくなっても良いってくらいの覚悟で言ったのに。
これじゃ、ものすごい肩透かしをくらった気分だよ。


「一体どこまでが本当だったの?」
「そうねぇ、名雪以上の回復魔法が使えること、人の欠損部分の再生は本当よ」


名雪さん以上って言われても、まだピンとこないけど、秋子さんが言うからにはそうなんだろう。


「でも……覚えるのは本当に辛いわよ?」


笑っていた顔から一転して、また真剣な顔で言う秋子さん。
きっと、本当に覚えるには辛い事があるんだろう。


「平気だよ、みんなのためなら耐えられるもん!!」


でも、きっと大丈夫。
誰と約束したわけじゃない、ボクがボク自身で考えて決めたことだから。
それで、みんなの役に立てるのなら、きっとやり遂げられる。


「わかったわ、それじゃご飯を食べてから、始めましょうか」
「うん、お願いします!」


これからご飯の準備を始める秋子さんについて、お手伝いをしに行く。


「それじゃ、今日もチャレンジしてみましょうか」
「う、うん。やってみるよ」


魔法とは別に、今ボクは秋子さんに料理も習っている。


「大丈夫、あゆちゃんならどっちもできるようになるわ」


……碁石クッキーって祐一君はバカにするけど、ボクだって勉強してるんだからね。
今に祐一君に美味しいって言わせるくらいのモノを作ってみせるんだから。


「あゆちゃん、焦げてる焦げてる」
「あ、わぁ!?」


……今に、きっと。


「さぁ、めげないで頑張りましょう」
「うぅ……なんで焦げるのぉ……」


……自信、なくなってきたよぅ。
再び出来上がったご飯もどきを前にして、ボクの決意は早くも崩れそうになった。


「もうちょっとなのよね」
「……頑張るもん」


こんな調子でやってて、本当にボクは名雪さん以上の魔法使いになれるんだろうか。
……今は、秋子さんを信じて頑張ってみよう。
なんとか、なるよね。
















あとがきっぽぃもの


そろそろ、登場キャラクターデータ書き換えようかな。


初書き 2008/01/12
公 開 2008/01/13



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