どうやら、俺には本当に力強いパートナーが出来たみたいだ。
喜んでいいんだろうけど……
そんな事考えたこともなかったから、どう反応していいのかわからないな。


「待てよ、真琴、天野!!」


とりあえず、この依頼を終えたら、少しだけ真面目に考えてみようと思う。
俺の気持ちも、真琴の気持ちも。









































―Side Chihiro Aizawa―


「あー、もう、ウザったーい!!」
「随分と敵が寄ってくるわねぇ……?」


久瀬さんたちの向かっている進行方向を割り出し、その方向に走ってはいるんだけど……
どういうわけか、さっきから遭遇する異形が多い気がするのは気のせいかなぁ?


「キュー」


寄って来る異形に統一性もないし、そもそも異形に統一性なんてあるのか知らないけど。
さっきから襲撃を受け続けていて気づいた事がある。


「……白竜、狙われてる?」
「キュ?」


確かにいろいろな異形が襲ってきたわけなんだけど。
どれもがどれも、気のせいじゃなければ白竜を狙っている気がする。


「……竜の血、が目的かしらね?」
「竜の血?」


私と同じ事を考えていたんだろう。
ミリアムが呟くように言った言葉を、私は聞き逃さなかった。


「まぁ、いわゆる伝説ってやつね。竜の血を浴びれば不死身になれるとか……人間にもあるでしょう?」


うーんと、どっかの神話で竜の血を浴びた強い人が生まれたって聞いたことあったような……?
竜の血ってそんな事が実現可能なの?


「伝説は伝説だから、実際はどうか知らないけどね」


ミリアムが言ったのは、人間の世界での伝説のはず。
同じような逸話が異形の中にもあるっていうの?
知識を持っているものと、持っていないものがいる異形に?


「でも、それっておかしくない?」


もしミリアムが言っていた話が異形の中でも実在するとする。
そうだったのなら、卵の時のこの子が狙われなかった理由がわからない。


「竜の卵ってすごく堅いのよ、私でも叩き割れるか微妙ね……祐一なら割りそうだけど」
「あー、うん……兄さんや久瀬さんなら簡単に割りそう」


卵だったからという理由で、守られていたのなら、確かにこの子は狙いやすいんだろう。
じゃぁ、あの母竜が死んだのも、やっぱり異形に襲われたのかな……?


「……じゃぁ、あの母竜の血を浴びた異形がいるかもしれないってこと?」
「可能性はそうね……あの竜骸の状態から見て、低いと考えてもいいかしら」


軽く考えるような感じの後に、ミリアムはそう言った。


「どゆこと?」
「簡単よ、骨に傷が少なすぎたの、あの竜骸は」


身とこの子がいた卵を守るために母竜が戦ったのなら、当然怪我くらいはするだろう。
その怪我が、骨にも達しないものばかりというのは、私にもおかしいってわかる。


「恐らく、何か、特有能力の隠蔽作用あたりでも使ってたんじゃないかしらね」


曰く、精霊界が容易く異形に襲撃されないのは、その隠蔽作用っていうのがあるかららしい。
敵意を持つものが近づいてきても、その存在を近くできないものってことらしい。


「便利な能力だねぇ……」
「その能力を最後まで維持してた……そう考えてあげるのが妥当でしょうね」


最後に光の粒子に変わったのは、竜骸になってからもその力を使っていたから……?
そう考えて、涙が出そうになったが、今は泣く時じゃない。
母竜を想って泣くのは、この山から帰った後だ。


「うん、なら尚の事安全なところまで急がないとね!!」


きっと久瀬さん達に合流できれば、私1人で守るよりもっと心強い。
よし、そう考えたら元気がもっと沸いてきた!


「んーっと……久瀬さんっぽぃ魔力は……あっちかな」
「そうみたいね」


少し立ち止まって、私にできる魔力探知の範囲を広げてみる。
そこまで遠すぎない所に、久瀬さんらしき魔力反応があった。


「……ん?」


魔力探知をしている時、久瀬さん達のと同時に奇妙な魔力を感じた。
現れたり、消えたりしているような変な感覚。
魔力と言うのは自然放出されているか、遮蔽するかの2択しかないはずなのに……


「白竜、ちょっと中にいて。……ミリアム」


首に相変わらず巻きついていた白竜を、窮屈だろうけど服の中に入ってもらう。
そして、いつどんな状態に陥ってもいいようにミリアムに警戒を任せて戦闘体勢を取った。


「……マズいわね……この感じは、レイスかしら」
「レイス?」


どっかで聞いたことがあるような……?
どこだったかなぁ……学園の授業かな?


「あのうぐぅうぐぅって鳴く子が嫌いな……アンデット系、しかも不可視のね」


思い出した!
私があんまり相手にしたくない敵の上位のやつじゃん!!


「不可視……って、それってマズくない?」
「だから言ってるでしょ」


不可視……読んで字の如く人間の目には見えないタイプの異形。
『聖』属性魔法を1発でも当てるか、相当のダメージを与えれば視認可能になるけど……
今の『闇』属性な私には、兄さん程器用に『聖』属性魔法なんて使えないし……


「……今のうちに、逃げれるかな」
「今までの遭遇率から考えると……相手はその子竜の居場所がわかってるみたいよね」


うぅ……逃げれるかと思ったけど、この子がいる限りどこまでもついてくるってこと?
そんな不利な状況で、レイスの相手をしなきゃだめなのかなぁ……


「……泣き言は言ってられない見たいね……来たわよ」
「うわーん、早すぎるよぉ!もっと考える時間を頂戴!!」
「誰に言ってるのよ……」


泣き言を言いつつも、迫ってくる殺気を頼りに回避行動を取る。
すると、私がさっきまで立っていた場所が、まるで爪で抉られたかのように凹んだ。


「ほんと……すっごい不利なんだけど!!」
「当てずっぽうで魔法を撃つ訳にもいかないからね」


そんな事してたら他の異形まで寄って来るかもしれない。
その前に、下手したら魔力が尽きてしまう可能性もあるのに。


「ミリアム!魔眼じゃどうにもならない!?」
「そんな便利な能力は私も持ってないわね」


魅了の魔眼はあっても、それは私が相手を認識できてないと効力が発揮できない。
そうなると、今の私が取れる手段は、回避に集中するって事だけになる。
さらに、服の中にいる子竜に負担がないような回避行動に限られる。


「この若い身空で死ぬの!私!!」


まだ美味しい物だって食べつくしてないし、なにより恋だってしてない!
それに、まだ秋子さんの伝家の宝刀『謎じゃむ』っていうのだって食べたことないのに!!


「千尋、後ろに飛びなさい!」
「わっ!」


ミリアムに言われたとおり、バックステップすると、またそこが抉れた。
さっきの攻撃から随分とペースが速い……


「もしかして数体いるの!?」
「魔力が消えたり出たりしてるから分かりづらいけど……3匹かしら」
「うそぉ!?」


1体でも私には対処法がないのに、それが3匹もいるの!?
ちょっと本気でマズいかもしれない!
こんな事なら父さんに言われた通り、見えない敵への対処法を学んでおけばよかったー!


「……何してるんだ、千尋ちゃん?」


そんな風に考えながら、回避行動を取っていると、そんなひょうきんな声が聞こえた。
その声の方向を見てみると、ハーフ状態になっている北川さんがいた。


「北側さん!?」
「……なんか、今呼ばれ方が違ったような気がするんだけど」


いけないいけない、事態が切迫してたからついつい言い間違っちゃった。


「まぁいいか……で、なんでダンスなんて踊ってるんだ?」


どうやら、北川さんにもレイスの姿は見えてないらしい。
そうだよね……見えない人から見たら私の行動なんて踊ってるように見えるよね。
……って、そうじゃなくて!


「た、助けてよ北川さん!踊ってるんじゃなくて、周りにレイスがいるの!!」
「レイス……あぁ、アレか!」


そう言うと、北川さんは少し考えるような動作をした後、片手をもう片方に打ち付けた。
北川さんまで、だんだん兄さんに汚染されてない!?


「うわー、そりゃまたメンドクサイのに当たったなぁ……」


ホントに兄さんみたいに、めんどくさいと呟く北川さん。


「潤、そのままいると攻撃を食らうわよ?」
「あーっと、その声はミリアムさんか?」


そんな北川さんに気づいたのか、レイスの1体が北川さんの方に向かったらしい。
ミリアムが私の口を使って忠告したけど、当の北川さんは特に慌てた様子が見られなかった。


「……能力開放『10秒』(Release 10 seconds)


北川さんは少しだけ周りを睨む様な目をして、呟いた。
その瞬間、北川さんの猫科のような瞳が、猛獣を思わせるような剣呑な光を帯びた。


「……そこか」


そして、足に力を入れたかと思うと、私が視認できるギリギリの速度で駆け出した。
それから少しだけ遅れるように抉られる地面。


餓狼・尖脚(がろう・せんきゃく)!」


その抉れたところを目掛けて、思いっきり足を蹴り上げる北川さん。
そして鈍い音がしたかと思うと、唐突に視認可能になったレイスが木にぶつかった。


「へぇ……どうやら、死んだらその不可視の作用も消えるみたいだな」


そのレイスを見て、なんの感情も抱かせない口調で言う北川さん。
……あれが、北川さんの実力?
兄さんには手も足もでなかったはずの?


「……後2匹か?」


さらに、私が言っていないレイスの数まで北川さんは言い当てた。
それはまるで、見えているかのような自然さで。


「このままやんのはちっと面倒か……」


未だ回避を続けている私を見て、もう1匹いるくらいは予測できるかもしれない。
でも、正確な数まで言い当てたのは、いったいどういう理屈なんだろう?


「千尋ちゃん、できるなら耳塞いでてくれ。使ったことないから効果がわからないんだ」
「そんな余裕はなーい!!」


子竜がいなければ、もっと余裕でかわせる。
だけど、あんまり早い動きをしてこの子がそれについてこれなかった場合が恐ろしい。
だからまだ安全な移動速度で回避してるのこの状態だと、どうしようもなかった。


「……しゃーない、水瀬たちなら大抵のは治せると信じよう。範開放『5秒』(Release 5 seconds)


何か聞き捨てならない事が聞こえた気がした。
だけどそれに突っ込みを入れる前に、北川さんは大きく息を吸い込んで、ソレを解き放った。


「ウオオオオオン!!!」


北川さんの口から出てきたのは、まさに、人狼としての存在を納得させる咆哮だった。
……ようするに、ものすごい馬鹿でかい声を、私の周りに向かって叫んだのだ。


「耳がいたーい!!」


当然、耳を塞ぐ余裕の無かった私は、それを直撃したわけなんだけど……
北川さん……恨むよ。
















あとがきっぽぃもの


北川、順調に強化中。


初書き 2008/02/06
公 開 2008/02/08



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