「この魔法は非常に助かります、効果が続いている間にいち早く祐一たちと合流しましょう」
「はちみつくまさん、あの子達が心配」
「そうですねー、結構な時間が経っているようですし」


僕達年長者の言葉を聞いて、喜びもそこそこに再び移動を開始しました。
さて、後目的地まではどの程度の距離があることやら。
さっさと合流して、皆さんを安心させなさい、祐一。
それまでは、出来うる限り、僕が護って見せますから。









































―Side Yuuichi Aizawa―


「あー、なんかもう……なぁ、天野」
「主語も述語も存在しない会話を理解しろというのは酷ですよ?」


いや、まぁ天野の言っていることは道理なんだが……


「俺、すっかり支援キャラになってるよなぁ?」
「……否定、しきれませんね」


真琴の力が覚醒してから、はっきり言ってしまえば俺の出番がない。
さすがの底力というか、経験の差でいろいろと行動することはできる。
でも、気配察知や瞬間火力は今のままだと真琴に抜かれているかもしれない。


「……ですが、それを言われると私も力にはなれていませんよ」
「……そうかもな」


天野が呟いた言葉を、無理に否定する事無く、真実だけを伝える。
酷な事かもしれない。
でも、下手に希望を持たせて前線で危機に陥るより、今のうちに伝えておいた方がいい。


「でもな、天野」
「……なんでしょう?」
「お前には、前線に出るよりももっといい方法があると思うんだ」


そう声をかけた後、前の方で襲ってきた異形を焼き払った真琴を呼び寄せる。
まるで呼ばれた犬のように、テテテといった感じで走りよってきた。


「どうしたの、祐一」
「いやな、お前と天野に質問なんだが……」


そういって俺は指を1本だけ立てて、近くの茂みを指差す。


「もし今、この茂みから突然異形が飛び出て来たら、お前らはどうする?」


別に適正とかの問題ではないわけだが。
俺が今まで旅をしてきた中で出会った連中、それに共通していた出来事。
それを簡単に判断するなら、この質問が丁度いい。


「まずは防御しますね」
「焼き払うわよぅ」


笑いたくなるくらい、両極端な答えが返ってきた。
まぁ、予測してたんだけどな。


「さて、俺がこの質問をした意味なんだが……」


これは、急増パーティーの時に、誰が前衛を、誰が後衛をやるかってのを判断するためのやつだ。
攻撃を選んだやつは、基本的に前衛向き。
防御を選んだやつは、後衛で支援や指示を飛ばす側の人間。


「つまり、天野は先陣を切るより後衛として周りをサポートする方が合ってるんだよ」
「なによぅ、それじゃ真琴が突撃バカみたいじゃない!」


いやぁ、それはまさしく否定しちゃダメだと思うんだよなぁ。
こんな事言ったら噛み付かれそうだから言わねぇけど。


「と、言うわけで天野は、どっちかつーと真琴とか前衛を支援してくれる方が心強いわけだ」


最後にそう締めくくって、天野の頭に手を置く。
その時に真琴がものすごく不満そうな顔をした気がしたが、あえて黙殺しておく。
……後で、頭撫でてやろう。


「さて……いい加減合流しねぇとマズいか」
「そうですね、あちらの方もどうなっているかいまいちわかりませんし」


信用におけるやつ等がついているから、そうそう窮地には陥ることはないだろうけど。
やっぱりあんまり長い時間みんなと別行動をしなきゃならないのは、得策じゃない。


「人数自体は変わってないみた……あれ?」
「どうした、真琴?」


気配探索を再び始めた真琴が、何を感じ取ったのか声を上げた。
まさか……あいつらになんかあったのか?


「気配が、1個増えて……る?でも、人間じゃないし、異形でもない……?」
「人間でも異形でもない……?」
「あぅー……わかんない、違うかもしれないしあってるかもしれないし」


判断し切れなかったのか、少しだけ落ち込んだように言う真琴。
それに対して気にすることはないと、頭を撫でて落ち着かせてやる。


「……とりあえず、減ってない以上悪いことではないんだろうけど」


それこそ、気配が無くなったというのなら、手段を選ばずみんなと早急に合流しなきゃいけない。
でも、できるならこの自然を荒らすような手段は取りたくない。


「一応、急ぐか……真琴、最短ルートわかるか?」
「んっと……あっち」
「よし、これから少しごり押しになるが……みんなと合流できたら休憩しよう」


今までは周囲警戒をしながらゆっくりと進んでいた。
それを、真琴を先頭に置いて、前方から来る異形だけを集中して焼き払ってもらう。
横から襲い掛かってくるやつは、俺が魔力消費の少ない魔法で弾き飛ばせば十分だろう。
天野は真琴の周囲を抑えて貰いながら、戦況把握の能力を鍛えてもらう形になった。


「それじゃ、行くぜ!」
「行くよ……王狐・焔舞!」


そして、俺たちは先ほどまでとは打って変わって、走るかのような速度で進軍を開始した。
途中で、襲い掛かって来た異形が瞬殺されていくのが、少しだけ哀れだった。






















「……崖、だな」
「崖ですね」
「崖よね」


途中まではハイペースとも言える進軍速度を誇っていたが……
目の前に立ちはだかる、高い壁に阻まれてしまった。


「道、確かに最短だよなぁ、これ登りゃ」


冷静に考えてみれば、崖から落ちた俺たちが未だ登りもせずに合流できるはずないんだよな。
……なんで、こんな大事なこと忘れてたんだろう?


「あぅー……」
「あぁ、お前のせいじゃないから気にするな」


最短を指示したのは俺だし、真琴はただ言われた通りに教えてくれただけだ。
この可能性を考えていなかったのは俺だから、すなわち責任は俺にある……と。


「……最初に落ちた崖よりゃ低いが……さすがに登るのは一苦労だよなぁ」


普通によじ登ってもいいんだが、空中から異形に襲撃された場合が怖い。
前にも言った気がするが、俺1人なら羽で飛べるかもしれない。
でも、それだと2人を置いていくことになるから、そもそもこの考えは破棄する。


「……あの、相沢さん」
「ん?」


どうしたもんか、最悪崖を切り刻みながら階段でも作ってやろうかとも考えた。
そんな、半分以上物騒な思考でまとまり始めた俺に、天野が声をかけてきた。


「先ほどの崖は無理でしたが、このぐらいの高さなら私が何とかできるかもしれません」
「これでも、結構高いと思うぞ?」


どんな方法かはわからないが、俺にかかる危険ならいい。
でも、極力2人には危険なことはさせたくなかった。


「えぇ……ですが、やってみたいと思います」


恐らく、俺が何を言ったとしても、天野は譲る気はないだろう。
それだけ強い意志が、その瞳には篭っていた。


「美汐、美汐」
「なんです?」
「真琴は、美汐を信じてるわよぅ!」


どうやら、真琴も未だ聞いていない天野の案に託すつもりらしい。
まったく……女の子2人がやるっていうのに、男の俺が尻込みする訳には行かないじゃねぇか。


「はぁ……わかったよ、天野の案。教えてくれるか?」
「はい。これを使おうと思います」


そう言って天野が取り出したのは、天野の攻撃用に使う符だった。
……これで、どうするんだ?


「もしかすると、これでストックが切れてしまうかもしれませんが……」


そう言いながらも、符を取り出し続け、その全てを地面に並べた。
そして、俺たち3人が立てるくらいのスペースを確保すると、その中心に立った。


「……『風』属性は、得意ではないのですが」
「待て、天野」


そこまでお膳立てされれば、俺でもさすがに何をするつもりなのかは予測がつく。
それなら、俺は天野のサポートをすればいいだけだ。


「『風』属性のサポートは俺がやる、だから制御だけに力を使ってくれ」
「さすがに相沢さんにはわかってしまいますか」
「まぁ、これでも経験だけは積んでるからな」


この魔法に、真琴は協力ができない。
それが悔しいのか、真琴は少しだけ膨れながらも、大人しくしていた。
まったく、力は強くなっても中身はまだまだ見たいだな。


「……さてと、ぱっぱとやるか」
「はい、それではお願いします」


天野が足場の固定に入ったのを確認した後、俺は詠唱を始めた。
使う魔法は……上昇気流を操る『風』の魔法。
強すぎればバランスが崩れ、弱すぎたら浮き上がれもしない。


「……風よ、我が名を持って命ずる」


こいつらのいる前で、そんな無様な真似はできねぇよなぁ。
そうなったら、俺のメインの属性じゃなくても、やり抜いてやるさ。


「……我は相沢祐一、その名を持って風よ、我が力と成れ!『バーティカル・アップドラフト!』


早すぎず、遅すぎず。
俺たちの乗った符は、ゆっくりと上昇していった。
でも、これだけで終わらす訳じゃない。
もう1つ、やらなきゃならない魔法がある。


「風よ、我らに纏いて盾と成せ!ウィンドベール!!」


自分たちの高度が上がれば上がるほど、上のほうでは気流が激しく渦巻いている。
その横風に影響を受けないように、前もって風除けを張っておく。


「うわぁ、高い」


ただ1人、今は仕事のない真琴が目の前に広がる森に対して喜びの声を上げていた。
……まったく、お気楽なこって。
俺は2つの魔法を制御しながら、そんな事を考えていた。


「……やはり、この高さまでが限界だったようですね」


崖の上まで辿り着き、俺たちが完全に降りたのを待っていたかのように、符は燃え尽きた。
そして、天野もまた、慣れない事をした為か、その場に座り込んでしまった。


「申し訳ありません……魔力がもうほとんどなくなってしまいました」
「いや、助かったよ天野」


座り込んだ天野に背を向けてしゃがむ。
そして背中に乗るように言うと、天野は最初は戸惑っていたものの、このままじゃ埒が明かないと気づいたのか、おずおずと言った感じで乗ってきた。


「……ごめんね、真琴」
「仕方ないわよぅ……でも、美汐以外だったら、祐一に噛み付いてるんだから」
「……それは、俺が悪いのか?」


とてつもなく不条理な会話を耳にしたような気がしたので、思わず突っ込みを入れてしまった。
……こんな状況で、俺が背負うのがそんなに悪いことなんだろうか?
しっかりと背負った事を確認した俺は、立ち上がって真琴が示した方向に歩き出した。


「相沢さんは、もう少し女心を理解なさった方がよろしいですね」


その途中、天野は何故か不意にそんな事を言ってきた。


「……なんのこっちゃ」
「無駄よ、美汐〜。だって祐一だもん」
「……ふふ、それもそうですね」


……なんだろう、よくわからないんだが。
これは間違いなく、バカにされてると考えていいんだろうか?
そんな釈然としない感情を抱きつつも、俺たちは合流の為に足を進めた。


「……とりあえず、後で隆や北川に聞いてみるか」


あいつらが答えられるのかは、知らないけどな。
















あとがきっぽぃもの


もうちょいで合流。


初書き 2008/02/13
公 開 2008/02/23



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