どうやら、久瀬はすぐに気付いてみんなを起こしてくれていたらしい。 それはありがたいんだが…… 「3つ、なんでそんな危ない事に1人で行ったのかしら?」 「いや……みんな寝てるのを起こすのは悪いかなぁ……って……」 俺としてはみんなを気遣ったつもりなんだけど…… もしかして、墓穴掘った……? ![]() 結局、一晩中正座をさせられてしまった。 うーん……さすがに足が軽く痺れた感じがするな…… 「相沢さん」 「ん、どうした?」 軽く揉みほぐして出発準備をしていると、なぜか神妙な面持ちのみんなが俺を見ていた。 なんだろう、他は特にみんなを怒らせるような事はしてないと思うんだが。 「昨夜の襲撃から、私たちで考えた事があるのですが」 「考えた事?」 「いくら厳しくても構いません、私たちを本気で鍛えてくださいませんか?」 確かに今までは無理の無い程度で鍛えてきたつもりだった。 余り詰め込んでも覚えきれるとは思えないし、実体験を込めた方が効率がいいからだ。 「……厳しくって言ってもな」 それを厳しくすると言う事は、真琴の時みたいに生死が深く絡んでくる。 もちろん俺はもう二度とあんな失態を犯すつもりもない。 だが、絶対とは言い切れないのが、この世界だ。 「望むとおりにやってみればいいんじゃないですか、祐一」 「…………」 悩んでいる俺を見かねてか、久瀬が苦笑しながらもそう声をかけて来た。 「祐一のペースでは、精々依頼時間全てを使っても、自分のオリジナルの力を手に入れるのは難しいでしょう。それならば、多少厳しくとも突き放してあげた方がいい」 自分の力、俺の合成魔法や久瀬の知識、北川の身体能力を利用した戦闘方法。 確かにこういったものが見つけられれば、戦闘での生き残る確立は格段に上がる。 奴が近くにいるとわかった今、そのくらいの荒っぽい方法を使う必要があるかもしれない。 「……少しでも音を上げた奴は、昨日までと同じペースでやる。それでも、やりたいか?」 俺の最大限の譲歩。 「それでもやりたいと、思います」 力を求めている奴が、音を上げるなんて甘い事をしようとは思わないだろう。 それに、俺のこのままのペースでも、普通に生活して行く分には余りある知識になる。 「……わかった、なら覚悟はしておけよ」 本気で求めているのなら、俺も本気で答えよう。 そして、誰も危険に晒したりはしない。 それだけの力を、俺たちは持っているはずなんだから。 「……みんなの事、甘く見すぎていたのかな」 「そうかもしれませんね、皆さん意志の強さは折り紙つきのようだ」 みんなの意思を汲み取ってからの一週間。 手加減無しの厳しさで、過去に俺がやった師匠との訓練法まで取り入れてみた。 「香里、合わせる」 すでに、戦闘に関しては俺も久瀬も、ほとんど参加していない。 最初の頃は少しばかりのサポートはしたが、今ではそれも必要がなくなった。 「解りました、川澄先輩。 名雪、足止めよろしく!」 「わかったよー」 相手にしている 前ならみんなは苦戦するだろうその異形相手に、今は優位を崩す事がない。 「其れは千切れる事無き鎖、万物の源である母なる水よ、我が思いに答え悪辣なる物を捕らえよ!レストレント・チェーン!!」 名雪の放った魔法が、鎖となって異形の身体を絡め取る。 鎖を契ろうと暴れた異形が、鋭い爪で切り裂こうとしたが…… 「甘いよ、水は切ることはできないんだよ」 爪が通過した先の水は、一度は分断させられるが、すぐに元の状態に戻った。 あの水の鎖、予想より厄介な代物だな…… 拘束させられたのなら、強引に逃げ切るか、違う方法で断ち切るしかない。 「はっ!」 「やあっ!」 そして、完全に動きを封じられた異形に、舞と香里の剣尖が深く食い込んだ。 逃げる事が適わなかった異形は、耳障りな声を上げて灰に還った。 「よし、三人とも合格だな」 「えぇ、街中に来る討伐依頼程度でもう遅れを取る事はないでしょうね」 倒した後も、すぐに喜びを浮かべるのではなく、周囲に対して警戒する事を忘れない。 東方の国でいう、残心という奴だ。 それを怠った奴から、戦場ではすぐに死ぬ。 「美汐さん、行きますよ!」 「えぇ、わかりました。北川さんは陽動を、佐祐理さんはサポートをお願いします」 前衛である北川を先頭に、後衛を三人配置した突撃陣形。 遠距離や魔法を使う人間が防御に回っても事態が好転する事はあり得ない。 ならば、下手に防御を選ぶより、絶対的火力による淘汰。 「おらおら!お前らの相手は俺だ!」 わざと派手な動きを見せて、北川が異形をステップで翻弄していく。 目の前にちょろちょろと動き回る物に気を取られたのか、異形の狙いが北川に集中していく。 「堅牢たる 天野が地を割り、北川しか見ていなかった敵がその割れ目に落ちた。 反応が早い異形が、数体逃げ出そうとしたが、それを見越していたんだろう。 「それは不可視の鎖、全てを包む優しき風よ、我が声を聞き、仇為す者を拘束し縛りつけよ!ウィンドエレメント・チェーン!!」 佐祐理さんが風という不可視の力で、逃げようとした異形もまとめて抑えつけた。 敵はこれでもう出てくるに、抑えられている以上の力で這い上がるしかない。 「北川さん、引いてください。 水は凍りて我が力と変わる、纏わりて凍り、其の力で砕け!アイスニードル!!」 そして、拘束から解かれようと暴れる事だけしか考える余裕の無かった異形。 それは最後に栞の放った氷の槍に貫かれて全滅した。 「堅牢たる顎よ、閉じよ!」 生き残っている異形の気配は無かったが、トドメと言わんばかりに天野は大地を閉じた。 これで、仮死状態だった異形がいたとしても、圧力によって圧死するだろう。 「……容赦ないな、天野」 天野の最後まできっちりという性格の表れなのか、まさか大地を閉じるとは思わなかった。 少しだけ予想外の出来事に、少しだけ呟いてしまった。 だが、それをしっかりと聞いている地獄耳の持ち主が隣にはいたらしい。 「すっかり教師の性格が移ったんでしょうかね?」 「どういう意味だ、久瀬……」 「言葉の通り、とでも言っておきましょう」 異形を全滅させたみんなが、こっちの方に向かってくる。 それを視界に納めながら、俺は久瀬に対して言葉の意味の追求を続ける事にした。 言われっぱなしってのは癪だろう? 「……なにじゃれ合ってるのかしら?」 俺の追及をのらりくらりとかわす久瀬という奇妙な光景に、香里が突っ込みを入れてきた。 さすが俺が見込んだ天性の突っ込みキャラだ。 「みんな、お疲れさん」 とりあえず突っ込みは華麗にスルーさせて貰って、戦闘後の労いの言葉をかけた。 すると、香里以外のみんなは、喜びを素直に表現してくれた。 「喜んでいいのか微妙ね……」 「十分良く出来ていましたよ、それは誇ってもいいと思いますが?」 スルーされた意趣返しか、香里が素直に喜ばなかった事を久瀬が改めて褒めた。 久瀬が褒めるとは思っていなかったのか、驚いたような顔をしたが素直に言葉を受け取ったらしい。 「一応久瀬が言うには、これでギルドに来るような仕事は大体余裕でこなせるらしい」 「本当ですか!」 身体が弱かったと聞いた栞が、いち早く反応した。 恐らく、香里から危険度の高い依頼はあまり受けないようにさせられてたんだろう。 失礼ながら、勝手にそんな予想が出来てしまった。 「えぇ、A ランクの方は上位に、B 以下の方はもしかするとランクアップも望めるかもしれません」 ランクアップという言葉を聞いて、全員が諸手を上げて喜びの声を上げた。 かなり厳しく鍛えたつもりだから、それで効果が出ていなかったら逆に俺が泣く。 「でもまぁ、実力がついたと思って油断してると、あっさり死ぬって事もあるから、気をつけろよ?」 少しくらいは浮かれた気持ちでもいいが、戦闘が始まったらそれは切り替えて欲しい。 戦いはいつだって生死のやり取りだ。 僅かな油断が死を招く事を忘れちゃいけない。 「祐一、言わなくてもみんな解ってるみたいよ?」 いつの間にか俺の横に着ていた真琴が、みんなの方を見ながら笑っていた。 恐らく、真琴が言うんだから本当にみんな理解してはいるんだろうが…… ちょっと試してみたいという気持ちと、悪戯心が俺の中に沸き上がってしまった。 「……ククッ」 「あ、悪い事考えてるわね?」 今までの訓練を振り返っているのか、和やかに談笑しているみんな。 それに向かって、余り表に出す事はしない殺気を一気に放ってみた。 『……っ!』 殺気を感じ取った瞬間、瞬時にお互いの背中を守るような陣形を取った。 一週間前なら、これも出来なかっただろうなぁ。 「……相沢さん、どういうつもりですか?」 殺気の発生源が俺だと解った瞬間、みんなは警戒態勢を解いた。 天野は半分呆れたような目で俺を見て声をかけて来た。 だがそれでも、俺の殺気に紛れた異形がいないかという周囲への気配りを忘れていない。 ……上出来、だな。 「すっかり全員が戦いに身を置く人間になっちまったなぁ」 「……おい、俺たちを鍛えてた張本人がそれを言うか?」 はっきり言ってしまえば、学園のカリキュラムなんていうのはほとんど意味がない。 一応教員も冒険者だったんだろうが、現役を離れてしまえばそれまでだ。 教えている事がいまいち的を得なかったのもの納得できる。 「でも、学園よりよっぽど難しかったですが……楽しかったですよ〜」 「はちみつくまさん、充実感がある」 佐祐理さんと舞の言葉に、遠まわしながら全員が賛同した。 確実に安全な空間で教えられるより、危機的状況の方が頭に入りやすい。 危機感というのが、覚えるのを促進してくれるからだ。 「学園側ももう少し実地研修でも増やせばいいのになぁ?」 「……教師の頭が固いのはどこも同じですよ、保身しか考えていませんから」 生徒が怪我した時、責任を持つのは学園側だ。 危険な職業を目指している人間が志願して入ったのに、学園側が怪我を恐れる。 そんな教育体制じゃ、実力なんてつきっこない。 「学園に戻ったら、報告書ついでに嘆願書でも書くか」 北川達みたいに、粒揃いの原石が揃っていたんだ。 まだ眠っている原石が学園にあるのではないかと思ってしまう。 冗談ではなく、本気でやってみようかと考えてしまう俺がいた。 あとがき 時間をちょっと早送り。
初書き 2008/03/29
公 開 2008/03/31 |