そうとわかればさっさと終わらすとしますか。
みんなも、ちゃんと依頼が完了するまでは街に戻って即時解散っていう事はしていない。
それだけこれから依頼を受ける立場になるかもしれない心構えが出来たって事だろう。

「んじゃ、懐かしき我が家へと行きますか」

疲れた顔はしているものの、どこか満ち足りた雰囲気を出しているみんなを引き連れて、俺は相沢家へと向かい歩き出した。
三週間か……長いようで、案外短く感じたもんだ。









































「祐一、申し訳ないが僕は少々やる事があるので学園へ行く」
「あぁ、三週間放置してた仕事溜まってるだろうし、行ってやれ」

街を囲う壁の中に入ってすぐ、久瀬がそう言って来た。
そもそも依頼を受け、報告義務が発生するのは俺と千尋くらいだから、みんなも自由行動でいいんだが……
どうやら、他の連中は俺と千尋の方について来るつもりらしい。

「それじゃ、そっちの用事終わったら相沢家の方に一応顔出してくれるか?」
「えぇ、健二さんの事ですから顔を出さないと何を言われるかわかりませんからね」

それには激しく同意するが……
恐らく親父は顔を出さないと、久瀬家の方に顔を覗かせるだろうな。

「それでは、みなさん。また機会があれば」

言葉を締めくくって、久瀬は学園への道を歩いていった。
さて、俺たちもさっさと用事は済まさないとな。

「名雪、ルナ・フォースの氷は溶けてないか?」
「一応定期的に魔法で凍らしてあるから大丈夫だよ〜」

山を降りた後は、水属性を持った名雪にルナ・フォースの管理を頼んでおいた。
若干の不安があったが、名雪はしっかりと管理してくれていたらしい。

「それじゃ、相沢家に向かって移動開始」

それから暫く歩き、家の前に着いた俺たちを待っていたのは零さんだった。
やっぱり、街に入る前に見かけたのは相沢家の連中でよかったのか。

「お帰りなさいませ、祐一様、千尋様」
「ただいま帰りました、零さん」
「たっだいまー」

挨拶もあっさりと終わり、健二様がお待ちですという言葉と共に、零さんに案内されて応接室へと向かう事になった。
その時に零さんがみんなを一目見て、強くなりましたねと微笑んだ事で、嬉しそうな反応を思い思いに返していた。
そりゃあいろいろあって鍛えたからなぁ……

「おう、愚息。実入りはあったか?」
「……『ダークスピア・シュート』」

扉を開けて早々に現れた親父らしき物体目掛けて、闇属性無詠唱魔法を放つ。
どうせこの程度じゃ親父にはかすり傷一つつけれないだろうが、それでも俺の心情をよく表した一撃だと思う。

「お、と、とと……なんだ、祐一。お前地力上がってるじゃねぇか」

予想通りというか、至近距離から放ったにも関わらず手のひらを添えるように弾かれて、直撃した物は無かった。
だが、親父は魔法を全部回避した後にそう言って来た。

「今までのお前だったら動く必要もなかったんだけどな……触っただけで手がコレだ」

親父は手のひらを俺たちに見せるようにして広げた。
そこには、血こそ出てないものの、猫か何かに引っかかれたかのような白い跡が残っていた。

「まぁ、まだまだには変わりねーが、結構異形の力、引き出せるようになって……ごふっ」

カッコつけて、何か言っていた親父だが、背後に唐突に現れた母さんによって、一撃の下に沈められた。
っていうか、母さん……いつの間にこの部屋に入ってきたんだよ。

「まったく、何をカッコつけているんだか……まずやらなきゃならないことがあるでしょう?」
「っ、いつつ……もう少し手加減してくれてもいいんじゃないかな、母さん」
「これでも精一杯手加減してます。もう一撃くらいたくなかったらさっさとお話を終わらせなさい」

俺や千尋は見慣れているから特に反応すらしていなかったが、どうやらみんなから見ると唐突な出来事すぎたらしい。
全員が全員、目を丸くして固まっていた。
まぁ、初めて見たらある意味衝撃的だよなぁ……

「……円陣!」

普通に声をかけてみんなを正気に戻すのもありかと思った。
だけど、こいつらがどれだけ強くなったかを親父たちにも判断させるために、俺はワザと陣形を取るように声を張り上げた。

「ほぉ……」
「あらあら」

俺の声を聞いたと同時に、近接戦闘がメインの奴らが外周を固め、その内側を魔法などの遠距離担当のやつらが背中合わせで油断なく構えた。
その動きに満足して、俺が頷いて見せてやるとそれでようやく全員が正気に戻った。
……のはいいんだが。

「千尋、なんでお前までしっかりと円陣に入ってんだ?」
「……私にもわかんない」

何故か千尋までしっかりと円陣の一部として入っていた。
全員で組むように教えたから、それの名残でも残ったんだろうか。

「なかなかな仕上がりになってるじゃねぇか、祐一」
「まぁな。んで、これが依頼品だ」

親父の褒め言葉も言葉半分と聞き流して、ルナ・フォースの液体が入った瓶を机の上に置いて行く。
それを見た名雪が、凍らせて持っていたルナ・フォースを机に置いた。

「ふむ、現物じゃなくて液体としてもって帰ってきたか」

念入りに、それが本物かどうかの確認をしている親父と母さん。
依頼品を渡した以上、今の俺たちは依頼人と被依頼人の立場となっている。
だからこそ、何も言わずに大人しく相手の判断を待つ事にした。

「よし、確かに受け取った、これで依頼は完了だ。ごくろうさん」

依頼完了と聞いた瞬間、俺と千尋、真琴を除いたみんなが盛大に喜びを表現した。
学園で請け負わせてくれるような簡単な依頼ではない、本当に危険をはらんだ依頼を達成した事で、自分に自信がついたって所か。

「……にしても、真琴。お前はあんまり喜ばないんだな?」

前の真琴の性格だと、みんなと混じって喜びを一杯表現してそうなもんなんだが。

「確かに依頼を達成できたのは嬉しいけど、真琴が一番嬉しかったのは力を手に入れられた事よう」

真琴の笑顔を見て、俺は異形山での一幕が不覚にも頭の中に再生されてしまった。

―――――ワタシは、これからも貴方と一緒に

その後、そう言われ俺の頬に触れた暖かな感覚。
それを思い出して、俺の顔に熱が集まりそうになるのを、なんとか精神力で押さえつけることができた。

「……そうか」

とりあえず、平静を装いながら真琴の頭を撫でてやる。
嬉しそうに目を細める真琴が、可愛く見えてしまうあたり、俺も単純なのだろうか。
……しっかりとした答え、出してやらなきゃいけないよな。

「よし、それじゃあ……飲むぞっ!!」

依頼が完了したお祝いと称して、親父は秋子さんまで呼び出して相沢家で唐突にパーティーを始めやがった。
まぁ、疲れた体に美味い料理は染み入るように入ってくるんだが……

「なんで、親父が率先して酒飲んでんだよ……」

傍らに控えた零さんに酒を注いでもらいながら、大爆笑している親父。
それを微笑ましそうに見ながら、やっぱり酒を飲んでいる母さん。
さらに、その二人を酒を片手に笑顔で見守る秋子さん。

「ストッパーが、いねぇ……」

今回の依頼に連れて言ったメンバーは、すでに親父の魔の手によって沈められている。
辛うじて生き残っているのは、北川と香里、そして日本酒をのんびりと味わっている天野。
そして、俺の隣でジュースを飲んでいる真琴くらいだ。

「さーて……どうしたもんかなぁ……」

酒に潰された連中がこんなに早くダウンしたのは、少なからず依頼での疲労があったと思う。
だからこそ、俺も無粋に止めるような事はせず、ある程度は成り行きに任せていたんだが……
さすがに、止めるのが遅すぎたか……?

「……ま、みんな後に残すようなバカはしないだろう」









宴もたけなわとなり、ある程度落ち着いた雰囲気が発生して来ていた。
早々に酒に飲まれた奴も、今では大人しく地面と一体化している。

「……まぁ、片付けは相沢家の人たちがやるだろう」

軽く現実逃避しながらも、俺は今後の予定を軽く組み上げておくことにした。
俺が一人で思考にふける時間なんてのは、そうそう無さそうな気がする。
だからこそ、こういう状況は利用できるうちに利用しておくべきだろう。

「奴がこの近くにいるのは間違いがない……か」

奴の方から姿を現した以上、今後なんらかのアクションが起こされる可能性が高い。
そうなった場合、この街のみんなに迷惑が掛からないように俺は最善を尽くさなきゃならない。
だが、相手はそう言った手段を好んで使ってくるだろう。

「俺の方から打って出るのが難しいのがキツいか」

どうにかして、奴の居場所を把握する手段を手に入れる必要があるだろう。
現状としては、その見通しすら立っていない。

「近くにいるってのがわかっただけ、かなりの前進として前向きに考えるか」

今までは、ただ曖昧な感覚で旅をして来ていたが、確かに近づいている事がわかった。
ならば、後は追い詰めて倒す事を考えるべきだろう。

「……まぁ、こんな所か」

大して多くの事を思考できたわけじゃないが、これでも今は十分としておこう。
あまり多くの予想を立てすぎると、突発的な事象に対しての対応がしきれなくなる可能性がある。
そうならない程度に、ある程度曖昧な面を残しておくのはきっと悪い事じゃないだろう。

「皆さん、起きてください! 緊急事態です!!」

思考の海から脱し一息ついた瞬間、珍しくも慌てた様子の零さんが部屋に駆け込んで来た。
余り慌てるといった行動を見かけない零さんだからこそ、本当に何か予想外の事態が起きたんだろ。
寝ている奴らを起こそうかと思ったが、すでに全員が起き上がり、話を聞く準備を終えていた。

―――――さすがに、あれだけ鍛えられてこれぐらい出来なきゃ全部無駄になるじゃない。
とは、香里の弁だ。

「それで、どうした。零」

酒に酔っていた名残など欠片もない親父が、相沢家現当主として零さんに聞いた。
そして、零さんの口から出てきたのは、俺たちが想像もしていないような出来事だった。

「学園のある区画を担当していた者から……学園での反乱が起こり、久瀬さんが捕らえられたと……」

久瀬が、捕まった……?
あいつがおとなしく拘束されるなんて、学園で何が起きてるんだ?















あとがき

捕らわれた姫君ならぬ、捕らわれた久瀬……ってか。


初書き 2008/10/22
公 開 2008/12/04



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