酒に酔っていた名残など欠片もない親父が、相沢家現当主として零さんに聞いた。 そして、零さんの口から出てきたのは、俺たちが想像もしていないような出来事だった。 「学園のある区画を担当していた者から……学園での反乱が起こり、久瀬さんが捕らえられたと……」 久瀬が、捕まった……? あいつがおとなしく拘束されるなんて、学園で何が起きてるんだ? ![]() 「……そうだなぁ、香里、天野。これ、どう見る?」 久瀬が大人しく掴まるなんて事も驚きだが、どうにも腑に落ちない。 あんまり言いたくも無いが、学園にいる連中で久瀬を拘束できるほどの実力者はいない。 平和ボケと言ってしまうと口が悪いが、学園の教員も同じだろう。 「そうね……あの久瀬君が捕まるって事は、簡単に考えれば人質……」 「もしくは、久瀬さんクラスの人外による突然の襲撃と言った所でしょうか」 俺たちが戻って来た時の状態から考えて、異形、もしくはそれに準ずる者の可能性は低いか。 あの時の俺たちは、実戦から戻ったばかりで感覚は他の人より鋭敏になってたハズだ。 それに、俺自身も魔力を見逃すなんてヘマをする程鈍っちゃいない。 「……可能性としては人質が高いか」 「そうですねぇ……生徒会の方は久瀬さんの理解者がいますから、そこを突かれた可能性がありますね」 「はちみつくまさん。生徒会、いい子が多い」 生徒会にいるメンバーの事は詳しくは知らないが、佐祐理さんと舞の言葉は信じられる。 どのくらいの実力を持っているかは知らないが、多勢に無勢だった場合、人質に使われるだろう。 「生徒会について、他に知っている奴はいるか?」 俺がみんなを見ながら聞くと、北川と名雪が心当たりがあるのか、考える表情をした。 っていうか、なんでこの2人が……? 「まぁ、俺は生徒会全部は知らねぇけど、何人かはそこまで戦闘向きじゃない奴がいたと思う」 「私は部活の関係で、会計の子と会う事があったけど、会計の子は北川君の言うとおりだよ〜」 「ってことは、そこを狙われたと考えるべきか」 でも、久瀬だったら人質に怪我が起こる前に救うくらいの事はできるだろう。 さらに言うなら学園という空間で、傷害を起こせばそれを実行した奴の立場が悪化する。 と、なると実行犯には何か後ろ盾のような存在が出てくる訳で…… 「なんか、あんまり考えたくねーけど、教員の一部が絡んでるような気がして来たぞ」 「……否定できないわね」 学園で、最低の生徒会長と呼ばれているというのは耳にしたことがある。 生徒だけでなく、反感を持つ教員もいた可能性は否定できない。 そいつが下手に上の方の役職を持っていたとすれば、なお更他では抑制が効かなくなるだろう。 「とりあえず、もう少し状況が知りたいな」 だが、俺たちが下手に動いたとしたら、学園の方でどういう動きがあるかわからない。 どうにかして、気付かれずに偵察できる人間はいないもんか…… 「北川、ハーフウルフ状態で視認不可能な速度は出せるか?」 「あー……気配自体を感知されなけりゃ、今ならなんとかなるかな」 今回の依頼で力を大分解放できるようになった北川なら、可能かもしれない。 そう思ってダメもとで聞いてみたら、なんとかなるという答えが帰ってきた。 「なら、軽く走ってみてきてもらえるか?」 「自信はねーけど……あいつには恩もあるし、やってみるか」 「あの、祐一様」 北川に行ってもらおうとした時、零さんからそう声をかけられた。 どうかしたのかと、目だけで問いかけてみると、零さんは苦笑しながらも答えた。 「北川様に行っていただかなくとも、私や部下は気配を消すのに長けた諜報班なのですが」 ようするに、零さんは自分たちが見てくればいいのではないかと言ってくれてるんだろう。 確かにそんな方法もあるなぁと考えつつも、俺は首を振ってそれを否定した。 「今回のような事を起こさないために、ちょっと学園側の意識を改革してやろうと思うんだ」 そんなに日数を通った訳じゃないが、どうにも学園にいる教員の質が悪いようにしか感じられなかった。 精々ランクを考えたとしても、Bの下位あたりだろう。 全盛期はどうかしらないが、すでに俺たちのランクはそれを大きく上回る。 「教職についている以上、実戦に足りる教鞭を振るって貰わなきゃならない」 だが、今の教員たちの意識では、将来冒険者となる俺たちの足を引っ張ることにしかならないだろう。 実戦を肌で感じ、理解し、それを応用できない者は山賊のようなならず者にすら勝てない。 「だから、俺たち学園に籍を置く学生だけで片付けたいんだ」 ハッキリ言って、学園の教員が襲ってこようが今の俺たちにはまったく相手にならない。 そういう姿を見せる事で、生徒の自己成長を鼓舞し、教員にも意識改革をさせたい。 だってなぁ、生徒に手も足も出ない教員なんて、情けなくて俺なら辞めたくなるぞ? ……そんな根性を持った教員が、今の学園にどれだけいるかってのが問題だが。 「最悪、何人かの教員が辞めるかもしれないが……」 「そこはホラ、父さんとか母さんのコネでも利用すればいいんじゃない?」 教員の抜けた穴を補完するのは、学園側にとっても頭の痛い問題になるだろう。 そう考えていると、千尋からそう案が出てきた。 親父や母さんのコネって言うと…… 「まさか……現役を教員にするつもりか?」 「実戦の空気を知っている以上、学園で戦闘を教えてる教師よりよっぽどマシだと思うけど?」 「……それは否定できないんだけどなぁ」 ただ、教員なんてやってるよりも冒険している方が性に合うって人の方が多そうなんだが。 それに、冒険を休む代わりにその間に稼げるであろう賞金とかも考えなきゃいけないし…… 「祐一、祐一」 袖を引かれるような感覚と同時に真琴から呼ばれた。 「ん……どうした、真琴?」 「現役の人って、どのくらい強いの?」 そして、真琴から出てきた言葉は、この状況には余りそぐわないことだった。 現役連中の実力かぁ…… 化け物クラスは何人か知ってるけど、師匠とか…… 「そうだなぁ……タイマンでやってみたら、恐らく舞でも勝てるか厳しいのもいる」 その逆で、逆立ちしても非戦闘向きな栞にすら勝てないのもいる。 要するにピンキリって言ってしまえばそれまでなんだが。 親父たちのコネという条件なら、ランクこそ低いくても、戦闘技術や経験に長けたのは多いだろう。 「純粋な剣術だけで、舞を圧倒できるような人間もいるんじゃないか」 「……そっちの方が、授業になったら面白そうよぅ」 うーん、剣術の基本授業なんてただの素振りと変わらないし、確かに面白いかもしれない。 本来なら切るという用途ではない模造品で、木をぶった切るような人間が授業か…… 「やべ、ちょっと面白そうだ」 「祐一さんの目が、なんか危ない方向で輝いてますぅ!」 「ゆ、祐一……無茶な事考えてないよねっ!?」 はっはっは、何を言う。 つまらん授業より、面白い授業を選んで何が悪い。 「……なんか、この場にいると長くなりそうだし、俺ちょっと見てくるわ」 「え、えぇ……一応気をつけてね」 「あぁ、せいぜい人を傷つけないように気をつけるわ」 いいよなぁ、魔法に長けた現役による魔法実戦の授業。 きっと学生連中じゃ防御魔法に傷すらつけれないだろうし、それで負けん気の強い奴が名お力を入れるんだよなぁ…… 「相沢〜、聞いてねぇだろうけど、ちょっと見てくるぜ〜」 戦闘関連なんかは舞とかが張り切って、それに引き上げられるように他の連中も強くなりそうだし…… 上手くやれば、この街の防衛能力向上にも繋がりそうだなぁ…… 「マジで聞いてねぇや……まぁいいか」 「お気をつけて、北川さん」 「んじゃ……開放!」 いいなぁ、俺も現役の知り合いにアタリつけてみるかなぁ…… いや待てよ、現役を退いた奴からも学べる事もあるか……? 実戦を十分に切り抜けて現役を退いた人なら、心構えとかも教えてくれるか。 「……祐一、そろそろ戻ってくる」 「あぃたぁ! 何するんだ、舞……って、北川どこいった?」 「北川さんなら、祐一さんの言った通りに偵察にいっちゃいましたよ?」 む、いかんいかん。 ついついこれからの未来予想図に心踊り過ぎて回りを忘れてしまっていた。 ひとまずこっちを解決しないと何も始まらないってのにな。 「祐一さん、とりあえず佐祐理たちはやる事の確認でもしませんか?」 「……そうですね」 俺たち全員で無理矢理乗り込んで武力制圧するのは不可能じゃないが、それじゃ改革の意味がない。 と、なるとある程度少人数で動くのが妥当か…… 「前、中、後衛かもしくは前、後衛のコンビで組む形かな」 若干比率が後衛に偏ってる気もするが…… まぁ完全に前衛が出来ないようなのはほとんどいないから何とかなるだろう。 「兄さん、もしかしてそれって私も含まれてる?」 「モチ、お前も学園の生徒だろ?」 千尋の疑問は瞬殺して、とりあえず動くためのメンバーを考えてみる。 前衛がメインになるのは北川に香里、舞。 後衛がメインになるのは名雪に栞、天野に佐祐理さん。 オールレンジなのが俺、千尋、真琴。 「舞と佐祐理さんは2人の方が連携が取れるだろうからセットにしておこう」 「はちみつくまさん」 「わかりました〜」 俺たちよりも個人での付き合いが長いから、連携はこの中でも上位だろう。 個人の地力も高いから、2人でも十分に対処できるはず。 「香里には名雪と栞、あと……千尋かな」 こっちも仲良しメンバーを混ぜておけば、連携もしっかり運用できる。 香里が司令塔になるだろうから、近接要員に千尋を増やしておく。 「そうね、名雪と栞の合成魔法は結構恩恵が高いし……」 「私たちの考えた魔法、恩恵が高いって!」 「やりましたね、名雪さん!」 合成魔法が使える2人を一緒にすれば、進軍速度は間違いなく上がるだろう。 あの恩恵は俺としてもありがたいと思うからな。 「んで、天野は真琴と組むか」 「わかりました」 「祐一はどうするのよぅ?」 俺……もちろん、遊撃として適当に動き回るに決まってるだろう。 陽動や対集団戦になった可能性があるとすれば、俺1人の方が気兼ねなく暴れられるし。 「……あまり、納得はできませんね」 そう考えを伝えると、天野が珍しく顔をしかめながらそう言って来た。 他のメンバーを見ると、大なり小なり同じような感想を持っているらしい。 「どうしたんだ、みんなしてそんな顔して」 「祐一だけ、1人気ままになんてずるいわよぅ」 ……どうやら、そういう事らしい。 とは言ってもなぁ。 「でも、俺がどこに混ざったとしてもパワーバランスが崩れるぞ……?」 そう言う問題が発生する訳だ。 自惚れる訳じゃないが、まだまだみんなに負けるようなヤワな人生送ってないつもりだ。 そうなると、必然的に俺が混ざるチームの力が上がりすぎるんだが。 「発想の転換ですよ、祐一さん」 「どういうこっちゃ?」 「陽動は、派手なほど良いと思いませんか?」 北川が戻ってきてから、改めてメンバーの変更をする事になった。 そして、みんなの口から出てきたのは、まさしく俺の予想外の組み合わせだった。 ……いやぁ、成長してるねぇ。 「よし、真琴。やったれ」 「うん! 蒼狐炎・【緋車】」 学園の校庭、そのど真ん中向かって、真琴に魔法を放って貰う。 威力は無視で、要するにど派手ならなんでもいいと言ったんだが…… どうやら、威力もそこそこあったらしい。 校庭の真ん中に小さくはないクレーターが出来上がった。 「……やりすぎだ。もうちょい威力落としてくれ」 「あぅ……ごめん」 「ま、いいや……したら俺もやるかねー……大地よ、我が声を聞き隆起せよ。【バースト・グラウンド】」 同じく、校庭あたりを目掛けて魔法をぶっ放す。 地響きと共に、校庭が一気に土のジャングルと化した。 その音を聞きつけてか、少なくない生徒や教員が校庭に現れる。 「お、お前は相沢か!どういうつもりだ!」 名前も知らないてっぺんハゲの教員が、頭まで真っ赤にして聞いてくる。 それにワザと意地の悪い笑いを浮かべて、俺は挑発するかのように言った。 「なに、俺の友達が捕まってるって聞いてな。その主犯と共犯者をぶっ飛ばしてやろうと思ってるだけだ」 「祐一を怒らせたんだもの、命の保障はできないわよ?」 真琴も、冷笑を顔に浮かべてそう言う。 それを聞いた瞬間、他の人とは違う意味で顔を青ざめさせた人間が数人いた。 なるほど、今一瞬だけその表情を見せた奴が共犯者、もしくは主犯って事か。 「そ、そんな事をして、学園が黙っていると思うのか!?」 恐らく事件の関係者であろう教員が、無理矢理引き出したかのような声で言って来た。 学園が黙っているか……ね。 ついつい、嘲笑が漏れてしまうのも仕方が無い事だろう。 「元より俺は根無し草、旅して歩く冒険者だ。学園がどうして来ようと関係があるとでも?」 「ワタシも、こんな事が起こるような学園に興味はないわ。それなら祐一と共に旅に出る」 確かに俺が生まれ、少なくない時間を育ってきたこの街は好きだ。 でも、そこに住んでいる奴のせいで、こんな事件を起こすくらいなら、俺はこの街を出る事に後悔はない。 それに、今の俺には、ついて来てくれると言ってくれる奴もいるしな。 「で、その学園側ってのは、どういう対応をして見せてくれるんだ?」 問いかけてやると、視界の隅に魔法が発動する光が見えた。 なるほど……そういう対応になるって訳か。 飛んでくる魔法を、無詠唱で展開した防御魔法で防ぎ、放った人物に視線を送る。 防ぎきれるはずがないとでも思い込んでいたんだろうか、驚いた表情を俺に見せている。 「轟くは雷鳴、其の力は天の怒り【ライトニング・ブレイク】」 わざわざ詠唱する必要なんてのは無いが、あえて防御魔法を展開する時間をくれてやった。 慌てて魔法を展開したが、俺の放った魔法は紙を突き破るかのような容易さで直撃した。 全身に雷が走ったんだ、暫くは痺れて動けないだろうさ。 「今の攻撃が、学園の総意と取るぞ」 最後に宣戦布告して、俺と真琴はゆっくりと校舎に向かって歩き出した。 さぁて、いっちょ大暴れしてやりますかぁ! あとがき いやまぁ……陽動ちゅーよりは殲滅の方が簡単そうだよね?
初書き 2008/12/02
公 開 2008/12/-- |