その間に名雪が女生徒、傷の深刻な生徒という順番に助け出し、安全な場所へと移送。 何も身につけていなかった女生徒に対しては、北川が瞬時に来ていた上着を名雪へと放り身体を隠せるようにもしていた。 「相沢じゃねぇが……確かに必要だよ、学園の意識改革は」 結果だけ見れば、12分の成果を上げている。 だが、3人の中に残ったのはやるせない思いと共に許す事のできない怒りだった。 恐らく、後から来るメンバーもまた、同じ思いを抱く事だろう。 それが学園にとってどういう結果になるのか…… これは、何を見るよりも明らかだろう。 ![]() まず、事件の結末から言っておこうと思う。 死亡1名、重傷者若干名、負傷者多数。 俺と、主に真琴が放った魔法による建物の一部倒壊。 教員の手によって辱められた女生徒の証言により、その家族も参考人として自警団に連行。 その件に関与した生徒には、社会奉仕活動の従事と共に、払いきれないであろう賠償金の支払命令。 「あー……でも、まだまだ足りない気がするのは俺だけか?」 事件の報告書を持ってきてくれた零さんに感謝しつつ、周りに目を向ければ大体同意が得られた。 まぁ、名雪や舞、北川にとってはそれだけ怒り心頭になる場面を見たから仕方がないだろう。 被害者たちには栞や佐祐理さんが治療に当たったから、早々時間をかけずに完治するだろう。 「んで、久瀬。お前がなんで動けなかったのか教えてもらっていいか?」 こいつが、ただ無力にもボコられるというのは想像できなかった為に、一応本人に聞いてみる。 「暇な教員たちも、属性を制御するための技術の開発くらいはマメにしていたようですよ」 奇異される『闇』属性を抑制する方法を研究していた教員が死んだ奴らしい。 人質を盾にそれを持たせる事に成功、弱体化した久瀬に複数人が取り抑えに走った。 そいつが開発した効果を持つ縄で縛られていた為に、いつも通りに動くことができなかったということだ。 まったく、授業は流し読みするだけなのにそう言うことには頭が働くらしいな…… 「女の子の表面上の傷は魔法で消せたけど……心までは俺たち男じゃどうしようもないな……」 「えぇ……僕のせいであんな目にあわせてしまって申し訳ないと思います……」 北川の言葉に、責任を感じている久瀬が続けた。 だが、その言葉を否定するかのように、女性陣が怒った顔をしていた。 「久瀬くんは悪くないよ! 悪いのはあの時に笑ってたあの人たちだもん!」 「そうね、名雪の言うとおりだわ。久瀬君が悪い所なんてないでしょう」 「女の敵……」 あー……舞、剣を出して言うな、お前がそれをやるとマジで怖い。 怒っている女性陣を見ると、こいつら敵に回したら不幸になるなーとそんな場違いな事を考えてしまった。 「そうだ、零さん。死んだ教員だけど、責任問題については?」 致命的になったのは肘から先が斬られたことによる出血多量、あとはショック死も見られた。 そこまですっぱりと斬れるような実行犯は、確実に北川と舞のどちらかだろう。 こいつらに人を斬るという重荷を負わせたことは悔やまれるが、それと同時に命と言うモノの脆さも分かったんじゃないかと思う。 だが、世論というのはそう簡単に締めくくる事ができない。 平和な街だからこそ、殺人という非日常は異端として扱われる。 「その件は何の問題もなく、死亡した当人の問題性を先に公開し、殺人は正当防衛扱いになるでしょう」 さらに言うと、冒険者という肩書きも持っていたからこそ生徒は自衛の為に動いたという風に捏造したとの事だ。 まぁ一般的に考えれば、腐っても教員が生徒に負けるなんてのは浮かばないんだろう。 その言葉に反するような実力者が、たまたま複数人俺の近くにはいるんだがな。 「じゃあソレに関しては問題はねぇな……知らず存ぜぬを貫いてた教員共は?」 「大半を解雇、ギルドカード剥奪の上国外追放が確定してますね。余所へ行って1からやり直せといった所です」 虚偽は死をという状態にして、教員には親父が直々に動いた。 そして、裏では簡単に言ってしまえば嘘発見器の真似事ができる人が、その人の証言を確認していたりする。 お陰で、本当に知らないと言った教員以外は、大体が処罰を受けるだろう。 賄賂を受け取って擁護をしていた教頭という存在も、制裁が入った。 今頃、臭い飯でも食っているんじゃないだろうか? 「それで相沢さん、残ったこの問題はどうします?」 久瀬がするはずだった仕事を分担してこなしながら、現在事後処理の真っ最中だったりする。 比較的軽症だった生徒会員が手伝いを申し出てくれたが、事が事だったために休養してもらっている。 さすがに久瀬が見込んだだけある生徒だ、打たれ強いというかなんというか…… 「そうね、校舎の補修工事に、欠員の出た教員の補充。やる事だけなら大量にあるわね」 久瀬は、止めたにも関わらず生徒会室に顔を出したので、とりあえず何もさせないように栞と名雪に見張ってもらっている。 動こうとしても、いち早く佐祐理さんに報告が入り、泣き落としが発生するというコンボだ。 いやぁ、ホントに女性陣を怒らせると怖い。 「校舎の補修工事に関しては、ちょっとした伝でノールの知り合いのドワーフに渡りをつけてある」 「ノールって……地の精霊王じゃない……」 「あぁ、そうだぞ。好々爺みたいだから、今度天野に紹介してやろうと思ってる」 地属性の精霊王『ノール』、その配下というわけじゃないが、同属性にドワーフという種族がある。 基本的に建築屋と言ったモノを生業としている種族で、建物の増築とかをやってくれる。 まぁ、住んでいる場所を知らないと依頼もしようがないし、報酬が金銭などではない為にあまり知られていない。 報酬が、技術の提供ってんだから、向上心の強い種族なんだろうなぁ…… 「問題は、教員の欠員なんだよなぁ……」 口が悪いがくそったれな教員が予想以上に多すぎて、欠員の問題がでかい。 まだ原案であった親父たちの知り合いの冒険者に依頼するってのも固まってないし…… 学校自体は、今は現存の教員たちでなんとか持っているといっても過言じゃない状態だ。 だが、いつまでも専門外のことまで担当させるっていうのはさすがになぁ。 「少しの間は、生徒たちの自主訓練という形で模擬戦を増やす事を上申しておきました」 いつの間にそんな行動を起こしていたのか、久瀬はそう言った。 後で佐祐理さんによる泣き落としの刑はするとして…… 模擬戦かぁ…… 「本人たちの意識が特にない状態でやっても、なんも効果がないんだけどなぁ……」 「祐一さん、ところがそうでもないみたいですよ?」 「……栞?」 「なんでも、真琴さんの魔法発動に感化された人が、意識的に模擬戦に取り組んでるらしいです」 それに引きずられるように、生徒間のライバル心みたいなものが向上、模擬戦もなかなかの錬度を保っている状態だと言う事だ。 そういえば、真琴が魔法をぶっ放すたびに歓声を上げてる奴がいたような気がするな。 「その子たちの属性を調べたら、大体が火属性だったわね…… まぁ、真琴ちゃんのは確かに火属性の私からしても憧れるような威力だったからわね」 ……これは、嬉しい予想外ということで結論付けても問題ないだろう。 確かに、現在この付近にいる火属性の中でも、真琴の魔法に勝るのはほとんどいないだろう。 そんな高みを見せ付けられたとしたら、負けん気の強い奴なら取り組む姿勢も変わるか。 「北川―、悪いがこの書状持って有数6家に回ってきてくれねーか?」 「ん? あぁ、いいぜ」 走り書きに近いが、文面自体は正式の物だ。 俺と千尋、後は久瀬の連名で学校の現状と教員が足りないという事が書いてある。 その為に、臨時で雇われ教員になれるような冒険者がいないかという打診をしてもらう依頼だ。 「つーか、改めて見ると……6家って相沢たちの親父さんたちなんだよな」 「はちみつくまさん、母さんも6家らしい」 そう、有数6家といっても、俺たちの親のことなんだよな…… ……子供のお願いというよりは、一個人としての依頼という形の方が体裁も保てるだろう。 と、いうか、有数6家の子供たちは、こんなにもたくましく育っています。 「その血が存分に受け継がれてるっていうのもすごい気がするんだけど……」 「きゅー」 血系遺伝とか、正直しゃれになりません。 このまま行くと間違いなくこの6家は街で最強の軍団になります。 異形も裸足で逃げ出すような防衛力を持つ街ってのもなんだかなぁ……? 「ま、とりあえず欠員補充は6家の親父たちにあたりをつけてもらうとして……」 「そうね、まずは目の前にある貯まってる生徒会の仕事を片付けちゃいましょうか」 「あははー、書類に追われるなんて、ギルドの事務職員の方みたいですねー」 「そうなると、定時は5時でしょうか?」 口では軽口を言いながら、普通の人には不可能なぺースで仕事を片付けていく香里たち。 相変わらずのハイスペックを、こんな所で遺憾なく発揮せんでもいいと思うんだがなぁ…… 「あぅー……肉まん食べたい……」 「書類が片付くまでは我慢しろ」 こんな状況でも、真琴は真琴だったけどな。 っていうか、俺も腹減ってきたからさっさと終わらそう。 ……ん? なんか誰か忘れているような気がする。 あの後、書類という敵はソレを上回る処理能力を持つ学年主席三巨頭によって処理された。 そしてそれぞれが疲れを癒すために帰宅することになったんだが…… 「おぉ、そうだ。あゆあゆがいなかったのか」 水瀬家に戻ってきた俺たちの前にいる存在に、俺は忘れていたものを思い出していた。 依頼から戻ってきたときはすぐに相沢家の方に行ったから、存在を忘れていたのかもしれない。 こりゃあ祐ちゃんウッカリだ。 「もしかして祐一くん、ボクのこと忘れてた?」 「ゼンゼン、ソンナコトナイゾ?」 「祐一くんカタコトになってるよ!?」 ち、勘のいいあゆあゆめ。 それにしても、こいつ俺たちがいない間に何してたんだ……? 「あゆちゃーん、久しぶりー!」 「あ、名雪さん、真琴ちゃん! おかえりなさい!」 「ただいま、あゆあゆ!」 「あゆあゆじゃないもん! 真琴ちゃんワザとでしょ!!」 「あはは、いいじゃないのよぅ」 なんつーか、心なしか大きく見えるというか、姿勢みたいなのが変わったような雰囲気があるような。 「あゆちゃんも、自分に出来る事をいっぱい頑張ってたんですよ、祐一さん」 「気配が全然なかったんですが……ただいま戻りました、秋子さん」 「はい、おかえりなさい」 いつの間にあゆの隣に来たんだろうか、秋子さんがそこにはいつもの笑顔でいた。 さっきまで、なんもいなかったはずなんだが……相変わらずの神出鬼没だ。 親父よりよっぽど隠遁が上手いよなぁ、血筋か……? 「それで、あゆは何を頑張ってたんです?」 いずれ名雪にもこの能力が目覚めるのか!? なんてバカなことを思考の隅に追いやりつつ、秋子さんの言葉の真意を問う。 すると、秋子さんは笑みを深くして……俺の腕を斬った。 「おろ……?」 「お、お母さん!?」 「ゆ、祐一!?」 どこから取り出したのか、抜刀が全然見えなかったし、殺気もないから避けられなかった。 俺もまだまだだなぁと思っている間にも、斬られた場所からはドクドクと血が流れていたりする。 あー……このままだと血が足りなくて貧血が起きそうだ。 「あゆちゃん?」 「あ、はい」 秋子さんがあゆに何かを促すと、唐突の出血にびっくりしていたあゆが俺の傷口に向かって手をかざしてきた。 「聖なる光、癒しの光、願いに答え力を紡げ。 慈愛の力よ、慈しむ心よ、彼の者の傷を癒せ『トータル・キュアライズ』」 小さな光が徐々に輝きを増し、あゆの手から離れると俺の傷口へとゆっくりと吸い込まれていった。 眩しい位の光が俺の傷口を覆い隠し、それが消える頃には切られた後も見当たらないくらいに回復していた。 これは、『聖』属性の回復魔法……? でも、『闇』属性の俺にはこんなに顕著な効果は出ないはずなんだが…… 「どうです、祐一さん。あゆちゃんの頑張り、判りましたか?」 「……さすがに、ビックリせざるを得ませんね、反属性でここまで効果を出すとは」 本来、反属性の魔法や属性は打ち消しあう。 片方の力がもう片方を上回れば、通常の効果より多少は落ちるものの発動はする。 だが、今のあゆの魔法は通常以上の効果を出しているといっても過言ではない。 なぜなら、斬られた所の傷がどこだったかわからないくらいの再生を見せているからだ。 「あゆちゃんの特性と言いますか、すべてに慈愛を注げる気質があるからこその威力ですね」 「……確かに、あゆならそれが理由でも納得いく気がします」 「全てを受け入れ、包み込む優しさを持つからこそ、反属性という性質すら凌駕して見せたんです」 言うが易しとも聞き取れるが、生半可の覚悟じゃここまで到達できないだろう。 ただでさえ『聖』属性は攻撃魔法がほとんどない。 異形の襲撃に対応する事を考えたとしても、支援の技だけじゃ対応できない。 だからこそ、『聖』属性を持つ数少ない人はその身に別の属性を宿す。 「あゆは、『聖』属性だけに絞ったんですね……」 個人でも対応できる手段としての別属性。 それを得てしまえば、『聖』属性の力を極めようとする人がいなくなる。 人間が元来持つ攻撃性の発現が、支援だけで生きるという選択肢を破却するからだ。 「はい。それも、ただ護られるだけではなく、違う方法でみなさんを護る方法を」 「……なんとも、あゆらしいですが」 世の中で、『聖』属性だけを絞って持っている人間はほとんどいないだろう。 そんな存在になる事を、あゆ自身が望んだと秋子さんは言った。 呆然とした状態から脱出した2人に、あゆはいま揉みくちゃにされている。 だが、その表情に影はなく、選んだその道に対する後悔は感じられない。 ……成長したのは、依頼を受けた俺たちだけじゃないってことか。 「あと、あゆちゃんはお料理も頑張ってるんですよ?」 「碁石クッキーのあゆが……?」 「えぇ、今じゃおいしいクッキーは自分で作れるようになりましたよ」 ……本当に、みんな成長していることで。 俺も、負けてられないじゃないか。 「それじゃあ、みんな帰って来たお祝いでもしましょうか」 そして俺たちはようやく依頼を経て水瀬家へと戻った。 秋子さんの手料理……楽しみだなぁ。 あとがき あゆあゆの力。
初書き 2009/02/11
公 開 2009/02/13 |