「あと、あゆちゃんはお料理も頑張ってるんですよ?」 「碁石クッキーのあゆが……?」 「えぇ、今じゃおいしいクッキーは自分で作れるようになりましたよ」 ……本当に、みんな成長していることで。 俺も、負けてられないじゃないか。 「それじゃあ、みんな帰って来たお祝いでもしましょうか」 そして俺たちはようやく依頼を経て水瀬家へと戻った。 秋子さんの手料理……楽しみだなぁ。 ![]() 「いやいや、仕事速すぎるだろう?」 水瀬家に戻った俺達が、秋子さんの手料理に舌鼓を打ち、久々の柔らかい布団で眠った翌日。 いつの間にやら俺の部屋に置かれていた資料を、寝ぼけ頭で流し読みしている時に出た台詞がコレだ。 「さすがは有数6家というか……これ、もしかして将和さんも一枚噛んでないか?」 資料に書かれていた人名リストと、その人の経緯を見る限り普通とは言えない。 何せ、現役引退してすぐの冒険者までリストアップされてるんだから。 これがもし、現役引退して余生の過ごし方を考えている熟練で老年の元冒険者だったらすぐ納得いくんだが…… 「さすがに通り名持ちこそいないけど、結構やり手ばっかじゃねーか」 この人たちが学園に来たら、それこそ既存の授業なんて目じゃないだろう。 教科書なんて予習の予習に使うくらいで、濃密な実戦に使える授業が出来そうだ。 しかも、痒い所に手が届くと言うかなんというか…… ものの見事に属性がほぼ均一化してるってのも素晴しい。 まぁ、『聖』属性や『闇』属性が少ないのは、当たり前だから良いとして…… 「って、ちょっと待て」 人名リストをぱらぱらとめくり続けていると、ありえなさそうな人物が目に映った。 いや、この人が来れば確かに『聖』属性の授業だって簡単にこなせるだろうけどさ。 そもそもあの人達がそう簡単に手放すと言うか、出向するのを認めるか……? 「とりあえず、これの確認はしっかりとしておかないとマズいよな……」 下手したら、これが原因で大陸間戦争なんて俺はめんどくさいから嫌だぞ? 善は急げって事か…… 俺は寝ぼけた頭を軽く振って眠気を払うと、普段着に身を包んでその人にあたりをつけた人物の家に向かう事にした。 ……まぁ、当然秋子さんの手料理を堪能してからだけどな? 「相沢祐一ですが……王妃様にお目通り願いたい」 俺が訪れた場所はスノウシティの中心部、よっぽど目と頭の悪い奴しか見間違えない王城である。 その城門で、門番の左目が髪で隠れている兵士に俺はその一言を告げた。 「相沢様ですか……王妃様へのアポイトメントは有りますでしょうか?」 「アポはないのですが、少々頂いた情報に関して聞きたい事がありまして。確認していただけますか?」 王族っていうのは、本来アポを取らないとそのご尊顔を拝む事ができないというのがこの世界の基本だ。 どこの街でも、その統率者に会うにはそれなりの下準備期間が必要になる。 ……普通ならな。 「解りました。確認して参りますので、詰め所で申し訳ありませんが、少々お待ちください」 伝令の兵士らしき人が王城の中へと走っていくのが見えた。 俺と応対してくれた兵士は、詰め所の方へと向かうと椅子とテーブルのある部屋に案内してくれた。 そして、俺が何も言ってないのに、なぜか紅茶を入れて差し出しだしてくれる。 ……王城ってのは、執事仕事も兵士に教育しているんだろうか? 「本来なら、有数6家の相沢様なら通しても問題ないのでしょうが。この頃名を語る人物が複数来ておりまして……」 なかなかの水準を満たしている紅茶を飲んでいると、兵士が申し訳無さそうな顔をして言ってきた。 なんでも、この頃有数6家を語る人間が、王城に取り入ろうといろいろ画策しているらしい。 大抵はこの兵士の詰め所で捕まって、所在や目的などを調べ上げるそうだ。 「でも、そうなると俺も偽者を語った類って考えられるんじゃないのか?」 特に俺がギルドカードを提示した記憶も無ければ、魔力探査をされた様子もない。 なのになぜかこの兵士は、俺がキチンと相沢家の祐一だと理解しているようにも見える。 「まぁ、ここを任せて頂いてるだけあって、そういう能力があると思って頂ければ」 「……なるほど、随分と珍しい目をお持ちで」 隠れていて気付くのに遅れたが、俺がそう言うと兵士は人好きしそうな笑顔を見せて隠れていた目を見せてくれた。 そこには、普通の人にはない、五亡星の文様が浮かび上がっていた。 「えぇ、この目のお陰で自分はここで門番たちの将を勤めさせて頂いてます」 「魔力を視る後天性のものですね……」 一弥も珍しい眼を持っていたが、この人もまた珍しい物を持っているな。 人の魔力の流れ……いや、この場合は本質と行った方がいいか? それを見ることが出来ると言われる審議眼、俺の知り合いにもその目を持つ人がいないわけじゃないが、こんな所で門番やってるとは驚きだ。 「俗物であれば、その魔力の本質ですぐに偽者と解りますから」 「確かに、門番や警備としてはこれ以上ない能力ですよね……」 その後、この門番の人と今まで来た愚かな人物などの他愛も無い話を聞いていると、伝令に走って行ったもう1人の兵士が戻ってきた。 どうやら、緊急な要件は何も無く、すぐにでも会って貰えるらしい。 「また、お暇があればこの詰め所に訪ねてください。稚拙ながら紅茶くらいは出させていただきますよ」 「いやいや、結構なお手前でしたよ。謙遜する必要はないでしょう」 ―――――機会があればまた寄らせて貰います。 そう一声かけた後、俺は香澄さんが待つ応接間へ向けて歩き出した。 ……相変わらず、他の国や街に比べて一般兵士の基礎能力がおかしいと思いながらも。 「やぁ、祐一君。待っていたよ」 「いや、なんで貴方までいるんですか?」 応接間に入って、俺にまず一声を浴びせてくれたのはなぜか国王である将和氏だった。 王妃に会うのも普通なら難しいつーのに、なんでこの人までここにいるんだ? 国務はどうした、あんたこんな所でのんきにお茶出来るほど暇じゃないだろう? それなのになんで明らかに寛いでます、な雰囲気でお茶なんか飲んでるんだよ? 「なに、本気を出せばすぐ片付く国務よりも、旧友の息子たる君に会う方が何倍も価値がある」 「本気で言ってるんだから、なお更性質が悪いんだよなぁ……」 ニコニコと俺と将和氏のやり取りを見ている香澄さんを片目に入れつつ、俺はため息をはくしかなかった。 実際、この国の運営はこの人の事務処理能力が大きく由来していると言っても過言ではない。 山のように積まれた部屋が埋まるほどの仕事を、本気になった将和氏は半日で片付けてしまった事がある。 確か、その時の理由が佐祐理さんや一弥と一緒に過ごす時間を作るためだったか……? 「まぁ、この際貴方がいても問題ないとして……香澄さん、この人選はマジですか?」 「えぇ、大真面目よ?」 「いやいやいやいや! どう考えてもあの大陸からこの人だけ引っ張ってくるのは無理でしょ!?」 確かにあの人の旦那とは知己の仲ではあるけど、愛妻家のあいつが手放すわけが無い。 ついでに言えば、娘馬鹿の天然暴走レーサーも絶対に認めるはずが無い。 それだけでなくても、エア大陸の『翼の聖女』ってのはかなりの国民の支持を得てる人材なのだから。 ……あの正確で聖女って付くのがいまいち疑問なのは彼方に流しておくとして。 「あら、ちゃんと最後までリストを見てないのね」 「……は?」 「ちょっと待ってもらえるかしら? 彼にあげた資料の写本、持ってきて貰える?」 香澄さんは何処か面白そうにしながらも、両手を叩いてお付の人を呼び出すと俺が貰った資料を取りに行かせた。 確かに、リスト自体は『翼の聖女』の所までしか見て無いが、それでも半分以上は見たはずだ。 「ほら、ちゃんと彼等の名前もあるでしょう?」 「……マジだ。なんで『法術師』や『紅蓮の劫火』までいんの……?」 ここまで戦力集めると、明らかに過剰戦力になってんじゃね? 俺たちと、ここに載ってる数人がいるだけでデザートエンブレムで1ヶ月以上はサバイバルできるよ。 それだけの人材をこの国に、さらには一教育機関で教鞭を振るってもらうとか…… 明らかになんかおかしいって…… 「んーまぁ、彼等は快く応じてくれたんだが、一応大陸側から条件は付いたんだがな」 「……妥当なところで留学制度って所ですかね」 「そんなところだ」 戦力貸すんだから、こっちの将来的な戦力増強にも力を貸せよ?みたいな。 今現在で確かにこの人たちは強いが、人はいつか老いる。 その時に次世代の力になるのは、今の若い世代の奴らになるのは必然。 ならば、その世代を育てられる環境を作ってみようじゃないかというテストケースも含まれてるんだろう。 ……っていうか、そのくらい考えなきゃこの人たちこっちに引っ張るのはまず無理だって。 「と、言うわけでそのリストは誤りでもなんでもなくて、本気って事よ」 「いやまぁ、質自体はこれ以上ないくらいの理想系ですけど……コレに見合う給金払えますか?」 他の人たちならまだ給金は常識の範囲内で工面は可能かもしれない。 事実、相沢家で給金を持ったとしてもどうにでもできる程度だ。 だが、ここにある二つ名持ちはそうは問屋が卸さない。 二つ名と言うネームバリューからして、一般の給金程度じゃ招待したり雇ったりなんて出来ない。 それだけ、この世界にとって二つ名は戦力として魅力的だからだ。 「原案者だから祐一君には教えてあげられるんだけど、この人たちは給料で出向してくれるわけじゃないのよね」 「……給料じゃない?」 確かに元から金にこだわりをそこまで見せる面子じゃないが…… 給料じゃないとすれば、一体何を前面に出して交渉したって言うんだ…… 「えぇ。 『法術師』と『翼の聖女』は簡単に言ってしまえばハネムーンの感覚」 「さらに『紅蓮の劫火』に至っては俺の秘蔵の酒で釣れた」 「……それでいいのか、二つ名持ち」 一気に、力がそこから抜けてしまったような感覚に襲われてしまった。 だが、それ以上に納得してしまった自分が嫌になる。 特に紅蓮の方は、ソレすらを通り越して真理であるかのように感じてしまう。 「紅蓮の方に関しては、祐一君の反応も間違いではないんだがな」 「他の2人は純粋に祐一君に久しぶりに会いたいという気持ちもあったみたいよ?」 7年間の放浪中に、エア大陸にも顔を出したからなぁ…… 妙に強い奴と腕試しすることになったと思えば、それは周りが俺に対してのチョッカイの延長上だったし。 さらに、その時の相手があの『法術師』で、なぜか意気投合した挙句ラーメンライスをご馳走になったし。 久々に、あの人が作ったラーメンライスが食べれるかもしれんな。 「……はぁ、なかなか面白い学園に変化しそうだなぁ」 「確かに、大陸有数の教育機関として生まれ変わるかもしれませんね」 「それだけの水準を満たす人材は用意したからな」 「なんだかんだでこの親ばかがちゃんと国王と王妃やってるんだから、世の中って不思議だよなぁ……」 もの凄く失礼な事を言ってる気がするが、なんかもうどうでもよくなった。 最初こそ、右も左もいまいちわからない国での長期滞在に困惑して、妙にかしこまった事言ったりしてたが…… 今ではもうなんかね、あの子にしてこの親ありってのが良くわかったよ。 「そんな訳で、これから学園は俺たち王家と有数6家の完全サポート体制で運営されていく」 「今まで通り、生徒間の自治には生徒会として久瀬君に一任してあるから微調整は彼と行ってね」 「いや、確かにいろいろ今回てこ入れしましたけど、俺は一般学生ですよ?」 原因が俺にあるからここまでしっかりと責任を持っているだけで、本来ならすでに部外者のはず。 なのにこの王家ペアは俺も自治に参加が決定しているかのような口ぶりで話している。 ここに微妙な意識の差異を感じたんだが…… それも、嫌な方向に。 「それは当然だな、祐一君を筆頭とした鎮圧部隊を結成するからな」 「生徒の質が上がれば、それまで必要以上に問題視する事もなかった事実が浮かびますから」 要するに、下手に実力が付いた馬鹿が今回と似たような騒動を起こさないための防衛策という訳だ。 そもそも俺や真琴はすでに別次元のモノであるとして、舞や北川、名雪たちは学園の上位に間違いなく並んでいる状態だ。 実力があり、さらには理性的に行動し物事を公平に見る事ができる面子で、生徒会が抑えきれないところをカバーしようというんだろう。 「でも、それだと内部腐敗の温床とか周りから言われそうだが……」 生徒内の戦力も、行き過ぎれば過剰となり、それは異端となる。 ただでさえ俺たちがグループで活動しているような状態なのは今回で浮き彫りとなった。 そこを論点に出てくる不平不満はさすがに当事者たちじゃどうにもできないんだが…… 「それを実際に聞き、改善策を考える為のテストケースだ」 「たぶん、そうなる確立は低いような気もするのだけれどね」 ちなみに、その鎮圧部隊の対象は生徒に限らず、問題を起こす教師陣にも適用可能らしい。 王家のバックアップがあるからこその、ある意味生徒会を超えた権限を持つ部隊になる。 コレだけ聞くと、尚の事過剰防衛とか言われそうだよなぁ…… 「祐一君は私利私欲の為に権力を使う事はないだろう?」 「いや確かに、今回は見逃せませんでしたけど、それ以外で権力に頼るのはちょっと……」 「ふふ、祐一君なら逆に権力なんかなくても力任せでいけそうだものね」 笑って香澄さんは言うが、実際の所そうなんだからしょうがない。 権力なんてモノを持って偉そうにしているのはそこらにいる盆暗貴族くらいなもんだろ。 人は徳や実のある人にこそ付いてくるんだから。 「そう言うわけで、宜しくね。特別警邏隊長 相沢 祐一君」 「……了解です」 なんでだろう、リストの人材について問いかけに来たはずなのに余計な仕事まで増やされた気がする。 面白そうではあるからこそ、そこまで乗り気じゃないわけではないからいいんだけどさ。 とりあえず、警邏隊の人材は好きに選んでいいって言うからアイツらは片っ端から巻き込んでやろう。 あとがき なんか話がいろいろ好き勝手になってる。
初書き 2009/09/27
公 開 2009/10/04 |