唐突だが、使い魔が旅をしている俺たちのところにやってきた。
いつか見たような気がするんだが……あぁ、秋子さんの使い魔か、コイツ。

「主より、書簡を相沢 祐一へ」
「あぁ、ご苦労さん」

渡された手紙を見て、俺たちは吹き出して笑ってしまった。

























紅眼の魔剣士

異聞<手紙>


























手紙の最初には、秋子さんの手による丁寧な文面。
そして、その後に続いたのは俺たちの大切な仲間の文面だった。

「みんな元気でやってるみたいだなぁ」
「あゆあゆは相変わらず字が汚いのよぅ……名雪は寝ながら書いたのかな?」

性格がよく現れているというか、書いてる人がすぐに浮かぶような文章が多かった。
事務的な感じに、恐らく書かされたであろう久瀬や、筆不精に見える舞のもあった。

「久々に会いたいな……」

呟くように真琴が言った。
あゆとかとは、なんだかんだからかったりからわかれたりで仲良くやってたからな……
それに、一番懐いていた天野も手紙から真琴の事を心配しているのがわかる。

「そうだなぁ……久々だし、戻ってみるか?」

バハムートを使えば、恐らく1日掛からないで街に戻れるだろう。
そう頭の中で距離と時間を計算しながらも、手紙を最後まで読み進めていると、予想外の文字が目に付いた。

「……ん? この手紙が付く頃に、迎えに行きます……?」

迎えに来るといっても、そんな空間を捻じ曲げるような魔法は存在しなかったはず……
いくら秋子さんでも、そんな力は持ってないと思ったんだが……?
手紙の最後を真琴に見せると、心当たりはないのか首を捻っていた。
だが、少しばかり首を2人で捻っていると、真琴が急に空を見上げた。

「……真琴?」
「幻想種……?」

どうしたのか、と聞こうとしたが真琴の口から聞き覚えのある単語が零れ落ちた。
……でも、アレはまだ人を乗せられるほど成長していないと思うんだが。
そんな考えを抱きつつも、視線を空へと移せば、見覚えのある白竜がいた。

「うっわ……あれ、マジでライトか……?」
「千尋の気配もする……多分間違いないのよぅ」

ここからでも視認出来るほど、ライトの存在が確認できた。
目測から行って……もしかして、バハムートよりでかくねぇか、ライトの奴……?
上空を飛んでいたライトの首が、俺たちを見つけたのか首をもたげてコチラへと向かってくる。

「さすがに、ここら辺じゃ降りづらいだろうから、少し行った先の平地に行くぞ」
「うん」

つーか、あんな高高度から俺たちを見つけるって、どんだけ目が良いんだ幻想種。

「兄さん、真琴ちゃん。久しぶり!」
「よう、千尋。元気か?」
「久しぶりー!」

俺の目測に狂いはなく、降りてきたライトはそりゃもうでっかかった。
バハムートを一回り大きくしたようなその存在感は、確かに最強を冠するモノだろう。
精霊界最強の生き物ってのは、伊達じゃねぇんだなぁ……

「キュアー!」
「うぉ、お前その図体でジャレて来ようとすんな! 下手すりゃ骨砕けるぞ!!」

久々に俺たちに会えて嬉しいのか、ライトが甘噛みしてこようとしたが、命の危機を感じて避ける。
それをまた遊びと勘違いしたのか、追って来るからしゃれにならん。
こっちはマジで必死だっつーの!

「ライト! その身体で兄さんにじゃれたらさすがに危ないから!!」
「キュー?」
「じゃれたいなら、元の大きさに戻りなさい。ね?」
「キュー」

すっかり母親兼飼い主になってる千尋に怒られ、しょんぼりしながらもライトのサイズが見覚えのある大きさへと戻った。
……まさか、伸縮自在とか言わねぇよな?

「キュー」
「よしよし、いい子ね」
「ライトー、久しぶりー!」

小さくなったライトが、真琴の首に巻きつきながら撫でられている。
嬉しいのか、竜の吐息(ドラゴン・ブレス)のような火を小さく吐きながら真琴に甘えている。
その光景を微笑ましそうに見ている千尋へと近づき、とりあえず疑問を解決させておこうとした。

「千尋、ミリアム……ライトの奴、いつから巨大化ができるように?」
「うーん……元々ライトのお母さんがでっかい竜だったからなぁ……」
「恐らく、本能のレベルで覚えていたんじゃないかしら? 千尋の魔力を少し使って巨大化してたわよ?」

これで、竜の吐息(ドラゴン・ブレス)の完全版が放てるって事か……
ライトと遊ぶ時はある程度加減を教えながら遊ばないとそこら一帯が焦土と化すな。

「で、迎えってのはお前らなのか?」
「そうだよ、ライトがでっかくなれるようになって、人を乗せて飛べるように訓練も終わったから」

人を乗せて飛べるようになるための訓練に、主に犠牲になったのは北川と親父らしい。
まぁ、とりわけ丈夫だから、人選としては問題ないだろうが……

「親父はいいとして、北川は落ちたらさすがに死ぬんじゃないのか?」
「どの高さから落ちても、北川さん3回転くらいで着地してたわよ?」

あいつはいつから狼から猫へと変身したんだ?
っていうか、あいつグランテューダとの戦い以降すっかり人狼の能力を無駄遣いしてんだな。

「まぁまぁ、とりあえず迎えに来たんだから戻りましょう? みんな待ってるわよ?」
「あー……そうだな。真琴、ライト、そろそろ動くってよ」
「わかったわよぅ」

未だ仲良くじゃれあっていた1人と1匹を呼び戻すと、ライトは真琴から俺の首へと巻きついた。
首元に擦り寄ってくるライトに苦笑しながら、俺は『ゲート』からクコの実を取り出すと食わせてやる。
相変わらずこのクコの実がお気に入りなのか、嬉しそうにライトは食っている。

「祐一、私も欲しい」
「あぁ、そう言うと思ったからな。ほれ」

その様子を見た真琴が予想通り欲しがってきたので、出しておいたのを渡してやる。
少しして、食い終わったのか満足した様子でライトが千尋の方へと飛んで行った。

「それじゃあ、ライト。連続での長距離飛行だけど、お願いね?」
「キュー!」

千尋に頭を撫でられながらライトが一鳴きすると、身体が光った。
唐突の光に目元を覆いながら、その光が収まった頃にはライトが巨大化していた。
……改めて見ても、やっぱりバハムートよりでけぇ。

「よっと。背中ならどこでもいいけど、ライトに一応掴まってね?」

首を下ろしたライトに飛び乗った千尋がそう言って俺たちにも乗るように促す。
ジャンプして乗るのかなーと考えていると、乗りやすいようにライトが羽を下ろしてくれた。
なるほど、確かに人が乗れるようにしっかり調教されているらしい。

「わ、バハムートより広い!」
「あぁ、しかもあいつより乗り心地が良いってのもまた……」

性質の違いか、戦闘系と言っても問題ないバハムートの背中と、ライトの背中は全然違った。
なんていうか、簡単に言えば砂利の上か、カーペットの上か……そんな感じだ。
もちろん砂利がバハムートで、カーペットがライトだ。

「2人ともちゃんと乗った?」
「あぁ、オーケーだ」
「私も大丈夫」

適当に真ん中当たりに腰を下ろし、荷物を背もたれ変わりにした俺の隣に真琴が座った。
ここまで広いんだから、別に隣でなくてもいいだろうに……
そう考えつつも、隣に来てくれるのが嬉しい俺もいたりする。

「相変わらず仲が良いわね……くそぅ、私だって良い人見つけてやるんだから!」

なにやらよく分からない事を叫びながら、千尋はライトに空へ飛ぶように命じた。
力強い羽ばたきから、ライトの身体が徐々に空へと上がっていく。
あぁ、そうだ……どんだけ速度出すのかはわからないが、耐風結界でも張っとくか。

「兄さん、風の影響は出ないから心配ないわよ?」
「む、そうなのか?」

魔法を使おうとしているのを感じ取ったのか、千尋がそう言ってきた。
俺がそう言うと、なぜか呆れたような顔を向けてきた。

「バハムートに乗ってる時も、そんなに風の影響は出なかったでしょ」
「そういやそうだな……」
「呆れた、てっきりバハムート使ってる兄さんなら乗り慣れてると思ってたわ」

どうやら、ライトやバハムートに限らず、飛竜というのは風の影響を受けにくい能力を持っているらしい。
だからどれだけ速度を出そうとも、影響を受ける事ないそうだ。
さすがに宙返りとかをやると、重力に対する能力は持ってないから落ちるらしいが……

「ちなみに、宙返りの犠牲者は?」
「父さんよ」
「納得」

身をもって体験した奴がいるからこそ、わかった事実って事か……
親父なら真空でもなんだかんだで耐えそうだから、落ちたくらいじゃどうにもならんな。

「それじゃ、行くわよ……ライト!」
「キュー!!」

ライトの首筋を軽く撫でて号令を飛ばすと、見える景色のスピードが一気に加速した。
世界を置いていくような感覚は、かなりの速度が出ている事を証明している。

「おー、疾い(はやい)なぁ」
「ふぁ……眠くなってきた……」

バハムートに匹敵するような速度で飛んでいるライトに驚きつつも、回りの光景を楽しんでいると、隣にいる真琴からあくびが出てきた。
そういや、ここ数日は野宿ばっかりで十分な睡眠が取れてなかったか……

「少し寝てていいぞ、街に着いたら起こしてやるから」
「……それじゃ、寝る」

コテンと、俺の肩に頭を乗せてそのまま静かに寝息を立て始める真琴。
どうせ寝るなら、横になればいいのにと苦笑しながらも、俺は真琴が寝やすいように少しだけ肩の位置を低くしてやる。
俺の頭と真琴の頭が少しばかり重なるような感じになると、俺の方にも眠気が襲ってきた。

「……千尋、街に着く前に俺は起こしてくれ」
「りょーかい、ちょっと時間も掛かるしゆっくり寝てて」

ライトの進行方向を示しながら、竜使い状態の千尋に一声かけて、俺もまぶたを閉じる。
そして睡魔へと身をゆだねて、俺の意識は落ちた。



























「まったく、兄さんも真琴ちゃんも相変わらずね」

祐一と真琴が寝静まったのを、少しばかり後ろを向いて確認した千尋から出た言葉がコレだった。

「それでも、街を出る前よりもさらに自然になってるわよ?」

それに答えるように、千尋と契約している異形のミリアムが笑いながらいう。
確かにミリアムが言うように、祐一と真琴が2人で寝ている様子を見ていると納得できる雰囲気があった。

「ま、それはいいんだけど……妹の前で他を気にせず2人で寝るってのもどうなの?」

強さの目標でもある兄と、もしかしたら義姉(あね)となる存在の仲がいいのは千尋としても歓迎すべき事だ。
こうも2人とも無防備にお互いを預けあっている様子には、羨望を感じてしまう。

「そう思うなら、千尋もいい人を早く見つける事ね」
「そうなんだけどねぇ〜……見つからないからいい人って言うのよね……」

ここで勘違いしないで貰いたい事は、千尋に言い寄る男がいない訳ではないのだ。
有数6家の娘でもある千尋は、見た目も10人が10人振り向くような顔をしている。
6家に取り入ろうとする者や、下心見え見えの輩は引っ切り無しにいるのである。

「選り好みするからでしょ? 判断の基準が人狼の子クラスの強さっていうのもねぇ……」

そう、千尋は弱い相手とそう言う関係になる気はないと豪語している。
そして、仲間の男の中でまだ弱い方である北川を強さの基準としてしまっているのだ。
北川自体は、強さで言うのなら一般世間から言うと超一流の強さである。
そんな間違った基準を設けてしまえば、勝てる人間などほとんどいないだろう。

「理想は高くてナンボよ!」
「やれやれ……千尋に恋人が出来るのは当分先かしらね」

ミリアムのため息も最もだろう。
だが、この問題が意外な方向で解決を見せるのは、もう少し先のことである。
その時に、街にいる哀れな槍使いの青年が、なかなか激しい地獄を見るのは余談だろう。

「ま、とりあえず……ライト、少しだけゆっくり飛んでね?」
「キュー?」
「たまには、ゆっくり寝るのもいいじゃない」

苦笑しながらも、乗る幻想種へと声をかける千尋。
折角ゆっくり寝ている兄と兄の思い人へ小さな心遣いを見せながら、幻想種は街へとその身を羽ばたかせる。

「キュー」

幾分か速度が落ちた幻想種の背で眠る2人の手は、重なり合っているのをその場にいる者たちだけが見ていた。

















あとがきっぽぃもの


あくまでコレは外伝なのだ。


初書き 2009/02/11
公 開 2009/02/13



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