今、ここに在る未来 ──チュンチュンチュンチュン… 「……んぁ?」 小鳥の騒がしいくらいの鳴き声に、俺の夢の中と言う名の深層世界を彷徨っていた意識が急に持ち上げられる。 「……やかましい。」 ──チュンチュンチュンチュンチュンチュンっ! 「………」 近頃の小鳥は人に喧嘩を売るようになったのだろうか…? 昔はそれはもう気分のいいさえずり程度だったはずなんだけどなぁ… 「ん〜っ!こんな調子じゃもう一度寝てもすぐに起こされそうだな…」 枕元に置いてある名雪ご推薦の音声目覚まし、それを手探りにとって時間を確認してみる。 ──AM10:25 なんとも言えないくらいの微妙な時間だった。 朝と言うには遅すぎるし、昼にするには早すぎる。 ちなみに、時間からも理解して貰える人にはして貰えるだろうが今日は日曜だ。 学生の休日、何時まで寝てても文句を言われない素晴らしい日だ。 「うっわ、微妙…こういう中途半端な時間ってのは時間の潰し方が難しいんだよな。」 とは言っても、居候の身分としてはやはりゴロゴロしてるのには微妙な罪悪感を感じるワケで… そう思いながらも、しぶしぶベットから出ようと、上半身を起こそうとして… 「………ん?」 何故か普段より自分の身体が重く感じて起こせなかった。 首だけを下の方に向け、布団を少し持ち上げて見ると俺の身体にしっかりと何かがしがみついていた… それと同時に視界に入ったのは鮮やかで長く、金色の細い髪。 俺の記憶の中を探っても金髪で該当するのは一人しかいなかった。 ちなみに、あははーと笑う某お嬢様の髪は淡い栗色だ。金髪じゃないんだよな。 「……いつの間に潜り込んだんだ…コイツ。」 「コイツ」俺がたった今そう称したが、本名は「沢渡 真琴」。 俺がこの世で一番…なによりも大切ともいえる存在だ。 コイツが起きてるときとか、他に人がいるときはこんなこと思うことすら恥ずかしいんだけどな。 「ったく…最初から言えばベットん中入れてやるのにな…」 最初は真琴と一緒に寝るなんて、俺の理性がやばいので絶対阻止してきた。 でも、大切な奴と一緒にいられることを拒否しつづける奴なんていないと思う。 「すぅ…すぅ……。あぅ……ゆーいちー……」 そう、結局俺は真琴のお願いに負けたんだよ… 悪いか!涙目の上目遣いでさらにしおらしくお願いされたんだぞ! これに負けない奴がいたら見ていたいわ! ………話が逸れたな。 まぁ、いいか…しっかし、真琴は暫く起きそうにないなぁ… ……そうだ。 また暗くなるかもしれないけど、俺の…いや、俺達の思い出話でもしようか… ────俺と真琴が商店街で再会した冬。 結局、真琴は束の間の奇蹟が終わると共に、この世から姿を消した。 それは文字通りの消失…この世に存在していたのかすら分からなくなるほどの消滅… そして、それからの俺はみんなからみて、見るに耐えないような状態だったらしい。 みんなを魅了してやまなかった(らしい、俺はしらん)笑顔は嘘のように消えた無表情で。 まるで全ての事柄に感心がないかのように無関心で。 何に対してもやる気がない、完全な無気力で。 まるで壊れた人形のような状態だったらしい。 そんな俺の様子にクラスのみんなは腫れ物を扱うかのように接していた。 そんな中、俺の唯一の男の友達と言える北川や名雪、香里達はいつもと変わらないように俺と接してくれていた。 佐祐理さんや舞、栞やあゆ達も良く俺を遊びに誘ったりしてくれていた。 でも、俺は全て拒絶していた。 真琴という大切な存在の喪失で、その時の俺の心は確実に壊れていたんだ。 心が壊れてから、俺は毎日ものみの丘に通っていた。 あそこに行けば真琴に会えるんじゃないか…そんな風に壊れた心の底で感じていたから。 何かに縋ろうとしていないと本当に俺という存在は壊れてしまいそうだったから… だけど、その行動も1年と少しで終わった。 いや…その行動が報われたって言った方がいいのかもな。 季節は巡り、あの別れの季節を過ぎ、春の日差しが暖かくなってきたある日。 その日も俺はいつも通り、学校帰りにものみの丘に向かおうとしていた。 そして、商店街を歩いていたときにアイツを見つけたんだ。 真琴が連れてきた不思議な、だけどどこか暖かい存在… 「うなぁ〜」 そう、ピロだ。 俺がその姿見つけたとき、ピロは『待っていた』と言わんばかりの仕草で鳴いてから突然駆けだした。 「な…待てよ!ピロっ!!」 あの時、何故俺がピロを追いかけたのかは分からなかった。 でも、ピロの後ろ姿がついてこいと言ってるように思えてならなかったんだ。 それを裏付けることは出来たと思う。 なぜなら、時々後ろを確認するかのように振り向いて、俺が付いてきてることを確認するとまた走り出したから。 それを繰り返しているうちに1年間も通って見慣れた道を駆けていることに気づいた。 ものみの丘に通じる道。 「ぜぇ…ぜぇ…待ってって!」 丘に着いた頃には俺の息は絶え絶えで、今にも倒れ込みそうな状態だった。 「うな、うなぁ〜」 そんな状態の俺を一瞥した後、ピロは俺の膝くらいの丈の雑草が生えた場所に歩いていった。 やっぱり、途中で俺の方を振り返って『付いてこい、置いていくぞ』って、言ってるようだったよ。 「ったく…こっちに何があるっていうんだ………よ……」 辿り着いた先で見た光景に俺は言葉を失った。 ピロはと言うと、俺の案内を終え、主である者の隣に丸まり寝る体勢に入っていた。 主である者…つまり。 「ま…こと……?」 「すぅ……すぅ……」 真琴がいたんだ。 あの冬、最後まで鈴の音を愛しそうに聞きながらこの世から消えたハズの真琴が。 まるで何事もなかったかのように草のベットの上に寝ころんで寝息を立てていたんだ。 「……そっからの事はあんま覚えてないんだよなぁ…」 確か真琴を起こして大泣きした記憶がある気もするけど… ハッキリ覚えてるのは水瀬家に戻ってからだ。 いつもは笑顔の秋子さんが真琴をみるなり涙を流したのが印象的だった。 名雪も泣いて喜んでたっけ。 そして、真琴はまた水瀬家の一員になったんだ。 「そこからだよな…真琴が頻繁に俺のベットに潜り込むようになったのって…」 真琴がイタズラをすることはほとんどなくなった。 まぁ、たまに寝てる内に忍び込んできて顔を引っ張ってくるくらいはあるけど… 「んぅ…あぅ〜、ゆーいちー?」 「ん、起きたか? 真琴。」 「あぅ〜……」 寝ぼけた顔を見せる真琴の頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細めてくる。 こんな些細なことにすら幸せを感じている俺ってなんだろうなぁ〜… 幸せボケ…ま、それでもいいか… 「起きたら着替えてこい。下に行って秋子さんに挨拶して来るぞ。」 「あぅ〜…わかった…」 撫でていた手を離すと名残惜しそうな顔をしてくるが、いつまでたっても終わらないからな。 真琴を自分の部屋に促しつつ、俺も速攻で着替える。寒い冬で身につけた早業だぞ。 そんなこんなで着替え終わって、廊下に出た途端真琴が自分の部屋から顔を出してきた。 「どうした?早く着替えてこいよ。」 そう言うと、真琴は何故か頬を少し赤らめて。 「あのね、言い忘れてたことがあるのよぅ…」 「……言い忘れてたこと?」 少し思考を巡らせてみたが、寝起きと言うことも重なり真琴の言いたいことが理解できなかった。 そんな俺を見ていた真琴が、おずおずと言葉を切りだした。 「おはよ、祐一。」 「…………」 「? 祐一…?」 「……っは!あぁ…おはよう、真琴。」 や、やばかった……真琴…何気ない今の行動は可愛い過ぎるぞ… 微妙に赤く染まった頬と、なんとも言えない上目遣い。 このコンボは俺の眠気をぶっ飛ばしてくれたぜ… 北川…この場にお前もいれば一緒に熱く語り合えただろうに… 「と、とりあえず早く着替えてこいよ。ここで待っててやるから一緒に下に行くぞ。」 「うんっ」 真琴がいて、俺がいて。 今も、そしてこれからも俺達は二人で歩いていくんだと思う。 これからの季節、1つ1つを大切に二人で過ごしながら。 きっと楽しい思い出を作っていけるはずだ。 俺達は今、ここに在るんだから。 「天気もいいし、肉まんでも買ってどこかいくか?」 「うんっ!だったらね、真琴はあそこがいい。」 「ん? あそこ?」 「そうっ!真琴たちにとって大事な場所。」 ───真琴達が出会ったあの場所に 〜あとがき(なのかもしれない)〜 は〜い、お久しぶりでござーます。時雨でござーる♪ 一応、初!KANON短編SSでっす! ってことで、1発目は妖狐だの狐っ子だのという愛称をお持ちの真琴に出てきて貰いましたw それとなくまったりでほのぼとした雰囲気を味わっていただければこれ幸いと思います。 KANON本編でも真琴の存在は惹かれるモノがありましたねぇ… そんな特殊な存在である真琴と祐一のありふれた平和な日常を想像してみた結果がこれです♪ 久々のSSと言うこともあり、結構無茶な設定(?)とか話構成な気もしないでもないですが…(遠い目) まぁ、そこは皆様の”寛大なお心”で見逃してください! それでは、少々長くなりましたが……これにて閉廷っ!! では! From 時雨 |