「よう、天野」 「あ、相沢さん。おはようございます、本日も良い天気ですね」 普段より余裕のある通学路、そこでは俺は彼女に出会った。 「……相変わらずだな」 「……何か?」 「別にー」 いつも通り丁寧で、だけど、前よりも雰囲気が柔らかい彼女に。 「今日は、水瀬先輩と一緒じゃないんですね?」 「あぁ、名雪だが……置いてきた」 今日は、普段の倍以上に手強い予感がしたから、秋子さんに頼んできた。 だって、珍しく10時くらいまで起きてたし…… 理由は猫の特集がやるからってことが、名雪らしいというかなんというか…… 「……後でどうなっても知りませんよ?」 「大丈夫だ、秋子さんには了承を貰ってきたからな」 でも、秋子さんも娘には甘いからなぁ…… 多分……大丈夫だろう。 「それにしても、天野はいっつもこんな早くに学校に向かってるのか?」 「そうですね、普段よりは少々早いですが、大体こんなところですよ」 名雪を見捨てた甲斐があってか、俺の通学は普段よりかなり早いと言える。 まだ、周りでは生徒がちらほらとしか見えないくらいだしな。 あぁ、ゆっくり通学できるって素晴らしいっ!! 「それはそうと、相沢さん、真琴は元気ですか?」 「あぁ、いっつも肉まんを囓りながら漫画読んだりして過ごしてるよ」 「そうですか」 そう言って微笑んだ、昔より、遙かに感情表現が表に出るようになったな。 不覚にも、その顔に少しだけ見とれてしまった。 天野は、元が美少女で、ちょっと前までは多少無愛想な部分もあった。 だが、真琴が還ってきて以来、少しずつ表情というか、感情を出してくれる。 おかげでファンクラブが設立される勢いだとか……? 「また、あいつに会いに来てやってくれ、その方が真琴も喜ぶだろうし」 「はい、それでは後日また伺わせて頂きますね」 「あぁ、そんときは俺も出迎えてやろう」 真琴と会っている時の天野は、普段よりもさらに感情表現が豊かだ。 それを見ていると、なんていうか仲のいい姉妹って感じがするんだよな。 だから、その2人を見るのが俺の小さな楽しみだったりする。 「随分と、偉そうな物言いですね……」 「そうか?」 「そうですよ」 まぁ、自覚して言ってるんだがな。 ん?それがいけないのか? 「まぁ、それはそうと天野。ここで出会ったのもなんかの縁だ、一緒に行くか」 「はい、それでは参りましょう」 「だから……言葉遣いが……」 「上品、ですよ」 そう言ってニッコリ笑ってくれるもんだから、不意打ちを食らった俺は多少見惚れてしまったわけで。 あぁ、なんて不様。 普段の俺じゃ考えられない行動のハズなのに。 顔が赤くなっていくのがわかってしまう。 「しかし、やはり天野は笑うと可愛いな」 だけど、そのまま負けるのは悔しくて。 だから、少しだけ意地悪をしてみる。 「なっ!?」 「これは、本当だぞ?」 俺の一言で、トマトみたいに天野の顔が赤くなった。 「か、からかわないでください……」 恥ずかしそうに俯いて、小さな声で絞り出された精一杯の照れ。 それを見ているのが今は俺だけという事が、何となく嬉しくて、楽しくて。 そんな天野をもっと見たいと思うのは自然の流れとも言えると思う。 「からかってなんかいないさ、本当のことだからな」 「…………」 「天野は、可愛い。これは本当だよ」 「……美汐……」 ポソっと呟かれた言葉。 なんて言ったのか、聞き取れなかったから、もう一度聞き返してみれば。 「天野じゃなくて、よろしければ美汐と呼んでください」 ── 真琴達が名前で呼ばれてるのがちょっと羨ましかったんです そう言ってチロっと舌を出して照れた表情を見せるから。 またしても見惚れて止まってしまった。 あぁ、先程に続いてなんて不様な。 「……ダメ、でしょうか?」 俺の呆然とした様子を、拒否と取ったらしい天野は、とても悲しそうに。寂しそうに俯くモノだから、ついついこっちが慌ててしまう。 「い、いや!ダメじゃないぞ!全然!」 「じゃぁ、呼んでください」 「……今か?」 「はい、今です」 マジですか、そう叫びたくなるのも無理はないと思う。 人影はまばらとは言え、一応ここは通学路な訳で。 気づけばこんな恥ずかしい会話をしていたと周りを見回してみると。 なんとまぁ、ご丁寧なことに聞き耳を立てるような野暮な連中はいないわけで。 そして、天野を見てみれば、隣を歩きながらもどこか期待するような眼差しで俺を見てたりするわけで。 あぁ……神様、今日は何か俺に怨みでもあるんですか。と空に問いかけてみたりして。 それでも応えが返ってくる訳もなく。 覚悟を決めて、言うしかないんだろうか。 「……あま……み、美汐」 「はい、なんですか、相沢さん」 ハッキリ言ってクソ恥ずかしい。 今まで、上で呼んでいた子に対して、呼び方を変えるというのがここまで恥ずかしいとは思いもしなかった。 おかげで、もう俺は顔が赤くなっているのを隠せていないだろう。 でもやっぱりここは生まれ持っての負けず嫌い、転んでもタダで起きてたまるものか。 「それなら、俺は祐一。だな?」 「え?」 そうじゃないと不公平だろう? そう言って笑いかけると、今度は美汐が赤くなって。 あぁ、俺等は一体なにをやってるんだろうとか、そんなことも頭に浮かぶけど。 それ以上にやっぱり嬉しくて、楽しくて。 きっと俺はこれからも、からかうことはやめないだろう。 だって、それが俺、相沢祐一の性分なんだから。 「そ、そうですね」 「んじゃま、行くか……美汐」 「……はい、祐一さん」 〜 あとがきですよ 〜 だっぱー(吐砂 な、なにこれ!? 自分でつくっといてなんだけど甘いよ!甘すぎないか、どうした俺! とりあえず、妙な電波を受信して、栞の時とどうように暴走したらしい時雨です。 あぁ……なんだってこんな文章が……?。 うーん、わからん…… う……うん、まぁ……逃げますっ!! んでわでわ、次の作品にてお会いしましょう!!(逃走 From 時雨 2006/04/04 |